13話 発覚しました「それでね、ノブナガ先輩はわたしのハンカチを拾ってくれて、わざわざ声を掛けて呼び止めてくれたの! 最初は噂を鵜呑みにしていたから凄く怖かったんだけど、喋ってみたら普通にいい人で! そりゃあ、皆が色々と噂しているし、無いとは思うんだけど、もしかしたら何かしら本当に悪いこととかしてるのかもしれないけど、でもでもうんたらかんたら〜」
お弁当を持って、慎ましやかな雰囲気を醸し出していたあの子は一体どこにいった。
目の前でノブナガの魅力をつらつらと語っている、この子の名前は飛騨弥生(ひだやよい)ちゃん。
弥生ちゃんと呼ぶことを許可してもらい、私もナオちゃんって呼んで貰えることになった。
私とは違って大人しそうで可愛い子だな、と思っていたのに、なんていうか、十分個性的な子だったよ。
関係ないけど、この世界の異種族ごちゃまぜ具合が凄い。インターナショナルスクールに通ってる気分になる。
弥生ちゃんは元々一人でいるのが好きらしいんだけど、ノブナガの魅力を存分に語りたい&わかって貰いたくて、私が誘うのを待っていたらしい。
したたかだな。
口を閉じれば大人しそう。口を開いたらよう喋る。
ノブナガの魅力を語り尽くせば普通に友達になれるかな、と思うと、我慢出来るよ!!
「で、弥生ちゃんはノブナガと付き合いたいの?」
「ええー! そんなわけないじゃない、憧れだよ憧れ! わたしの中の理想のアイドル的な感じかな?」
「理想のアイドル」
ノブナガがコンサート衣装を着て、踊ってる姿を想像したら笑いそうになったので、頑張って真顔で頷く。
そして、弥生ちゃんの言葉が私の中にもストンと落ちるのがわかった。
私がシャルナークを推しって言ってるのも、弥生ちゃんのそれと同じことで。
弥生ちゃんもノブナガと普通に喋れるようになったら、アイドルからまた変化していくのかもしれない。
私がシャルナークと対峙することに慣れてしまったように。
「最初はわたしも逃げちゃおうかな、とか、どうしようかすっごく迷ったんだけど、ナオちゃんと友達になって良かった! こうやってノブナガ先輩の話出来る人がいるって幸せだな」
「すっごく迷ったんだ……」
「てへへ」
「てへへって。可愛いわ。……しかし、何で旅団って不良のレッテルが貼られてるのかなあ。話してみたら割と普通なのに」
「それはね、狩人学園に乗り込んできた他校の不良達を一網打尽にしたからだよ。完膚なきまでに叩きのめしたんだって。その後、リベンジでもっと強い人達を連れてきたけど、それも全部」
「え……弥生ちゃん、その現場見てたの?」
「ううん、わたしはその現場は見てないんだけど、帰りに不良達が山積みになってるのは見た」
「あ、それは見たんだ……」
不良達が山積みになってる所を見るっていうのも、なかなかの衝撃シーンだと思うんだけど……めっちゃ普通に話すな、弥生ちゃん。
てか、弥生ちゃんが聞かせてくれる話以外にも噂があるってことだよね。
これ以上の噂ってなんだろう。
……人殺しとかかな。まさかね、平和な世界だもんね。…………聞かないでおこう。
「あと、旅団の中には留年している人も多いからかな? 留年って、自然と不良のイメージが出てくるよね」
「留年!? 誰が留年してるの?」
「それはね……っ、」
「俺とフィン、ウボォーも留年組だよ」
「ぐわっ! 重い!」
弥生ちゃんが言葉に詰まってギョッとした顔をするから、どうしたのかと思った瞬間、シャルナークの声と共に何かが頭にずしりと乗った。
「シャル! 重い!」
「良かったね、友達出来て。はいこれ、差し入れ」
「え? あ、ありがと」
頭から重みが消えたかと思うと、目の前に置かれたビニールの袋。
中を見ると、差し入れって……これ、さくらんぼじゃん。
「どうしたのこれ」
「んー、とある筋から貰った。余ったら夕飯に出してよ」
「とある筋……食べてもお腹壊さない?」
「ぶはっ。大丈夫だよ、学園内の女の子にもらっただけだから」
「ふーん。じゃあ、有り難く貰うね」
「うん。じゃーね。あ、飛騨さん、これからナオと仲良くしてやってね」
「へっ、えっ、は、はい」
どぎまぎしながら答えた弥生ちゃんの頬が、ピンク色に染まっている。
シャルナークが再び教室から出ていったのを見計らって、弥生ちゃんに問い掛ける。
「弥生ちゃん、もしかして……ラブ?」
「ち、ちがうよ!! シャルナークさんとクロロさんは、目の保養なの」
「正直!」
正直すぎる弥生ちゃんに、堪えきれずに吹き出した。
「旅団は不良って怖がられているけど、隠れファンはかなり多いんだよ〜。特に、クロロさんとシャルナークさんとフェイタンさん」
ツッコミどころは他にもあるけど、フェイタンまでさん付けってことは、だよ。
「もしかしてフェイタンも留年組?」
「ナオちゃん、ひょっとして全員呼び捨てなの!?」
「え、いや、まあ、無礼講でって言われてるし……会ったことない人もいるから全員ってわけじゃないけど、一部はお許し頂いてます」
「凄いね……!近寄りがたいけど、本当は話し掛けたいファンもいるんだよー、わたしみたいにアイドルに仕立てあげてる人の方が多いけど」
これは……いずれバレるだろうけど、旅団の一部と同じマンションっていうのは自分から言わない方がいいかもしれない。
さっきのシャルの「夕飯に出してよ」、は弥生ちゃんの頭から消えていることを願う。
「で、結局留年組は誰なの? あ、良かったら弥生ちゃんも一緒に食べよう」
「わあ! いいの!? 嬉しい、ありがとう……!」
弥生ちゃんは、本当に嬉しそうにさくらんぼを一粒取った。
これ、シャルナーク>ノブナガ なんじゃないのかなあ……とは言いたくても黙っていよう。
「留年はね、シャルナークさんがさっき言ってたメンバーと、マチさんも一年留年してる。本来だったら同じ学年だったんだよ」
「マチさん」
「あ、まだ出会った事ないメンバーだった?」
「うん」
他のメンバーもそうだけど、さん付けに違和感があったから復唱してしまっただけだったのだが、弥生ちゃんが上手く捉えてくれて良かったわ。
「なんで留年しちゃったんだろうね……シャルナークなんか頭良さそうなのに」
「シャルナークさんは理由は知らないけど、去年は欠席が多かったかな。他の人はお勉強だったりサボりだったり」
ああ……勉強しそうにないメンバーだわ、確かに。
ノブナガが留年組じゃないのが意外……って、これ言ったら弥生ちゃんが怒りそう。
しかし、大体みんな年上か。
翔が知ったらビックリするかな。
でも、私も翔も、一度はジジババまで生きたわけだし、そこまで気にはしないだろう。
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