27話 グリードアイランド
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グリードアイランド。

稀少価値の高いゲームで、本数自体もとても少ない。
この世界では開発者は不明。

精神を飛ばして仮想空間の中で遊べるゲーム。
精神体で入手したものは、クリアすれば3つだけ現実に持ち込むことができる。

ゲームの中で死ぬと丸一日意識不明の状態になるが、現実で死ぬことはない。
一週間後、再び遊べるようになる。

適性がないと、ゲームに入っても即座に弾き出される。
ゲームに受け入れられた人間しか入れない。

グリードアイランドで遊んだことのある人間は、現実でもオーラが使えるようになる。
ただし、現実に戻って一週間が経過するとその効果は失われる。
オーラは好きな部分の強化に使える。


……原作だと色々説明があったから、グリードアイランドの概要っていうか仕組みもわかったけど、この世界じゃ謎扱いなのかな。
そもそも精神体で入手したアイテムを現実化できるとか、どうやったら出来るのそんなこと。
実際にクリアした人っているのだろうか。
更には他にもグリードアイランドみたいなゲームとか、あったりして。


「だから皆は早く走れたりするんだね」

翔の言葉に私も頷く。
この世界には念がないのに原作と変わらない部分がある事に対しての謎は解けた。
でも、一週間の期間限定なのね。
継続してるって事は、一週間のうちに必ずグリードアイランドをプレイしてるのだろう。

「そういう事。グリードアイランドの恩恵、ってわけ。だからゲーム部の奴らも俺達みたいな感じだよ」
「これだけたくさん強化人間がいて、この学園は大丈夫なのかな……その力を使うところとか、見られてないの?」
「大丈夫だよ、ナオ。走るとこなんかは一般人には見えてないし、問題事を起こしているわけじゃない。特に今までグリードアイランドが噂に上がったことはないよ?」

不良達を返り討ちにしたっていうのは謂わば問題事だと思うんだけど……本人達にその概念はなさそうだ。
グリードアイランドが噂になってなくても、そういう集団とは思われているんだろうな。
じゃなきゃ生徒達だって遠巻きにするまい。
ゲーム部は周りからどんな目で見られてるんだろ。気になる。

「説明はこんな感じなんだけど……質問とかある?」
「んー、現実で死ぬことはないっていうのはわかったし……あとはやりながら、って感じかなぁ。翔は?」
「俺もそんな感じかな。やってみなきゃわからないもんな。……あ、ゲームをプレイするのに何か必要なアイテムとかってあんの?」

おお、忘れてた。
確か指輪が必要なんだったよね。
あと、一台のゲーム機で何人も入れるのかな。
やっぱりマルチタップ付けての八人かな。

「今は特にないかな。最初に指輪が貰えるから、次からはコレが必要になるよ」

シャルナークは胸元のポケットから出した指輪をそのまま嵌めた。
指輪はセーブさえすれば現実でも具現化されるらしい。
それも謎だ。

「団長、今日俺行くでしょ?」
「ああ。もちろん俺も行く。後はフェイタンは決定として……残り三人だ。行きたいヤツはいるか?」
「俺ぇ!」
「俺も行きたいぜ!」
「俺も」
「私も行きたいわ」
「アタシも」
「ぼくも」
「俺もだ」
「俺も」
「私も行きたいです」
「……全員、か。そしたらコインで決めてくれ」

クロロが一枚のコインをピィン! と弾くと、一斉に裏! だの表! だの騒ぎ出した。
一回では決まらず、結局ジャンケンになってる。

最終的に決まったのが、フィンクス、フランクリン、コルトピ。
……だったのだが、コルトピが「女の子一人も居ないとナオが不安でしょ」と言ってパクノダと代わってくれたのだ。
ゴン、キルアに次ぐ天使だな!
可愛いよコルトピ。今度お菓子あげるね。

「では、説明も終わったようだし……後はプレイしながら解っていくことも多いだろう。最初は絶対俺達から離れるなよ、いいな?」
「うん、わかった」
「了解〜!」

了解、と応えた翔の返事に若干気が抜けた。
か、軽いよ。
死なないってわかったから気楽になったのかな。
私はまだ微妙に怖じ気づいてる部分がありますけれども。

「じゃあ、後は任せたぞ」

残る団員達に、クロロが言う。

「残った人達にも仕事があるの?」
「プレイ中は、意識の無い抜け殻だからな。見張りが必要だろう」

ああ、そうか。
意識を飛ばすんだった。
確かに、八人が倒れているのを発見されたら救急車呼ばれちゃうもんな。
でもさ、それってここでやらなきゃいいんじゃないのかなあ。

