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「しかしほんとにでけぇ城だな」
「さすが女王様の治めている城って感じですね。心なしか上品さも感じられますもん」
「あん?この城は女王なのか、珍しいな」
「それはそれは綺麗な女王様らしいですよ」
「へえ……潔子さんよりも綺麗なんかな」
「ノヤ先輩は清水先輩が好きなんですか?」
「ブッ」

ここで清水先輩の名前が出るってことは、好きなんじゃないかっていう質問は当然の流れであって。
今まで田中先輩とノヤ先輩が『潔子さん潔子さん』って騒いでいるのを知ってるから、素直に疑問を口にしただけなんだけど。
そんなに勢い良く吹き出さなくても。

「バカ!潔子さんは憧れなんだよ!あんなに綺麗な人を好きだなんておこがましい!」
「へえ、てっきり田中先輩とノヤ先輩は二人で清水先輩の取り合いでもしてるのかと思いました」
「あれはミーハーなノリで騒いでいるだけなんだっつの!」
「じゃあどういう人が好みなんです?」
「言えるかばかやろ!!そんなことはどうでもいい、つかそういう史香はどうなんだよ」
「え、今は私が質問してるんですよ!質問で質問に返すのはルール違反だと思います!」
「どうしてこう、今年の一年は生意気なヤツばっかなんだ……!」
「生意気さは影山とツッキーに鍛えられました!」
「威張ることじゃねんだよ!あ、ホラ!あそこの子供じゃねえのか?何か歌が聞こえてくんぞ」

恋愛話に花を咲かせていると、ノヤ先輩の指差す先には二人の子供が。
楽しそうにくるくると踊りながら、何かの歌を歌っている。
きっとその歌がピラミッドのヒントだろう、私達はゆっくりと子供に近づいた。

「まんまるボタンはふしぎなボタン♪まんまるボタンでとびらがひらく♪ひがしのにしからにしのひがしへ♪にしのにしからひがしの…………あれ?おにいちゃんたち、たびのひと?」
「ああ、そうだ。その歌おもしろいな、もっと聞かせてくれよ」
「うん、いいよ!おにいちゃんたちもいっしょにうたおうよ!」

褒められて上機嫌になった子供は何度も何度も繰り返し同じリズムで歌ってくれた。
言葉を間違えないように地図の裏側に書き込む。
東の西から西の東へ、西の西から東の東へ……ピラミッドのボタンを押す順番だったな、確か。

しばし一緒に歌ったところで満足した子供達は、またくるくると踊りだした。
ありがとねー、とお礼を言ってその場を離れる。

「これでピラミッドに関しての情報はオッケーですね」
「あとは何もないのか?」
「あとは……ええと……あ、もしかしたらこの城の地下に何かの宝箱があったかもしれません。中身がなんだったかも鍵がかかってたかも覚えてないですけど、行けるところまで行ってみます?」
「おう、ここまで来たからには行っておこうぜ!」

ノヤ先輩の賛同を得たところで、イシス城の地下通路へと向かう。
しかしどこの城もそうだけど、一般の旅人がこんなにうろちょろしててもいいもんなのかね。
警備兵はちらほら配置されているにしても、快く『ようこそイシスへ』なんて出迎えてくれる人たちばかりで。
面倒事が起きないに越したことはないが。









「結構薄暗いですね……洞窟と似たような雰囲気……モンスター出てこないだろうな」
「城の地下なんだから大丈夫だろ。史香は怖いのか?」
「いいえ、ノヤ先輩が一緒に居てくださるんで怖くはないですよ」
「おま、やめろよこっ恥ずかしい!!」
「照れることないじゃないですか」
「そうやって恥ずかしげもなく言えるお前が羨ましいよ」

ノヤさんだって恥ずかしげもなく照れる台詞放ってくれるくせに何を言ってるんだ。
『史香は俺達が守るから』なんて言ったのはどこの誰だったか。

「お、鍵はかかってないみたいだな」

扉を押すと、普通にガチャリと開いたドア。
そしてその奥には宝箱がご丁寧に置かれている。

「無用心すぎやしませんか、まるで持っていってくださいって置いてあるようなものですよね」
「まー、いいんじゃねえの?ゲームでもこれって勝手に持ってくモンなんだろ?」
「それはそうなんですけどね……勇者ならともかく、勇者の仲間の単独行動って」
「カタいこと言いっこナシだって」

な、と言いながら開けられた宝箱の中に入っていたのは、腕輪だった。

「装飾品だな」
「ああ、これほしふる腕輪じゃないですか!」
「なんだ、ほしふる腕輪って」
「身に着けると素早さが格段に上がるっていう優れものですよ」
「へえ、そんな便利なモンなんだ。じゃあ史香がつけとけば?」
「え、先輩は着けなくていいんですか?」
「俺は元々素早さのある職業みたいだしな。史香が着けててくれれば俺達も少し安心して戦えるだろ」
「あ、ありがとうございます!ではお言葉に甘えて」

