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「では、明日はロマリアへ行って王様に冠を返す班とノアニール復活班でよろしいですね」

最後の一言でそう締めれば、全員が頷く。
会議と言ってもこっちが一方的に行動や作戦を告げたりするだけだから、そんなに揉めることもなく円滑に行われる。
そのうちみんなのレベルが上がって、この世界の状況も把握できるようになれば各々やりたいことも出てくると思うが、まだその段階ではない。
とはいえバラバラな意見出されても困るから、主導権は手放さないつもりでいるけど。

こればかりは先輩だろうが後輩だろうが関係ない、ってね。





宿屋と違って、プライベートな時間が持てるルイーダの酒場の二階にある私達の寝所。
そのおかげで昨日はみんなゆっくり出来たようだ。
今までに比べて幾分スッキリした顔している人がちらほら。
まだこの世界に来てから四日目だけど、やはり違った環境っていうのは疲れを呼ぶもので。
少しでも疲れが取れやすい状況になるのは有難いことだ。


さてさて、本日行動を共にするのはこちらの方々。

主将、チカちゃん先輩、ツッキー。

ツッキーがとうぞくのはなを覚えたというので今回の探索に参加決定。

ロマリア組は日向、スガ先輩、田中先輩、山口。
そして影山、ノヤ先輩、旭さんの別働隊は相変わらず旭さんのレベル上げを頑張って頂くという事で。


早速各自出発し、私達はカザーブまでキメラの翼で飛び、そこからノアニールを目指して進んだ。

「正直最初にノアニールに寄るのって情報収集のためなんで、その先にある洞窟に行っちゃっていいですよね?」
「あー、確かに情報収集のためだけど……なんか冷めた考えだね」
「まさかチカちゃん先輩に冷めたヤツなんて言われるとは……!!ショックです」
「ヤツ、とは言ってないよ。でも早く先へ進むためにはそれでいいかもね」

苦笑をしながら最終的に賛同してくれたチカちゃん先輩。
ツッキーは言うまでもなく面倒そうな顔をしていることからさっさと行こうよって思っているのが伺えるし、主将は私の考えに任せてくれているのか口を挟むこともなく。
要は呪いをかけられた町の人々を呪いから解放してあげればいいんだから。
サクサク攻略してせめてダーマ神殿までは急いであげないと旭さんがいつまでたっても遊び人のままで可哀想だ。
着々とレベルが上がっているのを見ると、遊び人の割に真面目に戦って頑張っているようだが。
遊び人のままでも強いならもうそれでいいじゃん、なんて口が裂けても言えなかった。
私だったらいつまでも遊び人だなんて絶対嫌だからである。
自分の嫌なことを人に押し付けたらいけない。うん。

「で、その洞窟の場所の目星はついているのか?」
「ええと……ここがノアニールだから、確かこっちのほうだったと思うんですけど……」

預かっている地図を見ながら場所を確認すると、チカちゃん先輩が西の方だね、と補足をしてくれた。

「今回は月島の活躍に期待してるぞ」
「期待ってほどのモンじゃないと思いますけど……期待に応えられる程度にはがんばりますよ」

出来れば拾えるアイテムは取り残しのないようにしたい。
そんなわけで、今回からツッキーの洞窟探索の機会は多くなるのではないだろうか。
例え初回探索メンバーにならなくても後々赴いて回収する役割とか。



徐々に強くなっていく敵をなぎ払いつつ、ノアニール西の洞窟へと到着。
しかしこうも『洞窟です!』っていう丸わかりな入り口の造りは見ていて楽しい。
私達の世界にもこういうテーマパークとかあったら楽しそうなんだけどな。

「ここの最深部に夢見るルビーがあるんだったよね」
「そうですね、目標は夢見るルビーの入手です!みなさん頑張りましょう!」
「よし、では行こうか」
「とりあえず最初の階には二つほどお宝のニオイがしますよ」

早速スキルを使うツッキー。
なんとなくその方向もわかるようで、ツッキーが先頭になってダンジョンを進んでいく。

最初の宝箱には288Gが入っていた。
道具も有難いけど、モンスターを倒してもちまちまとしか入らないゴールドが宝箱によって簡単に手に入るのはより有難かった。

それからツッキーの鼻を頼りにどんどん進む。

「……あれ、これって回復の泉かな」
「あー、反対側に回らないと辿りつけないやつですね。回復した途端に敵に遭遇してHPもっていかれるの悔しくて、何度も往復した覚えがあります」
「子供みたい」
「うっさいツッキー!」
「あの泉で回復が出来るのか?万全に越したことはないし、回復しておいたほうがいいだろう」

