3話 食堂に行きました今日は午前授業だったらしい。
午前中だけで帰れる日なんてあったかね、学生だったのは数十年以上も前だったから忘れてしまった。
現代の学生事情もわからない上に異世界だし、余計にわかるわけがない。
午前授業だったということは、このまま家に帰ればいいんだけど。
せっかくだから学園探索したいなあ。
でもお昼持ってきてないし、学食とか開いてるかな? 来る途中にコンビニとかあったっけ?
そんな事を考えていたら、急に推しが振り返ったものだから心臓が飛び出るかと思った。
「ねえ、一ノ瀬さんは部活に入る予定あるの?」
「え、部活? ですか?」
「オメーなんで敬語なんだよ」
今度は右側の眉なしがガン垂れながら言う。
「いや、突然話しかけられたからビックリして……ごめん」
そう謝ると、二人はああ……っていう顔をした。
あっ! ぼっちだったからじゃねーよ!?
誤解されてる気がするけど、自分が悪いので言い訳はするまい。
「そういや自己紹介してなかったね。俺はシャルナーク、こっちの眉なしがフィンクス。席も近いことだし、仲良くしてくれたら嬉しいな」
「こ、こちらこそ。えと、シャルナークにフィンクスね。宜しくお願いシマス」
「で、部活。どお?」
「どお? って言われても、まだどんな部活があるかとかわからないしなあ……」
首かしげて問いかけるの禁止……! 鼻血出そう。
普通に返せてるのが奇跡だよ。
「俺達の部活入れよ、歓迎するぜ」
「二人は何の部活に入ってるの?」
「俺達はトレジャーハンター部だ」
「トレジャーハンター部?」
「うん。要するにお宝探しだよね。遠征したりもするよ」
「遠征……」
つまり、シャルナークと一緒に旅行ってこと!?
そ、それはオイシイけど精神的に耐えられなそう……。
「もうどっか行っちまったけど、もう一人同じクラスにウボォーギンてのがいて、そいつもトレハン部仲間なんだ」
ウボォーギンも同じってことは旅団員がみんな同じ部活なのかな。
てか、フィンクス割と面倒見良いな。歓迎するとも言ってくれたし。
シャルナークと同じ部活ってのは有難いお誘いだけど、推しと一緒! の魅惑的誘い文句で決めたら後々大変な思いするかもしれないし、トレジャーハンターとか聞くだけで大変そうな感じがするし。
「誘ってもらえて嬉しいんだけど、学園探索して色々見てから決めることにするよ。ありがとう」
「そっか。俺達も強くは言わないけど、いつでも歓迎してるってことは覚えておいてね」
きゅーんと心臓が縮まる音がした!!
私の推しが眩しい!!
「ねーえちゃーん!」
「ん、誰だあいつは」
「タイの色からして1年じゃない?」
「あっ」
聞き覚えのある声がして、その方向に目をやると思った通り翔の姿があった。
「私の弟だ。迎えに来たのかな……シャルナーク、フィンクス、今日はありがとう。また明日ね!」
「うん、またねー」
「おう、明日な」
鞄を取って、翔の方に向かう。
ちゃんと普通に笑えてたかな。ひきつった笑顔じゃなかったかな。
変なヤツって思われてなければいいけど。
「迎えに来てくれたの?」
「そう! 学食開いてるみたいだからさ、お昼食って学園探索しようよ」
「いいね、私も探索したいと思ってたし。行こう」
翔の鞄から学園案内図を出そうと漁っていると、翔が顔を近づけて小声で話し掛けてきた。
「なぁ、あれってシャルナークとフィンクスでしょ?姉ちゃんクラスメイトなんだね」
それここで言う?
平和な普通の世界かもしれないけど、失礼ながらあの人達地獄耳っぽいし、早くこの場を離れよう。
返事をする前に学園案内図を引っ張り出し、学食の場所を確認してから歩き出した。
慌てて後を付いてくる翔は、やっぱり昔の記憶にある弟そのものだった。
「シカト!? 酷くない?」
「あのまま喋ってて万が一聞こえちゃったらマズイでしょーが」
「あ、そういう。ごめんごめんめんご……ってぇ!」
最後の一言にイラッとしたので足を踏んでおいた。
「とりあえず学食で話すよ」
「へぇい……」
学園全体が広いせいか、学食も相当な広さだ。
教室5、6個分くらいはありそう。
食事をしている人はまちまちで、午後の授業がある日だったらもっとごちゃごちゃしているんだろうなと思う。
食券機は4つも並んでいる。
適当な場所を選び、醤油ラーメンの食券を買った。
翔の分はカツ丼セット。
「姉ちゃん、俺の好物覚えていてくれてたんだ」
「当たり前でしょ。命日には毎年カツ丼をお供えしてたからね」
「マジか」
「月命日には豆大福」
「……ありがてえな」
死んでからこの世界にいるのだから、お供えした所で届いてもいなかったんだろうけど、それでも翔は嬉しそうにはにかんでいた。
私の命日にはラーメンをお供えされるんだろうか。
流石にラーメンは無いか。
二人分の食券をカウンターに持っていくと、キツネ顔のおばちゃんが受け取ってくれた。
「出来たらあっちから渡すからね!」
あっち、と指を差したのは同じくキツネ顔で、刺青が入ったような……女の人?
厨房の奥を見ると、キツネ顔が更に二人。
「キリコ?」
「やっぱり?」
確認するように翔だけに聞こえるように呟くと、同意が返ってきた。
キリコ一家が学食で働いているのか。
他にも何人かいるけど、その人達は普通の人っぽい。
出来上がった醤油ラーメンとカツ丼セットを受け取り、人が少ない場所を見つけて座る。
ここならよほど大声を出さない限り、話は聞こえないだろう。
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