21
「ていうか、次の行き先決める前に分裂したほうがいいんじゃない?」


ご尤もなツッキーの一言により、我々パーティー一同はひとまずアリアハンへ帰ることになった。
船上でのルーラはどうしたらいいんだろう、と考えた結果、試しに船に触れながらルーラを唱えてみることに。
それが正解だったのか、船はあっという間にアリアハン付近の陸地へと移動した。

「これって放置しておいても大丈夫なのかな?見張り番とか居なくていいの?」
「あー、ゲームだと一人置き去りとかそんなの無かったよねえ……ま、ちゃんと繋いでおけば大丈夫なんじゃないのかな」

山口の質問に適当に返した。
適当とはいえ、ちゃんと自分なりに考えた結果だ。
だって見張り番とかキツイだろうし、ゲーム内では盗まれるとかそんな事は一切なかったから大丈夫なんじゃないかなって思ったんだ。
盗まれたらその時はその時で全員総出で探せばどうにかなることだろう。
黒胡椒を手土産にポルトガの王様に事情を説明すればもう一隻くらい貸してくれそうだし。


とりあえず船はそのまま置いていくという事でまとまり、アリアハンのルイーダの酒場へと帰る。
体力を回復させたほうが良いのと、既に夜になっていたので一晩休んで。
それからから酒場の場所を借りて再びの話し合いだ。
といっても今回はプレイ済み組がメインで。


最初に口火を切ったのはスガ先輩だった。

「さて。確か船を手に入れたら行動範囲は結構大きく変わるんだよね?」
「そうですね、今まで行けなかったところに色々行ける様になりますから」
「森永は手に入れてからすぐに行ける場所の地名とか覚えてたりする?」
「あー、ハッキリとじゃないですけどなんとなく覚えてますよ、チカちゃん先輩。私の他にも覚えてる人がいたら教えて欲しいです」

最初に私が覚えている地名をみんなに伝える。
確かムオルとスーと……後ひとつは忘れてしまった。

「もうひとつはテドンじゃなかった?」
「あ、そう!それ!山口ナイス!」
「ジパングとかランシールとかはまだ先の話だったっけ?」

ツッキーが言った地名に関してはまだ行くには早かったはず、と返しておいた。
特にジパングに行ったらヤマタノオロチとの戦闘が待っている。
流石にレベルをしっかり上げていかないと全滅すると思うんだよね。
レベル21くらいでいけた気もするんだけど、万全な戦いをするためにはレベル25は欲しいところ。
全員でかかればどうにかなるかもしれないが。

「あと、ダーマ神殿の先にガルナの塔っていうのがあったはずなんです。そこ、確かメタルスライムが出現した場所だと思うんですよね。だから旭さんと山口を誰かが連れてってレベル上げしたらいいんじゃないかと思うんですけど」
「ガルナの塔って、悟りの書が取れるとこだっけ?」
「そうです、なんだかんだ言ってかなり記憶に残ってるじゃないですかスガ先輩は」
「それ僕も覚えてる」

今までの言動からして、一番内容を覚えているのはスガ先輩、次点でツッキーって感じ。
チカちゃん先輩も山口もちょろちょろっとは助言してくれるんだけど、この二人が結構覚えててくれてるおかげで私も相当助かっている。
実を言うとそろそろ記憶が薄れてきた部分もあるんだよね。
ゲームをやっていれば思い出すんだけど、実際に自分で行動するとなるとまた別問題で。
必要ポイントだけは頑張って思い出せるようにしなきゃ。
船を手に入れた後はオーブ集めがメインになってくるはずだったから、情報は大事だ。

「レベル上げ以外はどこに行くことになるんだ?」
「えーと、とりあえずはさっきの三つの地名の中からどっか選んで行くことになるな。だよな、フミ?」
「そうですね、その通りかと」

主将の問いにはスガ先輩が答えてくれた。
さて、今回はどうやってチーム分けしたら効率がいいだろうか。
そういや最初に3チームに分けたけど、結局誰も待機なんて一度もしてないな、なんてどうでもいい事が頭を過ぎった。
結果みんな強くなってるし今のところ危ない目にもあって……私以外あってないし、それはそれでいいけど。

「ムオルへは確か徒歩でも行けたかと思ったんですよね……しかも何か重要な物が手に入った気が……えーと、なんだったかな……あ!そうそう、オルテガの兜!」
「オルテガって、本来の勇者の父ちゃんってやつ?」

オルテガという言葉に反応してか、それまで黙って話を聞いていた日向が口を挟んだ。

「そう、よく覚えてたね」
「一応ちゃんと覚えてた!」
「珍しいこともあるもんだ……!そんで、そのオルテガの兜は勇者専用の防具なんですけどね、現時点で手に入る中では高い守備力だったと思うので、取っておいたほうが得策だと思うんですよね」

