32話 カードを入手しましたしばらく階段を下りたり通路を歩いたりの繰り返しで、ようやくメインっぽい扉の前に到着。
途中ちらほら敵も出てきたけれど、全て瞬殺でした。
こんな順調も順調に進むなら、オーラの相性云々とか関係なくない?
私、先頭じゃなくて良かったんでない?
今更言っても無意味だから、黙ってるけど。
「鍵穴か……誰か途中で拾ったか?」
「これのことか」
フェイタンが持っていた鍵をクロロに手渡すと、クロロは早速鍵穴に嵌めた。
ピッタリだったようで、カチッと音がしたと同時に扉が開く。
鍵なんて一体どこで拾ったんだ、と思いながらフェイタンを見れば、ニヤリと笑い返された。
いやほんと、どこにあったんだ……!
皆も気にしないってことは、入手過程はどうでもいいのかな。
開いた扉の先には、そこそこに大きな空間が広がっていて。
その中央に、私の身長と同じくらいの高さの本が立て掛けられるようにして置いてある。
天井にライトがあり、仄かな光で照らされていて、何だか神秘的にも見える。
部屋に入って近づくと、その本には綺麗な景色が描かれていた。
ページはめくれるのかな、と思い、手を伸ばすと。
「ナオ、やめておけ」
「えっ、…………え?」
クロロの声にピタリと止まると、ガチン!! という音と共に、引っ張られた私の体。
どうやら咄嗟にフェイタンが引っ張ってくれたらしい、という事は理解出来た。
じゃあ、今のガチン!! って、何かな?
恐る恐る後ろを振り向けば、ほ、本から牙が出てる……!
「あわわわわわ」
クロロが止めてくれなかったら、フェイタンが引っ張ってくれなかったら、あれに喰われてたってこと!?
「姉ちゃんあぶねえなぁ」
「ああああんただってクロロの後ろに隠れてるくせにそんな事言うな!」
私が手を伸ばさなかったら、絶対翔がやっていたと思う。
「こういうのは大体罠があると思った方がいい、よ! っと」
シャルナークが素早く本の後ろに回り込み、蹴り飛ばし、そのまま上から飛び乗って本を閉じ、鍵をがチャリと回した。
シャルを振り落とそうとじたばたしていた本も、鍵を掛けられた瞬間に大人しくなった。
「あ、鮮やか〜……その鍵って、この部屋に入るときの?」
「そうそう。まだ使う場所があるかと思って一応持ってたんだよね。役に立ったよ」
そう言ってにこやかに笑いながら、アドリブブックがカード化されたものを拾い上げた。
「指定ポケットNo.023、アドリブブック。入手難度Bの、カード化限度枚数は30。えーと、毎回違った物語を楽しめる本。読書を中断する場合、付属のしおりをはさんでおかないと全然違う話に変わってしまうので要注意。だってさ。クロロ、誰に持たせる?」
「そうだな……翔の指定ポケットにするか」
「やっぱりね、はい、翔」
「お、俺? が持ってていいの?」
「翔なら戦おうと思えば戦えるだろ、戦闘能力持ちなんだから。今のところナオに持たせるつもりはないな」
「それは問題無いです寧ろ持たなくていいです」
私が他のプレイヤーから攻撃を仕掛けられたとして、簡単に持っていかれるのがオチだ。
翔はいつか戦いたいと言っていたし、大切なカードを守る為だったら体も張ると思う。
私だって、戦える能力であったなら。
あったなら…………へっぴり腰で立ち向かう自信があるよ。
「……そろそろか」
「そろそろ? クロロ、何の事?」
「もう、……ぐ、……実、……」
何なに怖い怖い怖い!!
クロロがぐにゃりと揺れだした。慌てて回りを見ても皆もぐにゃり、まるでバグみたいな……
「なにこれ!!」
私は勢い良く体を起こした。
…………起こした?
「あ、帰ってきた」
「お帰りー」
のんびりとした声を返したのは、マチとシズク。
二人がいるってことは、帰ってきたのね現実に。
部室に適当に横たえられていたようで、他のグリードアイランドへの参加者もそれぞれの場所で体を起こす。
……ん? 人数少なくない?
「あれ、フィンクスとフランクリンは?」
「その二人なら先に戻ってきて、腹減ったって言いながらどっかに行ったよ。そのまま帰るんじゃないかな」
シャルナークがマチに問うと同時に私の疑問も解決された。
腹減ったって……そういや確かにお腹空いたな。
今何時くらいなんだろ?
「なあなあ、今何時?」
「今? ちょうど19時になるくらいだね」
翔が問いかけると、再びマチが答えてくれたんだけど……19時ってことは、ゲームに入って四時間くらい経つのか。
……四時間??
