22
「ようこそ、ムオルへ。ここは最果ての村です」

村に入って最初に出遭った村人その1。
こんにちは、と声をかけてみるとこちらを旅人と判断したためか、にこやかに村へと迎え入れてくれた。

「で、この村でどうすればいいって?」
「えーと、オルテガさんの事を知ってる村人に出会えれば話は早いんですが……ちなみにここでは確かポカパマズさんって呼ばれてたと思うんですよ」
「ぽぽかまず?」
「ポカパマズ」
「ぽかぽもぞ?」
「ポ カ パ マ ズ!」
「うわっ!わ、わかった!覚えた!ぽかぱまず!」

何度言っても間違う日向の耳を引っ張り、思い切り叫んでやった。
どうやったら間違えるんだ、という間違い方はわざとやってるとしか思えん。
日向の場合これがわざとじゃないんだってわかってるけどさ!

「あら!ポカパマズさんお久しぶりです!ポポタがあなたに会いたがってたわよ!」

遠くから声を掛けてきた村人その2。
お母さんって感じの年齢の女性だ。

「?あの人おれの事見ながら喋ってる?」
「うん、実際の勇者とそのお父さんって似てたみたいだから。きっと日向の事をそのポカパマズさんと間違えてるんだろうね」
「へえ」
「ぶっちゃけオルテガってゲーム画面で見てたらFC版だと覆面マントのパンツいっちょ男……所謂カンダタみたいなシルエットだったけどね。リメイク版ではまだ全然マシになってるけど」
「えー!!!マジで!?おれそんなのと似てるって言われんのすげえイヤだ!!」
「まあまあ、日向が似てるってわけじゃないから。あくまでもゲームの中での話だから」
「しかしオルテガっつー名前がどうしてポカパマズ……言いにくくて仕方ねえなコレ」
「それに関しては理由は知らないんでなんとも言えないですね」

そんな話をしている間にも、女性はこちらに近寄ってきて。

「あら?ポカパマズさんと思ったけどどうやらちょっと違うわね」
「おれその人の息子代理なんです!」
「代理?」
「いえいえなんでもありません!そのポポタっていう子はどこに居るんですか?」

余計な事を言いかけた日向の口をぎゅっとつまみ、黙らせた。
代理とか代理じゃないとか今はそんなことどうでもいいんじゃい!

「あそこに一軒離れた家があるでしょ?あそこがポポタの家よ」
「なるほど。ありがとうございます!」

女性にお礼を言ってその場を離れ、ポポタの家に近づいてみる。
中の様子を伺うと、どうやら人がいるようだった。

「どうする?呼びかけてみっか?」
「そうしましょう」
「おーい!ポポター!」
「ちょ、日向容赦ねえな」
「一緒にいるこっちが恥ずかしいです。でもある意味助かります」

ガチャ、と音がして扉の向こうから出てきたのは多分ポポタの母親らしき人。

「まあ……!ポカパマズさんじゃないの!ポポタなら市場のほうにいるわ。是非会いに行ってあげてください、あの子も喜びます」
「おれ、ポカパマズじゃないんです。その息子だ……息子なんです」

また息子代理って言おうとしたな、コイツ。
でも一瞬私をチラ見したことから口をつままれるのを恐れて言い直したな。

「息子さん……?そう言われてみれば良く似てるけど……違うのね。それで、ポカパマズさんは今どちらに?」
「…………」

なんて言えばいいの、と言わんばかりに私にヘルプの視線を送る日向。
うーん、正直に火山に落ちて亡くなったって言っていいものか……いやしかし、リメイク版では最後の方で生き返らせることが出来たから、一概に勝手にあの世に送ってしまうのもなあ。

「あの方はアリアハンで療養中なんですよ。きっとまた元気な姿を見せてくれる事だと思います」
「療養中……そうだったのね、早く良くなることを祈ってると伝えてちょうだいな。ところで貴女は?ポカパマズさんの息子さんのガールフレンドなのかしら?」
「「ええ!!」」

日向と同時に声が揃った。
田中先輩に至っては、この二人がカップルだったら俺だけ蚊帳の外じゃんよ!とブツブツ文句を言っている。

「ち、ち、ち、ちがいますっ!魔王と戦う仲間なんです!一緒の!」
「そうです、彼は王様から勅命を受けた勇者で、私はそのサポートする一員として一緒に行動しているんです」

日向の説明ではどうにもこうにも上手くいったもんじゃない。
お前もう喋るな!と言いたいところだが、基本的に勇者と会話しなければ話にならないだろうからな。
全部が全部私が話を進めていいわけじゃないし。
部分部分で日向には頑張って貰わなければならない。
しかし、本人には絶対言わないけど、真っ赤になって弁解してる日向の姿は可愛い。
言った所で男に可愛いとか言うな!って怒られそうだけど。

日向も田中先輩も、彼氏だったら絶対優しいタイプだと思うんだよなあ。
田中先輩はコワモテだけど、人に対して優しいし。
リア充にはガンくれてるイメージあるけど、自分がその立場になったらデレデレしそう。
日向も問答無用で優しいしなー、何気男気あるし。

いやいやいかん、今はそんなことにうつつを抜かしてる場合ではない。

「ふふ、とても仲がいいのね。後ろのお兄さんもお仲間なのかしら?頼れる騎士様って感じね」
「そ、そうッスか!」
「凄い頼れるんですよ、田中さんは!いつも助かってます!」
「おォい、そんなに褒めるな日向!」

