38話 検証します
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私達がやって来たのは、山岳地帯とも草原地帯とも違う方面の、湿地帯。

傷はもちろんのこと、瘴気を纏っている沼や毒沼があるので、病気や毒でもきちんと回復するのかを検証するそうで。
……無理に怪我したり病気になったり毒に侵されたりしなくてよくなーい?
なんなのMなの。
MPとかみたいにオーラに関しての数値がわからないから、どれだけ対応出来るかわからないし、もし毒に侵された状態でオーラ切れとかになっちゃったらシャレにならなくない?
何? オーラが減少するのは見ればわかる? 万が一の時は一度戻ればオーラは回復する?

……さいですか。
つまりオーラの心配はしなくていいと言うことですね、ありがとうございます。

「早速ナオの能力の検証をするわけだが……」
「早速!? 早速やっちゃうの? 心の準備をさせてよ」
「心の準備したところでどうせ無駄ね。それに変に意識してるといざというとき行動出来ずにおわるよ」
「そうそう、行き当たりばったりより、多少経験しておいた方がちゃんと動けるよ」

うぐっ……フェイタンもシャルナークも正論かましてきおって……確かにそうだけどさあ、そうだけどさあ!
コイツら乙女の唇を何だと思ってるんだ。
そりゃあね、前世ではそれなりに恋愛もして、経験もしてきたよ。
でも何かそういうの遠い昔に忘れちゃったもんだからさあ。
それにこの人達相手にって、医療目的とはいえ、そりゃドキドキしないわけないでしょ。心の準備は必要だよ……ハァ。
されるならまだしも、って何言ってんだ私は。

「……そうだよね、回復役が回復出来ませんでしたってわけにもいかないもんね」
「納得してもらえたようで何よりだ」

納得じゃないのよ諦めなのよ。
これで何度目の諦めだろ。

「シャル、フェイ、お前達傷と毒と瘴気どれがいい?」

そんな選択肢初めて聞いたよ、と、ツッコミしたい気持ちを抑える。
みんな治るならどれでもいいということで、クロロが傷、シャルナークが毒、フェイタンが瘴気で検証する事になった。

「よし、フェイタン。俺の腕を軽く斬ってくれ」
「斬る!?」
「何驚いてるか。傷付けないと検証にならないよ」
「いやそうだけど、仲間同士で傷付けるとは思ってなかったからビックリして」
「モンスターと戦ってもいいんだけど、この近辺のモンスターは熟知しちゃってるからなあ。かと言って別の場所に行って知らない敵と戦ったとして、それもう検証じゃないよね? ナオにとってはぶっつけ本番だよね」
「あぁー……そうだね。じゃあ斬る瞬間は目を瞑っているので、サクっとやっちゃって」
「本来ならその瞬間も見て、慣れておいて欲しいものだが……まあいいだろう。フェイタン、頼む」
「あいヨ」

フェイタンが傘に手を掛けたのを見て、ぎゅっと目を瞑る。
が、即座にシャルナークに肩を叩かれた。

「ナオ、ほら、団長を回復」
「え、うわ、血……わ、わかった!」

思ってたよりも大きく斬られたその傷からは、血がボタボタと流れ落ちている。
クロロは平然とした表情だけど、前世含めてこんなに血が流れているところなんて見たことないから、思わず引いてしまいそうになる。

でも、斬ってしまったからには放置も出来ないよね。
腕をグイッと突き出すクロロに近寄り、その腕に手で触れる。
唇で傷口に触れ、オーラを流し込むように……うぇぇ、じんわり血の味がする。

「……っ、」

クロロの腕がピクリと動き、同時に私も唇を離した。

「団長、治たのか?」
「……ああ、もう痛みはないな。傷もない」
「顔赤くない? もしかして傷が消えて痛みが無くなる替わりに熱くなったりするとか?」
「…………そうだな、熱かった、」

フェイタンとシャルナークの質問に対する答え方が、自分でも腑に落ちないって顔してるけど……回復の代償とかあったのかな。
そんなこと説明には書いてなかったと思ったけど……。

「だ、大丈夫だった?」
「痛みもないし、もう熱くもないから大丈夫だ。フェイタン、次は大きめに斬ってみてくれ」

大丈夫だ、と笑顔を向けてくれたクロロの表情は、元に戻っていた。
大丈夫なら……いいのかな?

着ていた服を脱いで、フェイタンに背中を向ける。
背中をバッサリいってくれってことー!?
ひぃぃ〜〜〜そういうスプラッタな耐性ないのに急にレベルが上がりすぎだよ……!

