17話 美少女は仲間になりました放課後、言われた通りに昼休みと同じ場所に行けば、美少女は仁王立ちで待ち構えていた。
仁王立ちて。それでいいのか美少女よ。
「どういうことか、洗いざらい説明してもらうわよ!」
適当に説明したとして、だ。
今後ウボォーと何かある度にこの人が突っかかってくるのは面倒だなと思い、ウボォーを含む旅団の一部と同じマンションに住んでいる、更には料理係に任命されてしまった、という事を伝えた。
「う、噂の転入生って貴女なの!?」
「どの噂かわかりませんが、転入生です」
「あ、あわ、あわわわ……」
どうやらこの人は私が転入生だと言うことは知らなかったらしい。
更には、噂を鵜呑みにしている様子。分かりやすすぎるくらいに一瞬にして顔が青冷めた。
「あああ、あな、あなた、ウボォーギン様に言わ…………はっ、いや、待てよ……落ち着くのよ私……!閃いたわ!」
途中からぶつぶつと独り言を言ってるんだけど、全部丸聞こえだよ声でけーよ美少女。
閃いた美少女は、ドヤりながら私に向かって指をさした。
「貴女! 私のお友達にしてあげる!」
「…………何かと思えばお友達」
「嫌とは言わせないわよ、この三条院桜子様のお友達になる権利を断る生徒なんていな……ほとんどいないわ!」
言い直したな。
旅団や他のハンターキャラとか、そこそこいるんじゃないのかなあ、お友達になる権利はいらねえよって人。
でも私は有り難くお受けするよ!
何故なら!
女友達が弥生ちゃんしかいないから!!
「ありがとうございます! 私、一ノ瀬ナオです。よろしくお願いします!」
「えっ……や、やけに素直じゃない? ももももしかして何か企んで」
「ません! お友達ができるのが嬉しいだけです」
急に吃りだした三条院さんは、はぁー、と脱力した。
この人面白いな。
「貴女、お友達いないの?」
「同じクラスに1人いるだけです」
「…………そうなの。いいわ、何だか気が抜けちゃった。改めて、三条院桜子よ。桜子でいいわ」
言いながら手を差し出す桜子さん。
またちょっと普通じゃない子だけど、こんな美少女とお友達になれるのは嬉しいよ。
「桜子さん、よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくね、ナオ。……で、も、ね……!」
「いた、いた、いだだだだ!!いだい!」
握っている手の力がどんどん増していく……!!
効果音にするならギリギリギリ、って感じ!
お嬢様に然らざるべき握力だよ!
「ウボォーギン様は渡さないわよ……!」
「だっ、大丈夫です! いらない! いらないから!」
「いらないなんて何よその言い方ウボォーギン様に失礼じゃないのよ」
「あぁー! 失言でしたすみません! 桜子さんがお似合いだと思います!」
「えっ、やだ、そうかしら!?」
「ぐわっ」
お嬢様らしからぬ顔で凄んで来た後、まだ強くなる握力から逃れようとして失言。
かーらーの、フォローを入れれば突き飛ばされた。
尻餅はつかなかったけど、1人壁ドン状態だよ。
なんだこれ。
面白い人だけど疲れる……!
「っ!!」
「え」
桜子さんともう少し話をしようと、桜子さんに向き直った瞬間。
桜子さんは物凄い早さで階段を駆け降りていった。
突然の事にビックリっていうか、桜子さんのスペックの高さにビックリだよ。
「ー……い、おーい! ナオ!」
「あれっ、ウボォーの声……」
もしかして桜子さん、それで逃げていったの!?
ウボォーの事が好きなんじゃないの? 好きならご対面したいもんなんじゃないの?
わからん……!!
「お! いたいた、やっぱここだったか」
「私のこと探してたの? 何か用事あった?」
「今日も買い出し行くんだろ。一緒に行ってやろうかと思ってよ!」
「あ、そうなん……だ……」
ガハハと笑うウボォーギンの後方、階段の折り返し部分から桜子さんが顔を覗かせている。
逃げたんじゃなかったんかーい!
す、凄い剣幕なんだけど……! 何も言わないったら!
「あん? 後ろに何か居んのか?」
ウボォーが後ろを振り向くと、即座に顔を引っ込める桜子さん。
もぐら叩きを思い出すわ。
「いや何もいないけど。今日の買い出し……は……」
またか!
その顔怖いよやめてよ桜子さん!
……あ、そうだ。
「あれ! ウボォー、あそこに女の子が倒れてる!」
「んあっ?」
私が叫んだ瞬間、桜子さんはハッとした表情になると同時に音もなく倒れ込んだ。
「おぉ!? どうした大丈夫か?」
ウボォーが階段の一番上から飛び降りて、桜子さんを抱き抱えるようにして起こす。
しめしめ、私の思惑どおりよ。
「ウボォー、今日の買い出しはいいからその子の事保健室に運んであげてよ」
「あー、そうだな。しかしこいつ、誰だ?」
そんなことは今はどうでもいいから早く連れていけ、と思ったその時、桜子さんの胸ポケットから生徒手帳が落ちた。
「お? なんか落ちたな……こいつのか。なになに、三条院桜子……おわ、震えだした! ヤベぇなコリャ! 悪ィナオ、行くわ!」
「あ、うん……」
……私は見た、ウボォーが余所見した瞬間に桜子さんが胸ポケットに手を入れたところを。
しかも名前を呼ばれた喜びで震えだしたに違いない。桜子さん……いいキャラしてるわ。
ウボォーは脱兎のごとくここから走り去り、ぽつんと残された私……の、目の前に、見慣れた金髪。
「いやー、色々と見事だったね」
「シャル、いつからいたの?」
「昼休みから」
「ずっと!?」
「ずっとじゃないけど。ナオと三条院さんのやり取りは全部見てたよ」
「全部……、もしかして!! 仕組んだな!?」
「友達増えて良かったじゃん、ね?」
シャルはここまでを見据えて私にさくらんぼをくれたのか……!
桜子さんがウボォーのことを好きなのも知ってて、全部仕組んだのね。
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