ポポタの母親からも日向からも褒められてとても嬉しそうな田中先輩。

「私だって頼れる先輩だと思ってますよ!」
「なんだ史香まで!そんなに褒めても何も出ねぇぞオイ!」
「ホントのことだもんな、フミ!」
「うん、ホントの事だねー」
「だあああ、なんか恥ずかしくなってきた!!さっさと市場でポポタを探しに行くぞ!」

照れ隠しにざかざかと市場へ向かって歩いていってしまった田中先輩。
ポポタの母親にぺこりとお辞儀をし、私達も慌てて後を追った。
田中先輩も負けず劣らず可愛い人である。






田中先輩が市場の場所をわかって進んでいたのかは謎だが、段々と賑わっている場所に入ってきた。
きっとここが市場の入り口あたりだろう。
奥へ進むと色んなお店が開かれていて、人も増えて騒がしい雰囲気に。

ポポタを探して先へ先へと進むと、その度に「ポカパマズさんじゃないか!」とか「ポカパマズさん久しぶり!」とか、そう言う類のたくさんの声と視線が日向へと注がれた。

だがしかし、行けども行けどもどれだけ進んでも子供の姿は見当たらず。
おかしいな、ポポタはどこへ行ったんだ、と思っていると一番奥の店の主人から声をかけられた。

「これはポカパマズさんじゃないですか!しばらくぶりですねぇ」

その主人の横にはひとつの兜が飾られている。
しかもピカピカに磨かれているようで、きちんと手入れをしているみたいだった。

「ねえ、あれ。もしかしたらオルテガの兜かも」
「え!ホント!?」
「多分、だけど」
「よし、ちょっと聞いてみよう。あの、すみません!おれポカパマズじゃなくて、その息子なんです。その兜っておれのと、と、父さん……の、ものですか?」

父さんと言うのが恥ずかしかったようで、どもらなくていい場所でどもってしまう日向。
危うく吹いてしまいそうだった、危ない。
後ろでは田中先輩のブフォッっていう声が聞こえたけど気にしない。

「ポカパマズさんの息子だって……!?言われてみれば、良く似てるけど違うなあ……」

似てる、と言う言葉に日向はむくれっ面になった。
実際似てるわけじゃないって言ってるのにやはり嫌なようだ。
何故息子がここに居るのかという事情を先ほどのポポタの母親同様に説明すると、それならば、と兜を譲ってくれる流れになった。
の、だが。

「ああ、その前にポポタに顔を見せてやってくださいよ。この兜は実はポポタの物でしてね……この二階に子供たちと一緒にいますんで」

後ろからそんな面倒な、という声が聞こえたが気にしない。
多分声量からしてきっとこの主人には聞こえてないだろう。

「こういう面倒なのがゲームのクエストなんですよ、田中先輩」
「まあ、そういうのも含めて色々動くから楽しいんだろうけどな、実際振り回されてる気分になるな」
「ゲームでも振り回されてる気分にもなる事はあります」
「そんなもんか」
「そんなもんです」

ひそひそ話をしつつ、今度こそポポタに会いに行こうとその場を離れた。

裏手に回って、中にいたどこの誰だかわからないおじいさんに挨拶をし、それから目の前の階段を上る。
その先にあった扉の奥からは子供たちの楽しそうな声が。

日向がドアを開けると、一斉に子供たちがこっちを見た。

「あー!!!!!ポカパマズさん!!!!……あれ、でもちがう?お兄ちゃんはだれなの?」
「え、違うってわかるの?」
「うん、よくにてるけどちがうよ」
「良く似てる……うっ、ま、まあいいか。おれ、ポカパマズの息子なんだ。お前がポポタ?」
「そう、ぼくポポタ。ぼくに何かようじ?」

日向も少しは慣れてきたようで、自ら進んでポポタと会話し始めた。
田中先輩と私は扉の外からそれを見守る。

「あのな、おれ達魔王を倒す旅をしてるんだ。そのためにはあの兜が必要なんだ。だから譲ってもらえないかなあ?」
「えっ!あのかぶとがほしいの?」
「ダメか?」
「うーん…………あれはぼくのたからものなんだ。でも、まおうをたおしてくれるってやくそくしてくれるんならあげてもいいよ!」
「ほんとか!?」
「うん!」

日向が交渉している後ろで相変わらずひそひそ話をする田中先輩と私。

「あれってなんであのポポタって子が持ってるんだ?」
「確か外で倒れていたオルテガさんをポポタが発見して助けて、そのお礼にって話だったと思いますよ」
「マジか!すげえな子供!」
「普通に考えたら子供が助けるとか凄いですよね。村に引きずってきたとしたら尚更」
「そこは村の大人を呼んだとかそんなところじゃねえの?」
「あ、そっか」
「史香って……デキるんだけど抜けてるよな」
「田中先輩に言われたくないです」
「なんだとコラァ!」
「田中先輩!フミ、話終わりましたよ……って、なにやってんの二人とも」

コラァ、と言いながら田中先輩が私の頬を引っ張るので、負けじと引っ張り返している時にポポタと話し終えて戻ってきた日向。
タイミングが良いのか悪いのか。
いや、良いんだな。
何が悲しくて田中先輩と頬の引っ張り合いをせにゃならんのだ。

「で、どうだったんだ?」
「兜くれるって言ってくれました。その代わり大事にしてねって」
「おお、やるじゃん日向!」
「へへ!ありがとう!」

話が纏まったのであれば早速、ということで、先ほどの主人の所へリターン。
そして無事にオルテガの兜を手に入れたのである。
その後は村人と他愛の無い会話を楽しみつつ、武器・防具屋で新しいものを仕入れて。
他の人の分も買おうかと悩んだが、テドン班が手に入れてたら勿体無い事になるのでやめておいた。
テドン班はしっかりしている人達ばっかりだし、問題ないだろう。


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