17
「というわけで、これが俺達の本日の戦利品だ」

一度アッサラームの町へと戻り、全員集合した後再びルイーダの酒場へと戻ってきた。
少し休憩をとった後の報告会を行っている最中だ。

主将が袋の中から戦利品を取り出し、床へと並べる。
お金は既に山口へ渡し済み。

「おお……!結構大量にお宝があったんだな、ピラミッドって」
「多分このゲームの中で一番お宝が眠っている場所だったと思いますよ、田中先輩も行きたかったですか?」
「うぐ……い、行きたかったといえば行きたかった……が!すごろく場が楽しかったから俺は満足してるぞ!」

鼻息荒く力を込めて言うもんだから、相当楽しかったんだなという事が伺える。
一緒にすごろく場へ行った日向と旭さんも嬉しそうな顔をしていた。
一人浮かない顔をしていた山口に問いかけてみれば、山口は魔物と出会ってばっかで散々だったらしい。
さすがに商人一人ですごろく場は辛かったか。
そして旭さんの遊び人特有の運の良さはさすがというかなんというか。
魔物に一回も当たらずしてすごろく場をクリアしてきたそうだ。
景品はモーニングスターと小さなメダル。
モーニングスターを装備することが出来るのは僧侶と賢者だけらしく、スガ先輩とチカちゃん先輩で交換しながら使うこととなった。
私にはあれを振り回す自信がない。
コントロールがつかずに味方に当たったりでもしたら大変だ。
目も当てられない結果になること間違いない。

「俺達は砂漠を探索中にほこらを発見したので、そこからアイテムを拾ってきました。あとレベル上げも兼ねて。大したモノは無かったし、今後の進行にも関係ない場所だったと思うな。次って確かポルトガで船をもらいに行くんだよね?」
「スガ先輩、思い出したんですか?」
「うん、なんとなくのイメージでそんなんだったかなって思った」
「おお……!やっぱりスガ先輩は頼りになりますなー……!そのとおりで、ポルトガへ行って船をもらう予定です」
「そのポルトガって何処にあるんだ?」
「あ、それならロマリアの西っていう情報がありましたよ」

旭さんの問いかけに山口が手を上げて応えた。

「史香ちゃん、地図貸してくれる?」
「うん、はい」

言われたとおりに山口に地図を渡す。

「ロマリアがここだから……ポルトガってこの辺じゃなかったかなあ」

山口が指差した部分を全員で覗き込むものだから、みんなの体でぎゅうぎゅうと押されて痛い。

「つーかアッサラームとかイシスとか、俺達正反対の場所に進んでたんだな」
「いやいや田中先輩、それで良いんですよ。こっち方面の探索は魔法の鍵入手が目的だったんですから」

魔法の鍵を手に入れて、ポルトガでイベントをこなしてからじゃないとアッサラームから東へは進めなかったはず。
そう思ってアッサラーム付近の洞窟はスルーしてたんだけど、やっぱりその考えで当たってたようで安心した。

「そっか、もうすぐで船が手に入るんだっけ。そうなったら行動範囲が大分広がるね」

フム、と思い出した様子のチカちゃん先輩。

「イシスやアッサラーム周辺ではもうする事は何もないのか?」
「んー……、そうですね、目的は達成しちゃったし……やるとしてもレベル上げとお金稼ぎくらいでしょうか。それぞれのレベルも結構いい感じに上がっているみたいなので、砂漠周辺でうろつくよりも全員で先に進むほうが得策かと。」

ノヤ先輩の問いかけにそう答えると、満場一致で明日は全員でポルトガを目指す事に決まった。
纏まったところで報告会を終了し、最後に各自の体調を聞いてからそれぞれ自室へと散らばる。






「……ふう、今日も無事に終了しましたね」
「ああ、そうだな。これなら元の世界に帰れる日も遠くはなさそうだ」
「それにしてもフミは良く頑張ってるよね」
「え、なんですか突然!褒めても何も出ませんよスガ先輩!」

現在主将の部屋に残っているのは、部屋の主である主将とスガ先輩と私。
私は全員の体調管理に気を配らなければいけないことから、必然的に最後までこの部屋にいることになるのだ。
人数が少なくなった部屋は少し気温が下がった気がして、丁度いい心地良さになっている。

「いや、スガの言うとおりだ。これだけの人数に対し、よく采配を振るってくれてると思うよ」
「そんなの主将はいつもやってることじゃないですか」
「うん、まあ……そう言われたらそうなんだけどさ」
「でもフミがちゃんと知識を持っているからこそ、こうやって順調に進めてるってことは確かだよなー」
「スガ先輩だってちょろちょろと思い出してくださるじゃないですか。ツッキーも山口もチカちゃん先輩も、思った以上に色々思い出してくれてますよ?私一人の知識じゃないですもん」

