39話 引き続き検証します
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「もうやだ帰りたい」
「いやいやそれはダメでしょ。まだ傷の検証しか終わってないし」
「毒とか瘴気とかぶっつけ本番でいい帰りたい」
「対処法わかてないと困るね」
「シャルナークもフェイタンも人の気持ちが全くわかってない酷い信じらんない」
「あー、ナオ」
「何!」

前世トータル未経験でもないのに、ディープキスや胸を揉まれたくらいでぐちぐち言ってる自分もどうかと思うけど、それでもこれは酷いと思うのよ。
思わずクロロをギリッと睨んでも仕方ないと思うのよ。

「この検証が終わったら好きなところに連れてってやるから」

思ってもいなかった言葉に、涙がピタリと止まる。

「あ、ハイハイ! 俺も! 俺も連れてってあげる!」
「……ワタシもよ」

ここぞとばかりにシャルナーク、フェイタンは仕方なしにって感じだけれども、ご機嫌取りにシフトチェンジしてきよった。
それで涙が止まる私もどうなのよ。

「……例えば?」
「そうだな、ドレスコードで高級ディナーとかどうだ?」
「ケーキ食べ放題とかは?」
「蝋人形館……じゃなくて焼き肉食べ放題ね」
「プフッ、」

私の好きなところと言ったら食べ物ありきなんかな。
遊園地とか水族館とか出てこないんかな。
そんな事を思ったけど、いつもクールなみんながなんだか必死に思えて、ついつい笑ってしまった。

「……じゃあ、約束。クロロは高級ディナー、シャルナークはケーキ食べ放題、フェイタンは焼き肉食べ放題ね」
「ああ、わかった」
「もちろんだよ」
「行てやるね」
「あとひとつ、約束して。私の回復を受けた時に、その……気持ち良かった、っていうの……皆には言わないで欲しい」

そう言うと、三人はお互い顔を見合わせて、わかったと言ってくれた。
いざとなった時に怪我をして、回復して気持ち良いって事がバレるならまだしも、無駄に知っておいて欲しい情報ではないし。
恥ずかしいんだよ本当に。

「それなら、検証の続き、……やります」
「俺の時は気持ち良かったとしても我慢出来るように頑張るから」
「ワタシも我慢するね」
「おい。その言い方だと俺が我慢弱いみたいじゃないか」
「実際そうだから手を出しちゃったんでしょ」
「言える立場じゃないね」
「くっ」

クロロがこんな風に言い負かされているなんて、珍しい。
まあでも、回復能力検証組がこのメンバーで良かったかな。
シャルナークが推しなのはもちろん、クロロもフェイタンも好きなメンバー上位陣にいたし……ある意味ラッキーだったんじゃないの? いや、それは何か違うな。
でもでもでも、グリードアイランドって精神体で遊ぶゲームだもんね?
実際にキスしたり胸を揉まれたわけじゃないもんね!?

「そっか、そうだよね」
「うん? どうしたのナオ。何がそうだよね、なの」
「いや、グリードアイランドは精神体だから、実際の体は無事なんだよね、って事」
「ああ、そういう。そうだね、実際のナオの体は清いままだよ」
「清いって……そこまでアレだけどまあいいや、うん、多少吹っ切れたよ」
「単純で良かたね」
「フェイタン余計な事を言うんじゃない」

フェイタンとクロロのやり取りは聞こえなかったことにしておこう。

「ナオの機嫌が治ったところで、次は毒だな」

クロロの言葉に全員の視線がシャルナークに向く。

「毒ってどうやって受けるの?」
「ん〜、飲むのは嫌だしなあ。ちょっと傷作ってそこから毒を流してみるよ」
「な、なるほど……その場合、毒と傷と、どっちを先に治療したらいいんだろう」
「毒を抜いてから傷の治療でいいんじゃないかな?」
「わかった」
「じゃ、毒沼はあっちだから移動するよ」




全員で毒沼の前まで移動して。
それからシャルは自前のナイフで手の甲に傷を作り、その手を毒の沼へと浸けた。

「う、これはなかなか……、」
「だ、大丈夫? 治療する?」
「いや、もうちょっと、動けなくなるまで……」

傷のある場所からじわりじわりと浸透していく毒は、次第にシャルナークの体を蝕んでいって。
そこから色が変わっていくのを見て、まだ治療しちゃだめなのかと焦ってしまう。
我慢して我慢して我慢して。
突然にガク、と膝をついたタイミングで私はシャルナークに近寄った。

「そろそろ、いい?」
「う、ん……おね、が……い……」
「ん」

シャルの唇に、自分の唇を触れさせる。

うあああああ私は今! 推しと! キスしてる!!!
冷静装ってるけど内心ドキドキバックバクだからな!
クロロの時もドキドキしたけどまた違うドキドキがだな!

……はっ、いかんいかん、オーラ流れろオーラ流れろ……シャルの中の毒素よ出ていけ……

「っ、んうっ」

やだもうまた舌入ってきた!!

