34話 水の都に着きました
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「えっ! えっ、えっ、こわっこわこわこわい!! なにこれなにこれ割れないの!?」
「うわ、ナオ! 暴れないで!」
「うわっ!?」

私達を包んだ泡は、ぐんぐんと上昇を続け、壁の高さよりも更に上へと到達した。
私が恐怖心で暴れたことにより、泡の中でシャルと二人、尻餅をついた格好になっている。
そんな中、勝手に視界に入ってきた壁の中は。

「……っっっっっ!!」
「どう?」
「凄い! めっちゃ綺麗……」

語彙力のない私はそれしか言えなかったけれど。
これぞ水の都、といった様相に、開いた口が塞がらない。

中央にはおそらくこの都のメインであろう巨大な噴水。
その周りは木々に囲まれていて、迷路の用に入りくんだ水路が都中に広がっている。
下からは見えなかったけれど、壁の上は緩やかなドーム状になっていて、その素材はガラス……なんだろう、シャボン玉の泡のようにキラキラと虹色に見えたりもするし……。

と思っていたら、そのキラキラの上に私達が入っている泡がくっついた。
いつの間にか上昇をやめて、ゆっくり下りていたようだ。
気が付かなかった。

くっついたと同時に光る道が現れる。
その瞬間、泡はパチンと弾けて消えた。

「え、消えた? ここからどうやって中に行くの?」
「これね、道が途中で消えてるだろ? そこまで歩いていくと、エレベーターみたいに下に行けるんだ。はい、お手をどうぞ」
「え、あ、ああ。ありがと」

手を差し出されて、自分が座りっぱなしという事に気付いた。
立ち上がり、手を繋がれたままで歩く。
言われた通り道の先端まで行くと、周りが四角に切り取られたように下りていった。

正直さっきの泡の中での上昇よりも、今下降している方が怖い。
だってさっきは包まれていたからまだ良かったけど、今は足元に四角い板があるだけで、周りは何もない状態なんだもん。
暴れたら確実に落ちると思ったので、シャルの手を離さず腰をがっしりと掴んだ体勢でぶるぶる震えながらもめっちゃ我慢してる。

何気にシャルも震えてるけど、笑いを堪えてるだけっていうのはわかっている。


地面に近い所までいくと、エレベーターが止まったので、そこから軽く飛び下りた。
周りを見渡すと、水路に囲まれているようだ。
水路の入り口にも、この都に入った時の漏斗のような機械がある。
ってことは、だ。

「また泡に入って移動するのかな?」
「そうそう。ただ、ここからは行きたい方向に自分で体重移動しないと、この水路をぐるぐる回る羽目になっちゃうからさ、俺に任せてくれる?」
「うん、わかった」

そしてまたもや泡に包まれ、そのまま水路の中へと入り込む。
水の流れはそこまで速くないけど、道を知らないと大変だろうなぁ、っていうのは分かる。
一応水路の壁に道標が書いてあるから、迷うことはなさそうだ。
シャルは私の肩を抱えるようにして、くい、くい、と右に行ったり左に行ったり、上手く移動している。
途中で人にすれ違うことは無く、もしかしてプレイヤー以外は都の中を移動することは無いのかな、なんて考えが浮かんだ。
つまり、誰かとすれ違ったりするのはある意味怖いってことか。
さすがにそのままカードの奪い合いとかにはならないだろうけど。

右折左折を何度か繰り返し、どうやら目的の場所に到着したようだ。

「さ、ここがこの都の携帯ショップだよ」
「店自体は割と普通の見た目なんだね?」
「そうだね、屋根だけはやっぱりガラスみたいな造りになってるけどね」
「あ、ほんとだ。光が反射してキラキラ綺麗」

店内に入ると、内装は暖かみのある木のお店って感じじで、空からの光が差し込んでいてとても明るい。
それでいて暑くないどころか逆に涼しくて心地好い。
このお店だけじゃなく、都内にある住宅とかもこんな感じなのかな。
だとしたらめっちゃ快適な生活を送れそう。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」

カウンターの前にいた店員さんが、こちらに近寄って声を掛けてきた。
年配の優しそうなおじさまだ。

「今日は携帯の購入をしに来たんだけど、こっちで勝手に選ぶから大丈夫だよ」
「かしこまりました。お決まりになりましたらお声掛け下さい」
「はーい」

ショーケースが三面並んでいて、その中には携帯電話がたくさん置かれている。
値段的に一番左のショーケースが安く、右にいくほど高価なものになっているようだ。

一番左はシンプルなものが多い。
真ん中は可愛らしいもの……ファンシーショップに置いてありそうな雰囲気のもの。
一番右は、宝石が付いていたり、背面がステンドグラス状のものだったり。