むぅ、と口を膨らませて拗ねるように言ってみた。
だって知識を持っているだなんて、それは偶然のことであって私の努力でもなんでもない。
すると、主将もスガ先輩も、プッと吹き出した。
次の瞬間には二人分の手の重みが私の頭に。

「わっ!」
「ウチのマネージャーはどうしてこう、素直じゃないんだろうなあ」
「ほんとだよねー、清水といいフミといい……たまには素直に感謝させてくれっての」
「当たり前のことをやってるだけなんですゥー、マネージャーとしての仕事なんですゥー」
「ほおー、そういう生意気なこと言うのはこの口か?」

尖らせた口をつまもうと、スガ先輩の手が顔の前でわきわきしてる。

「ノー!やめてください、暴力反対!」
「暴力って、ハハ!ほんとフミはバカだなあ」
「バカな子ほど可愛いってやつだろ?」
「そうそう、良くわかってんじゃん大地」
「なんか褒められてるのかバカにされてるのか私には良くわかりません……」
「褒めてる褒めてる!ま、とりあえず今日は疲れただろ?森永も自分の部屋に戻ってゆっくり休めよ」
「はい、わかりました」

先輩達が楽しそうな顔をしているので、それ以上のツッコミはやめておいた。
私も素直に早く休みたいっていう気持ちもあったことだし、遠慮なく部屋に戻らせてもらおう。

部屋に戻った後はすぐさま布の服に着替え、ルイーダさんにお風呂を借りて。
それからベッドへダイブすると、即座に眠気が襲ってきた。
明日はポルトガへ行って……ああ、そうだ、折角魔法の鍵を手に入れたんだから……今までに開けられなかった場所にも行かなきゃ……。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠りへと落ちていった。










現在この世界に来てから七日目。
パーティー全員でポルトガを目指して歩いている。
ロマリアまでルーラし、そこからカザーブに行く途中を西へ。
その先のほこらが魔法の鍵じゃないと開かない扉だったので、主将が鍵を使い、再び先へと進む。
ちなみにアリアハンでの魔法の鍵専用の扉は、みんなが起きてくる前に探索済みだ。
スキルアップの種やごうけつの腕輪などがあったので、種はそれぞれ補いたい部分がある人へ。
ごうけつの腕輪は主将の厚意によって田中先輩へと渡された。
他にもイシスとかアッサラームに魔法の鍵で取れるアイテムもあったはずだが、必要なのは序盤だけでいずれいらなくなるものだと思ったら、取りに行くのが面倒だと思った結果、諦めた。

「見えた!!あれがポルトガ?!」

日向が元気いっぱいに指差した方向に見えるは、まさしくポルトガのお城。
ポルトガ周辺の魔物はもう何度も遭遇している種類ばかりだったので、難なく進むことが出来た。

「しかし、本当にここで船なんてもらえんのか?」
「交換条件みたいなものを叩きつけられますけどね、船はここで手に入るので大丈夫ですよ田中先輩!」
「ポルトガ……船……ああ、胡椒のイベントか」
「あ、ツッキーも思い出した?俺も思い出した」
「山口もツッキーも思い出したんなら話は早いね、日向を先頭にしてさっさと王様に会いに行こう!」
「おっおっ!?」

日向の背中をぐいぐい押し、ポルトガの城下町へと踏み込む。
こしょうのイベント?なにそれ?と頭の上にクエスチョンマークを浮かべている人もちらほら居たが、王様に謁見して話を聞けば早いと思ったので詳しい説明は省かせていただいた。








「はるか東の国では黒胡椒がとれるという。東に旅立ち、東で見聞したことをわしに報告せよ!胡椒を持ち帰ったときそなたを勇者を認め、わしの船を与えよう。この手紙を東の洞窟に住むノルドに見せれば導いてくれるはずじゃ」

それにしてもよくこんなに大人数を入れてくれたなーと思いつつ叶ったポルトガ王への謁見。
日向の隣に並び、船をお借りできませんかと交渉してみるとゲームどおりの答えが返ってきた。

「アレ単なる胡椒好きのオッサンじゃねえのか」
「影山もそう思うか?実は俺もそう思った」
「ですよね田中さん……胡椒と引き換えに船をくれるなんて、なんか胡散臭い話をしか思えないス」
「田中も影山も黙れ」
「「いてっ!!」」

影山と田中先輩のひそひそ話は内容までは聞こえなかったが、主将が鉄槌を喰らわせたことによって良からぬ事を喋っていたんだな、と思った。
王様の機嫌を損ねて船が借りられなくなっちゃったらどうしてくれるんだ、全く。

