18
アッサラームから北へ向かい、ノルドさんの住む洞窟へとやってきた。

「あの、はじめまして!これポルトガの王様から預かってきた手紙です」
「ん?だんながたは一体……ふむ、ひとまずそれを預かろう」

日向がノルドさんへと手紙を渡すと、ノルドさんはその内容を読み上げた。
いいのか、王からの手紙をそんな簡単に読み上げてしまって。

「なになに……この者達をバーンの抜け道へ案内してくれ、と……ふむ!するとだんながたは東へ行きたいのかね?」
「はい、王様から東の地を調べてくれという依頼を受けているので」
「そうか、他ならぬポルトガの王様の頼みとあらば……よし、ついてきなされ」

腰を上げて先導してくれるノルドさんに、集団でついていく。
ゲームだったらこれが四人だから大分スッキリした画面に見えるんだろうけど、もし今この状況をゲーム画面で見れたとしたら洞窟の隙間ぴっちりとキャラ達で埋め尽くされているんではないかな。
実際にはもう少しゆとりがあるけれど。


一見なんの変哲もない岩の壁の前で止まったノルドさん。

「もしや隠し通路か?」
「そうみたいだな……どっかにスイッチがあったりすんのかな」

田中先輩とノヤ先輩が話していると、突然ノルドさんはキェェェェェイ!!と叫んだ。
全員が呆気にとられている中、岩に向かって飛び蹴りをかますノルドさん。

「え、ええ!?」
「こんな力任せな隠し通路ってある!?」
「この人仲間に出来たら心強いんじゃないの……」

みんな動揺の言葉を発する。
私も例外ではなく、ドゴォン!という音に一番近くに居た影山の腕をガシッと掴んでしまったほどだ。

「これ、正攻法なのか……?」

そんな私を見て影山が呟いた。

「この辺記憶が定かではない。でも飛び蹴りで通路が出来たってことは正攻法だったんだろうねえ……」
「そうか……」

影山はそれ以上何も言わなかった。
最早考えることを諦めたんだろう。

ノルドさんにお礼と別れを告げ、少しの間歩き続ければ外へと続く階段が見えた。

「では洞窟も抜けた事だし……ダーマ神殿組とバハラタ組でわける?」
「たまには私以外の人がチーム分けしてみませんか?」

してみませんか、と言いつつも視線の先にいるのは最初に言葉を発したスガ先輩と、それからチカちゃん先輩だ。
ツッキーと山口は一年生ということもあるので先輩優先に。

「スガさんの決めた事で従いますよ、俺」
「縁下……うん、わかった。じゃあ今回は俺に決めさせてもらうな!」

ニコリと微笑むチカちゃん先輩。
その笑みを受け取ったスガ先輩は自分の考えを皆へと伝えた。

「ダーマ神殿は転職するヤツは絶対だから旭と山口は外せないだろ。そして転職後にはレベル1になっちゃうし、回復役と強いヤツが欲しいから……ああバハラタよりもダーマ神殿行きのほうを人数多くしたらいっか。じゃあバハラタに行くのは日向と影山と田中とフミ、そして俺。それ以外のみんなはダーマ神殿へ向かってもらう。ダーマ神殿のほうは縁下、月島、山口。手順とかの説明頼んでもいいかな」
「はい、大丈夫です」
「僕も良いですよ」
「俺も問題ないです」
「うん、ありがとう。じゃあそういうことで、それぞれ頑張ろう!」

スガ先輩の決めたとおりの班に分かれてそれぞれの目的地へと進む。
とはいえ、ダーマ神殿はバハラタを更に先へ進んだところにあるので結局バハラタまでは全員で同行するという形になる。

ルーラを使えるのが影山と私だけだったが、そこはキメラの翼で補うという形で何の心配も無くなった。

実は、この後バハラタに行ったらカンダタとの再戦が待ってたりする。
スガ先輩は私にもう二度と同じ目に遭って貰いたくないようだったが、一番ゲームの道筋をわかっているということで勇者同行班に入れたようだ。
そこを謝ってくれたけど、みんなとはぐれなければ二度とあんな事にはならないだろうと思っていると伝えればスガ先輩は安心したように笑ってくれた。


