28話 ゲームの始まりです
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「ヒーリングの使い方。傷ついた部分に口付けをし、オーラを流し込む。病気や深い傷の場合は全身に行き渡らせる必要があるため、相手の唇に口付けをしなければならない。また、自らの傷を治すには、届く範囲であれば自らの口付けで治せるが、届かない範囲であれば、一度他人にオーラを送り込み、傷に口付けてもらう必要がある。……うわー、御愁傷様」
「頼むから読み上げないで。あの、私、退部」
「出来ると思ってんの?」
「言ってみただけです」

全くもって最悪な能力である。
自らの届く範囲での傷なら別に構わない。
だが、深い傷を負ったりした場合とか、他人に口付けとか……凄く嫌なんだけど。恥ずかしいのレベルじゃない。
クロロにお願いして、基本的に使わないようにさせて貰おう。

「どうせグリードアイランドを出れば傷だってなくなるんでしょ」
「現実には反映されないけど、ゲーム内では傷があるままだよ」
「えっ」
「だから余りにも深い傷を負ったりした時は、わざと死んで一週間のペナルティを終えて、ゲームに再挑戦とかしてたんだよね。ナオのおかげで死ぬ必要も無くなったし、助かるなー」
「嘘でしょ……そんなクレイジーな。ってか、シャルは嫌じゃないの? 所謂き、キスでしょ」

ちょっと! 
キスって言うだけでこんな恥ずかしくなるなんて、どうした私!!
本格的に心も十代に戻ったな!?

「俺? 嫌じゃないよ」
「そ、そう」

嫌じゃないんだ……深い意味は無いんだろうけど、何か、ドキドキしてきた。
赤くなるなー! 頑張れ私の顔!

「説明読み終えたら次、タップして」
「わかった」

再び画面に触れると、次は真っ暗になって。 
指輪の画像が出たと思ったら、そこから現物がにゅっと出てきた。

「コレ、ナオのセーブデータだからね。どこに嵌める?」
「どこの指が合うかな」
「好きなところに嵌めればいいよ、サイズはそれに合わせてピッタリになるから」
「なんつー便利な。じゃあ、ここで」
「え、」
「ん?」
「いや、何でもない。はい、どうぞ」
「ありがとー」

シャルに指輪を嵌めて貰うと、空間に階段が現れた。
いつの間にか地面も普通にあって、歩いても怖くない。
シャルの先導で階段を下りながら、指輪をまじまじと見つめる。

この指輪にセーブデータ、ねえ。
どこの指でもピッタリになるって言ってたけど、本当にピッタリだな。
左手の薬指…………

「って! ああ!!」
「うわ!? 何!」
「ごごごごめんなんでもない」
「なんだよもー、びっくりしたな」

シャルナークに指輪を嵌めて貰ったね?
左手の薬指を指定してしまったね!?
さっきシャルが反応してたのはこれでか!!
うわー、穴があったら入りたい。シャルナークに恥ずかしいところばっかり見せてる&見られてる。
本当勘弁だよ自分のバカタレ。


階段をしばらく下りると扉があって。
そこから外に出れば、私がイメージしていた通りのグリードアイランドだった。

「わあ、広い……」

時折吹き抜ける風が気持ちよく、草木が揺れている。
空気も澄んでいるような感じだし、丁度良い気温だ。
遠くの方には町があるのだろうか、建物の影がうっすら見える。
今立っているこの場所は、見渡す限りの広大な草原って言葉がピッタリだ。
後ろを振り返れば、巨大な木。
見上げると結構な高さがある。

……あれ?
原作って、外から見ても普通の木じゃなかったような……こんなんだったっけ?
もう何年も前に見た漫画だし、細部までは記憶が出てこないなぁ。
それに、この世界自体が原作通りじゃ無いんだものね。
違ってたって当たり前、か。

「この中から出てきたんだね」
「外から見ただけじゃ、中があんな風になってるなんて思わないよね」
「うん。全くわからない……って、シャル!? 服が……!」

シャルナークを見れば制服を着ていた筈だったのに、原作衣装になってる。
お、推しだ……! 再び推しが目の前に……! の気分が蘇ってきた!!
鼻血出そう……。
こういうトコロは原作通りで有難いです。