「ちなみにご予算はおいくらくらいなの?」
「予算とか気にしないで好きなの選べばいいじゃん」
「うお……セレブ発言」
「まあ、これくらいの出費はなんの問題もないから」

これくらいって軽く言ってくれちゃってるけど、一番右の携帯なんて昔の一ヶ月の給料でも買えないものもあるからね……そんな高い携帯を買ってもらうつもりなんてないけどさ。

「個人的にはシンプル寄りでいいんだよなぁ……うーん……あ、これ可愛い」
「ん? どれ?」
「あそこの背面に顔が描いてあるピンクのやつ」
「ナオ……ピンク好きだね」
「え? 別にピンク好きってわけじゃ……あっ! その件に関しては忘れてってば!」

こんにゃろう、いつまでパンツの話を覚えているつもりだ……!!
あれだって自ら買いに行くつもりは無かったのに!
この携帯はカー○ィみたいな顔が描いてあるから可愛いなって思っただけだし!

「これは描かれてる顔がかわいかったの! たまたまピンクだったの!」
「はいはい、わかったよ。じゃあこれにする?」
「……違うのにする」
「え、気に入ったんじゃないの? 別にこれを見る度思い出したりしないよ?」
「そう言ってる時点でアウトです」

ニヤニヤしながらこれにする? とか言われても信じられません。

「こっちにするよ、丸い耳が付いてる黒い携帯」

これは背面はシンプルだけど、某ネズミの国のキャラクターを彷彿させる。

「ああ、いいんじゃない。俺の携帯も猫耳付いてるし、動物シリーズでお揃いだね」
「お揃い……とはまた違う気がするけど……これならシンプルだけど少し可愛いって感じがするもんね。うん、これに決めた」
「じゃあ購入しちゃおう。すみませーん」
「はい、お決まりになりましたでしょうか?」
「この携帯でお願いしたいんですけど……」
「こちらの黒のものですね。それでは、お会計はこちらでお願いします」

あれ、もうお会計なの? と思いながら、言われるがままにレジへと移動する。
携帯の購入とかって、色々手続きとか面倒なイメージしかなかったんだけどな。
ゲームだからそんなんいらないんかな。



「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」

お会計の後、シャルが商品を受け取ってそのままお店の外へ出た。

「何の手続きもなかったね?」
「うん、この後携帯に血を一滴垂らすだけで自分のもの登録出来るよ」
「血!? どこに垂らすの?」
「ここのバッテリーっぽいっとこ。早速チクっといっていい?」
「わ、わかった」

人差し指をチクっとやってもらい、バッテリーっぽいところに指を押し付ける。
すると、携帯が起動を開始した。

「これで画面が変わったらもう使えるよ。すぐ変わるから、そしたら俺達の番号登録しておくね」
「便利なもんだね〜。登録お願いします」
「ん。それと、指はオーラを送ればすぐに血が止まるんじゃない?」
「おっ、そういやそうだね。大した傷じゃないから放っておこうと思ってたけど、試しにやってみようかな」

人差し指に口を当て、オーラを流し込むイメージをする。
息を吹く感じでやるとやりやすいかな?

じんわりと暖かみを感じたので口を離すと、元通りに傷のない指になった。

「おお……」
「おー、凄いね。一瞬じゃん」
「一瞬だったね。傷が小さかったからかな?」
「あー、それはあるかもね。傷の大きさによってオーラの量も変わるだろうし。そこはおいおい試していったらいいと思うよ」
「怪我しないのが一番だけどね」
「あはは、確かに」

いやほんと切実ですよ。
見境無くキスする羽目にならないよう、皆、怪我はしないで欲しいものだわ。

「よし、これで登録完了だよ。ナオの番号は一斉に皆に送っておいたから」
「うわー、助かる。何から何までありがとう!」
「これくらい大したことないよ。さて、目的は果たしたことだし。他に行きたいとこある?」
「んー……色々見て回りたいのはやまやまだけど、今日は夕飯作る日だから買い物行かなきゃ間に合わなくなるかなあ……」
「ああ、そっか。じゃあ買い物も付き合うよ」
「ん、是非お願いします! ここから離脱するときは、指輪に念を込めるんだっけ?」
「そうそう、現実世界の居場所を思い浮かべながらね。不安だろうから、ナオが帰還してから俺も帰ることにするよ」
「重ね重ねありがとう……! じゃあ、やってみます」

ん〜、現実世界に戻りますように!
あの部室の倒れている私の体に……!



ハッと意識が浮上し、最初みたいにガバッと体を起こす。
隣で寝かされているシャルがピクリと動いたのを見て、思わずホッと息を吐いた。

ちゃんと戻ってこれて、良かった。

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