そうこうしているうちに日向は王様から手紙を受け取り、一旦の用事は済んだので城から出た。

「さて、王様に言われたとおりこれから東にあるバハラタという国に行って、黒胡椒を手にいれなければなりません。バハラタはここです」

地図をみんなに見えるように広げて、バハラタの場所を指差す。

「っつーことはアッサラームが近いんだな?」

アッサラームのある場所を指さして旭さんが言う。

「はい。アッサラームの近くにノルドさんが住んでいる洞窟があるので、ひとまずアッサラームへ行ってからまた行動説明をさせていただこうかと思います!」
「行動説明?全員でバハラタへ行くんじゃないの?」
「最初はそう思ってたんですけどね、チカちゃん先輩。この場所に何があったか覚えてますか?」
「この場所?」
「旭さんがずっと待ち望んでいた場所です」
「あー、ダーマ神殿か!っていうことは、バハラタ組とダーマ神殿組に分かれたほうがいいね」
「ですよね!そのほうが旭さんも転職できるし、黒胡椒も手に入るし、一石二鳥だと思うので」
「ん?でも転職って確かレベル20とか言ってなかったか?旭さんってレベルは今いくつなんすか?」

ノヤ先輩の言葉に旭さんは自分のレベルを皆に告げた。
旭さんは現在レベル18らしく、これだったら進んでいくうちに積極的に戦闘に参加してもらえば20までいくんじゃないかな。

「そしたら日向は確実にバハラタ行きでしょ。黒胡椒手に入れたらまたポルトガの王様に会いに行くんだろうし。他は誰がどういう行動にすんのさ」

ツッキーが日向に向かって指を差すと、日向は人に指を向けるなこのやろ!とささやかな抵抗を行っていた。

「ええと……そうだなあ、他に転職に興味ある人います?」

全員を見渡すと、山口がおずおずと手を上げた。

「商人って、交渉にはもってこいだし戦闘でお金も多少多く獲得できるかもしれないけど……やっぱちょっと足手纏い感があるかなあって。それにもうこれ以上の呪文は覚えないみたいだし」
「でも山口、お前転職するとまたレベル1からやり直しってわかってる?」
「うん、わかってるよツッキー。そこはホラ、旭さんも同じレベル1からのやり直しになるし、一緒に経験値稼ぎすればいいかなって思ったんだ」

「ん?…………転職……また、レベル1からなのか?」

「あれ?言ってませんでしたっけ。転職すると前職の呪文や特技はそのままでも、レベルだけは1からやり直しなんですよー」

絶望の淵に立たされたような、か細い声を発した旭さん。
転職システムを理解したようで、その肩がこれ以上ないって程にガクリと落とされた。

「で、転職するとしたら何になんの?」
「そこはまだ考え中だったりする。戦士か武闘家かなあとは思っているけど」
「あ、勇者って転職できんの??」
「バカなの、勇者が転職できちゃったらなんのための勇者なんだよ」
「な、なんだよ、できるかどうか聞いただけだろー!そんなの知ってるし!」

山口とツッキーの会話に割り込んだ日向が口を尖らせた。
知ってたらできるかどうか聞く必要がないのでは、とこの場に居た誰もが思ったことだろう。
バカなの日向。
いや、バカだろ日向。

「じゃあ転職するのは旭と山口でいいんだな?他に転職したいヤツはいるか?」

主将の問いかけに影山が少し悩んでいる。
そんな様子を見て、私の考えを影山に伝えてみた。

「魔法使いは後半でも使える呪文を覚えるから、転職しちゃうのは勿体無いと思うなあ」
「でも賢者って魔法使いが覚える呪文も全部覚えるって言ってなかったか?それなら森永が覚えるから俺は転職したってかまわないだろ?」
「でも魔法使いは影山一人だし、もし私達が分散してるときに強い敵と出遭っちゃったら辛いよ?」
「ああ……まあ、そうか。じゃあとりあえず転職はやめておく」
「うん、それがいいと思う!お揃いで呪文覚えていこー!」

そう言ったら、『お揃いどころかお前の方がウワテだろ』とオデコをパシッと叩かれた。
悔しいからって叩かなくてもいいじゃないか!

「じゃあ洞窟を抜けたらまたチーム編成をするか。ひとまず洞窟を抜けないことには話にならないからな」
「そうだね、大地の言うとおりとりあえず洞窟行っちゃおう」

転職うんぬんは洞窟を抜けてから、ということにまとまり、私達は全員の手が繋がっているのを確認し、ルーラを唱えてアッサラームへと飛び立った。


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