「ああ、これ? グリードアイランドに入ると何故か衣装が設定されてるみたいでさ。皆もそれぞれ違う服になってるよ。ナオの服は……」

言われて自分の服を見ると。

「な、なにこれ……!」
「ちょっと目のやり場に困るけど、可愛いよ。うん」
「衣装チェンジは」
「残念ながら」

首から膝下までのつなぎ状の服なのだが、肩はガバッと開いているし、それが腰まで続いていて、上部分で隠されているのは胸を含めた前部のみ。
背中もガラ開きである。
角度次第でおへそも見えるぞ……。
色は、オリーブ寄りの深い緑。
胸元にもブラの代わりにパット入りの黒い布が巻かれているけど、これじゃあ心許ないよ。
膝から下は、黒いスパッツみたいな感じでふくらはぎの途中まである。
ちょっとくしゃくしゃした感じで、ここは可愛いと思う。
腕にも胸元と同じ、黒い布が手首から二の腕まで。
ずれ落ちたりしないのかなあ……。
靴は黒のショートブーツだ。
ショートブーツって、走れるのかな。

試しにちょっと駆け出して見れば、意外にも走りやすかった。

「そろそろいいかな? 早速だけど、移動するよ。ブック!」
「わっ」

シャルナークが唱えると、何もないところからバインダーがボンッと出てきた。
その中から一枚のカードを取り出す。

「ごめん、説明してなかったね。クロロの所に合流したら説明するよ。とりあえず、はい」
「わ、わかった」

少しどもってしまったのは、再び手を差し出されたからだ。
シャルが出しているのが同行《アカンパニー》のカードだったら、確かそのままでも一緒に行けるんじゃないかなと思いながらもその手に触れると、ぎゅっと握られた。
男の人を感じさせる大きな手に、また少しだけドキドキした。

「同行《アカンパニー》、クロロ」

唱えた瞬間体が浮いて、クロロが居るであろう方向に向かって加速する。
ぶ、武空術……!!




「お、来たか」
「お待たせ。問題は無かったよ」
「そうか、良かった。残りの奴らが来るまで待つとしよう」

ここはひょっとしなくても魔法都市マサドラ、かな。
球体が浮いてたりするけど、やっぱり原作で見たような物とは違う気がする。
もう原作を気にするの、やめよう。
無駄に労力使うことになる。

「クロロは元々この場所に居たの?」
「ああ、セーブデータを持っていれば前回離脱した場所からのスタートなんだ」
「そうなんだ、便利だね」
「普通のゲームってそんなもんだろう?」
「そう言われてみれば、確かに」
「ナオ、さっきのバインダーの説明とかは翔が来てからでいい?」
「あ、もちろんだよ。二度手間になっちゃうしね、ありがとシャル」



話をしながらだとそんなに待たない内に、全員が揃った。
それからシャルナークが私達姉弟にバインダーの出し方と、カード、スペル等々の説明をしてくれて。
一応、元々の知識としては知ってたものだったから、一度聞いただけで覚えることもできた。

翔の服装は私よりも全然良くて、カンフー映画に出てきそうな感じ。
カンフースーツっぽいんだけど丈は短く、へそ上辺りまで。
全面には飾り紐が綺麗に付いていて、ズボン、膝くらいまでのブーツ。
腰からも帯っていうか、綺麗な飾り布が垂れ下がっている。
上は黒、下は私の服と同じでオリーブ寄りの深緑。
ブーツも黒、飾り布は金の刺繍が入った紫。

正直カッコいい。
悔しい。

翔が、私の服をまじまじと見て一言。

「まじかよヤベエな」
「私が選んだわけじゃない」
「あたっ、悪い意味じゃねーよ! 叩くなよ!」
「悪いニュアンスに聞こえた」
「いや、体に自信ないと出来ない格好だよなーと思って……あ」
「あ?    ひぃややややや!!」

ぞわぞわした! ぞわぞわしたよ!!
誰だよガラ開きの背中につつつ、と指を這わせたヤツ!!
思い切り腕を振り回したが、既に後ろに人は居らず。

「そんなんで当たるわけないね」
「やったのはフェイタンか!」

すぐ横に居たフェイタンをひっぱたこうと思ったのだが、案の定空振りに終わった。

背中の鳥肌パネエ。
やっぱり衣装チェンジしたいです。

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