40話 北へ向かいました
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これで検証は終わりと思うじゃない?
違ったんだよ。
最後のひとつが残っていたんだ。
三人の目線交差はこれで終わりじゃねえよな? って意味合いが含まれていたんだ。

私自身の、自分が届かないところや毒や病気の検証ね。そんなのもありましたね。
怪我しないように守ってくれるんでしょ? って言ったんだよ。
でも万が一を考えて云々かんぬん、また正論で返されて、ぐぅの音も出なかったわ。

傷も嫌だし、瘴気で血を吐くのも嫌だったから消去法で毒にしたんだけれど。
これがまあ、また大失敗だったわな。
検証してたのが幻影旅団のメンバーってこと忘れてたんじゃないかな、私も大概バカだから。
シャルが意識を保っていられたから、私が意識を保っていられるっていう保証なんて無かったのにね。

毒に侵された瞬間にビキリと痛みが来て、割と早い段階で意識が朦朧としてきてさ。
そんな中でオーラを送れ、ってほっぺたベシベシ叩きながら指示されるわけよ。
ちなみにお相手はシャルだよ、シャルの治療の時に背中や頬を撫でていたのはクロロみたいに胸にいきそうになるのをめっちゃ我慢してくれたんだって。
だから一番我慢が利く、ってことで、シャルを選ばせて貰ったんだよ。
前世の推しっていうのもあるしね。
こんなことなら傷の方が全然良かったよ。
今更嘆いたところで時間は戻ってくれないけど。

…………結局、何が言いたいかってさ。

とても、気持ち良かったです。


…………

……




「どうなってんの、私のオーラ……ヤバいでしょこんなん……」
「でしょ!? 俺、よく我慢したと思わない?」
「思う。私もすっごい我慢したけど」
「俺の気持ちもわかってくれただろう?」
「ナオも結局は同じね」
「完全に我慢出来なかったクロロとフェイタンは黙って下さい」
「なぜだ……!」
「解せぬ」

なぜだ解せぬじゃねえ。
こっちが解せぬ。

いや本当にヤバいと思った。
自分が我慢出来たのは単に羞恥心の問題だけど、そんなもの無ければクロロとフェイタンの事を何も言えない状態になっていた。
寧ろシャルはこれをよく我慢してくれたと思う。

「ともあれ、これで検証は終わりになるわけだが……見た感じ大丈夫そうだが、ナオ自身、体に異変は感じたりしていないか?」
「あ、オーラのこと? 確かにたくさん放出したと思うけど、まだ底は見えてない気がするよ。体の毒も完全に抜けたし」
「じゃあ回復については相当期待できるってわけだ」
「期待出来てもあんまり回復したくないけどね」
「ま、なるべくワタシ達でそういう状況にならないようにしてやるよ」
「それはもう、はい。お約束の件もお願いします」

女の子達だったら回復するのはやぶさかでもないんだけど、女の子相手だとどういう反応になるのかな。
検証なんだから女の子が居ても良かったんじゃないかな……今更だけど。
どうせ効率重視っつって突っぱねられるのがオチか。

「ナオが動けるなら、この後予定通りに情報収集だね。どこに行く?」
「そうだな……まだ時間もたくさんあるし、初めての街に行ってみるか」

初めての街というと、知らない敵とか出てくるんじゃないかと思ったけど。
出たとしても回復も出来るし、このメンバーなら対応出来るだろということで、方面的には北に向かうことになった。

知っている敵が出てきた場合、対処法を知っているだけに通り魔のようにちょっかい出していくんだよね、この人達。
影が見えたと思ったらもう倒されているわけだ。
そのモンスター達のカードは既に入手済みだし、いらないということで完全放置で走り去るんだけど……私のバインダー、空っぽなんだよね。
フリーポケットなら入れてみたいな、って。
無論、交代で抱えられているので何も言えませんけど。

そうして一時間くらい経った頃。
新しい街、バルマイアへと足を踏み入れた。
何で街の名前がわかったかって?
割と大きな街みたいで、門番が居たんだよね。
NPCにお決まりの台詞、「ようこそ黄金の街バルマイアへ!」って言ってくれたからわかっただけのことだ。

「黄金の街って言っても……見た感じ、黄金ないよね?」

どこを見渡しても、黄金のおの字もないくらいに普通の街だ。
西部劇に出てきそうな街並みが続いている。

「だよね。おにーさん、何でここは黄金の街なの?」
「ようこそ黄金の街バルマイアへ!」
「あ、だめだこりゃ。融通利かないタイプのNPCだ」
「街に入て調べたらわかることね。団長、一度別れるか?」
「そうだな。一時間後にここに集合しよう」

そう言って解散しようとする三人。
あれ、もしかして私も一人で行くの? 不安しかないんだけど。
そう思っていたら、「ナオ、行くよ」とシャルナークに声を掛けられた。
お世話係と行くのが当たり前だから何も言われなかったのか。
安心した。

クロロは東寄りに、フェイタンは西寄りに進んで行ったので、私達はど真ん中を突き進む。
しばらく歩いていると、馬車の近くで大きい声を出している男の人がいた。

「困ったな〜、あぁ困った! どうしたらいいんだ〜!」

道行く人は知らんぷりで、誰も気にかけようとしない。
あれ、もしかしてイベントのひとつかな?

