42話 黄金遺跡、探索開始です
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遺跡内部。
黄金遺跡という名だけあって、全てが黄金……というわけではない。
地下に下りていくタイプの遺跡で、最初の階はがらんとした空洞が広がっているだけ。
周りは白い壁が続いているけれど、明かりはないので薄暗い。

奥の方にうっすらと階段が見えるので、そこを下りたら本格的に遺跡って感じになるのかな。
皆颯爽と歩いて行くので、遅れずに付いていく。

「……、」

「ん?」

「ナオ、どうしたの?」

「今、誰か何か言わなかった?」

「誰も言ってないと思うけど……団長かフェイタン、何か言った?」

「俺は言ってない」

「ワタシも言てないね。だが何か聞こえた気はするよ」

「……ふむ? 少し静かにしてみてくれ」

「「「……」」」

「……ィ、…………て!」

「「「「!」」」」

今度は全員の耳がその声を拾ったようで、弾けるように顔を上げた。

「確かに聞こえた。下からか?」

「だろうね。団長、商人が入っていくのを見たって言ってたよね? その可能性高いんじゃない」

「その商人が何者かに襲われてるってこと?」

「んー、多分、としか言えないけど」

「行けばわかるね」

そう言いながら階段へと駆け出したフェイタン。
クロロとシャルナークも動いたので、私も慌てて走ったのだが。

「えっ」

「ナオ!」

突然足元に穴が開き、重力に引っ張られた体が落下を始める。
いち早く気づいたシャルが伸ばしてくれた手は、届かない。

お、落ちる……!

「きゃあああああああああ…………あ?」

ピシュ、と、腕に何かが刺さったと思うと、背中から落ちていた体の向きが縦になり、それからくるくると回って華麗に着地。
ダン、という音は自分の足から。

「〜〜〜じっ、ジンジンするぅ……!」

無事に着地できたのは喜ばしいが、その衝撃は結構なものだった。
そんな私の横に降り立ったのは涼しい顔をしたシャルナーク。

「ナオ、大丈夫?」

私の腕に刺さっていたものを抜き取り、自分のポケットに仕舞う。
……刺さったのはシャルのアンテナだったのか。
おかげで助かった。

「うん、一応大丈夫。ありがとう」

「ああああああああんたら、後ろ! 後ろ!」

「「ん?」」

後ろを振り向くと、ドン、ドン、という音がして。

「ナオ、何落ちてるか」

「驚かすなよ」

後から落ちてきたフェイタンとクロロに、後ろの何かは潰されていた。
なんだろこれ、機械……ロボット?

「キリングドールを一発で……あんたら一体何者なんだい?」

「キリングドール?」

「あんたが踏みつぶしたそれ。ドール系の魔物だよ」

フェイタンの足元を指差しながら、さっきから話しかけてくるのは商人風の男……この人、クロロが言ってた人かな。

「あそこの穴から落ちてきた人間を排除する役割をもつ魔物さ。今日はちょっと気が抜けてたもんで、うっかり落ちてしまったんだ。あんたらが来てくれて助かったよ。危うく死ぬところだった」

上を見ると、穴はもう塞がっている。
一定の時間が経つと塞がる仕様になっているようだ。
しかし、罠があるところってオーラが見えるって、フェイタンが言ってなかったっけ?
稀に見えないところもあるって言ってたかな。
その稀が今回だったわけだ。

「しかしうっかりで落ちて死ぬんじゃ、たまったもんじゃないよね。良かったね、ナオが落ちてきて」

「ああ、そのお嬢さんが落ちてこなければ私はどうなっていたことか……これ、助けてくれたお礼さ。受け取ってくれ」

言いながら商人は一枚のカードを差し出してきた。

「え、あ、助けたの私じゃないんだけど……」

「いいんだよ、受け取っておきな」

「シャルがそう言うなら……有難う御座います」

「それじゃあ、今回は私は帰ることにするよ。この先も罠があったりするから、気を付けて行きなさいね」

キリングドールを倒せば開く設定になっているのか、部屋に設置されている扉を開けて、商人は階段を上がっていった。

「これもイベントだったっぽいね。それ多分、指定ポケットカードでしょ」

「んー? うん、NO.10 黄金るるぶって書いてある」

「じゃあオレが保管しておけばいい? 団長」

「ああ、任せた。に、しても、ここに落ちなかったらそれは手に入らなかった可能性が高いな。ナオ、お手柄だ」

「良くやたね」

褒められてるけど落とし穴に落ちて褒められる……複雑な気分だ。
でも旅団のみんなだったらきっと落とし穴なんかに落ちなかったし! そうなればこのカードはいつまで経っても入手されなかったかもしれないし! グッジョブ私! 前向きに行くぞ。