経験値稼ぎをするために旭さんを前衛にしつつ、バハラタへと到着。
到着する頃には旭さんのレベルも19になっており、ダーマ神殿に行く前には確実に20に到達できる。
到着後は先ほどスガ先輩が決めたように二つの班に別れて行動開始。

「さて、じゃあまずは黒胡椒屋を探さなきゃね……それぞれ散らばって情報収集する?」
「そうですね、その方が手っ取り早いし」
「よし、じゃあ30分くらい別行動にしようか。時間が経った頃にこの入り口に集合で!」
「わかりました!」

それぞれ返事をし、別の方向へとバラバラ歩き出す。
みんなどんどん奥へ進んで行こうとしているので、私は手前から探索していこうかな。

手始めに最初の店に入ると、いとも簡単に『黒胡椒なら隣の店で売ってるよ』との情報が。
その店は武器と防具の店だったので、山口から預かっているお金で必要分の装備品を買った。
ひとりでは全部持てないので、みんなが再び集合するまでは店で預かってもらうことにして。
情報を元に隣の店へと入ると、後ろから名前を呼ばれた。

「あれ?史香もこの店に黒胡椒があるっていう話を聞いたのか?」
「ということは田中先輩も?」

私の後にすぐ店に入ってきたのは田中先輩だった。
田中先輩は真っ先に奥へ行ったのだが、思い直して付近から探索することにしたらしい。
しかし、お店に入ってみるとどうやら営業してない様子。

「確かにこの店って聞いたんだけどな」
「あー、もしかして何かイベントがあったかもしれません。他の情報集めに行きます?」
「営業してないもんは仕方ねえしな、行くとするか!」

田中先輩と一緒に店を出て、町の中をうろつく。
すると前方から日向、影山、スガ先輩の三人が歩いてきた。

「あれ?田中とフミは結局合流したの?」
「スガさんこそ、日向と影山と合流したんスね」
「集合する必要なくなっちゃいましたね」

ね、と笑うと日向も一緒に笑ってくれた。

「黒胡椒屋、営業してないみたいなんだけど何か情報手に入った?」
「ああ、黒胡椒屋の主人の孫娘が攫われて、その恋人も助けに行ったまま帰ってこないっていう情報がある」
「ああ……、それがカンダタフラグだったか」

影山の情報を聞いて、カンダタの顔を思い浮かべる。

「カンダタ?カンダタってあのカンダタか?」
「そう、あのカンダタ」
「おれ達で一度ボコボコにした?」
「うん」
「またアイツと戦闘ってことか……腕がなるな」
「影山、怖い怖い。そのいい笑顔やめて」

手をポキポキと鳴らしながら、怖い笑顔を浮かべる影山。
日向はトラウマからか若干引いていた。

「カンダタを倒して孫娘を救出すれば、黒胡椒が手に入るっつー寸法ッスね?」
「そうだな、田中も思う存分暴れられるよ」
「うっしゃあ、任してくださいよスガさん!」
「カンダタも成長していると思うので油断大敵ですよー、今度は洞窟だから変な落とし穴も無かっただろうし、大丈夫とは思いますけど……」

それでも任しとけ、と意気込む田中先輩。
カンダタのアジトはシャンパーニの塔からバハラタの北東の洞窟へと移動しているはず。
さっきの武器と防具の店まで戻り、買った装備品を皆に渡して。
装備を固めたところで北東の洞窟を目指して町を出た。
洞窟に着く頃にはもうひとつの班もダーマ神殿に到着しているだろうか。












「なんか、迷路をさまよっている気分になってきた」
「ていうかアレだね、月島はこっちに連れて来たほうが良かったかもしれないね」
「そうですねえ……ツッキーが居れば宝のにおいを嗅ぎ取って無駄に迷わなくて済みますもんねえ」
「森永はこの洞窟は覚えてないのか?」
「うーん、北側に宝箱が集中してたなっていうのはなんとなく記憶にあるんだけど。なんせ同じような作りの場所が続いているからわかんなくなっちゃった」

