30話 カードショップに行きました
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あっという間に到着した最後のカードショップは、小ぢんまりとした普通のお店。
シャルに降ろして貰うと、今更ながらに気恥ずかしくなったので、お礼を言ってから早足で店の中へと入る。

「わ、凄い」

お店の壁紙がカードの模様だ。
一発でカードショップだと理解できる。

「おや、いらっしゃい。珍しいね、お客さんなんて」
「こんにちは。珍しいって言っちゃうほど来ないんですか?」

私達に気付いた店主のお婆さんが、店の奥から顔を覗かせた。
レジ前に座ると、再び口を開く。

「ああ、そうだねえ。ここはマサドラの端も端だからね、滅多にお客さんは来ないよ」
「そうなんだ……あの、カードパックを買いたいんですけど」
「いくつだい?」
「5パック欲しいんです」
「はいよ。1500ジェニーだよ」

支払いはシャルが代わってくれて、私の手元にはカードパックが5つ。
店の中で開けるのも微妙な気分なので、とりあえず外に出た。

「しかし、こんなにお客さんが来ない感じで……生活成り立つのかな?」
「ナオ……忘れたの?」
「え、何が?」
「ここ、ゲームの中だよ? プレイヤー以外はゲームシステムの一部だから、生活も何もないと思うけど」
「おっ、おお……そういやそうだったわ。余りにもリアルすぎて普通に対応しちゃった」
「対応自体は間違ってないよ、間違った対応をすると売って貰えなかったりするから」
「そっか、良かった。しかし仕組みが複雑なゲームだな。凄いね、このゲーム作った人」
「この世の者じゃ無かったりしてねー」
「はは、まっさかー」

……まさか、ね。
この世の者じゃないっていうの、心当たりある。
翔が言っていた神様もどきの存在。
転生させることが出来るのであれば、ゲーム作成なんて簡単に出来ちゃいそう。
……うん。知る必要もないし謎は謎のままでいこう。

「じゃ、中身確かめるね」
「はいよ」

5パック全て開封し、出てきたもの。

Aランク 聖水《ホーリーウォーター》
Cランク 窃盗《シーフ》
Eランク 投石《ストーンスロー》
Fランク 暗幕《ブラックアウトカーテン》
Fランク 交信《コンタクト》×2
Fランク 掏模《ピックポケット》
Fランク 左遷《レルゲイト》×4
Gランク 防壁《ディフェンシブウォール》
Gランク 再来《リターン》×3

「おおー、Aランク! このカードは誰も持ってなかったはずだよ、やるじゃん」
「そうなんだ、良かった」
「スペルカードは全40種類集めないといけなくてさ。これであと持ってないのは二枚になったかな? 翔、出してくれないかなー」
「40種類集めると何かあるの?」
「うん、SSランクの指定ポケットカード、大天使の息吹ってやつと交換出来るんだ」
「へぇ……」

大天使の息吹って、バッテラが所望してたやつじゃなかったっけ。
これが目当てで大枚はたいてグリードアイランド攻略に何人も雇っていた、と記憶している。
スペルカードコンプリートで交換出来るものだったかな。忘れちゃった。

「しっかし、左遷《レルゲイト》ばっかりなのには笑っちゃうね。ナオ、将来会社の上司とかになったら左遷させまくったりして」
「左遷とかしないから。せいぜいクビだから」

左遷する労力使うくらいなら、早々にクビにしてもっと合う職場を見つけて貰った方がその人のためになる。
お互いにそっちの方が良いと思うんだけどね、実際はそう簡単には上手くはいかないよね。
ちょっぴり昔の仕事事情を思い出してしまった。

「それじゃ、目的も果たした事だし。戻る?」
「そうだね、戻ろ……あの、おんぶじゃダメなんですかね」

戻ろうか、と返そうとすると、シャルナークは両手を広げて待っている。
お姫様抱っこするよ、って堂々としたその態度、どうなの……恥ずかしくないの。

「ははっ、冗談だよ。同行《アカンパニー》のカードがまだあるから、それ使っちゃおう」
「え、こんな事に使っていいの?」
「大丈夫大丈夫、一枚残っていれば文句は言われないから。それとも、やっぱりお姫様抱っこで行きたい?」
「はい、さっさと同行《アカンパニー》出して下さい!」
「あっはっはっは!」

