26話 入部初日です
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入部初日。
運動部のように朝練はないので、いつも通りに学校に行くと、再び生徒達がざわついた。

多分、正式に入部したからだろうなーと思うんだけど。
私達姉弟は旅団みたいな力はないのにね。
シャルナークが隣にいるってだけでこっちを見ない事には慣れた。
あ、シャルナークファンの熱視線はビシバシ刺さってます。

「あ、三条院さん」
「桜子さん?」

シャルナークの声に振り返れば、他の生徒達とは裏腹に、ずんずん近付いてくる桜子さんの姿が見えた。

「ナオ、おはよう。シャルナーク様もおはようございます」
「桜子さんおはようございます」
「おはよー」
「ナオ……!」
「うおっ、な、何ですか」

桜子さんは突然私の肩を掴み、ずいっと顔を近付けた。

「あなた、不思議な力で小野江さんを倒したって本当なの?」
「え? 小野江さんって誰ですか?」
「ドーナツ屋さんでアルバイトをしている子よ」
「ドーナツ屋……って、あの人。…………えぇ!? 私がやったことになってるの!?」

バッとシャルナークを見れば、笑いを堪えきれていない様子。

「桜子さん! それは私ではありません!」
「でも、小野江さんが貴女にやられたって吹聴しているわ」
「はぁ? あの女、まだそういう事する?」
「「!」」
「シャル! あの人に無駄な時間使うこと無いよ、放っておこ」
「ナオが言うならいいけど。確かに無駄な時間だしね」

桜子さんの言葉を聞いたシャルナークは、一瞬にして表情を変えた。
桜子さんも私も体に力が入って固まりかけたけど、即座にフォローを入れればにこやかな笑顔に戻って一安心。

「それに、ナオはトレジャーハンター部に正式入部したから。三条院さん、伝えといてよ」
「まあ……! 貴女、トレジャーハンター部に入ったの!?」

桜子さんが大声で言った瞬間、周りで然り気無く聞き耳を立てていた生徒達からどよめきが。
あれ、さっさのざわつきはもしかして私が小野江さんを倒したっていう噂からだった?
正式入部の事じゃなかった?

「成り行きってか、入らざるを得なくなりました」
「そうなのね……それじゃあ益々ウボォーギン様との距離が……近く……!」
「イタタタタ! 肩! 肩痛い! 大丈夫です桜子さんの事アピールしておきますから!!」
「あらっ、まあまあ、なんて良い子なのかしら……! ナオ、私はいつまでも貴女のお友達ですからね! では、失礼するわ」

桜子さんは、相変わらず嵐のように去っていった。

「ウボォーと同じ部活が羨ましいなら桜子さんも入ればいいのに」

ぼそりと呟けば、シャルナークがそれに応えてくれる。

「団長が気に入ったヤツじゃないと、入れないんだよね」
「そうなの?」
「そうだよ。俺達は所謂幼なじみ枠。後から入ってきたヤツらは団長が勧誘したんだ。まあ、幼なじみじゃなくても同じ中学出身のヤツらだけど」
「そうだったんだ」

気に入って貰えた、っていうなら嬉しいけど、私達姉弟は転生者だから、の要因が強いよね。
普通にこの世界に生まれていたとしたら、関わることも無かったんじゃないかな。

しかし、桜子さんの態度は相変わらずで嬉しかった。
こちらこそ、いつまでもお友達で居てくださいとお願いしたい。

教室に入ってからは、弥生ちゃんも近寄ってきてくれた。
どうやら腹を括ったらしい。
旅団の誰かが側にいるときは無理だけど、そうじゃない時ならお喋りしたいって言ってくれたよ。
ありがたや、ありがたや。




