41話 黄金遺跡に入ります
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再び教会へ戻ると、一度帰ってきたがまた馬車へと荷物を届けるために外へ出た、と伝えられ。
馬車に戻ってみれば、キャソック姿の男性が大声で叱られている姿が見えた。
髪色とか、右手の甲の怪我とか、見なくてもあれがヨハンさんだって一発でわかるわ。

「おお! お嬢さん! 戻って来たのか!!」

思わずスルーしたくなるような相変わらずの大声で、馬車の男性が声を掛けてくる。

「無事に見つかったんですね、良かったです」

「探してくれてたんだよな!? 有難うなあ! この馬鹿は後でこってり絞ってやるとして……俺ぁそろそろ荷物を届けにいかにゃあならんのだ! 探してきてもらったお礼は何がいいかなァ……ああ、そうだ! 黄金遺跡への通行証は持っているかい!?」

後でこってり絞ってやるとして、の段階でヨハンさんがこちらをチラチラ見ていたけれど、助けてくれ、の意なんだろうか。
自分が悪いんじゃん、寄り道しまくってたんだから……いくらゲームのキャラクターでも自業自得……いや待てよ、これは助けておいた方が何かあったりするのかしら。
一応助ける方向で言ってみるか。

「黄金遺跡への通行証ですか? 持ってないです。通行証がないと入れないんですか?」

「そうそう! 通行証を発行するにはちぃと時間がかかるんだが……ホレ! この紹介状を入口の受付に持っていけば、即座に発行してもらえるぞ! これがお礼になればいいが!」

「十分ですよ、有難う御座います! ……で、あのぅ……ヨハンさんも、先程あなたに怒られて反省しているようですので……これで許してやってはいかがでしょうか」

「!」

「……しゃあねえな、このお嬢さんに免じて許してやるよ! そら、とっとと帰んな!」

ヨハンさんはビックリしたような顔でこちらを見て。
馬車の男性は一瞬ハァ? というような表情になったので焦ったが、どうやら許してくれるようなので安心した。
シッシッ、と追い払われるような仕草をやられ、ヨハンさんはペコリとお辞儀をして帰って行った。

……帰って行った?

オイイイイ何もないんかいいいい!

「ブフッ」

笑うなシャルナーク!!
庇い損か! いや、まあ庇い損てこともないけど……まあいいか。

「ところで、この街には遺跡っぽいものは見当たらなかったんですが……どこにあるんですかね?」

「それじゃあ、俺は行くぜ! 世話んなったな!」

「え」

…………。

颯爽と馬車に乗り込み、馬を走らせ。
ドドドドド、という勢いで私たちの前から居なくなってしまった馬車の男性。

「え?」

思わずそちらの方向を指差しながらシャルに振り返ると、シャルは腹を抱えて笑っていた。

「アーッハッハッハ! アハハハハ!!」

「おい! こら! 何で笑ってんのよ!」

「だって、ナオの顔……ブフッフ! アッハッハ!」

「だって紹介状くれたんだから場所も教えてくれると思うじゃん! ヨハンさんといい、なにこの肩透かし感!」

「まあまあ、実際ゲームなんてこんなもんでしょ。紹介状貰えただけでもいい収穫だと思うよ。場所はホラ、クロロかフェイタンが情報入手してるかもしれないしさ、そろそろ一時間も経つ頃だし。集合場所に戻ってみようよ」

「はぁ……わかりました」

ニヤニヤしながら、口元に手を当てて喋るシャルナークに腹が立つので、背中に鉄拳制裁しておく。
私ごときの鉄拳じゃあ痛くも何ともないんだろうけど、少しはスッキリしたよ。


