18話 青春って何だっけ「友達作りに協力してくれるのはとても有り難いけど、出来れば普通の友達がいいよ」
「普通の友達なんて今更出来ると思ってんの?」
えー、と驚いた顔なのがむかつく!
「アンタたちの所為でしょうが!」
「あっはは」
笑いどころじゃないっつの。
「しっかし面白かった。三条院さんがいいキャラしてるのはもちろん、ナオ、1人壁ドン……くっ、くくく……アイタ!」
体を丸めて肩を震わせているシャルの背中に平手打ち。
ちっとも痛くないくせに大袈裟な。
てかこれくらい許されるだろ。
「しかし桜子さん、ウボォーラブ具合が半端ない」
「一年の時からずっとだからね」
「ずっと!?」
「一年の時に捻挫したところを助けて貰って、それかららしいけど。俺のファンを装ってウボォーに近付きたいと思ってるんだよ、馬鹿だよねぇ」
「馬鹿って……ひょっとして、私にくれたように貰ったもの横流ししてたりするの」
「女の子に横流ししたのはナオが初めてだよ? フィンとかノブナガに横流しする時は多いけど。それ見てヤキモキしてる三条院さんを見るのが楽しくてねー。俺に渡すの止めればいいのに」
ほんと、桜子さん……何故シャルに渡し続けたんだ。
「まあ、でも全部じゃないけどね。俺、そこまで酷くないよー」
「説得力ゼロだよ。でも今回でウボォーと喋れるようになったらいいなあ、桜子さん」
「そうだねー」
適当に返事をするシャルに、こいつどうでも良さそうだな、と思った。
「もういいや。買い出しして帰る」
「俺も行くよ」
「え、でもさっきウボォー……は、無理だな。じゃあお願いする」
「OK」
階段を降りて、一階に移動する。
自転車置き場までは保健室の横を通らなきゃならないんだけど、まだ二人とも居そうだし、そこでウボォーに声掛けられたら桜子さんからはずっと恨まれそうだし。
素直に遠回りすることにした。
そうして自転車置き場に到着すると、いつもの場所にあるはずの自転車がない。
イカルゴさんから貰った大切な自転車!
「何で! 自転車がないんだけど」
「ああ、ナオの自転車ならマンションにあるよ」
言いながら、少し離れた場所にて自転車を動かしているシャルナーク。
「なにゆえ……あれ、シャルさんや。その自転車は?」
「これ俺の。さっき買ってきた」
さっきっていつだよ……!!
「私の自転車は何故にマンションに?」
「俺が持って帰ったから?」
「鍵がかかってた筈だけど」
「そりゃ壊すよね」
壊すよね、じゃねーよ! 何してくれてんだ!
「大丈夫だよ、新しいの買ってあるから。それも一緒にマンションに届けてあるから。ね、これ乗って買い物行こうよ」
「新しいのがあるならいいけど……乗るって、二人乗りするの?」
「そう」
「もしかして二人乗りがしてみたかったの?」
「そう……、じゃないけどそれでもいいや」
「適当……!」
「まあまあ、自転車があれば一緒に登下校できるじゃん。これで脱ぼっちだよ」
私の脱ぼっちのために買ったの!?
有り難いけどなんか違う!
「でもそれなら私の自転車、持って帰る必要なくない?」
「二人乗りの方が早いじゃん」
「……シャルが漕ぐなら、そうだね」
1人で自転車に乗るより、旅団メンバーが漕いでくれる二人乗りの方が確実に早いよ。
並走するより二人乗りの方が動きやすいよね。
わかります。
「ほら、いいから乗った乗った!」
「……はーい」
色々と諦めるしかないので、それ以上の文句も反論もせずに誘われるがままに乗る。
「前向きなの?」
「前向きだめなの?」
「横向きの方が女の子らしいじゃん」
私に女の子らしさを求めるなよ。
横向きは怖いから嫌なんです。
「ああそうだ、ジャージ持ってたら履いた方がいいかもよ。パンツ見えちゃうから」
「パンツって。大丈夫だよ、お尻浮かさないから」
「んー、ナオがいいなら別にいいけど。じゃあ、しっかり掴まっててね」
「はいはい」
言われた通りに掴まると、なかなか出発しないので顔を上げれば、シャルがジト目で私を見ているではないか。
「え、なに?」
「ほんとナオはさあ……それじゃ落ちるに決まってんじゃん。もっとぎゅっときてよ」
「ええ!?」
「ほら、こう!」
「ぅわっ」
「じゃ、行くよー」
ぎゅっと、って、これ! 後ろから抱き付いてるみたいじゃん!
こんなのシャルナークファンに見られたらと思うと恐ろし……早えええ!!!
シャルが自転車を漕ぎ出すと、どんどんとスピードに乗っていく。
これ、自転車かホントに!
こりゃぎゅっと捕まってないと落ちるわ! ロマンの欠片もない!
「飛ぶよー!」
「飛ぶ!?……ゅわっ!!」
坂道上がりきったと思ったら飛んだよ!!
うわこれ着地こわいこわいこわいこわ……
「イテェ!!」
「もうちょっと可愛い悲鳴にしてよー、つまんないな」
アンタのつまるつまらんを提供してんじゃないのよこっちは! ってか!
「シャル! 止まって!! スカートがぁぁ」
飛んだ瞬間にお尻も浮いて、しっかり挟んでおいたスカートが思い切り捲れてる!
このスピードだから誰も見てないかもしれないけど万が一見られてたら恥ずかしい!
恥ずかしさの余りに叫べば、シャルは急ブレーキをかけた。
その勢いに、更に強く掴まる。
「だーから言ったじゃん。ジャージ履いた方がいいかもよって」
「ジャージ云々より、ゆっくり走って欲しいです」
「ゆっくり走ってたら時間なくなっちゃうよ?」
「大丈夫だよ、昨日まで私のゆっくりペースで夕飯も間に合ってたんだから」
「えー、でも」
「私はシャルの分だけ夕飯作らなくてもいいんだけど」
「よし、ゆっくり行こうか」
夕飯を脅し材料にして、無事ゆっくりにして貰ったんだけど。
それでもいつスピードを上げるか不安で仕方なかったので、ずっとしがみついていれば、シャルナークは終始可笑しそうに笑っていた。
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