6話 引っ越ししました
bookmark


「モラウ叔父さん?」

『おう、元気にしてるか? お前らのかーちゃんには困ったもんだな……明日、マンションに来るんだろ?』

「あー、そうそう。叔父さんにもご迷惑おかけします……」

『俺はまあ、突然の事に驚きはしたが……大変だな、お前ら』

「ビックリとしか言いようがないよね」

元々の私がモラウ叔父さんに対してどんな喋り方をしていたかなんて、わからない。
だから普通にしてみたのだが、不正解では無かったようだ。良かった。

『とりあえず自分達の部屋だけやっとけば、後はお前らが学校行ってる時にでも適当に運んどいてやるよ』

「ほんとに!? それ、丁度どうしようかと悩んでいたところだったんだ。ありがたや〜。あ、でも叔父さん仕事じゃないの?」

『手伝い呼ぶから気にすんな』

なるほど。
モラウ叔父さんも金には困ってない、と。
マンション経営してるくらいだから、最初からそんなことは思ってなかったけど……あ、金で手伝いを呼ぶとも限らないか。


「じゃあ、お言葉に甘えてお願い致します〜」

『おうおう、任せとけよ! それにしてもナオはしっかりしてんな。明日、俺は仕事で行けないんだが、代わりのヤツを寄越すからな』

「そうかなー? えへへ……わかった、有難うモラウ叔父さん」

じゃあな、と耳に残った渋い声。
めっちゃ頼りになるわ、モラウ叔父さん。
それにしても、えへへとか言ってしまった自分キモい。
体は若いけど一度は老衰してんのよ。中身は婆なのよ。
いや、曲がりなりにも転生したわけだし、学生なんだから、もう吹っ切ればいいのかな。

私は若い! ピチピチだ!

よし。




階段を降りて、待っていた翔にモラウ叔父さんとの会話をそのまま話すと、翔も叔父さん頼りになるわ、と喜んでいた。

「とりあえず叔父さんのおかげでなんとかなりそうだし、そろそろ夕飯食べたいよね。ピザでも取る?」

「あー、今から作るのは気持ちも体もしんどいよな。俺はピザ好きだから嬉しい!」

「じゃ、そうしよっか」

電話横のチラシ置き場からピザ屋のチラシを抜き取り、二人であれがいいこれがいいと話しながら注文を決める。

30分ジャストでピザが到着し、その後は荷造りの仕上げをしてから寝ることにした。






次の日。
14時になり、引っ越し業者がやってきた。
チャイムと同時に玄関のドアをあければ、三人の……囚人?

「こんにちは、トリックタワーの引っ越し屋さんです」

「「…………」」

「早速ですが、運び込む荷物を……どうかしましたか?」

囚人服のような制服を着た、三人の引っ越し屋さん。
名札に目をやれば、それぞれベンドット、セドカン、マジタニと書いてある。 
私も翔も固まっているので、ベンドットが不思議そうな顔で声を掛けてきたけれども。

「……その制服は」

「あ、これですか?俺達は囚人みたいで嫌なんですがね、リッポー社長の趣味でして」

「「リッポー社長」」

「ご存知ですか?」

「「いいえ全く」」

「?」

ベンドットだけじゃなく、セドカンもマジタニも不思議そうな顔をしながら、作業に取り掛かる。
この世界では全うな仕事をしてるんですね、なんて口が裂けても言えない。

しかしベンドットとマジタニはわかるけど、セドカンは引っ越し業者は向いてなさそうだよ。等と思いながら作業光景を見ていたら、意外や意外、テキパキと指示を出していたのはセドカンだった。

「ジョネスじゃなかっただけマシかもね」

「あ、それ俺も思った。あの顔が居たら心臓抜かれるとか思うよなぁ」

「結局心臓抜かれたのはジョネスの方だったけどね」

「確かに」

「ジョネス関係ないけど、セドカンてよく見たら可愛くない?」

「男の俺にそれ聞く……?」

「キャラとして見たら男でも可愛く見えないかな、って」

「漫画読んでた時だったらまだしも、現実に存在しちゃってるからなあ……可愛くは見えねーわ」

「そうか。私はそれでも可愛く見えるわ」

「そうか。どうでもいいわ」

どうでも良くて悪かったな。
可愛いじゃん、セドカン。
あの胡散臭いところが好きだったよ。


荷物の運び込みをしている間は何もすることがないので、常温保存の出来る食材を段ボールに纏めていた時。

「よう、順調に進んでるみたいだな」

翔と同時に声のした方を振り向けば。

「「タコ?」」

「誰がタコだ!! モラウから連絡貰って手伝いに来たっつーのに。失礼な奴らだな」

「あ、えーっと、イカルゴさん? ですか?」

「オウ、ちゃんと知ってるじゃねえか」

ああー! そうだそうだ、イカルゴだ。
顔、ってか全身? のフォルムはわかってたんだけど翔が言わなかったら名前が出てこなかったわ。
イカルゴって、仲間想いのキャラじゃなかったっけ。
モラウ叔父さんとどう知り合いなのか想像もつかないけど、断れずに手伝いに来てくれたのかもしれない。

「お忙しいところ、有難うございます。今日はよろしくお願いします」

「あ、よろしくお願いします!」

「おお、頼りにしてくれ!」

お辞儀をすると翔も続き、イカルゴは嬉しそうに笑った。
タコ呼ばわりして申し訳ない。
確実にタコ顔だけど、めっちゃいい人っぽい。


トラックへの運び込みも終わって、次はマンションへと移動する。
イカルゴが車で連れてってくれるようだ。
電車で行く距離でもないし、かといって学校まで歩きだったから自転車は持ってないし。
どうやって行けばいいのかと思っていたけれど、モラウ叔父さんはそこまでちゃんと考えて、イカルゴを呼んでくれたのだろう。

なんて人間が出来た人なんだ。

prev|next

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -