33話 携帯を買いに行きます
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グリードアイランドプレイ、二日目。
今日は前回言っていた通り、私達姉弟のグリードアイラント内での携帯を買ってもらう予定。
モンスター倒してお金を稼いだ方がいいのかな、とも思ったんだけど、翔はともかく私はスキルからして戦闘用員ではないので、黙っておくことにした。
戦おうと思えばそういうスキルも覚えられるのかもしれないけど、進んで戦う必要はなさそうなのでそこはスルーの方向で。
戦うヒロインとかカッコいいと思うし、憧れはあるけど、周りが強い人だらけ……しかもみんな戦いたがりだからいいんだ。

前回セクドロ遺跡にて離脱したので、今回はセクドロ遺跡の入り口からのスタートになる。
遺跡内で途中離脱すれば同じ場所に戻るらしいんだけど、クエストクリアをしているから入り口になるんだって。
その時居なかったメンバーでも、手を繋いで念を込めれば一緒の場所からスタート出来るっぽい。
最初にシャルが一緒に来てくれたのと同じように。

メンバーは、私達の携帯選びに付き合ってくれるのがシャルナークとマチ。
情報収集やらカード集めに出向くのが、前回パクと代わってくれたコルトピと、ボノレノフ、ウボォーギン、ノブナガ。
シズクはまたもやお留守番になってしまったのだが、別にどうしてもプレイしたいわけではないので構わないとのこと。
血気盛んな男衆(一部を覗く)はゲーム内で暴れたいらしい。
シャルナークとマチ、私達姉弟はこのセクドロ遺跡入り口からのスタートで、他のメンバーはそれぞれ前回離脱した場所からスタートする。
最初から別行動なのだ。

「携帯は何処の街で売ってるの?」
「割と何処でも売ってるはずだよ。今回は探索目的じゃないから、一番近いマサドラに行くつもりだけど」
「マサドラかー、まだカードショップしか見てないし、他にも色々見てみたかったんだよね」
「なら丁度良かったね。翔もそれでいい?」
「おー、俺は問題ないよ!」
「決まったならさっさと行こう」

行き先が決定するや否や、マチが走り出す。
再来《リターン》のカード使うのかなー、なんてちょっぴり期待したんだよ。
まあ、走って行ける距離にホイホイと使用しませんわな。
マチもシャルナークも私達の速度に合わせて……ってか、翔も私の速度に合わせてるな!?
チラチラ様子見されてるもんな!
どれだけ速く走れるようになったんだ、弟よ。
今日の目的は携帯だし、そんな急ぐこともないのかな、なんて思っていたら、やっぱり途中でシャルに抱えられてしまった。



マサドラに到着し、地面へと優しく下ろされる。

「シャル、ありがとう」
「いえいえどういたしましてー」

なんだかんだ、早くも慣れつつあるのがちょっと怖い。
これを当たり前と思わないようにしなきゃ、万が一何かあったときに困るのは自分だものね。
戦えなくても逃げる速さは欲しいよ!

「さて、携帯ショップは……」
「中央広場の近くだったよね? 水色の建物だっけ」
「そうそう」

シャルとマチの会話を聞きながら、後ろに付いていくと水色の建物が見えてきた。
水色っていうから淡いのかと思えば、蛍光色に近い。

「ド派手だな……」
「私も同感」

翔と同じ感想を抱き、うんうんと頷いた。

「あれ?」
「ん?」

マチが立ち止まったので、私達も一旦停止する。

「店のシャッター下りてる。休みなんじゃない?」
「休み!? ゲームなのにショップが休みとかあんの!?」

翔が言うと、マチはそうなんだよね、と溜め息を吐いた。

「それが、稀にあるんだ。ランダムっぽいけどね」
「うへえ、そうなんか……じゃあ俺達今日は携帯買えない?」
「いや、他の場所にもあるけど……シャルナーク、どうする?」
「うーん、ここから近いのは商業機械都市マハルカルロか……水の都ウォータグラウンドかな」
「商業機械都市とかカッケエな」
「水の都っていい響きだね」

意見が割れ、私と翔は顔を見合わせる。

「商業機械都市だろ」
「水の都でしょ」
「いやいや、商業機械都市」
「水の都だってば」
「ちょっと、やめなよ二人とも」
「だってマチ、翔が」
「姉ちゃんが!」
「どっちもどっちだろうよ……」
「意見が纏まらないのなら二手に別れる?」
「「いいの?」」
「そんな反応されちゃ、ダメとも言えないよ。ってか、大して遠くないから問題もないだろうし。かといって場所的には真反対だから、一緒に行動するには効率が悪いからね」

言い合いが平行線を辿ると思われたのか、シャルが提案をしてくれた。

「じゃあ、あたし達は商業機械都市ね」
「で、俺達が水の都、と」
「あれ? その組み合わせは決定なん?」
「……アンタ、あたしと一緒は嫌だってのかい?」
「ち、違っ! そうじゃなくて、あまりにもアッサリ決まったから!」
「翔のお世話係がいたらそっちと組ませるけど、いないんだから同じクラスのあたしが面倒見ることになるだろ」
「な、なるほど?」

よくわからん顔してる翔に、噴き出しそうになる。
マチじゃなかったらこんな動揺しなさそうだけどなあ。
しかし、お世話係って……フェイタン、そう呼ばれてると知ったら怒りそう。
護衛という扱いだったはずなんだけどなあ。
私達姉弟にとってはどっちでも変わらないからいいけれども。

「シャルは私のお世話係だもんね」
「ははっ、そうだねー。団長から同じクラスのヤツが特に気に掛けておけ、って言われてるしね」

ぶっちゃけグリードアイラント内だったら誰かしら一緒に居ればいいんじゃないの? と思うんだけど……あれ、もしかして同じクラスの方々は面倒事を押し付けられてる?
いや、誘っておいて面倒事扱いは無いよね? 無いと思いたい!

「そしたらここからは別行動ってことで、今日は特にこの後何かしろとか言われてないからそのまま帰還でOK?」
「りょーかい。ナオ、また後でね」
「うん、マチもついでに翔も、また後でー」
「俺はついでかよ」



二つの都市の場所は真反対ということで、それぞれの方角に向かって歩き出す。
マチと翔はどんな感じで歩くのかな、と、気になって後ろをチラ見したら既にその姿は見えなくなっていた。

「え、マジか」
「? ナオ、どうしたの」
「いや、もう二人の姿が見えないから……早いなって」
「ああー、あの二人、俺達と別れたと同時に走り出してたもんなあ。というか、俺達も走らないと。のんびり歩いていたら大分時間くっちゃうしね」
「歩くとどれくらいかかるの?」
「ん〜〜3時間くらいはかかるんじゃないかな?」
「さん……ちなみに走ると?」
「おおよそ30分」
「ヒェッ」

3時間の距離を30分で走るのも大概だけど、30分間走り続けるのかっていう、ね。

「心配しなくても大丈夫だよ、ナオは抱えていくから」
「………………オネガイシマス」
「ん、素直でよろしい」

色々な葛藤はあったものの、頭の中から追い出すことにした。




走り続けることしばらく。

「あ、ホラ! 見えてきたよ、水の都」
「えーと、ウォーターセブンだっけ」
「いやいや何と間違えてんの。ウォータグラウンドって言ったでしょ」
「そうそうそれそれウォータグラウンド」
「知ってましたけど、って顔しないの」
「イッタァ!?」

ちょっと間違えただけなのに、太股つねられた……!
普通この格好でつねるー!?
信じらんない。

心の中でぶつくさ言いながらも、段々と近付いてくる水の都に気持ちを移す。
外壁が結構な高さで造られていて、都の外からじゃ、水の都? ほんとに? という疑問しか湧かない。
真正面に馬鹿デカイ門があって、水の都というより要塞都市っぽい。

「ねえシャル、ここ目的地で合ってるの?」
「そうだよ、紛れもなくここが水の都ウォータグラウンド。中に入ればわかるよ。このまま行く?」
「降ろして欲しいの一択に決まってるでしょ! ……わかってるくせに」
「あはは、ナオってからかうと良い反応が返ってくるからつい、ね。はいよ、っと」
「もう。毎度毎度ありがとうございますー!」

ムスくれながらそう言うと、シャルはくくくっと肩を揺らした。

「で、これ……この門から入るの?」
「ううん、その門はダミーだよ。入り口はこっち」
「ん」

シャルに連れられて門から100メートルくらい右に歩くと、壁にスイッチらしきものがある。

「ここ、押してみて」
「わかった」

言われるがままにスイッチを押すと、突然上から何かが降ってきて。
なんだこれ、と近付いてみれば、デカイ漏斗を取り付けたようなホース?
漏斗の隣にはバーコードリーダーみたいな機械が付いている。
そのバーコードリーダーみたいな機械からウィーンという音がして、まるでスキャンされているような……

「もしかしなくとも、スキャンされてる?」
「当たり。この漏斗みたいな部分から泡が出て、包まれるからびっくりしないでね」
「その泡で水の中に入る、とか?」
「そうそう、そんな感じ」
「へえー」

暢気にされるがままに見ていると、シャルが言った通りに漏斗みたいな部分から泡が出てきて。
その泡は私達を包むと、勢いよく上り始めた。

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