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「お恥ずかしいところをお見せしてすみませんでした」
「いやあ、もう駄目かと思っていたもので、感極まってつい……さあみなさん、カンダタが留守の間にここから逃げましょう!」

何故先ほどまで掴まっていたお前が仕切るのか。
きっと誰もがそう思った事に違いない。
田中先輩なんか若干表情が壊れかけてる。
心なしか額に青筋が浮かんでいるような気がしないでもない。
隣にいるスガ先輩と日向は田中先輩がいつ爆発するかヒヤヒヤしているようだ。
影山と私は半歩離れて距離をとる。

「こっちです、急いで!」

恋人タニアの手を引っ張って先導していくグプタ。

「あいつ何なのブチ切れていいの」
「た、田中先輩抑えて!」
「ブチ切れたら胡椒が手に入らないかもしれないから駄目だ田中」
「……田中先輩の気持ちもわからなくもねえなあ」
「……まあ、うん。確かに気持ちはわからなくもない」

私だって胡椒という目的が無ければ貴様ァ!と叫んでいそうな気持ちだよ。
無事に助けられたのはいいけどさあ、お前が先導するってどうなのよ、と言いたい。

牢屋の通路から逃げようとしたその時、グプタの前に立ちはだかる数人の影が。

「カンダタ子分……!!」
「グ、グプタ!どうしましょう!」
「この人たちに任せよう!タニア、僕の後ろに隠れて!さあみなさん、やっちゃって下さい!」
「あいつほんと何なのやっぱブチ切れていいの」
「おれもちょっとなんかイラッとしました」
「田中も日向も、とりあえずそれは目の前の敵にぶつけよう!な!」
「……あの恋人はあんなやつのどこがいいんだか……」
「私達にはわからない良さがあるんだよ、きっと」

ボソボソと喋っていると、無視されたと思ったのかカンダタ子分達が一斉に襲い掛かってきた。

「スクルト!」

すかさずスクルトを唱え、みんなの守備力強化を図る。
スガ先輩はルカナンで相手の守備力を下げ、影山はバイキルトで田中先輩と日向の攻撃力をアップさせた。
スクルト一回では心もとないので三回ほど連続で唱えると、十分な守備力になったので安心して戦える。
そしてマヌーサで相手をまぼろしに包んでしまえばこちら側の圧勝だった。


「さすがはみなさんです……!よし、今度こそ逃げましょう!」
「あ、待ってグプタ!」

子分達が倒れているのを横目に、走り去ろうとする二人。
ご丁寧に恋人つなぎまでしてやがる。

「…………ツブス」
「田中先輩いいいい抑えてくださいってばあああ!!影山もフミも手伝ってよ!!!」
「……日向、もう止めなくていいと思うけど」
「俺も同感」
「いやおい、だからあいつら潰しちゃうと黒胡椒手に入らないんだろっての」

焦った表情でスガ先輩が言う。
でもスムーズに潰しちゃうって言っちゃったところからして、スガ先輩も多少なりとも同じ気持ちであることには違いないだろう。
とはいえ、走って逃げようにもまだボスの存在があるっていうことを忘れちゃいませんかね。

「おいおい、人質がどこに行こうってんだ」
「か、カンダタ!」
「きゃあ!」

ほれみろ言わんこっちゃない。
グプタとタニアの二人が部屋から出ようとした瞬間、ヌッと現れたこの盗賊団のボス。
ニヤニヤした顔は相変わらず汚らしい。
しかしきゃあ、って可愛らしい反応ですねお嬢様。
私にその反応は……自分でも鳥肌が立った。
魔法が使えるということもあるし、ちょっとやそっとじゃ動じなくなってきた自分が怖い。

カンダタと対峙している二人の様子を見てみると、タニアは完全に怯えきっている。
グプタはタニアの手前強がってるんだろうけど……足が震えてんぞ、おい。
もうちょっと慎重になっていればバッタリと対面することもなかったと思うんだけどね、仕方ない。

「田中先輩、思い切り暴れるチャンスですよ」
「ああ、あのバカップルはムカつくけどそれ以上にカンダタには恨みがあるもんな。なんせ俺たちの大切なマネージャーを傷つけてくれたんだからな」

ええー!!
まさかの萌え発言キター!!
けしかけるように言っただけなのに、そんなもらいすぎるほどのおつりが返ってくるとは……!