安心して戦えるというのであれば遠慮なく着けさせて頂こう。
そう思って、腕にはめようとした瞬間。
宝箱の後ろがボウッと光りだしたのである。

「「!?」」

思わず後ずさり、ノヤ先輩は私を庇うように前に出た。

「わたしの眠りをさましたのはおまえたちか?」
「ゆゆゆゆゆゆうれい……!!」
「落ち着け史香!ああ、そうだ!俺達だ!」
「ノヤ先輩、何でそんなに冷静なんですか!!」
「いざとなったらどうにかなる!だから落ち着けって!」

私を宥めながら受け答えするノヤ先輩。
なんつー頼もしい先輩なんだ。
背は小さいのに男気溢れているその背中が逞しい。

「では、その宝箱の中身をとったのもおまえたちか?」
「そうだと言ったら?」
「……おまえは正直者だな。よろしい、どうせわたしには用のないもの……おまえたちにくれてやろう。…………では」

そう言ったかと思うと、幽霊はスッと姿を消した。

「な、大丈夫だったろ」
「大丈夫っていうか……どうせくれてやろうって言うんなら出てこないで欲しかったですよ」
「ははは!史香の言うとおりだな!」

大笑いしてるけどノヤ先輩、ほんとツワモノだよ。
全部受け答えしてくれたから助かったけど。
ていうか幽霊出てくるのなんて忘れてた。

「じゃ、もうここには用もないだろうし、キャプテン達と合流しに行くか。そろそろ時間的にもいい感じだろ?」
「はい!とりあえず戻りましょうか」






待ち合わせに指定した場所に戻ると、主将とツッキーは既にその場所に居た。
どうやら少し前に来て待っていたようだ。

「おう、首尾はどうだ?」
「ピラミッドのヒントは得てきましたよ!そんでもってコレ!史香の着けてる腕輪!」
「もしかしてほしふる腕輪?」
「ツッキーご名答!これ、素早さが格段に上がる腕輪なんですよ。折角なので着けさせてもらいました」
「中々凄いものを手に入れたんだな。こっちは薬草の大量購入と、小さなメダルを手に入れた」
「特に新しい情報はなかったけどね。ピラミッドに魔法の鍵があるっていう話はもう既知の事だったし……ああ、井戸の中とかも探ってきたよ」

まさか井戸の中まで探ってきたとは。
きっと中に降りたのは主将なんだろう……とは思うけど、もしかしてツッキーが行ってきたのかな。
それだったら意外だわ。

「そしたらイシスにはもう用はないな?このままピラミッドへ向かうが、問題ないか?」
「僕は大丈夫です」
「俺も大丈夫ッス!」
「私も。頑張って魔法の鍵と黄金の爪を手に入れましょうね!」








ピラミッドはイシスからしばらく北へと歩いた場所にある。
エジプトにある本物のピラミッドもこんな感じなのかな、と思いつつ、主将を先頭に中へと入った。

ピラミッド内部には砂漠の敵に加えてマミーやミイラおとこなど、厄介な敵が多い。
慎重に進んでいかなければ、というところで主将の姿が一瞬にして消えた。

「うわっ!!」
「「「あっ」」」

落とし穴に落とされたのである。

「おい、俺達も行くぞ!」
「はい!」

流石にここで逸れるのはマズイ。
そう判断したノヤ先輩が、私とツッキーを引っ張りつつみんなで主将に続いて落とし穴から落ちた。

「大丈夫ですか、主将!」
「ああ、怪我はない。すまなかったな、巻き添え食らわせて」
「黄金の爪は地下にあったはずですから心配ないですよ。ねえツッキー、そうだったよね?」
「そうそう、落とし穴の存在は忘れてましたけど。なんなら先に黄金の爪取りに行きますか?」
「それを聞いて安心したよ。二人の言うとおり先に黄金の爪を取りに行くか。西谷の武器も更に強くなるならその方が助かるしな」
「おっしゃ、じゃあこのまま行きましょう!」

地下に落ちてから、体に流れている魔力が無くなった気分だ。
確か地下での呪文が使えなかったはず。
そう思ってメラを唱えてみた。
案の定炎は出ず、不発に終わった。
確信を得たところでみんなにそれを伝えると、より一層引き締まった表情になる。

呪文を使えないっていうのは敵も同じことだから然程心配はしてないのだけれど。
それでも黄金の爪を取った後って大量の敵に囲まれた覚えがあるから、心配しておくに越したことはないだろう。

階段のある場所を記憶から手繰り寄せつつ、先へと進んだ。


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