珍しいとはなんだ!という日向の叫びはあえてのスルー。
いつものやりとりなので気にしません。

「っていうことは日向がムオルに行かないと駄目なんだよな?」
「そうそう。影山の言うとおりで日向が居ないとオルテガの兜はもらえなかったと思う」
「徒歩で行けるならレベル上げと一緒に、とか思ったけどそれはまた別にしたほうが良さそうだね」

チカちゃん先輩の言葉にプレイ済み組が頷いた。
そうなるとガルナの塔へ行ってレベル上げする班と、ムオルへ行く班と、船で移動する班に別れたほうが良さそうである。

「どうする?フミ」
「その聞き方からして、スガ先輩もしかして考え纏まってます?」
「纏まってるっていうか、一応こんな感じがいいんじゃないかなあと」

スガ先輩が言うには、ガルナの塔へは旭さん、山口、スガ先輩、主将。
ムオルへは日向、田中先輩、私。
船で新天地を求めて移動するのはツッキー、ノヤ先輩、影山、チカちゃん先輩。

うん。
バランスを考えたらこれでいいかもしんない。
私はこれで大丈夫だと思いますと言えば、スガ先輩は自分の考えをみんなにも伝えた。
レベル上げ班が転職者が二人ということで少々心許ないが、主将とスガ先輩がいるんだから間違った判断はしないだろう。


他のみんなも異議は無いということで、各自準備が出来たらそれぞれの場所へと旅立つ事に。
遅くとも深夜までには必ずアリアハンに戻ってくること。
万が一戻ってこない班があれば、戻ってきた全員で捜索に向かうこと。
以上のルールを主将がみんなに告げて、分散する事になった。


「船の運転はとりあえず僕がやります」
「月島、どこへ向かうつもりなんだ?」
「ひとまずテドンへ行こうと思ってるんですけど……ねえ、森永。テドンってどのへんだったっけ?」

既に出発しようとしていた私に声を掛けるツッキー。
地図を見せられ、その隣からツッキーに行き先を質問したノヤ先輩も覗き込む。

「ええと……確かこの辺だったんじゃないかなあと思うけど……微妙に自信ない」
「や、大体の場所がわかれば後はどうにかするから大丈夫」
「そう?まあ、チカちゃん先輩と一緒に思い出しながら頑張っておくれよ」
「はいはい、縁下さんに地図を見てもらいながら移動するよ」

チカちゃん先輩をチラ見すると、癒しの笑顔で頷いてくれた。
その後ろに居る影山とバチッと目が合ったので、魔物に対してのアドバイスをしておこう。

「影山、海の魔物には炎系とかバギ系とかが効き易いからそれでなぎ払うと楽に進めると思うよ。でもMP残量には注意してね」
「ああ、残量考えてマホトラも同時に使ってくから心配ねえよ。それよりお前こそ気をつけろよ」
「うん、心配ありがとう!頑張ってオルテガの兜手に入れる!」
「…………」
「ん?何?」

じぃっとこちらを見つめる影山。
何だ、何か変なこと言ったか。
何かちょっと前にも影山に見つめられた覚えがあるんだけど気のせいか。
デジャヴか。

「なんか、アレだ」
「アレ?って?」
「……いや、なんでもない。じゃあまた夜にな」
「え、ちょ、おおい。なんだその意味深な発言は……」

サッと背を向けてツッキー達を追う影山はこちらを振り返りはしなかった。
なんだよ、気になる言葉を残しおってからに。

「よし、そしたら船で移動のヤツ以外はダーマ神殿までルーラで行くぞ」
「じゃあ私ダーマ神殿行ってないし、日向ルーラでお願……あれ、日向も一緒にバハラタ行ったね」
「おお、おれもダーマ神殿は行ってない。あとルーラ使えんのって誰?」
「後は影山かな?じゃあ影山に一回ダーマ神殿まで送ってもら……」
「影山も一緒にバハラタ行った、ね」
「「…………」」

日向と二人、顔を見合わせて無言になる。
もしかしてルーラ使える人は誰一人としてダーマ神殿に行かなかったってヤツですかね。
失敗した……!

