7話 遭遇しました
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引っ越し先は車で10分程度の場所だったが、自宅から学校までの距離は開いてしまった。
だがしかし。
イカルゴさん(敬意を表してさん付けで呼ぶことにした)の車には折り畳みの自転車が2台積んであり、それは私達の通学用に、と引っ越し祝いとしてプレゼントしてくれるんだそうだ。
そしてイカルゴさんは自転車屋さんだという事が判明した。

イカルゴさんは、とても話上手な人だった。
私も翔も、面白話で終始笑わせてもらった。
なのでトリックタワーの引っ越し屋さんが段ボールを家に運び込んでいる間も、何の退屈もせずに済んだわけである。

今度何かしらのお返しをしなければ、と思うには十分すぎる程のありがとうを貰っている。
ケーキとか作ったら喜んで貰えるだろうか。


全ての作業が完了し、引っ越し屋さんは引き上げ。
それからしばらくしてイカルゴさんも引き上げ。
私達の目の前には、すっからかんなダイニングキッチン。
段ボールはそれぞれ自室になるであろう部屋へと運び込んで貰ったので、ここには何もない。

ベッドはそのまま運んで貰ったから、寝る場所には困らない。
だが、食事と風呂がだな。
食事はどうにかなるとして、近所に銭湯とかあるのかな。

「近場のコンビニかファミレス行って、銭湯の情報収集でもする?」

「おお、第一のミッションだな!」

「……翔、楽しそうだね」

「だってさ、こんな綺麗なマンションに住めるなんて、テンション上がるじゃん!? 姉ちゃんは上がんないの?」

「そりゃ少しは上がってるよ。でも、色々な事がありすぎてキャパオーバー」

「なんかデジャヴ」

「でしょうね」

実際、このマンションに到着した時点でやべえと思ったわよ。
高層ではないけれど、横に広い。
十階建てだけど一階につき二部屋しかない。
ウチは二階の玄関から向かって左側の部屋。
更に、防音設備らしく、夜中に友達と騒ごうが気にしなくて済む。
そんな友達はまだいないけど。

「人間驚きすぎると逆にどうでも良くなる」

「それ、姉ちゃんだけだと思う」

「それでもいい。今は空腹を満たしたい……!」

「わかったよ、食べ物探しの旅に出掛けよう!」

腹の虫に急かされてるんだ、何かくれ! と。
ぐううう、と鳴った私のお腹は、翔への返事ということにしておく。

外に出ると、既に暗くなりかけていた。
腕時計を見れば、時刻は18:30を少し過ぎたところ。
引っ越しってこんなに早く終わるものなんだな、と思った所で、二部屋分ならこんなものかと思い直す。

翔と二人で薄暗い道を歩き、五分圏内にコンビニを発見し、それぞれ食料を調達してマンションへと戻る。
コンビニのバイトは銭湯は知らないとのことで、最初からスマホで調べれば良かったね、等と話をしていたところ、マンションの入り口に数人の人影があることに気付く。

「お?」

私達がその人影に気付く前に、向こうが先に気づいていたようだ。
その中の二人がこっちに来る……って、え!? シャルナークとフィンクス!?
何故こんなところで鉢合うんだ!

「一ノ瀬じゃねーか」

「こんなところで会うなんて、すごい偶然だねー。どうしたの?」

「え、あ、その、私達、このマンション……」

「え? もしかして引っ越し先ってここ?」

笑顔のシャルナークにしどろもどろになりながら答えつつ、引っ越したことを何故知ってるんだ、と思ったが、ヴェーゼ先生が言ったか聞いたか、の二択だな。

頷くと、二人の顔が驚いた表情になった。
ちなみに翔は後ろで固まっている模様。
肝心なときに使えない弟である。

っていうか、数人の人影ってさ。
あれ、旅団のお仲間の一部っすよね。
まさかとは思うけど……いや、思いたくないんだけど……。

「いやビックリした、俺達ここの住人なんだよね。これからご近所さんじゃん」

「誰かと思たら転入生か。何故ここにいるね」

二人の後ろから近付いてきたのはフェイタンだった。
この世界でも口元隠れてるのね……!

「フェイタン。そういや弟くんはフェイタンのクラスだっけ」

「そうよ、まだ話したことないけどね……おい、転入生。何黙てるか」

「お、俺!? いや、黙ってるっていうか……えーと、フェイタン?」

「何ね」

「よ、よろしく」

「「「何だそりゃ」」」

思わず入れたツッコミが、シャルナークとフィンクスと被ってしまったわ。
翔はフェイタンの事を知らない体で喋ったっぽいけど、何か違うよ……!

「翔、もっとしっかりしなよ……!」

「(シャルナークにしどろもどろになってる)姉ちゃんに言われることじゃなくない!?」

「ぐっ……!」

「ねえ、これから晩御飯なんだろ?」

「あっ、はい」

反射的に体がピシィ!! となると、翔が小声でそれみろ、と言ってきたので後で殴ろうと思います。

「今から団長の部屋で鍋やるんだけど、一緒においでよ」

「「団長?」」

「トレハン部の部長なんだけど、トレハン部って別名幻影旅団って呼ばれててさ。だから団長の方がカッコいいんじゃない? ってことで団長」

「おーい、団長! こいつら昨日からの転入生なんだが、誘ってもいいよな?」

フィンクスが団長……もとい、クロロに確認を取ると、問題ないという有難いお返事が返ってきた。
結局ここでも旅団は旅団なのか、と思っていると。

「OK出たね。ささと行くよ」

「ほらほら、行くよ!」

「歩け歩け!」

フェイタンはフイッと踵を返して行ってしまい、シャルナークとフィンクスは私達の後ろに回って背中を押す。

うわー!! 推しに背中を押されてる!!
嬉しいけど、感情がついていかない!

誰か助けて!!

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