「よし、気合十分だな。さっさと片付けるぞ」
「おう!今度も負けない!」

影山と日向もやる気……殺る気満々のようだ。
オーラがちょっと怖い。

「フミは俺の後ろに居てね。また何かあったら嫌だからさ」
「あ……はい、じゃあ後衛サポートに専念します!」

大丈夫ですよ、と言おうと思った。
けど、スガ先輩には前に一度迷惑をかけてしまってるし、素直に云う事を聞いておいたほうが良さそうな気がした。

「あーん?後ろの奴らはなんだ。あんなやつら捕まえた覚えが……げげ!!もしかしてあ、あのときの……!!」
「ほーう?どうやら覚えていたようだな!ここで会ったが100年目!カンダタ、覚悟しやがれってんだ!」
「田中……それどんなキャラだよ」
「スガさん!俺の気合をブチ壊さないでくださいよ!」
「気合だったんだ……そりゃあなんか、ゴメン」

田中先輩とスガ先輩の気の抜けた会話の中、カンダタへとじわじわ近づく人物が一人。

「よし、覚悟はいいか?いいよな?」

指をポキポキ鳴らしながら、いい笑顔の影山だった。
つーかアンタ肉体派じゃないでしょうが……!

「ヒ、ヒィ!勘弁してくれ!オレはもう二度とアンタ達とはやりたくねえ!!」
「…………え?」
「…………アレ?」

スガ先輩のポカンとした声の後、日向も同じような声を出した。
だって、ねえ。
普通だったらここは『今度は負けねえぞ!』な流れじゃないの?
前回どこまでボコボコにされたの、この人。

「今後一切悪さしないから見逃してくれえええ!!」
「あっ!待ってくださいよ親分!!」
「一人で逃げるなんて酷いですよ!!」

見逃してくれと叫びつつ、カンダタは私達の前から姿を消した。
当然釣られるようにして子分達も。
そして残された私達は、ただただポカーンと開いた口が塞がらない。

少しは苦戦するかも、とか思っていたのにこの展開は予想してなかったぞ。
気合の空回りってこういう事を言うんだね。

「す、すごいです!あのカンダタ達を何もせずに追い返すなんて!」
「本当にこのご恩は一生忘れません……!!」

感極まった状態で、田中先輩やスガ先輩の手をぎゅっと握ってブンブン振り回すグプタ。
それでも二人はまだ呆然とした状態だったため、グプタの言葉なんて右から左状態だ。

「さあ、帰ろうタニア!」
「ええ!」

どうか後でバハラタに寄ってくださいね、と言い残して二人は今度こそ部屋を出て行った。
洞窟……二人だけで脱出できるのかな?
一瞬そんな心配事が頭に浮かんだが、あのバカップルなら大丈夫だろうと即座に考えを放棄した。

「おーい、田中先輩、スガ先輩、影山、日向。みんな大丈夫ですかー」
「はっ」
「い、一体何が起こったんだ」
「あ、あれ、カンダタは……」
「二人は!?」

そこまで呆然と出来るなんてある意味凄いと思う。
我に返った四人にカンダタが逃げ帰ってから二人が部屋から出て行ったいきさつを話すと、全員気の抜けたような顔になった。

「暴れる気満々だったんだけど」
「またの機会に暴れてください、田中先輩」
「こんなに楽でいいもんなのかね?」
「結果良ければ全て良しですよ、スガ先輩」
「……再起不能にしてやろうと思ったのに」
「残念そうに言う台詞じゃないよ、影山」
「なあ、あの二人は!?」
「話聞いてた?日向」

いつまでも自分達だけがこの洞窟内に居ても仕方ないので、全員の体をガシッと掴み、リレミトを唱えた。
そしてバハラタにルーラし、一足先に戻っていたグプタのお店へ。

リレミトとルーラで最短距離で帰ってきたにも関らず、グプタとタニアは既にお店でスタンバイしてたという……さすがゲームだよ、一般人が勇者達よりも行動早いってパネェです。
そんな彼らは気前良く目的のモノを譲ってくれました。
田中先輩が凄い複雑そうな顔をしていたけど、キレることはなかったので安心した。

なにはともあれ、無事に黒胡椒ゲットできたのでひとまずポルトガへ戻る事にしよう。
旭さんと山口はちゃんと転職出来たんだろうか。

……あ、カンダタを倒せば手に入るであろう経験値……勿体無かったな、やっぱ追いかけてでも倒しておくべきだったか。


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