「そんならキメラの翼買って来る?」
「あ!その手がありましたね……!」
「はは、忘れてたねフミ。ひとまず道具屋行ってくるよ」

スガ先輩は苦笑しながら道具屋へと走ってくれた。
そうだ、ルーラが使えなくてもキメラの翼が同じ効果があるんだった。
こないだキメラの翼でバハラタへ行ったばかりだというのに。
基本的に呪文が増えたら道具ってあんまり使わないから、うっかり忘れてしまう。

無事にキメラの翼を購入してきてくれたスガ先輩は、それを主将に渡して。
主将に全員捕まり、キメラの翼を放り投げてダーマ神殿と叫ぶと、一瞬にして目の前にダーマ神殿が現れた。
いや、周囲にいる人から見れば突然現れたのは私達の方なのだが。

「おおお……!!ダーマ神殿すげえ!デカイ!!」
「ねー!まるで世界遺産みたい!」
「そうか、日向と森永は見るの初めてなんだもんな。これは最初に見たときは俺も感動したよ。まるでギリシャ神話の物語の中に入った気分だよな」

主将が感慨深気に言う後ろで、田中先輩とスガ先輩も同じように感動して騒いでいた。
お城もそれぞれ凄かったけど、神殿って直に見ると凄い……!
古い時代から築かれてきたこの建物にはとても赴きがある。
主将の言ったように、ギリシャ神話に出て来そうな雰囲気だ。

「さ、今回はダーマ神殿に用事はないので行くぞ。また時間に余裕が出来たら中も見てみるといい」

いつまでも感動に浸っているわけにはいかないので、後ろ髪は引かれるものの主将の指示どおりに目的地へと足を進める。
ダーマ神殿から北に進むとガルナの塔があり、そこでレベル上げ班のみんなと別れた。
山口と旭さんに激励を送るのを忘れずに。
そこから更に東へと進むとムオルが見えてくるはずなのだが、岩山だらけで先へと進む事が困難なため、一度ダーマ神殿に引き返す事になった。
仕方が無いのでダーマ神殿から南東へと進み、更に北東へ進むという時間のかかるルートを行かざるを得なかった。

「いやー、しかしあの岩山は卑怯だよな。せめて歩ける感じの平らなものにしてくれたらムオルも近かったのに」
「いやいや田中先輩、これもゲームの醍醐味ですから」
「そんな醍醐味嬉しくねえ」
「そんなむくれた顔しなくても」
「そうですよ、田中先輩!敵と出会って強くなれると思ったらこれも試練です!」
「試練……!おまえカッコいいこと言うな!」
「へへー!」

日向に乗せられる田中先輩も単純で扱いやすいお人だ。
単純コンビと一緒に冒険するのは楽しい。
しかも日向はいつの間にかみんなのレベルに追いついていたから今じゃ使える魔法とかも増えてて頼もしい限りだ。
ただひとつ心配なのは二人でギャグみたいなことをやらかさないかという事だけ。
目を見張らせてれば大丈夫とは思うけど……田中先輩、しっかりしてるようで先日のグプタとタニア事件の際はぶち切れそうになったりしたからなあ。

「そういやさ、この世界に来てもう一週間は経つじゃんよ」
「ん?そうですね」
「日向も史香も、お前らなんかおかしいって思った事ねえか?」
「おかしい……?そりゃこの世界には色々とおかしい事はたくさんあると思いますけど……日向は?」
「おれは特に!何もかもが新鮮でみんなと一緒で楽しいなって思います!」
「史香はともかく日向……お前は……ハァ、まあいいけどよ。つーかよ、アレだ。伸びてねーんだよ、爪」
「爪?」

ポカンとしながら自分の爪をまじまじと見つめる日向。
そんな日向の様子を見ていたら、田中先輩が言わんとしていることがわかった。

「もしかして、ここって肉体的な時間経過はしてないってことですかね」
「おう、そうなんじゃねーかなって思った」
「ていうことは、元の世界に戻ったらあの時の時間から動いてないってこと!?」
「おお、おまえん家にみんな集まってる状態のままなんじゃねえかな」
「なるほど……そんな馬鹿な、と言いたいところですけど、確かに一週間も経てば爪が伸びてないはずないですもんね。一ヶ月とかだったら髪の毛とかでも実証できたんでしょうけど」

田中先輩、鋭いな。
正直爪とかそんなの気にしてなかったし。
確かに田中先輩の言うとおりで、肉体的に成長してないってことはこの世界は精神だけがトリップしてるってことになる。
そうなればみんなの練習時間が削られたわけではなかったんだね。
その事に関しては安心した。
でも精神だけでもバレーボールと離れているのってやっぱ勘が鈍ってしまうんではないかと思うから。
やはりアリアハンでコート作りだけはさせてもらおう。


三人で話をしながら、途中で出くわした魔物もなぎ払い。
広大な土地を歩き続けたおかげで、ようやく村が見えてきた。
きっとあれがムオルだろう。
ここまで歩き続けてムオルじゃなかったらちょっと凹む。

ドラクエ、空飛ぶ魔法が欲しいです。
切実に。





【影山解説】
なんかアレだ→頼れる女って感じだな、と言おうとしてやめました。
頼れる女より自分が頼られたいと思ったのが理由です。


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