「どこか他の場所で、っていうわけにはいかないの?」
「あくまでも部活動の一環だからな」
「そこ、拘るんだ?」
「学生のうちは」

なるほど、わからん。
学生のうちはそれらしいことがしたいって意味かしら。
わからん。

「さ、そろそろ行くぞ。ナオと翔はフェイタンとシャルナークと一緒に来い」

言いながらクロロは部室の隅に向かい、ゲーム本体の電源を入れてからコントローラーのボタンを押した。
そして倒れる前に、すかさずウボォーギンが体を支えて、移動させる。
本当に意識失うって感じなのね……やっぱり怖いな。

「じゃあ、俺達先に行こうか。フェイタン、いい?」
「好きにするといいよ」
「サンキュー。ナオ、手を出して」
「手? はい」

言われるがままにシャルナークに手を差し出すと、その手を掴まれた。
あれ、これ、手を繋ぐって事?

「いくよ」

シャルナークがコントローラーを操作し、一瞬視界が真っ暗になったかと思うと突然景色が変わって。
体がふわふわとした感覚に襲われる。

「ふわふわ……う、浮いてる!?」

びっくりして思わずシャルナークにしがみつくと、彼は私の腰に手を添え、支えてくれた。

「はは、大丈夫だよナオ。落ちることはないから。ここは一番最初に必ず来る場所なんだ」
「初めてプレイする時だけ?」
「うん」
「そっか。よ、良かった。シャルも居てくれて助かった」
「こうなることを見越して俺と一緒に、って言ったんだよクロロは。言われなくても一緒に入るつもりだったけど」
「あ、わわ、離さないでお願い!」

話ながらもやんわりと手を離そうとするシャルナークに、逆にガッシリとしがみつく。
落ちることは無くても落ちそうで怖いんだよ!

「わかったわかった、離さないよ」

クスリと微笑むシャルナークに、羞恥心で顔が赤くなる。

「このままゆっくり進むよ。大丈夫?」
「う、うん」

シャルに連れられて進んだ先には、銀行のATMのような機械がポツンと置いてあった。
画面を覗くと、どうやら初回の登録画面のようだ。
双子姉妹の片割れガイドさんは居ないのね……ちょっと残念。

「これ、入力していけばいいのかな?」
「うん、わからないとこあったら聞いて」
「ありがとう。ちなみに、シャルはここにくる必要って無かったんでしょ? 初心者と一緒に来れるもんなの?」
「付き添いとして一人は一緒に来れるシステムになってるみたいだよ。俺達も色々試してみたからさ」
「そうなんだ。理解した」

画面に手を触れると、名前入力欄が出てきた。
皆はそのまま自分の名前を使っているので、私も捻らずナオで。
年齢、性別、職業を入力すると、画面が切り替わって能力説明の文章が出てくる。

「ん? 能力ってなに」
「グリードアイランドに入ると、それぞれに合った能力を与えてくれるんだよ。これはゲーム内限定能力で、現実では一切無効だけど」
「へえ、そうなんだ……私の能力は……ヒーリング?」
「ナオ、回復系能力なの? レアじゃん、凄いね!」
「回復ってレアなの?」
「うん。旅団内では一人も居ないよ。他にも見たことないなあ」
「ちなみにシャルの能力ってなに?」
「俺は操作系能力だよ。スマホを使って人を操ることが出来るんだ」
「……聞いておいて何だけど、そんなにあっさり教えてくれていいの?」
「教えたところで簡単にはやられない自信あるし、ナオは仲間だから問題ないよ」
「な、仲間か。そっか」

仲間っていう響きが嬉しかった、なんて、恥ずかしくて言葉には出来ない。
私の回復系能力は原作では無かったけど、シャルはやっぱり操作系なんだね。
他の団員もみんな原作通りかな。
翔は何だろう、後で教えてもらお。

「タップすると能力の使い方が出てくるよ」
「あ、使い方も決められちゃうのね」

自分で考えるのは苦手だし、有難いなー、なんて思いながら画面をタップすれば、有り得ない説明文が出てきた。
……やっぱり入部を早まったかしら。

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