24話 お出掛けです
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「ねえちゃん、正式入部したんだって?」
「うん。にっちもさっちもいかなくなって、仕方なく。翔は?」
「俺は……誘惑に負けて……」
「誘惑?」

翔の顔が赤くなっていることから、こりゃマチと何かあったな、と思っていれば大正解。
マチから勧誘された翔は、デートしてくれれば入部する、と条件を付けたそうだ。
そう言えばマチは引くだろうと考えたか、これまたアッサリとOKをもらった。
引くに引けなくなったのがアホの弟で、その場に居たゴンとキルアからの大ブーイング。

「……あんた、残念すぎる」
「俺もそう思う」
「友情の方は大丈夫なの?」
「それがさあ!! あの二人、天使すぎねえ!? 入部するもんは仕方ないけど、たまには遊んでくれよな、って言ってくれちゃって!」
「なにその天使……!! おねーちゃんも遊びたい」
「姉ちゃんも一緒に、って言ってたよ」
「これもう入部取り消してヒソカをトレハン部に入れたらまるっと収まるんじゃないの」 
「出来るわけないだろ」
「ですよな」

ハァー、と、二人して深いため息を吐いた。
今日は日曜日で、明日から正式にトレジャーハンター部に所属となる。
つまり、召集が掛かれば参加しなければいけないわけで。

グリードアイランドかあ。
確かに、面白そうだと思う。
カードを集めたら達成感も得られると思う。
でも、それは実在してなかったから言えることであって。
実際に自分がプレイするとなったら、普通に死にそうでまじで怖いです。

「そういやあんた、デートっていつ?」
「まっ、まだ日にちは決めてない」
「マチの事はガチですか」
「ガチなわけないだろ、姉ちゃん俺の話聞いてたよね!? そりゃ美人だし、あんな彼女居たらめっちゃ嬉しいけど、入部を遠ざけるための発言だかんな!」
「はいはい、私は応援してるよ」
「おっ、ちょっ、待てー!」

呼び止める声を後ろに、玄関に向かう。
マチが妹になったら嬉しいから、翔のことは普通に応援するよ?
弟のことはわかるよ、姉ちゃんだもん。
あんた、絶対マチに惚れるわ。

「どこ行くんだよ、姉ちゃん」

玄関まで追い掛けてきた翔の声のトーンは素に戻っていた。

「ドーナツ屋に行くんだよ。こないだケーキ買いそびれたのを思い出したら、妙に食べたくなったから」
「ケーキ買いそびれたのにドーナツ?」
「そこはまあ、気分の変化」
「俺のも買ってきてよ」
「もちろんそのつもりだよ、じゃあ行ってきまーす」
「ありがと! 気をつけてな!」

ひらひらと手を振り、玄関から出ると今から家に入ろうとしているフェイタンに出くわした。

「ナオ」
「フェイタン、こんにちは」
「ひとりか? どこ行くよ」
「ドーナツ屋だよ。見りゃわかるでしょ、ひとりです」

挨拶返してくれないんかい、と思いながら返事をすると、フェイタンの眉間に皺が寄った。

「オマエ……忘れたか? ナオと翔はひとりでの外出禁止よ」
「え? あ、あー……入部してもダメなの? っていうか休日も??」
「入部したところでまだ活動もしてない癖によく言うね。当分の間、休みの日も家以外は誰かと同伴よ」
「そっかー。まあ、誰かと一緒が嫌って訳じゃないし、万が一にもゲーム部に出会っても対処してもらえるもんね」
「そういう事。行くよ」
「行くよって、何処に?」
「ドーナツ」
「え」
「行かないのか? なら帰れ」
「いやいや行きます」
「ささと行くよ」

背中をバシッと叩かれ──フェイタンなりに軽くしてくれたようだけど、そこそこに痛い──、フェイタンは階段を下りていく。
一緒に行くって素直に言ってくれればいいのに。
心の中で悪態をつけば、ギロリと睨まれた。
怖いよ!!

マンションから5分くらい歩いたところで、スマホからLINEの通知音が聞こえた。
フェイタンは立ち止まって待っていてくれてるので、鞄から出してスマホを見てみるとシャルナークからだった。

「何だろ」
「大方何処か出掛けてないかの連絡よ」
「ああ、なるほど。ちょっと通話するね」
「ああ」

アプリの通話ボタンを押すと、すぐに聞こえきたシャルナークの声。

『あ、ナオ? 今何処にいるの?』
「マンションからドーナツ屋に向かって5分くらいのとこー」
『わかった、そこに行くね』
「え、大丈夫だよ。フェイタンがいるから」
『フェイタン? 一緒にいるの?』
「うん。玄関の前で会って、一緒に来てくれてる」
『ふーん……ちょっとフェイタンに代わって』
「ん? うん。フェイタン、はい」
「は?」
「シャルが代わって、って」
「、チ。面倒な……」

面倒な、と言いつつちゃんとスマホを持つあたり、可愛いとか思っちゃうのは仕方ないと思うの。



「終わたよ」

一言二言交わして、フェイタンは私にスマホを戻してきた。
通話は切れているみたいなので、スマホは鞄に戻す。

「見つけた見つけた。ほんと、近くに居たね」
「うわっ!?」

突然肩を叩かれ、耳元で声がしたので超びっくりしたよ!
心臓バクバクいってるよ。

「シャルも行くそうよ」
「早く言って!?」
「言おうとしたらもうナオの後ろに居たよ」
「ごめんね、来ちゃった」

来ちゃった、じゃねーわ。
日々サプライズ状態は勘弁してよ。

「話聞いてたら俺もドーナツ食べたくなっちゃった。さ、行こ」

追い返しても仕方ないので、三人で並んで歩く。
当然のように私が真ん中。速度も合わせてくれている。
そこまでしなくても大丈夫なのに、と思う反面嬉しさもあるから何も言わない。
私はズルイのだ。

「どうせなら皆に買て行けばいいね。夕飯代わりよ」
「夕飯代わりとか嫌だよ、ドーナツはおやつだおやつ! ウチは夕飯はちゃんとしたもの食べますー」
「今日は何作るの?」
「今日は翔が青椒肉絲食べたいって言ってたから、それ」
「ワタシの分も増やすね」
「フェイ、抜け駆け禁止! 俺も食べたい」
「…………二人が黙っててくれる上に、材料費出すってんならオーケーです」
「当然よ」
「大丈夫だって、わかってるよ」

駄目って言ったところでこの二人はどうせ乗り込んでくる。
だったら、反論せずに受け止めた方が楽なのだとわかったのは最近の事だ。

「じゃ、ドーナツ屋の帰りにスーパー行こ」

そう約束して、再びドーナツ屋へと足を向けた。

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