「声かけてみる?」
「かけた方がいい感じ?」
「助けたら何かしらの情報が貰える可能性が高いからね、ホラナオ、行って」
「なんで私」
「ゲームの進め方も覚えておいて損はないだろ? 何事も経験、経験」
「えー」

渋々ながらもシャルに背中を押されて、その男の人に近付く。

「あの、どうしたんですか?」
「おお! 心優しいお嬢さん! 聞いてくれるかい!?」

声でっけぇーな!
困ってたから大きい声を出していたんじゃなくて、素でデカイ声の持ち主だったか。

「実は今日中に運ばなきゃいけない荷物があるんだがね! その荷物がまだ届かないんだ! 教会の人間が持ってくるはずなんだが、中々来ないもんだから教会に行っても一時間前に出たという! 一体どこに行ってしまったんだ!!」
「これ、その人を探してくるクエストかな?」
「んー、どうだろ。人を連れてくる場合と、荷物だけあれば良いって場合と2パターンあるよ」
「了解。あのー、荷物が届けばいいんですか?」
「おお!? 探してきてくれるのかい!? しかし荷物だけではダメなんだ、教会の人間と一緒にチェックしなければいけないから!」
「人ごと連れてくればいいんですね、わかりました」
「ありがとう! 俺はここで待ってるからな!」

めちゃめちゃデカイ声で話続けていたのに、それでも周りを歩く人達は知らん顔だった。
完全にNPCばっかりってことか。

「とりあえず、教会行く?」
「おっ、ナオわかってるね。そうだね、まずは教会に行ってどんな人物が荷物を運んでいるか、聞き込みしよう」

教会の場所を確認するため、道行く人を捕まえては「教会どこですか」という質問を繰り返した。
六人目で当たり、教会は二つ裏の道にあるという事を教えてもらえた。

その教会に到着し、中にいた司祭様らしき人に尋ねる。

「すみません、ここから二つ隣の道に、馬車の男の人宛に荷物を運んだ方はいらっしゃいますか?」
「うん? あなた方はその方とはどういったご関係ですかな?」
「馬車の近くで困ってたんです。荷物が届かないって。だから、私達で探すのを手伝ってます」
「おお、そうでしたか。その者なら名をヨハンと言いますが……はて、ヨハンは大分前に教会を出たはず……それも馬車の商人に伝えましたが」
「一応その商人の男の人からも話は聞いてますが、戻ってきてないかと思いましてこちらに来てみました。ちなみに、ヨハンさんは何か身体的特徴はありますでしょうか?」
「ヨハンは赤茶色の髪の20代の男で、身長はそちらのお兄さんと貴女の真ん中くらいですかな。右手の甲を怪我しとります」
「ありがとうございます。後一つ、ヨハンさんがよく行く場所とかあったら教えて下さい」
「そうですのう……最近花屋の娘に入れ込んでおりまして」
「わかりました、お花屋さんに行ってみます。ありがとうございました!」
「いやいや、お役に立てたのなら何よりです。お気をつけて、あなた方に神の御加護があらんことを」

教会を出て、今度は花屋はどこかとキョロキョロしていると、シャルナークがこちらをじっと見ていることに気付いた。
そういや、教会で一言も喋ってなかったね?

「どうしたの?」
「いや、随分お見事だと思ってさ。ナオってそんな丁寧な話し方も出来るんだね」

一度社会人経験してますからね、なんて言えるわけがない。
曖昧に誤魔化すように、失礼だな! と背中を叩いておいた。

「そんなことよりお花屋さん探さなきゃ」
「花屋なら多分このまた裏かな。さっき裏から花束を持って出て来た人を見たよ」
「おおー、さすがシャルよく見てる!」

そしてお花屋に到着すると、

「ヨハンさんなら30分程話し込んでから、知り合いに声を掛けられて、本屋に同行するって言ってました」

本屋にて、

「ヨハンさん? 知人と酒場に行くって言ってたかなぁ」

酒場にて、

「あの人は聖職者だからな、真っ昼間から飲むわけないだろう。届け物をしてもらったんだ。今頃は教会に帰っているんじゃないかな?」

どうなってんだ、おい!
ヨハンさんは聖職者兼郵便屋さんなのかー!?

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