レベル的には辛くもないダンジョンだが、万が一イレギュラーが起きたら困るので、主将の言うとおり全員回復しておくことにした。
四本の石の柱に囲まれた不思議な光の真ん中に立つと、あっという間にHP、MPが回復した。
ホイミとはまた違った感覚で、疲れも全て完全に癒された気分だ。

「凄いな、さっきまでの蓄積された疲れが嘘のようだ」
「さすがに自分達の世界にいたらこんな体験はできませんよね」
「ほんと……凄い以外に言い様がないや」

主将もツッキーもチカちゃん先輩もみんな感動したご様子。
全部のダンジョンに回復の泉があればいいのになー、と思う。

「では再び先に進みましょう!」

三人に声をかけ、またダンジョン探索へと戻る。
この洞窟で出てくる敵はマタンゴやバリイドドッグなど。
マタンゴは甘い息を吐いてくるから眠らされたら厄介だし、バリイドドッグはルカナンを使ってくるから守備力を下げられて面倒。
ルカナンをかけられたらすかさず私がスクルトを使い、甘い息に関しては無理やり息を止めて主将とツッキーの一撃で倒したり。
そんな戦い方も慣れてくればあっという間にケリがつく。


そうしてようやく辿りついた最深部。
たくさんの石の柱に囲まれ、ど真ん中にご丁寧に宝箱に入れられてあるのは目的である夢見るルビー。

宝箱を開けると、夢見るルビーの下に手紙が置いてあった。

「なんだそれ。森永、読み上げてもらえるか?」
「あ、わかりました」

主将に言われて全員にわかるようにその手紙の内容を読み上げた。

『お母様。先立つ不幸をお許しください。私達はエルフと人間。この世で許されぬ愛なら……せめて、天国で一緒になります。   アン』

「……なあ、ノアニールって何が原因で呪いをかけられたのか教えてもらえるか?」

遺書のような書置きだったことが気になったのか、主将が私達に問いかけた。
私とチカちゃん先輩とツッキーはドラクエ経験者だから理由がわかっているが、主将だけは何もわからずここまで来たのだ。
とりあえず呪いを解けばいいと、それだけを考えて。
なんか申し訳ないことをしてしまったかな、と思いつつ、ちゃんと説明をした。

「ノアニールが呪いを掛けられたのは、エルフの女王の娘と人間の男が夢見るルビーを持って駈け落ちしたからです。それで女王は怒ってしまって呪いをかけた……ってことだったと思います」
「なるほど、そういう理由だったんだな……ゲームの中の話とはいえ、嫌な気持ちになるもんだ」
「……そうですね、身近な出来事ではないですから。多分その二人はここで身投げをしたんだと思います」
「え、そうだったの?」
「確かそうだったと思うよ」

どうやらツッキーは知らなかったらしい。
知らなかったのか覚えてなかったのかは定かではないが。
とはいえ私もこれに関しては確かな記憶ではないので、曖昧な返事しか出来なかった。

「まあでも、女王が怒ってるのって娘が人間に誑かされたと思ってるからでしょ。早く夢見るルビーとその手紙を届けて、町の呪いを解いてあげようよ」
「そうですね、チカちゃん先輩の言うとおり、ここでの目的は果たせたわけだし。エルフの里に行って女王に会ってきましょう!ということで、みなさん私に掴まってください!」

三人が私の伸ばした腕に触れたのを確認し、リレミトを唱えた。
洞窟の入り口まで一瞬で戻ってきた私達は再び地図を広げ、それからエルフの里の場所を確認して直ちに向かう。


無事に女王に会うことができ、娘の誤解も解け、町の人々を目覚めさせてやれと重要アイテムの目覚めの粉をもらった。
そして通り過ぎてきたノアニールに戻ろうとした時、ひとつのミスを犯したことに気づいた。

「あのさあ、さっきノアニールに足を運んでおけばキメラの翼で行けたんじゃないの?」
「……気づいてしまったのかツッキー。そこは気づいてても黙ってて欲しかったよ」
「まあまあ、これも経験値と金稼ぎの機会が増えたと思えばいいじゃない」
「チカちゃん先輩は優しいなあ、誰かさんと違って!」
「僕は間違ったことは言ってないけどねえ」
「月島が間違ったことを言ってないのはわかったから、あんまり苛めたら森永が可哀想だろ」

可哀想って同情されるのもちょっと落ち込むんですよ、主将。
でもフォローしてくれてるんだよね、そんな主将とチカちゃん先輩の後ろに隠れつつ、ツッキーにあっかんべえとすると、フンって鼻で笑われた。


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