「っ、ふ、……ン、」
「……ッ、……! ……、」

シャルの手が、私の頬や首筋を撫でる。
それでいて逃がさないように両手でしっかりと挟み込んだり、かと思いきや背中を撫でられたり。
まるで手の行き場が無いみたい。
シャルの息遣いも苦し気だし、くすぐったいしまた息が出来なくて、頭がボーッとしてきちゃう。

「ん、んー、」
「っは、ご、ごめん!」

苦しくて、シャルの背中をバシバシ叩くとようやく離してくれた。
思わずへたり込む。

「……毒は?」
「毒……? あっ、毒ね! なんともないよ、治ったみたいだ。傷もこの通り!」
「シャルナーク……まさか、忘れてたのか」
「お前も団長の事言えないね」
「いや、だって想像以上に……! あ、いや、ごごこごめん」

想像以上に気持ち良かった、と言いたかったであろうシャルナークをジロリと睨む。

「ささ、毒も大丈夫だってわかったし、瘴気の検証に移ろうか!」

さっさと切り替えて逃げるつもりだな〜?
クロロだけでなくシャルナークもこんな反応だった、ってことは……そんなに気持ち良い、のかな?
自分は送る側だから全然わからないんだけど、何かズルイ。
あーやだやだ、頭の中が卑猥になってる!

「次で最後だよね、早く終わらせて情報収集にいこ! 瘴気の沼はどこ!」

頭の中のもやもやを追い出すように、シャルの背中をバシンと叩いて立ち上がった。




瘴気を纏っている沼も、毒沼の近くにあった。
こんなに近くで混ざり合うことはないのかな、レベルの距離の近さだった。

「で、瘴気は何をする感じ?」
「瘴気を浴びれば病気になるか?」

フェイタン自身もいまいちわかっていなかったみたいで、クロロとシャルナークに問いかける。

「うーん……沼の真ん中辺りでしばらく立っていればいいんじゃないかな?」
「自ら瘴気に侵される検証などしたこともないしな……とりあえずシャルナークの案でやってみてくれ」
「わかたよ」

フェイタンはブーツを脱ぎ捨て、躊躇いもなく沼の真ん中まで歩いていく。

「何か変化はあったか?」
「嫌な気はするけど、まだ別に何ともないね」
「変化があったら戻ってきてくれ」
「了解」

傷も毒もそうだけど、瘴気の中で我慢するってやっぱり幻影旅団やべえな。
やることぶっとんでるわ、ってか普通の人は検証するにしてもここまでやらないだろうなあ。
心配したって無駄に終わるのかもしれないけど、傷付けられたクロロも、毒に侵されたシャルナークも、見ているこっちが辛くなっちゃったよ。
フェイタンは……見た感じまだ大丈夫そうだけど……って、え!?

「あっ、血ィ吐いた」
「もういいぞ、戻ってこい」
「…………」

突然血を吐き出したフェイタンは、クロロの声にゆらりとこちらを向き。
その顔色は紫に変色していて、足元も覚束ない様子でゆっくりと戻ってくる。

沼から出るや否や、ドサリと倒れ込んでしまった。
ど、どれだけ強い瘴気なのよ……!!

クロロとシャルナークが沼からフェイタンを離してくれて、仰向けにさせる。
その目は閉じていて、呼吸が荒い。
し、死なないよね? 大丈夫だよね……?

「フェイタン、いま、治療するね……」

二人の時と同様に、フェイタンに口づけをする。
反応がないままオーラを流し続けることしばらく、体感的に30秒経過したくらいだろうか。
フェイタンの体がピクリと動いた。

と、思いきや。
体をぐいっと引き寄せられて、足を割られて、またもや舌が入り込んでくる。
舌を入れるのは当然なの!?
しかも右手がお尻! お尻揉んでるんですけど!!!

「んー! っ、や、やぁ、」
「足りない、ね、」
「ぅんっ、ん、」

一度唇が離れたと思ったらまた吸い寄せられる。
揉まれている部分も、感じるっていうよりくすぐったい!
やだ、恥ずかしい!
お尻と太股交互に撫でないでぇっ!!

「はーい、ストーップ」
「お前が一番俺の事言えないじゃないか」
「イテ」
「ナオ、大丈夫?」
「……めっちゃくすぐったかった。…………はぁ」

クロロがフェイタンを押さえ、シャルナークが私を浮かせてくれたけど……もうぐったり。

「ナオ」
「……なに」
「我慢できなかたよ、気持ち良すぎたね」
「〜〜〜っ、言わなくていいから! フェイタンのばか!」
「で、瘴気は体から抜けたのか?」
「全然。何ともないよ。苦しかたのがウソのようね」
「じゃあ傷も毒も瘴気も大丈夫ということで、これで検証終わりよね? 情報収集に移行できるよね?」

投げやり気味にそう言うと、三人は一斉に私を見て。
それから三人で目線を交わし、再び私を見る。

い、嫌な予感しかしないわ……!

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