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一晩お世話になったお礼を丁重に告げ、おばあさんと別れて仲間と合流。

各自楽しい夜を過ごせた……の、かな。
明るい表情の人もいれば、目の下に綺麗なくまが出来ている人もいる。
軽く様子を伺ってみれば、山口は商人同士のバトルを繰り広げていたらしい。
ツッキーは山口に付き添っていたが、特に参戦はせずに傍観していたとか。
田中先輩と日向はベリーダンスの会場に行こうとしたところで例のバカ女に捕まったみたい。
それを聞いた瞬間、思わず三人でアイコンタクトをとってしまった。
チカちゃん先輩も、影山も田中先輩を哀れに思ったに違いない。
しかしよく田中先輩ってわかったな、と思いながらもう少し掘り下げて聞いてみれば、日向が『あなた可愛いわねぇえ〜!』といって捕まったのがきっかけだったそうな。
ということは日向も犠牲になった、と。
ご愁傷様です。

主将とスガ先輩、旭さん、ノヤ先輩は美味しい食事を満喫出来たみたい。
ベリーダンスなんて観に行こうとするから罰が当たったんだな、田中先輩と日向は。
まあ日向は巻き添えくらったんだろうけど。

「よし、これで全員揃ったか?では軽く報告をしようか」

アッサラームの宿屋の待合室を借りて、今日の会議が始まった。

「じゃあまずは商人、山口から」
「あ、はい。俺とツッキーで買えそうなものは一通り揃えておきました。今配布していいですか?」
「ああ、頼む」

山口の後ろに置いてあった箱から、みんなへの装備が配布された。
魔法使いと賢者が装備できる魔導師の杖が売られていたらしく、影山と私はようやく杖を装備できることになった。
これで見た目も魔法が使えます!って感じになったから嬉しい。
僧侶はこれが装備できないらしく、チカちゃん先輩とスガ先輩はホーリーランスをもらっていた。
剣もカッコいいけど、槍が使えるのもカッコいいよね。


「この後会議が終わったらそれぞれ装備を変えておいてくださいね。そして不要になったものはこの箱の中に。後で売りに行きますから」


その後の山口の報告は、この町の商人はぼったくりが多かった、ということ。
もちろんゲーム経験者の彼らは値切りをしてきたらしいが、それでも高かったのでそんな店からは買わずに出てきたとのことだった。


「じゃあ森永から何か報告はあるか?」
「いえ、こちらは特にありません。お世話になったおばあさんと楽しく一晩を過ごさせて頂きました」
「そうか、それは何よりだ。それでは俺達からの報告だな。昨日食事をしていて耳に挟んだ話だが……この町を西に進むとイシスがあり、イシスの北にはピラミッドがある。そのピラミッドの中に魔法の鍵が眠っているという話だ」
「あ、すみません。それなら私に補足させてください」
「ああ、任せた」
「イシスではピラミッド攻略の話が聞けたと思います。それ以外は女王様が居るというだけで何のイベントもなかったはず……なので、その話を聞けたらピラミッドに向かうのが良いと思います。ピラミッドの中には魔法の鍵だけでなく、ノヤ先輩専用の強力な武器である黄金の爪もあります」
「黄金の爪……すげえな、それって何で俺専用なんだ?」
「黄金の爪だけじゃなく、爪関係の武器は元々武闘家専用なんですよ。もしかしたら盗賊が装備できるのもあったかもしれませんけど。だから私達の中で唯一の武闘家であるノヤ先輩専用の武器なんです」

そう伝えると、ノヤ先輩は嬉しそうな顔をしていた。
自分専用の武器って聞くとやっぱりそりゃ嬉しいもんだよね。


「そういえばイシス行く前に第二のすごろく場があるんだろ?」


口を挟んできたのは田中先輩。
さすが、自分の行きたい場所は忘れてなかったようだ。


「そうですね、つまり今回はイシス班とすごろく班に分かれることになります」


すごろくが早く終わればまたピラミッドで探索してもらってもいいと思う。
その頃にはきっとイシス班がピラミッドの仕掛けを解いている事だろう……あくまでも予測だが。


「では今回はどう分ける?」
「ええと、ピラミッドは呪文が使えない場所があるので……薬草を大量に購入し、今回は力のある方々が向かったほうが良いかと思われます」
「力があるっていうと……俺達は遠慮しといたほうが良さそうだね」
「そうですね、僧侶は呪文が使えないと何ていうか……まあ、足手纏いになりかねないですし」

スガ先輩とチカちゃん先輩は今回は辞退するようだ。
それに便乗するように影山も。


「と、なると俺の出番……あー!でもすごろく場に行きたいんだよなァ俺……!!」


意気揚々と手を上げたのは田中先輩だったが、彼はどうにもこうにもすごろく場へ行きたいらしい。
でも今回のピラミッドは呪文が使えないなら田中先輩と主将の力は必要だと思うんだよね。
そして黄金の爪当事者であるノヤ先輩。
それから……呪文が使えないと足手纏いとは解っていつつも、道案内の為に私、か。


「ピラミッドの構成って結構複雑じゃなかった?それだったら僕のスキルもあったほうがいいんじゃないの」
「あ、そうか。とうぞくのはなを使ってもらえれば進行も楽になるね。それにツッキーも結構体力、力があるし……田中先輩にはすごろく場に行ってもらって、主将とノヤ先輩とツッキーと私でピラミッド攻略に向かいますか」
「え、フミもピラミッド攻略行くの?」
「うん?山口行きたかった?」
「いや、そうじゃなくて。魔法が使えないなら危ないんじゃないのかなって」
「そうなんだけどさ、仕掛けを解いたりするには私が居た方が良かったかなって思ったんだ」


商人って以外と体力あったりするから、私の代わりに山口に行ってもらってもいいんだけど。
それか、ツッキーがこのピラミッドの内容を覚えていてくれれば他の人でも構わないんだが。


「史香は俺達が守るから、心配しなくていいぞ」
「ノヤっさん!かっけぇこと言うな!」


田中先輩に持て囃されて、ノヤ先輩はよせやい、なんて照れていた。
ていうかそんなスマートに守るって言われたらやっぱりドキッとくるじゃないですか!ノヤ先輩!!


「危ないと思ったら呪文が使える場所で引き返してくるよ、だから大丈夫!ありがとうね山口!」
「うん、それじゃあ無理しないでね」
「了解!」


結局決まったメンバーは、イシス班に主将とノヤ先輩とツッキーと私。
すごろく班に田中先輩と日向と山口と旭さん。
残留&自由探索メンバーに僧侶コンビと魔法使い。
僧侶の二人と魔法使いが残留なんて珍しいことだが、ピラミッドの特殊仕掛けがなければきっと誰かしら同行することになっただろう。
賢者とはいえ一人で呪文を担うのはキツイ。

山口から配布された装備品を装着し、それから皆で不用品を売りに行って。
それらが終わってからは別行動開始である。



「イシスへ行ったらまず薬草の大量購入と、情報収集ですね。子供の歌にヒントがあったと記憶しているので、子供中心に話を聞くことになると思います」
「じゃあそれは森永に任せたほうが良さそうだな。森永と西谷で行くか?子供受けが良さそうだし」
「俺はいいッスよー、確かに月島の仏頂面じゃ子供が逃げ出しかねないしな」
「西谷さん、一言余計ですよ」


そう言う顔が既に仏頂面だっていうのを本人は理解してないのだろうか。







イシスへ行くには砂漠を歩くことになる。
砂漠なんて人生で初体験だし、水も多めに用意しておかないと途中で干からびてしまいそうだ。
大量の水が入ったボトルは主将とノヤ先輩とツッキーが三人で担いでくれた。
私も持ちます、と言ったのだがやんわりと遠慮されたのだ。


砂漠に出現する敵は少々手ごわかったような記憶がある。
確か……


「おわ!なんかデカイカニみたいなのがいるぞ!」


ノヤ先輩が指差す先には、カニの群れが。
見た感じ5、6匹くらい居るだろうか。
そうだった、確かじごくのハサミとかいうヤツだったかな。
ぐんたいガニだったかな、名前はどっちか忘れてしまったがどちらにせよ守備力が半端なかった気がする。


