25話 ドーナツ屋さんに行きました
bookmark


ドーナツってさ、基本的には丸い形だったよね?
こんな小さな四角がいっぱいのものじゃ無かったよね?



ドーナツ屋に到着し、店内はそこそこに空いていたので折角だからここで食べて行こうよ、と提案したのは私だ。
フェイタンもシャルナークも頷いてくれて、注文したドーナツが席に届くのを待っていた。
そもそもドーナツって、トレイに乗せてもらって自分で持っていくんじゃなかったっけ?
ドリンクも頼んだから、どうせなら全部一緒に、って感じで運んでくれるのかな。
丁寧な接客だなー。なんて。
思ってたけど……大きな間違いだったよね。

「お待たせ致しましたぁ、ごゆっくりどうぞぉ」

店員さんの語尾には確実にハートマークがついていたし、シャルナークとフェイタンを見る目がハートだった。
この二人目当てで運んでくれたのか。
私を見た瞬間、真顔になるのやめろや。

「今の子、三年に居た気がする」
「え? 同じ学園の人なの?」
「うん、多分ね」
「ああ、だからコレ……クク、面白いね。ナオに対する嫌がらせか」

運ばれてきたトレイを見るや否や、私が頼んだドーナツのみ、小さな四角に切り刻まれていたのだ。
ドーナツって形も楽しみのひとつだよね。
……なんとまあ、わかりやすい嫌がらせ。
フェイタンは小さく肩を震わせている。
シャルナークはニコニコ顔のままだ。

しかし、この二人の前で堂々と嫌がらせするその度胸が凄いと思う。
こういうヤツは、責め立てたところで他の店員の所為にするにちがいない。

「これはこれで食べやすいからいいけど」

ひょいっと摘まみ、口に放り込む。
味は美味しいよ、うん。

「どれどれ?」
「ワタシも貰うよ」
「あー! ちょっと、自分達のあるでしょうが!」
「そんな怒らないでよ、ほら」
「んぐっ」

シャルナークの注文したドーナツを口に詰め込まれ、強制的に黙らされる。
ていうか、これって店員さんの思惑とは違う方向に……み、見てるよこっち。顔が般若になっておりますぞ。

もぐもぐと一口分だけ飲み込み、席を立つ。

「さすがに居心地悪いから帰るわ。中で食べようって言ったの私なのに、ごめんね」
「えー、大丈夫でしょ。もうすぐあの子いなくなるし」
「ナオが気を使う必要ないね」
「いなくなるってどういう……」

どういう事? そう問いかけようとした時、お店のレジカウンター付近がざわついた。
何事かと目線を向ければ、今まで私を睨んでいた人が倒れたようだ。

「…………どっち?」
「「何が?」」

二人の顔がニヤニヤしていることから、シャルかフェイか、どちらかがあの人に何かしに行ったに違いない。

「そもそもね、ナオに嫌がらせしていいのは俺たちだけなんだよ」
「他のヤツにやられる筋合いないね」
「あんたたちに嫌がらせされる筋合いも無いんだけど」
「まー、とりあえずこれで落ち着いて食べれるでしょ」
「そういう事。ホラ、これも美味いよ」
「むぐっ」

フェイタンから食べかけのドーナツを口に突っ込まれ、再び強制無言状態。
仕方なしに咀嚼すれば、あら……抹茶ドーナツ美味しいわ。
嫌がらせといえば、桜子さんのは嫌がらせに入らなかったのかな。
シャルにとって、ただひたすらに遊べる人物だったのかしら……不憫だ。
桜子さんがウボォーギンと結ばれますように。



ドーナツを食べ終わり、ドリンクも全て飲み干したので、お持ち帰り分を購入して。
それからスーパーに寄って、夕飯のお買い物。
青椒肉絲の材料を買って帰ると、待ってましたと翔が出迎えた。