そして、来る放課後。
私はシャルナークと共にトレジャーハンター部の部室前に来ていた。
翔は既にフェイタンと同行し、部室に居るらしい。

「な、なんか緊張する」
「ナオって度胸があるのかないのかわからないよね」
「時と場合によるよ、そんなもん」
「そんなもんて。まあいいや、入るよー」
「あぁっ」

シャルナークは話ながらも普通にドアを開けてしまった。
このマイペース男め。

「あー、来た来た、ナオ」
「いらっしゃい」
「こいつが噂の」
「歓迎するぜ」

旅団の面々が口々に言葉をくれる。
フランクリン、ボノレノフ、コルトピ。初対面のメンバーもいて、旅団が勢揃いしている。
しかも部屋の中は暗めの瓦礫の山状態でいらない物が散乱していて、それぞれが好きなように座っているから漫画のワンシーンが蘇った。

瞬間、鳥肌が立つ。

真ん中に座っていたクロロが立ち上がり、私に向かって手を差し伸べた。

「ようこそ、我がトレジャーハンター部へ」

それはとても様になっていて、舞踏会の王子様さながら、ときめいてしまった。

「よ、よろしくお願いします」

上手く顔を上げられなくて、どもりながらもその手を握り返す。
するとクロロはフッと笑って、頭を二回、ポンポン、と軽めに叩いた。

〜〜〜クロロってこんなにイケメンだったっけ!?
いや、イケメンなのは知ってたけど、何て言うか刺さるよヤバいよ。
そんな事を思っていると、それを打ち消すかのようにシャルナークが私の頭をくしゃくしゃに掻き回した。

「うわっ、何すんの!」
「これでみんな揃ったね、早速説明する?」

シカトかーい。
おかげさまで我に返ることができたけど。
クロロの破壊力ヤバいわ、うっかりクロロ沼に落ちそうになったわ。

「まずは自己紹介からじゃないかしら」
「あ、さすがパクノダ。自己紹介は有難い」
「翔、あんたそんなとこにいたの」

部屋の端から翔の声が聞こえたと思ったら、おずおずとこちらに寄って来る。

「だって、どこに座ったらいいかわかんなくて」
「どこでもいいって言ってんのによ、遠慮してんだよコイツ」
「ぐわっ、やめろノブナガ!」

ちょっと恥ずかし気な翔の脇腹を突ついたノブナガは、楽しそうに笑っていた。

「普通に机とか並べたりしないの?」

隣のシャルナークに聞けば、彼は苦笑して。

「ここさー、元々はそのうち廃品回収に出す予定の置物部屋だったんだよね。部室が欲しかったから、ここでいいやって事になったんだけど。片付けるつもりが居心地良くなっちゃって、そのままなんだ」
「……女の子達はそれで良かったの?」
「アタシは気にしないよ」
「私は慣れたわ」
「私もそんなに気にならなかったかなー、こういうもんなのかな、って」
「……なるほど」

そのおかげで旅団のワンシーンを思い出すことも出来たし、こちらとしては嬉しかったけど。
個人的には綺麗に片付けたい気分だ。


「この中で一ノ瀬姉弟と面識がないのは……フランクリン、ボノレノフ、コルトピの三人だけか?」 

クロロの言葉に翔と同時に頷くと、三人に自己紹介を促した。
私達はいいのかな? と思っていたら、お前達の事は知っているから、とフランクリンが制した。

「俺は3年のフランクリンだ。団長、ノブナガ、パクノダと同じ薔薇組」
「俺も、薔薇組のボノレノフだ。よろしくな」
「ぼくは1年のコルトピ。シズクと同じクラスだよ。翔の隣ね」

自己紹介をしてくれた後、三人が握手を求めてくれたのでこちらこそよろしく、と返した。

「では、自己紹介も済んだことだし。我々の活動の説明に入ろうか。シャル、頼めるか?」
「了解。二人とも、適当なところに座って聞いてね」

言われるがままに適当な場所を探して座るが……やっぱり不要品と言う名の瓦礫の山に座るのは何だか抵抗があるので、次に来るときは椅子を持ち込む事にしよう。

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