20
日向とスガ先輩が王様に謁見しに行っている間、田中先輩と影山と私はポルトガの宿屋にて転職組みの帰宅待ちをしている。
別に宿屋じゃなくてもよかったんだけど、ここのロビーから外の様子が見渡しやすいということで宿屋になったのだ。

「それにしても、カンダタのヤツほんと呆気なかったよな」
「もうちょっと骨のあるヤツだと思ってましたけどね」
「おう、同感だ。手強いようなら史香のお色気作戦とかも考えてたのによ」
「お、お色気作戦……!?田中先輩、何考えてんですか!」

無駄に顔が赤くなったじゃないか、なに人の知らない所で勝手に考えてくれてんだ!

「いやー、考えたのはタイトルだけな!あのラブラブバカップルの所為で作戦を練る暇もなく戦闘態勢に入っちまっただろ?」
「森永の色気って……いや、なんでもない」
「おおい影山!なんだそのお前に色気なんてあるのかという目は!」
「あ、大地さん達帰ってきたぜ!」
「だとよ、オラ行くぞ森永」
「あ、ちょ、話流した!」

ニヤリとチラ見して宿屋を出て行く田中先輩を追いかける影山。
にゃろう、いつか私の色気ってもんをわからせてやる!
あるかどうかは本人にもわからないがな!

「おー、田中。胡椒は手に入ったのか?」
「大地さん、お帰りなさいッス!こっちはバッチリでしたよ、そんでスガさんと日向が今王様のところに行ってるッス!」

田中先輩が指で丸を作り、主将へとアピールする中、私は旭さんと山口に近づいた。

「旭さん、山口!無事に転職できましたか?」
「ああ、とりあえずはね。俺は戦士になったよ」
「旭さんが戦士だから、俺は武闘家にしてみたんだ」

にこやかにそう伝える二人。
どうやら旭さんはレベル1からやりなおしの衝撃を乗り越えたようだ。
山口も一緒だと思うと少しは心強いはずだよね、一人で転職にならなくて良かったと思う。

「でね、これ西谷先輩が使っていいぞってくれたんだよ」
「お、黄金の爪じゃん!」
「俺のレベルに比べたら山口は頑張らなきゃいけないからな!」

な、と山口の肩に手を乗せるノヤ先輩。
本当は肩を組もうとしたんだろうが……如何せん身長がね、うん。
それにしても現時点での最強武器を簡単に手放すなんて、さすがノヤ先輩男前。
旭さんは鉄のオノを担いでいた。
レベルは低くても、多少なりとも武器が強ければそこまで辛くはないはずだ。
商人がパーティーからいなくなってしまったことで買い物は少し大変になっちゃうかもしれないけど。
その役割は今後私が担えばいいかなって思ってる。
武闘家になったとしても以前の職業の経験を忘れてしまったわけではないし、山口も手伝ってくれると思うんだよね。




「あれ、みんなもう帰ってきてたんだ」
「おかえりなさーい!!」

話をしていると、王との謁見を終えたスガ先輩と日向も合流した。

「日向、どうだった?」
「うん、船もらった!」

影山の問いに、もらった!と簡単に答える日向。
感慨深さもなにもあったもんじゃない。

「で、その肝心の船はどこにあるって?」
「えーと、城の領内にあるから乗ってっていいって」
「よし、ご苦労だったな日向、スガも。とりあえずみんなで船のある場所に向かってみるか」

主将の言葉に全員が頷き、城の領内へと踏み込む。
少し外れたところに船着場があり、そこにはよくRPGのゲームで見るような船が。

「おれいちばーん!!」
「あっ、待てこらテメエ!」
「へえ、これが……」
「思ったより大きいね、ツッキー」

我先にと乗り込む日向、それを追いかける影山。
その後ろからツッキーと山口。

「とりあえず俺たちも乗り込みましょう」

チカちゃん先輩に促され、残りのメンバーも船へと乗り込んだ。
船はさすが王様の所有物だっただけあって、造りがしっかりしている。
ちょっとやそっとの嵐じゃ転覆しないんだろうなってくらいには。
大王イカとか大型の魔物に襲われたらどうかわからないが。
っていうかドラクエ3って海の魔物は何が居たっけ?

