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※日向に兄がいる設定。後々何も影響なし
なっちゃんごめん!




日頃お世話になっているマネージャーに、感謝の会を開こう!

そう言ったのは誰だったか。
今日はいつもマネージャーとして頑張ってくれている清水先輩への感謝会をやることになった。
私も今年に高校入学してから烏野高校男子バレー部のマネージャーをやってきているが、清水先輩と同格に扱ってはいけない!と思って感謝される側を辞退し、感謝する側に回っている。
実際清水先輩には色々教えてもらっているし、感謝してもしきれないくらいだ。

もうすぐ夏の最後の大会がある。
大会が終わってから感謝することはいつでも出来る。
だが、それよりも感謝の気持ちをきちんと伝えられるのは今だろう!と……この言葉を言ってたのは田中先輩だったかな?
田中先輩はたまにいいこと言うから結構尊敬している。

そんなわけで、部活休みの今日に的が当たったというわけだ。

場所は日向家が提供してくれるという事になり、現在集まっている人数は私を含めて11人。
主将、スガ先輩、旭さん、ノヤ先輩、チカちゃん先輩、田中先輩、ツッキー、山口、影山、日向。
さすがにこれだけの人数……しかもみんな身長高い人ばかりが一家に集合すると窮屈だと感じる。
日向家が結構広かったから思ったよりも窮屈ではなかったけれど。
部室でも良かったんだけど、たまには違うところでこういうのやってみたいねってチカちゃん先輩が言ったので、皆それに賛同して会場が日向家になったというわけだ。
ちなみに、チカちゃん先輩っていうのは最近私が縁下先輩につけたあだ名である。
呼んでいるのは現在私一人だが、いつか浸透すればいいなと密かに思っている。


「さて。準備としてはこんなもんかな?」

主将が飾りつけやテーブルなど、周囲を見渡して言った。

「うん、とりあえずいいんじゃない?田中、そっちのほうも終わったよね?」
「あ、はいスガさん!終わってますよー!」
「じゃあ後はマネージャーを待つだけっすね」
「あ、コラ影山!ツマミ食い禁止だぞ!」

テーブルからから揚げをひとつつまんで口の中に入れた影山を、日向が叱咤する。
それに対して影山は知らん振りだ。
料理担当は私とスガ先輩で、から揚げを作ったのは私。
今日のは何気に自信作である。

「となると時間あまるんだなー……日向、何かゲームとかないの?」
「ゲーム?あるよ、そういや昨日親がファミコン買ってきた!」

山口が日向に問いかけると、日向は思い出したように別の部屋へと走っていった。

「……いまアイツ、ファミコンて言った?」
「ツッキーもそう聞こえた?私もファミコンて聞こえたよ」
「日向の親が懐かしさで買ってきたんかな」

ツッキーの呟きに思わず反応すると、それに便乗してノヤ先輩も。

「あった!これこれ!」

戻ってきた日向が手にしていたのは、昔懐かしのファミコン本体と、ドラクエ3のカセット。

「おまえ……ゲームって、これじゃ一人用じゃんか」
「だってこれしか無かった」
「他にゲーム機持ってねえのかよ?」
「持ってるけど今は兄ちゃんがやってるからなあ」

呆れたように言う影山に、苦笑する日向。
ていうか今日は日向の兄ちゃんいるのか。
見てみたい気持ちもあるけど、それ以前にこんなに大人数でおしかけちゃって大丈夫だったのかなあ。
そう思っていたら、旭さんが代弁してくれた。

「兄ちゃんいるのにこんな大人数で来ちゃって大丈夫だったのか?」
「大丈夫ですよー!兄ちゃんそういうの気にしませんから!」
「そうなんだ……なんかそういうとこ日向と似てるかもね」

チカちゃん先輩がほのぼのと笑っている。
その隣でスガ先輩も。
チカちゃん先輩とスガ先輩と旭さんは誠に勝手ながら私の中では癒しキャラっていうイメージなんだよね。
だからこの三人が楽しそうにしているのを見ると暖かい気持ちになるなあ。

「それしか無いなら仕方ねえなァ……どうせ潔子さんが来るまでの時間稼ぎだし、試しにちょっとやってみようぜ」
「ラジャ!」

田中先輩が日向に言うと、日向はいそいそとセッティングをし始めた。

「月島、そこのリモコンでテレビつけてくんない?」
「これ?」
「そうそう」

ソファーにおいてあったリモコンを取り、ツッキーがスイッチを入れると真っ暗な画面が表示された。

「そんでー、入力切替して」
「はいはい」
「じゃ、電源いれまっす!」

ファミコンの機械がものめずらしいのか、皆テレビの周りに集まって。
日向が電源入れるのを見守る。
こんなにも密集しちゃって……まるで部室でバレーの試合のVTRを見ている気分になった。

電源が入り、オープニングが始まると思いきや。
でろでろでろでろ、と不吉な音楽が流れ出す。

「あー、冒険の書消えちゃったんじゃない?」
「なんだ、森永は詳しいのか?」
「詳しいっていうかまあ、このシリーズ大好きですからね。主将はドラクエやらないんですか?」
「名前は知ってるけど、実際にやったことはないんだよなあ」
「面白いですよ、今度機会があったらやってみてくださいよ」
「はは、そうだな。時間が作れるようになったらやってみるかな」