日向の言ったとおり、まるで迷路を歩いている気分である。
スガ先輩もこの洞窟内に関してはさっぱりわかんないっぽいし、影山と田中先輩がわかるわけもないしなあ。

「とにかく真っ直ぐ進んで壁にぶち当たったらまた適当に曲がればいいんじゃねえの」
「田中のその単純な性格って救われるよなー」
「そんなに褒めないでくださいよスガさん!」
「どう考えても褒めてねーだろ」

影山のツッコミは私にしか聞こえなかったようなのでスルーしておいたほうが無難である。
わざわざ田中先輩の機嫌を悪くすることもあるまい。

仕方が無いので田中先輩の言ったとおりにとりあえず壁に当たったら適当に進むという方法をとることにした。

「しかしさあー、こうやってみんなで一緒に冒険すんのも楽しいけど、やっぱバレーやりたいよなあ……!」
「あー、そうだよなー。この世界じゃバレーなんてないだろうしな」
「うーん、日向も田中も相当キてるね。でも俺も同じー、やっぱバレーやりたいよな!影山もそう思うだろ?」
「そッスね、戦闘することで運動は出来てるんでしょうけど……ボールに対してなまってそうで怖いです」

洞窟内を進む道中の会話。
バレー部であるみんなはやはりボールが恋しくなっているようだった。

忘れてけど、もしこのままこっちでの時間経過が元の世界に反映してないとしたら、帰ったら大会が待ってるんだよね。
そしたら影山の言うとおり、毎日戦ってるから体力が衰えることはないけど、バレーの勘が鈍っちゃうんじゃないかな。
アリアハンの王様に頼んだら体育館みたいなの作ってもらえないかしら。
ルイーダの酒場に宿場を増設しちゃうくらいだから出来そうな気がする。
ボールは多分道具屋に売ってるからいいとして、ネットだって海の近くで漁業とかやってるんだろうからそれを利用すればイケるんじゃないの。
彼らの本業はバレーボーラーなんだし、他のみんなもそろそろバレーがしたいって思っているはず。
本来だったら一日たりとも休ませたくなかったんだけど……もっと早く気づけばよかったな。
マネジ失格だ。

とにかく、カンダタを倒して無事にアリアハンへ帰ったら王様に相談してみよう。
話のわかってくれる王様だと信じたい。

「お!ここでようやく階段発見!やーっと迷路から抜け出せたか」
「結構敵も多かったですねー、おれレベルふたつも上がった!」
「俺も二つ上がった!」
「…………」

やれやれ、と汗を拭う素振りをするスガ先輩。
レベルが上がって喜んでいる日向と田中先輩。
そして私をじっと見つめる影山。

「ん?何?何かついてる?」
「いや、森永はレベルどこまで上がったんかなって思った」
「私?私はねー、今レベル20だよ。影山は?」
「俺は21だな。バイキルトっていう呪文を覚えたんだが、これはどういう時に使うんだ?」
「バイキルトはね、便利だよ!味方一人の攻撃力を二倍にするの。だから田中先輩とか主将とかノヤ先輩に掛けると攻撃力がグンと上がって大助かりだね」
「じゃあこの先のカンダタ戦で使えるな」

嬉しそうな顔の影山を見て、私も釣られて嬉しくなった。
こんな風に素直に喜んでいる影山を見るのって珍しいかもしれない。





階段を上がってから再び戦闘を繰り返し、先へ進むと牢屋を二つ発見した。
それぞれに男女がひとり入っていて、女性のほうは黒胡椒屋の主人の孫娘ということが判明。
そうなるともう一人の男性は必然的に恋人か。

「助けに来てくださったんですか!ありがたい!」
「これはどうやって開けるんだ?」
「そのレバーを引いてくだされば開きます!」

田中先輩が問いかけると、青年の指差す方向にはレバーが。
それを聞いて、私は日向と共に女性の入れられている牢屋のレバーを引いた。

ゴゴ、と鈍い音が響き、開いた牢屋から飛び出してきた二人。

「グプタ……!!助かったのね、私達!」
「ああ、タニア!無事で良かった……!!」

抱き合って喜びをかみ締めている二人。
どうやら助けに来た私達は蚊帳の外扱いらしい。
ていうかラブシーンを見せ付けられて、私達みんな若干顔が赤いんですけど。
この空気どうしてくれる。


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