笑いながらもバインダーからカードを取り出し、私の手を取ってからスペルを唱える。
腑に落ちない顔をしながら再びの武空術体験となった。



「あ、姉ちゃんとシャル、帰ってきた」
「お帰りなさい、ナオ、シャル」
「無事に戻ってきたか」
「遅かたね。どこまで行てたか」
「ただいまー。マサドラの端のカードショップまで行ってきたんだよ。翔とフェイタンは?」
「俺達は中心部と端の中間くらいのところかなあ。なあなあ、姉ちゃん走った?」
「走っ……一応、行きは走った」

間違いではない。
最初は自分で走ったもの。最初は。
こらシャル、笑いを噛み殺すな。

「じゃあ、シャルに走り方も教えて貰ったんだろ? スゲーよな、こんな速く走れるなんて。オリンピックもビックリだ」
「オリンピックを人の名前みたいに言うな」
「そこはスルーしていいところだよ。で、カードの方は?」
「カードは……って、一緒にクロロに見せたらいいでしょ」
「おお、それもそうだ。クロロ、どこに出せばいい?」
「バインダーに入れて来たんだろう? そのままバインダーごと見せて貰えれば構わないぞ」
「「わかった」」

二人同時にブックを唱え、バインダーを開いてクロロに差し出す。
二人分のバインダーを受け取り、翔の方から確認を始めた。
そして、翔が入手したカードをみんなにも聞こえるように読み上げる。

Aランク 擬態《トランスフォーム》
Bランク 凶弾《ショット》
Bランク 妥協《コンプロマイズ》
Dランク 看破《ペネトレイト》
Eランク 道標《ガイドポスト》×2
Fランク 漂流《ドリフト》×2
Fランク 交信《コンタクト》
Fランク 左遷《レルゲイト》×2
Gランク 宝籤《ロトリー》
Gランク 解析《アナリシス》×3

レルゲイトの言葉が聞こえた瞬間、シャルが吹き出したのは見なかった事にする。
他の皆は不思議そうな顔をしていたが、次いで私のカードをクロロが読み上げた時に理解したようだ。

「二人ともやるな。総合的に見れば翔の方がいいものを引いているが、どちらも俺達が持っていなかったカードを一枚ずつ引いている。ずっと出なかったヤツだ、助かるよ」
「擬態《トランスフォーム》と聖水《ホーリーウォーター》ね。これであと一枚揃えば、指定ポケットカードもゲット出来るわね」

クロロも、パクノダも嬉しそうだ。
翔の方が引きが良いのは頷ける。
昔からクジ運が良かったんだ。同じクジを引いても私は当たらないのに翔は何個も当てる、という悔しさを味わいながら育ったんだから。

「オーラの使い方は少しは理解できたのか?」
「私はシャルから教えて貰ったから、何となくは大丈夫」
「俺も、フェイタンに教えてもらったよ」
「ふむ……では、実践あるのみ、だな。先程指定ポケットランクB、アドリブブックの情報を入手してきた。マサドラから北にある、セクドロ遺跡にて入手可能だそうだ。今からそれを取りに行くぞ」
「えっ、危険度は……」
「MAXを100とすれば30くらいだろうな」

思わず危険度を質問してしまったけれど、ぶっちゃけこの人達が居たらそんなに心配なくない?
怖いっちゃ怖いけど、精々足を引っ張らないように頑張ろう。

「そういやフィンクスとフランクリンは?」

翔が聞くまで完全に忘れてた。
キングホワイトオオクワガタ、採れたのかなあ。

「まだ到着した頃じゃないかなあ? あとで電話してみるよ」

シャルの答えに、翔は目を丸くした。
ついでに私も。

「電話? ここでも電話が使えんの?」
「ああ、そうそう。グリードアイランド内で携帯を買えば使えるよ。ほら、これ」

ポケットから取り出した携帯電話をぽいっと投げ、受け取った翔はそれをまじまじと見る。
あれってシャルナークの能力仕様の携帯じゃん……! わ、私も見たい……!!

「皆もそれぞれ携帯持っているから、次の時にでも二人の分を買ってもらったらいいわよ」
「私達にも買ってもらえるの?」
「寧ろ無いと不便だわ」
「それもそうか」
「皆、そろそろ行くぞ」

携帯の話も程々に、クロロの呼び掛けに返事をして。
セクドロ遺跡に向けて早々に出発することとなった。

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