「あいつら堅い上に守備力強化の呪文を唱えてくるので、ルカナンの重ねがけをします。そしたら攻撃を加えてください」
「重ねがけ?連続で使うってこと?」
「そう、立て続けに三回くらいやれば大丈夫だよね?」
「ああ、うん。確かそれくらいで守備力ゼロには出来たはずだね」


ツッキーもそう言ってくれたことだし、そろりそろりと近寄って、気づかれる前にまずはルカナンを一発。
流石に呪文をかけられて気づいたのか、カニ特有の横動きでこちらに向かってざかざかと走ってきた。


「来るぞ!皆気をつけろ!!」
「おう!」
「はーい」
「はい!」


三者三様の返事をし、向かってくるそれらに構える。
向かってくる間にも更にルカナンをお見舞いし、三人が攻撃を仕掛けたと同時にもう一発ルカナン。
三人が畳み掛けてる隙に、ラリホーを唱えると二匹程効果があったようでその場に崩れ落ちた。
呪文の効かなかった三匹を先に倒し、残りの二匹を寝ている内に倒す。
運よくスクルトを一回も唱えてこなかったから面倒にならなくて済んだ。


「おっし、全部やっつけた!」
「結構動きがすばしっこくて厄介だったな。森永の呪文がなかったらもっと苦戦してただろうな」
「そうッスね!守備力下げられたのは助かりましたね!」
「でもあんまり呪文使いすぎるとイシスに着くまでにMPなくなるんじゃないの?」
「うん、とりあえずカニ以外はそんなに呪文使わないつもり。MP持ってそうな敵と出会ったらマホトラもするし、大丈夫!」
「さすが自称ドラクエマニアだね」
「ホホホ!戦略に関しては任せてくださいませよ」
「はいはい」


高笑いする真似をすれば、ヤレヤレといった風に両手を広げるツッキー。
戦略といっても誰もが思いつくであろうことを言ってるだけだから威張れる事じゃないからね、そんな呆れた顔してるんだよね。
わかってますとも……!
ノヤ先輩や主将みたいに少しくらい持ち上げてくれたっていいじゃないか。
気分良く戦わせておくれよ。


しばらく進み続けるとまたカニの群れに出会ったので、今度は最初にマホトラでMPを奪いつつルカナンをかけまくって応戦した。
コツを掴んだのかどんどんと倒すスピードが上がっていく。
かえんムカデやだいおうガマ、わらいぶくろなどの敵も出現し、何度か戦闘を繰り返して。
大分慣れた頃、イシスの城へと到着した。






「ここが、イシスか……砂漠のど真ん中に建ってるだけあって、すげえデカイな」
「アリアハンやロマリアも大きかったけど、ここは更に大きいんだな」
「町並みも然ることながら、奥にあるお城の存在感というかなんというか……」
「早速情報収集と買出しと、二手に分かれますか?」


感動しているとひとり冷静なツッキーが次の行動を促す。


「ああ、そうだな。時間が惜しい。俺と月島も買出しが終わったら一応情報集めてみるよ」
「はい、じゃあ一時間目安にここに集合という形で大丈夫ですかね?」
「十分でしょ」
「では、ノヤ先輩。私達はあちらへ行きましょう」
「ああ、わかった!」
「そしたら俺達はまず道具屋だな」
「はい」


それぞれの目的がある方向へ、二手に分かれる。
私達はまず子供を捜すことが優先だ。
歩き出そうとしたその時、何かを思い出したようにツッキーが振り返った。


「ねえ、森永」
「ん?なにツッキー」
「僕の記憶だと、子供の歌が聞けるのってお城だったと思うんだけど」
「あれ?そうだっけ」
「多分。女王の隣の画面で見た気がする」
「じゃあ先に城へ情報収集に行けばいいんじゃねえのか?」
「そうですね、そうしましょうか」


ツッキーの情報を元に、とりあえずお城へと向かう事にした。


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