「いくよ」
「ああ」

シュ、という音が聞こえたので急いで顔を上げ、クロロの後ろに回り込む。

「わ、わ、わ……!!」

いやほんと見たくない。
見たくないけど回復せねば。

そのままクロロの傷口に唇を付ける。

オーラ、届け。クロロの傷が無くなるように、私の中から流れていって。

「……く、」

クロロから小さな声が漏れたので、目を開けるとどうやら傷は塞がったようだ。
シャルナークから濡れティッシュを渡され、唇に付いた血を拭う。

「団長?」
「?」

シャルナークの訝しげな声に、クロロを見れば。
口に手を当て、やっぱり顔が赤くなっている。

「団長……もしかして……」
「……団長」
「お前らもやればわかる」
「ん? ん? どういう事?」
「いや、ナオは心配する事じゃない。今の傷も普通に治ったな。次は……そうだな、腹のあたりを貫通させてくれ」

貫通!? 貫通までやっちゃうの!?
一歩間違えたら死ぬよそれ!?
いくらグリードアイランドに慣れててオーラの使い方も上手くて、それでいて強い人だってさすがにヤバいんじゃないの?

「ナオ、そんな心配しなくても大丈夫だよ。もし治らなかったとしても、実際に死ぬわけじゃないからさ。それにどこまで回復出来るか検証しとかないと。……にしても、団長。ホントに検証の為〜?」
「……当たり前だろう、検証の為だ」
「……まあいいけどさ」
「やるならささとやるよ」

シャルナークもフェイタンもジト目でクロロのこと見てるけど、今のやり取りで何があったんだ……さっぱりわからん。

「って、わあ」

シャルナークに手を引かれ、クロロから離れた瞬間にフェイタンが傘を貫通させて。
顔反らす暇無かったわ、バッチリ見ちゃったわ。
……こっちが貧血になりそうなんですけど……。

「っぐ、ぁ」

クロロのめっちゃ痛そうな声が聞こえるよもうやだよ。
仕方ないからやるけど、やっぱり自分傷付けてまでやらなくてもいいじゃんよ。
泣きそうだよ。

先程同様にクロロの背中に回り、傷口に唇を付ける。

オーラ流れろ、オーラ流れろ……

しかし今回はどれだけ流し込んでも治る気配がない。
治ったかと思うと、また傷口が開くのだ。
焦りが出てくる。
どうしよう、どうしたら……

「だ、めだ、ナオ、前に……きて、くれ」
「わ、わかった」

そ、そっか、これは深い傷ってことだよね。
つまり、傷口ではなく唇に……唇に!!

「ん!?」

唇にするの!? なんて考えているうちに、クロロに頭を抱え込まれてお互いの唇が触れた。
触れちゃったのならそこからオーラを流さねばならないよね!?
オーラ、オーラ、オーラ…………えぇ! 何で舌入れてくるの!?

「っ、ん、……ふっ、」
「……ッ、ハァ、……」

ちょっとなにこれ何で! ヤバい、気持ちがヤバイ!! 息も出来ない!!
私がオーラを流し込むっていうより吸いとられている感じがする!!

「!?」

え、待って待って!
胸!? 胸触られてる!? 何でなんでなんで!?

「はーいそこまで!」
「やりすぎね!」
「ぷはっ、」
「っはぁ、」

シャルナークとフェイタンがクロロと私をひっぺがしてくれたが、私は色々な事に混乱して尻餅を付きそうになった。
すんでのところでシャルナークが受け止めてくれたから大丈夫だったけど、足がガクガクいってる。

「団長何してるか、頭可笑しくなたか?」
「そうだよ、何ナオの胸揉んでんだよ」
「……イ……」
「「は?」」
「ヤバイ、めちゃくちゃ気持ち良かった……!」
「ハァァァ!?」
「やっぱりか」
「やぱりね……」

誰これホントにクロロ?
今のセリフ、クロロが言ったの!?
ってかシャルもフェイタンも、やっぱりって何!?
ビックリしてるの私だけじゃん!
傷も血もいっぱい見ただけでキャパオーバーなのに、何もわからなすぎてっていうかさっきから既に泣きそうなんだけど、っあ、じんわり涙出てきた……!

「ごめん、悪かったよ。ナオ……泣かないでくれ」
「なん、い、一体なんだったの?」
「……お前のオーラは気持ちよすぎるんだ」
「……え?」
「俺の体に流れてくるお前のオーラが気持ち良くて、だな。前戯の昂りと似てるものだから……つい手が動いてしまった。本当に悪かった」

まじかよ私、回復痴女ってこと?
聖女ならぬ痴女?
思わずシャルナークとフェイタンを見やるも、二人とも顔を逸らして。

「いっ、」
「い?」
「イヤダァァァァァァ!!」

その場からダッシュで逃げたかったけれど、当たり前のようにクロロに捕まって。
敵前逃亡に失敗しました。

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