「なあ、森永」
「ん?」

先に行ったはずの影山が何故か戻ってきて、私を手招きする。
何かと思って近寄ってみれば、そこは操舵室だった。

「これって誰が運転すんだ」
「え」

船の運転ね、運転…………そんなの誰もできないんじゃないの。

「ええと……これは困った」
「困った、ってことはアイデア無しなんだな?」
「うん、船が手に入るって単純に次に進めるって思ってたけど、運転のことまでは考えてなかったし」
「ゲームでは方向キーだけで良かったしね」
「うわ!ツッキー、びっくりした!いつの間に後ろに」

突然背後から声がしたもので、ビックリしてたらさっきから居ますけど的な不機嫌そうな顔。
気づかなかったもんは仕方ないでしょうが。

「……あれ?」
「どうしたの山口」
「ねえツッキー、これって」

山口が指差す場所を全員で覗きこむ。
するとそこには十字キーがついたコントローラーのようなものが。
そしてその近くにはテレビ画面のようなものが。

「……ウソだろ?」
「もしかしてもしかしなくてもこれで運転できるってことなんじゃないかな。試しにいじってみる?」
「こう?」

山口がぐいっと上キーを押す。
すると、さっきまで静かだった船がガコンと動き出した。

「うわ!!動いた!!」
「ちょ、ソレ離せ山口!」

影山が言うよりも早く、ツッキーが山口の手からコントローラーもどきを奪った。
ツッキー……人から物をもぎ取るの上手いな。
そしてドカドカと聞こえてくる足音の数々。

「オォイ!お前ら今なんかしたか!」
「船が動いたよな!?」

真っ先に飛び込んできたのは田中先輩とノヤ先輩だった。
その後ろから残りの皆様がぞろぞろと。

「船の運転ってどうするのかなーって思ってたら……どうやらコレで動くみたいです」

ツッキーが差し出したコントローラーもどき……もう面倒だな、コントローラーでいいや。
それを受け取った主将はまじまじと見つめる。

「これは……ゲームの?」
「そうみたいだね、大地。そしてその画面……もしかしてこれどおりに船を動かせばぶつからずに進めるって感じなのかな」
「私もスガ先輩の言うとおりだと思います。こんな簡単に船が動かせるのかって思ったけど……この世界じゃ常識が通じないってことも最早既知のことなので」

確かにこんなに簡単に船が動かせるなんてね、誰も思ってなかったことだろう。
でも実際の船の運転なんて誰もわからないことだし、これはこれで……うん、いいんじゃなかろうか。

「じゃあこれは交代制で運転させたらいいんじゃないか?」
「でもぶつけないように気を使う部分もありますよ」
「おれ!おれがやりたいです!!」

旭さんとチカちゃん先輩の会話に割り込む日向。
バッと手を上げて自分がやりますと主張した日向に全員の視線が集中する。

「……お前はダメだろ」
「日向じゃあ確実にぶつけそうだもんなあ……」
「自分の力量をわきまえなさいね」
「万が一ぶつけたらどう責任取ってくれんの?」
「ウッ……!」

畳み掛けられる言葉に、日向は言葉を詰まらせた。
私も正直日向はぶつけそうで怖いと思うので、擁護してやれないわ。
ごめんよ日向。

じゃあ日向以外で誰がいいかと話し合った結果、日向以外だったら全員大丈夫だろうという結果になり。
船を動かす順番はくじ引きで決められる事となった。
当然日向はいじけたような顔をしている。
ちょっと可哀想だが仕方ないだろう。

「船の運転は出来なくても、この世界で日向にしか出来ない事だっていっぱいあるんだから」

そう言ってやれば、みるみるうちに機嫌が直っていく日向。
……日向が単純で良かったと思う。


最初にハズレを引いたのはノヤ先輩だったが、まずどこに向かうかがわからなければ話にならないので、地図を見ながらプレイ済みである私とツッキーと山口で動かすことになった。
あれ、これって結局次に進む所がわかってなければ動かせないんだから……プレイ済み組の仕事になるんじゃない?

そんな事を思いながら、次の目的地へ向かう事に…………次の目的地ってまだ決めてないよね。

せっかく船を手に入れてもこれじゃ本末転倒だ。
まずは船を動かすよりも話し合いを先にしなければ。
ツッキーと山口のほかにもスガ先輩とチカちゃん先輩に操舵室へと来てもらい、5人で目的地についての話し合いをすることにした。


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