2話 転入しました狩人学園の制服は、男女共にブレザー。
男子はネクタイ、女子はリボンで学年毎に色分けされている。
男子は上は紺色、下はグレー。女子は上は同じく紺色、下は緑のチェック。
夏になると、男子はそのままワイシャツになるだけだけど、女子はセーラー服になるみたい。
今は5月だから、衣替えもわりとすぐだな。
それにしても。
自分という人格のまま、再び制服に袖を通すことになろうとは。
昔と違って今はお洒落になったもんだ。
ルーズソックスってやつも、一度は履いてみたかったな。
狩人学園に到着し、職員室を目指す。
翔が学園のパンフレットを持っていたから、学園案内図の部分だけを切り取って持ってきたのだ。
着いてみてわかったけれど、この学園は大分広いのでこれがなかったら迷っていたかもしれない。
「ここだね、職員室の札が出てる」
「よし、じゃあ行くよ姉ちゃん」
「おー」
翔が扉を開けると、ちらほら中にいる職員が一斉にこっちを見た。
あれ、一番奥にいる主幹教諭っぽい人……パリ……パリ……パリストン? じゃない?
うわっ、目が合った。
あの笑ってるんだか笑ってないんだか、な顔はちょっと苦手……無難に会釈だけしておこう。
誰に声を掛ければいいものかと迷っていると、手前に居た綺麗な女の先生が手招きをしているのに気付いた。
「あなたたち、今日からの転入生よね?一ノ瀬姉弟でしょ?」
「「あ、そうです」」
翔と言葉が被り、少し気恥ずかしくなったので思わず翔の脇腹をどついた。
「いてっ! 何だよ姉ちゃん」
「別に、何となく」
「あははっ、仲良し姉弟なのね! ちなみにナオさんの担任は私よ。ヴェーゼって言うの。宜しくね」
「宜しくお願いします」
差し出された手を握り返し、笑顔のヴェーゼ先生の顔を見る……、ん?
ヴェーゼ先生もどこかで見たことあるね? 後で翔に確認しよう。
「翔くんの担任は……あ、来た来た。レイザー先生ね」
「何だ、もう来てたのか。遅くなったみたいで悪かったな、担任のレイザーだ、よろしく」
「れ、レイザー先生……よろしくおねがいします」
レイザーって、グリードアイランドの人だよね。
ゴツい、強そう。
翔も圧倒されてるっぽい。
良かった、私の担任は美人で優しそうな先生で。
「じゃあ、早速教室に行きましょうか。レイザー先生は翔くんをお願いしますね」
「ああ、任せておけ」
転入生とかって、ホームルームが始まってからの自己紹介とかじゃないのかなーなんて思ってたんだけど、普通に席に着かされている。
そしてホームルームの準備をしてくるわね、と、ヴェーゼ先生は職員室に戻っていってしまった。
つまり。
暇をもて余している上に、登校してくるクラスメイトになるであろう人達の視線が居たたまれなくて。
誰か何とかしてくれないかな、この状況。
ていうか、さっきチラッと教室の札を見たんだけど。
蜘蛛組って書いてあったの、間違いじゃないよね?
蜘蛛組……安直すぎて。いるんでしょ? 蜘蛛の方々が、って想像できちゃうよ。
「おっ、転校生か?」
そんな風に思っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
今しがた教室に入ってきた人物が発した声であって、やはりというか……幻影旅団のフィンクスさんじゃないですかー。
「ん? もう来てるの? 早いんだね」
!!
フィンクスの後ろから顔を見せたのは、私の推し……!!
シャルナークではないか……!!
こちらを見ながらニコニコと笑顔を振り撒いていらっしゃる……っていうか、生きてる……!!
死んだはずの!
私の推しが!!
生きてるよ!!!
あ、やだ、涙が。
「え!? ど、どうしたの?」
シャルナークが私の心配を……!! あああ……!!
「シャル、知り合いか?」
「いや、初対面のはずだけど……ねえキミ、何かあった?」
「……いえ、前のところではぼっちだったもので……声を掛けて貰えたのが嬉しくて……」
これは苦しい言い訳か、と思ったんだけど。
シャルナークとフィンクスは可哀想な子を見るような目になり、同情までしてくれた。
良かっ……良くはないけど、良かった。
泣き顔はなんとかせねば、と思いながら、二人に断りを入れて廊下に出る。
トイレはどこだ、とキョロキョロしているとヴェーゼ先生が戻ってきて、早速虐められたかと思ったらしく慌てていた姿までもが綺麗な人だと思った。
ヴェーゼ先生にはシャルナークとフィンクスにした同じ言い訳をしたら、力強いハグを頂いた。
その拍子で思い出せたんだけど、ヴェーゼってあれだ。
ヨークシン編でノストラードに雇われてた護衛の一人だ。
「今日からの転入生を紹介するわね。一ノ瀬ナオさんです。みんな、仲良くしてね」
「一ノ瀬です、よろしくおねがいします」
ホームルームが始まって、一番最初に私の自己紹介が入った。
目は赤くなってないはず、鏡でチェックしたから多分大丈夫。
クラスを見渡してみると、シャルナークとフィンクスの他にもウボォーギンとまさかのミルキの姿が目に入った。
蜘蛛組っていうくらいだから旅団は全員いるのかと思ってたけど……関係なかったな。
残念ながら、知っている女性キャラはいないようだ。
もちろんキャラ以外にもクラスメイトは居るので、仲良くなれる女の子が居たらいいなと思う。
「もうわかってると思うけど、席は窓際の端を空けておいたからね。そこに座ってちょうだい」
そうなのだ。
有り難いことに、一番人の目を気にしなくていい席を貰ったのだ。
さっきもそこに座らされていたので、シャルナークやフィンクスよりも先に来た人達は遠巻きにするだけで終わったのだ。
……話し掛けてきてくれても良かったんだよ? もう遅いけど。
しかもこの席、隣はフィンクス前はシャルナーク。
推しの背中を見ながら授業を受けられるって、どんなに幸せな事か……!!
死んで良かった。
子供や孫に会えないのは寂しいけれど、婆ちゃんここで頑張って生きていくからね!
また老衰まで頑張るからね!
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