主将とドラクエについて語っていると、どうしていいかわからないのか日向がオロオロし始めた。

「とりあえずもう一回差し直してみたらいいんじゃねえの?」
「おー、やってみる」


影山の助言どおりカセットを抜き、再び差し込んだその時。

ピカッ!!と部屋一面が眩い光に包まれた。

あまりの眩しさに目を開いておくことが出来ず、思わずぎゅっと目を閉じた。

そしてもう大丈夫かな、と思ってゆっくり目を開けた次の瞬間。



「…………、え」


私達が立っているのは、先ほどまで居たはずの日向家ではなかった。

「おわああああ!!なんじゃこりゃああ!!」
「うおっ、なんだこの格好!!」
「あわわわわわわ」

それぞれがそれぞれの格好に驚き、言葉にならない声を発している。
もちろん私もその中の一人だ。
さっきまで着ていた私の私服はどこへ行った……!!
ていうかこれ、ドラクエの賢者の服じゃないか!

何なんだ、一体何が起こったんだ!



「おや、珍しい。こんなに大人数で冒険者名簿に登録をしにきたのかい?」

混乱している私達に、声を掛けてきた女性がいた。
その女性は30代くらいだろうか、強気な表情でラフな感じではあるが中世ヨーロッパのような服装をしている。

当然のように全員の頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。
きっと誰もが『この人誰だ?』と思っていることであろう。
そんな中、私は思い浮かんだ人物の名前がある。

「ルイーダの……酒場?」
「史香、知ってるのか?」
「ノヤ先輩……知ってるっていうかあれですよ、さっきのゲームの中の登場人物ですよ」
「ゲームの中の」
「登場人物ぅ?」

スガ先輩と田中さんの見事な連携ボイス。
それを聞いたみんなも驚いた顔をしている。

「お嬢ちゃんはこのルイーダのことを知っているみたいだね。さ、名簿に登録しに来たんだろう?責任者は誰だい?」

責任者、とルイーダの口から出てきた瞬間、全員で主将を見た。

「わかりやすいねえ、アンタかい。じゃあまずアンタから、はいコレ」
「こ、これは?」
「何言ってんだ、さっきから名簿って言ってるだろ。おかしな人だねえ」
「名簿……」

困った主将の持っている名簿を後ろから覗き込むと、そこには名前と職業、レベルを書く欄があった。

「森永、助けてくれ。俺にはどうにもこうにもわからん」

主将に助けを求められて、私はルイーダさんに質問をする。

「とりあえずここに名前を書けばいいんですよね?」
「そうだよ、名前と……職業とレベルもちゃんと書いておくれ。そしたら晴れてルイーダの酒場の登録人の一員さ!」

何がなんだかわからないままルイーダさんに流されて、全員で名前と職業とレベルを書くことになった。


「っていうかみんな自分の職業とレベル、わかるんですか?ドラクエ経験者って他には?」

名簿を持ちつつ全員に問いかけてみると、手をあげてくれたのはツッキー、山口、スガ先輩、チカちゃん先輩の四人だった。
だが、その次の瞬間に影山が発した言葉は誰もが驚き、それでいて納得する言葉だった。

「俺……ドラクエやったことないけど、何か……自分の職業が何で、レベルがいくつかっつーのはわかる」
「俺は一応経験者だけど……だからといってわかる理由にはならないよね。職業は僧侶で、レベル12だって」

続いてスガ先輩も。
そう言われてみれば。
服装こそ賢者だが私のレベルはいくつだろうと考えてみると、自然と11っていう数字が浮かんできた。
みんなも同じだったのか、俺も俺もと一気に捲くし立てる。
そんな中で浮かない顔をしていたのは旭さんだった。

その理由は服装で察知してしまったのだけれども、一応問いかけてみる。

「あの……旭さん、どうしました?」
「…………俺、遊び人…………レベル5……」

か細い声で答えたその言葉に、みんなが一斉に吹き出した。
あろうことか主将まで笑いを堪えているではないか。

「きっと一ヶ月部活サボったからそのせいですよっ!それにしても……遊び人はともかくレベル5……!」

思い切り笑いを堪えながら、ノヤ先輩がフォローを入れたがそれはフォローにもなっておらず、最後の一言でトドメを刺している。

あ、旭さん更に落ち込んだ。
笑っちゃ失礼だけど流石に笑えるよ、これ。
あの癒し系だと思ってた旭さんが……烏野のエースが、遊び人レベル5……!
でも流石に可哀想なので、助け舟を出してあげることにした。

「旭さん、大丈夫ですよ。レベル20になれば転職できるようになりますから」
「森永!それは本当か!?」
「本当です。ドラクエマニアの私を信じてください」
「…………わかった」

信じてくれたのかどうしようもないと思って答えたのか、微妙な表情だったがひとまず旭さんは返事をしてくれた。

そしていつまでも笑っている皆を宥め、それぞれの職業とレベルを書き込んでいくことにした。


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