そうして集合場所に戻ると、クロロとフェイタンは既に待機していて。

「そろそろ飯にしよう。飯がてら情報交換でいいな?」

確かにお腹も減ってきたなぁ。
クロロの言葉に皆が頷き、近くの定食屋に行く事になった。
ゲーム内で食事をしても満腹感が得られるって凄いよね。

空いている席に適当に座り、各々食べたいものを注文し、それから話し合いが始まる。

「二人は何か情報は入手できたか?」

「うん、情報クエストひとつこなしてきたよ」

「黄金遺跡の通行証を貰うための紹介状を貰ってきた」

シャルに続いて結果を伝えると、フェイタンが微妙な顔をする。

「デカイ声が聞こえてきたと思たが、それか?」

「それですね」

「相当うるさかたね」

「私のせいではございません」

うるさかったのは私ではないので、そんなことを言われても、である。

「で、団長とフェイタンは?」

「俺は遺跡の場所が分かったくらいかな」

「ワタシも情報クエストひとつね。カードを50枚集めると何か起こる言われたよ」

「カードを50枚……初耳だね。40枚集まった時もそうだったけど、今度は何が起こるのかな」

「早く50枚に到達したいものだな」

「で、黄金遺跡の場所ってどこだったの?」

教えてもらえなかった情報は気になるというもの。
隣でニヤついているシャルは無視だ、無視。

「この街の最奥に小さな建物があるんだが……一見普通の小屋だが、そこが遺跡への入り口らしい」

「一見普通の小屋っていうなら、見ただけじゃわからなかったね。クロロはどうしてわかったの?」

「通行証を持った商人が入っていくのをたまたま見かけてな。もしやと思って小屋の中へ入ってみたんだ、まあ、通行証が無かったから入れなかったんだが……それもナオとシャルナークが解決してくれたし、飯が終わったら遺跡に入ってみるか?」

「だね、まだ時間もあるし、長そうだったら引き返せばいいしね」

「意義なしね」

「所謂下見ってこと?」

首を傾げて質問をすれば、クロロがそういう事、と返してくれた。





食事を終えて、街の最奥までやって来た。

「遺跡の中って戦闘とかあるのかな。今更ながら私、武器とか何もないんだけど」

「戦闘があるかどうかはわからないけど、武器いる? ナオは回復メインだし別に戦えなくてもいいんじゃない?」

「ナオに戦いが必要な状況になると思うか?」

「戦うのは俺達がやるから、ナオは後ろで見ていればいいぞ」

「なんか……うん。アリガトウゴザイマス」

戦いたいとは思ってないけど、いざという時とか不意打ちをくらったりとかさ。
うん。
不意打ちをくらえば武器を持っていたところで動けないだろうし、いざという時はきっと来ない。
いっか。
武器、無くても。

クロロを先頭に中へ入ると、奥には扉があって、その前には鉄格子。
そしてその前に、受付カウンターがぽつりと置いてある。
……人、いないのかな? 姿が見えないけれども。

「黄金遺跡に入るのです?」

「ああ。通行証はないが、紹介状を持ってきた」

……ん?

どこからともなく声が聞こえ、そしてクロロは普通に対応している。
誰と話しているんだ、と思っていると、カウンターの下からぴょこりと子供が飛び出てきた。

「わっ、ビックリした」

「驚かせてごめんなのです。紹介状、渡すのです」

「あ、はい」

子供っていうか幼女やんけ。
幼女が受付かあ、通行証を持ってないけど入りたいって人とかに襲われたりしないのかな。
凄く強いとか?
まあ、言ってしまえばゲームだから驚くことでもないか。
『ゲームだから』
面倒ごとはこれに限る。

「確かに、バシャールからの紹介状で間違いないのです。通行証を作るので5分待つのです」

そう言うと、幼女は目を閉じ、何かに集中し始めた。
しかしバシャールって。
馬車の男性の名前だろうけど、まんまだな。


待つこと5分。

「できたのです。全員、手を出してこのカードに触れるのです」

何もなかった所に、1枚のカードが出てきた。
黄金遺跡だからゴールドのカード。
わかりやすくていいわ。

言われるがままに手を出し、順番にそのカードに触れる。
一瞬ピリッときてビックリしたが、多分これが登録されたという証だろうな、と思う。

「これでこのカードはここにいる誰でも使えるようになったです。誰に渡すですか?」

「俺が預かろう」

「はいです。遺跡に入る時は、そこにカードを通すです。お気をつけて」

そこ、と目線を送ったのはセキュリティロックが掛かっているであろう機械部分。
お気を付けてって言うってことは何かあるって事だよね。
何もないとは思ってなかったけど……大した事ではありませんように。

カードを受け取ったクロロは、早速セキュリティを解除し。
ギギィ、と音を立てながら開いた格子状の扉の中へ、順番に入っていくことになった。

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