11話 飛びました住所を教えてくれたら先に行って、適当に荷造りしておく。
そうやってフェイタンとシャルナークに言われるがままに鍵を渡し、現在私は一人で自転車を漕いでいる。
迷った時のために、とLINE交換をして、先程そのLINEから到着したよ、のスタンプが送られてきたばかりだ。
二人とLINE交換できたのはとても嬉しいはずなんだけど、感情がついていかない。
事務処理的にこなしただけな気がする。
私の部屋の荷物は全部移動させておいたし、見られちゃ困るものはない……と思う。
だから、荷造りしてくれるなら助かるな、という単純な思考から、素直に鍵を渡してしまったのだ。
翔に後で聞きたいことがある、とメッセージを送って、私は実家まで必死に走る。自転車で。
その後、遅刻してきたフィンクス、ウボォーが移動班に加わり、ノブナガはクロロと一緒に片付けの手伝い。
私が家に着くまでの間にものすごい突風が吹いたと思ったら移動班の面々だった。
そして家に着いたと思ったら、家の中の必要なものは大概運び終えたようで、私が持ち出すものは何も無かった。
私、こっちに来る必要無かったね?
考えても後の祭り状態で、自ずと口から笑いが溢れる。
「何笑ってんの」
「ぎゃあ!」
誰もいなかったはずの隣から、シャルナークの声が聞こえて心底ビックリした!
「来てたなら声掛けてよ、心臓に悪い」
「だから声掛けたじゃん」
「……そうだね、ごめんね」
「運び込み終わったから、みんなマンションの方で片付けしてるよ。俺はナオのお迎え兼昼飯の買い出し」
「わざわざ迎えに来て貰わなくても、LINEしてくれたら適当に帰ったのに」
「忘れ物もあったんだよ」
「忘れ物?」
そうそう、と言いながらシャルナークはキッチンに向かって行き、フライパンを持ってきた。
「フライパン残ってたんだ。大体すっからかんになってたから気づかなかった」
「これがなきゃナオは料理出来ないだろー? ナオの手料理楽しみだもんね、俺達」
……ッ!
俺達、の一言さえ無ければ今のは新婚っぽかった。
萌える……!
「さて、お昼はどこに買いにいこうか」
「人数が多いから、ファストフードだと店側に迷惑掛かっちゃうかな?」
「迷惑っていうか、かなり待つだろうね。一人分じゃ足りないやつもいるからね」
「ああ……」
自転車を押しながら歩き出せば、シャルにフライパンと交換されてしまった。
フライパンを持ち歩くのはちょっと嫌だけど、紳士的な対応してくれるの、とても嬉しいです。
「あ、ちょっと待って。このままお店に入るのは気が引けるから、何か袋探してくる」
「フライパン?」
「そう、剥き出しだと道歩いててもギョッとされちゃう」
「ちょっと貸して」
「ん? はい」
渡されたフライパンは、再びシャルの元に戻される。
シャルはスマホを取り出し、……LINEやってるのかな?
よし、と小さく頷いた次の瞬間。
シャルナーク選手、おおきく振りかぶりました!
そして、フライパンをー!!
「そぉれ!」
投げたー!!
フライパンは、あっという間に小さくなって見えなくなった。
「…………一応聞くけど、なにをしたのかな?」
「マンションに届けておいたよ、フライパン。あ、なんなら自転車も」
「いやいやいやいいいい! 自転車はいいから!」
さっきのLINEは、旅団の誰かに受け取るように指示を送ったんだろうけど。
万が一途中で何かに当たったりしたらどうするつもりだったんだ。
…………絶対人には当たってませんように!!
「大丈夫だよ、フライパンは無事だから」
フライパンの心配はしていない!!
「………………」
「どうかした?」
「……いえ。ありがとう。では、行きましょう」
「うん、行こうか」
シャルが自転車を押し、私がその隣を歩く。
私に合わせて歩いてくれているし、身長差も理想そのもので。
何より今の私は学生で、隣の彼は同じクラス。
だがしかし。
青春とは程遠い環境になったよね。
返せよ、二度目の青春。
普通に楽しく謳歌したかったよ。
たくさん食料を確保できる場所、と言ったらやっぱりスーパーしか思い付かなくて。
お惣菜コーナーから適当にお弁当を12個買って、個人的に甘いものが欲しかったのでシュークリームを人数分。
お弁当はシャルが。シュークリームは私が持って、マンションに戻ると完全に、とは言えないが、大まかな片付けが終わっていた。
予想はしてたけど、本当にこんなに早く終わるなんてな。
休日返上の覚悟だったんだけど、そんな覚悟はいらなかったな……いや、私の部屋はまだだったわ。
明日一人でやろう。
「ただいま、お昼買ってきたよ」
ダイニングで寛いでいる皆にシャルが声を掛けると、お弁当はあっという間に無くなった。
「無くなった!? ちょっと待って、誰だ私の分まで持ってったの!」
皆の手元を見てみると、翔、クロロ、シャルナークは一個しか持っていない。
フィンクス、ノブナガ、フェイタンは二個ずつ。
ウボォーが三個。
「ウボォー」
「何だ?」
「一個、私のぶん」
「あー? 俺、二個じゃ足りねえよ!」
「私一個も無いんだけど」
「また買ってくりゃいいじゃねえか」
「誰が?」
「ナオがトロかったのが悪ィんだろ」
「よっし、わかった。ウボォーは毎日鍋が食べたい、と」
「好きなの一個やるよ! ほら、持ってけ!」
変わり身の早さに内心吹き出しつつ、遠慮なく好きなのを選ばせて貰った。
よほど鍋には飽きたらしい。
他の皆も笑いながら、それぞれのお弁当を食べる。
シュークリームを人数分配るとブーイングが出たが、ウボォーに言ったのと同じセリフを言うと途端に静かになった。
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