……あれ、そういえば、カードを入手すると現実世界に戻るとかなんとか言ってなかったっけ。

「ねえ、指定ポケットカードを入手したのに、現実には戻らないんだね?」

「こういう遺跡とか洞窟とか、塔とか、そういった建物関係で入手できるカードは複数あったりするから、そういう時は全て入手しきった時にクリア扱いになるかな」

「ああ、そういう事か。確かにこれからまだ入手したいカードがあって、途中で帰されるのも面倒だもんね」

「というわけで、この遺跡にはまだまだ用があるわけだ。今日中に進めるところまで進んでしまおう」

「強い敵がいるといいね……踏んで終わりじゃつまらないよ」

踏んで終わりでいいじゃないか。
簡単に進めて、簡単にカードが入手できるならそれに越したことはないだろう。
だが、まあ、そう簡単にいくならばゲームクリアまでに時間はかからないわけで。

遺跡をどんどん進んでいくうちに、先程のキリングドールはもちろんのこと、レイスやポイズンスライム、ポイズンクラウドなどなど。
たくさんの魔物たちが侵入者を迎え撃つ仕組みになっていた。

もちろん全て一撃で終わっているし、私はまた罠に引っかかった時のために、と、必ず誰か一人に引っ張られていたので何もすることがなかったけれど。




地下九階まで来たところで、内部の雰囲気がガラリと変わる。
それまで白一択だった壁の色が、黄金に変化したのである。

九階の入り口から十階へと続く道は、細い一本の道。
細いと言っても今までと比べてっていう意味で、横に五人は並べる。
道の両脇には黄金の鎧騎士が等間隔に十体ずつ並んでいる。

「普通に考えたら、これと戦うよね」

「普通に考えたらね。でもただの置き物の可能性もあるし。とりあえず進もう」

進もうと言いつつ、既に足は進んでいる、っていうか雰囲気が変わったところで止まることはない。

「九階でこれということは次はボス部屋か。ハー、少しは手応えが欲しいね」

確かにね、ここまですんなり来ちゃったもんね。
順調も順調だよ。
遺跡っていうから今日中にクリアならないかなーとか考えていた私が間違っていた。
余裕で夕飯の時間までには帰れそうだよ。
十階で終われば、の話だけど。

そうやって話しながら歩いて行くうちに、後ろからガシャン、ガシャン、という音が聞こえる。
やっぱりそうよね、ただの置き物なわけないよねぇ。

ゆっくりと振り向けば、通って来た場所全ての黄金鎧騎士が動き出していた。
……が、攻撃してくる様子はなさそうで。

私たちが足を止めると、黄金鎧騎士もピタリと止まる。
一歩進むと、今度は前方の鎧騎士も動き出す。

「あー……これ、パズル方式かぁ。面倒だな」

「パズル方式?」

「こっちの動き次第で、入口を塞がれるやつ」

私たちが右に動くと相手は後ろに下がる、とか、そういう法則性のあるやつかな?

「シャルは得意だろ」

「得意ってほどでもないけど。これ解くなら、俺は傍観者のほうがやりやすいんだよなあ」

「なら十階には俺とフェイタンとナオで行こう」

「んー……仕方ない。じゃあ、ナオを任せたよ」

「ああ」

言うや否や、シャルナークは飛び上がり、支柱の出っ張り部分へと乗る。

え、ちょっと待って。
この先シャル無しで進むってこと?
……いつもシャルが面倒見ててくれたっていうこともある所為か、些か不安なんですけど。
いや、ほら、フェイタンは戦闘に入るとそんなに気にしてくれなさそうじゃない?
クロロはまだ見ててくれるかも、だけど……うーん、大丈夫かなあ。
万が一何かあったら一か月夕飯抜きにすればいいか……ここで死んでも現実では生きてるわけだし。

「ナオ、何か失礼なこと考えてないか」

「え、か、考えてませんけど」

「…………ま、いいよ。ちゃんと付いてくるね」

ジロリと睨み、フェイタンは私の手を引っ張った。
焦ったよ、考えてる事バレてるかと思ったわ。
引っ張ってってくれるなら助かります、よろしくお願いします。

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