「私達、今までのことを四時間でこなしてきたわけ?」
「そうだよ、速く走れるようになったから違和感があるだけじゃないかな」
隣に居たシャルナークは、にっこりと笑ってそう言った。
なるほど、走る速度の問題はかなり大きいよな。
体感的にもう少し長かった気がするのは、初めてプレイしたからかな?
慣れてくれば妥当な感じになるんだろか。
……それにしても、視界がぐにゃりと歪んでいくのは軽くホラーだったわ。
「怖かった」
「何が?」
ボソリと呟けばシャルが普通に返してくれたので、そのまま会話にしてしまおう。
「現実世界に戻るときの、視界の歪み。皆がぐにゃぐにゃになっていく時、びびったよ」
「ああー、俺もそれびびった! 何かの罠かと思ったよー」
「だよね!? やっぱり翔もびびったよね! クロロが喋りながら歪んでいくから聞き取るのにも必死で。結局聞き取れなかったんだけど……クロロ、最後何て言ってたの?」
「ああ、あれか。もうすぐ現実世界に戻るぞ、と言ったんだ」
「そうだったんだ。……ん? カードとか使わずしても勝手に戻れるの?」
「クエストをクリアすると一度現実世界に戻る仕組みになってるんだが……シャル、説明してなかったのか?」
「あははー、その辺はまだ説明してなかった! ごめんごめん」
「「軽ッ」」
「まあいいじゃない、危険は無かったんだし。ちなみにクエストをクリアっていうのは、指定ポケットカードを取得する事を指すよ。入手したのはチームの一人でも、ちゃんとチームとして判定されるみたいで、全員弾き出されるんだ。時間の制限はないからまた直ぐにプレイする事も可能だよ」
「そうなんだ……今回のパターンって、時間かかってる方? かかってない方?」
「今回は短い方だね」
「ってことは、もっと時間がかかる時はどうするの?」
「予めわかっている場合は土日とか、長期の休みとかで挑戦するけど、下調べ段階で時間がかかりそうだと思えば、自主的に戻るよ」
「自主的に戻れるの? どうやって?」
「指輪に念を込めればいいだけだよ」
「……そうなんだ」
離脱《リーブ》のカードが必要ってわけじゃないのか。
だったら離脱《リーブ》はゲーム内でどういう目的で使うんだろ。
洞窟とか建物とかの脱出に使うのかな。ドラクエでいうリレミトみたいな?
離脱《リーブ》無しで行き来出来るのは有難い、ってか、まあ、これが普通のゲームシステムだよね。
現実に帰ってこれなくなる心配はないから、そこんとこ気にせず遊べるのは良い事だ。
「今日は解散でいいか?」
私達が話している間、フェイタンはマチとシズクにさっきまでの出来事を報告していたっぽい。
ちょうどそれも終わり、クロロへと声を掛けたようだ。
「そうだな。解散にしよう」
クロロの一言でそれぞれ自分の鞄を拾い上げ、部室を出ると廊下は既に暗くなっていた。
部室はわざと暗くしていたけど、この電気が点いていない夜の校舎は不気味感パネエ……。
「……ん?」
「ん?」
クロロが疑問系でこっちを見てくるから、何かと思えばちょいちょい、と指差しをして。
……おっとお。私、無意識にクロロの鞄掴んでるね?
「ご、ごめん、つい掴んでしまったわ」
「ぶはっ! 姉ちゃんだっせえ。廊下が暗いから怖いんだろ」
「ううううるさいな! あんただって怖がりのくせに!」
「姉ちゃん程じゃないだろ。現に今は平気だし」
「一人だったら無理なくせに!」
「一人だったら姉ちゃんだってもっと無理だろうが」
「ぐぎぎぎ弟がむかつく……!!」
「不毛な争いしてるなよ。流石に腹減ったし、とっとと帰るぞ」
「えっ、ええええ!? ……ぅえっ!」
クロロは私を抱えて窓から飛び降りた。
着地の瞬間、ちょっとした衝撃で変な声が出た……ってか心臓バクバクしてる。
「翔ー、窓閉めてきてねー」
「え? あれ!? 嘘だろ誰もいねえじゃん!! うおおおおおお待ってよおおおおお!!」
皆は先に飛び降りていたらしく、シズクがまだ廊下にいる翔に向かって叫んだ。
翔は凄い勢いで窓を閉め、慌てて走り出す。
「あ、最後の人が閉めてくるシステムなのね」
「ううん、守衛もいるからいつもは開けっ放しだよ。さっきナオのこと思い切りからかってたから、翔もからかったら面白いかなと思って閉めてきてって言っちゃった」
「……そうなんだ」
それから少しも経たずに涙目で走ってきた翔と合流し、マンションへと出発。
夕飯は流石に作る気が起きず、コンビニで買って帰ることにした。
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