「やったー! ドーナツドーナツ♪ ……シャルナークもフェイタンも遊びに来たの?」
「今日の夕飯、一緒に食べていいてナオが」
「是非ご一緒に、とナオが」
「ちょっと待て、言い出しっぺは私ではない!」
「……とにかく、二人とも夕飯食べてくって事だね。しかし姉ちゃん、随分仲良くなったよなぁ」

しみじみと言う翔に、私は思わず頷いた。
最初は推し推し言ってたり、怖がったり感動したりで色々あったもんね。
今じゃ嘘みたいに馴染んでる。
この世界であって原作世界ではないからこんなに馴染めるんだろうとは思うけど、原作だろうがそうじゃなかろうが、目の前にいるのは私が好きになった人達だ。
私は! あの! 幻影旅団と仲良くなったぞ!

「そういう翔こそ仲良しじゃん」
「否定はしない。二人とも、夕飯出来るまで新作ゲームやってく?」

言うや否や、翔はちゃっかりとドーナツを抱えたまま自室へと引き返し、その後ろからシャルナークもフェイタンも付いていく。

あんにゃろう。
しれっと逃げたな、当初の約束事を完全に忘れてやがる。
条件として、弟と一緒につくるっていう項目があったはずなのに……初日に破棄されたようなもんだけど。
夕飯出来るまで、って、誰が作ると思ってんだ。
ドーナツだけじゃ喉詰まるだろ、飲み物なんて持っていってやらんからな。


ぶつぶつと文句を言いつつ、キッチンへ移動する。
念入りに手を洗ってから調理開始だ。

まず、ご飯を炊かなきゃ。
青椒肉絲をそのままご飯に乗せても美味しいよね。
お米研ぎを終えたら炊飯器のスイッチを入れて、と。
お肉を切って、ピーマン切って、たけのこを袋から出して、からの軽くすすいで。

順番に炒めて、青椒肉絲の素を入れるだけのお手軽料理、完成。
今時はそのまま味付けが出来るソースとかあるんだもんなー。便利だよな。
昔は全部自分でやらなきゃいけなかったのに。
いつもは他国産のたけのこを使っていたけど、今日は食費も出してもらえることだし国産たけのこを使用した。
大差無いように思えるけど、美味しさが全然違うんだよね。
素材って大事。

「いいニオイする。もう出来たの?」
「ぐえっ、おも、い!」

フライパンからお皿に盛り付けようとしていたところにやってきたシャルナークは、私の頭にのし掛かってきた。
フライパンもシャルも、ダブルで重い!

「シャルのおかず減らすよ」
「やだよー、ちょっとした嫌がらせじゃんか」
「だから嫌がらせされる筋合いないっつの」
「ちょうどいい位置にあったからさ、つい。ごめんね?」
「今度やったら確実に減らす。ウボォーのところに増やす」
「何でウボォー?」
「単純に一番食べそうだから」
「何だ、何か理由があるのかと思っちゃった」
「特に理由なんてありません! ていうか何しに来たの」
「酷い言い種! 翔とフェイが白熱してるから、手が空いた俺は手伝いに来たんだよ」
「それなら最初から素直に手伝ってよ」
「もう出来上がってたからいいかなぁ、って」
「確かにやることないな。じゃあ、はい。これテーブルに持っていって」
「あ、俺のもうちょい盛って」
「さっさと持っていく! 減らすよ」
「ちぇ。はいはい」

四人分のお皿に分けた青椒肉絲を運んでもらい、ご飯をよそって、味噌汁は手抜きのインスタント。
インスタントと言ってもフリーズドライの美味しいやつ。

全て揃ったところで翔とフェイタンを呼ぶと、二人は直ぐに下りてきた。

文句を言ったりごちゃごちゃやっているけど、何だかんだ自分が作ったご飯を美味しいって言いながら食べてくれるのは、とても嬉しいし、幸せだ。
食卓を囲む三人の顔を見ていたら、自然と顔が綻んだ。

prev|next

[戻る]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -