10話 胸がありました
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昨日は疲れていたから、何も考えずにお風呂に入ってさっさと寝てしまった。
一昨日は、トリップしたてでそれどころではなかった。
だから、今気付いたんだけど。

これ、元の世界の私には無かったものがあるよ……!
胸! 胸が揺れるほどある……!

10代の頃は小さなまんま。
もう少し大人になれば! と期待してたけど、20代になってもささやかなものだった。
それから子供を産んで、大きくなったのも束の間、ほぼほぼ吸い尽くされてペッタンコ。
ペッタンコがしわしわになって重力に引っ張られ。
見るも無惨な胸だった。

それが、どうよコレ!! 巨乳ではないけれど、確実にあるよ!
やだー、幸せ。パット要らずだ嬉しいな。
若かりし頃、巨乳の友達が肩が凝るからこんなのいらないって言っていたけれど、それでも私は求めていたんだ。無い物ねだりか。

着替えるために姿見鏡の前に立っただけなのに、胸に時間を取られてしまった。
急がないと昨日の面々が来てしまう。


朝ごはんはコンビニで買っておいたパンと、缶コーヒー。
食べ終えても翔の姿が見えないので、起こしに行くと案の定爆睡してた。
布団を剥ぎ取って起こし、その後はマナー程度の化粧を施す。
昨日既にスッピンを披露してしまったのだからもう手遅れだけど、一応ね。


このマンションでは、玄関入ってすぐ右の扉がダイニングキッチンに繋がっている。
左側がお風呂とトイレ、洗濯機等々。
洗濯機、冷蔵庫、テレビは元々の備え付けを使わせて貰えることになっている。
モラウ叔父さん様々。
ダイニングキッチンの奥が私の部屋、お風呂側の奥が翔の部屋。
クロロの所とは少し違っていたから、場所毎に少しずつ変化があるのかもしれない。

手伝ってもらうのは翔の部屋と、モラウ叔父さんが運んでくれる予定のダイニングやらキッチンやらの……あれ? モラウ叔父さん、お前らが学校に行ってる時にでも適当に運んでやる、って言ってたよな?
つまり、平日?
今日は運ばれてこない?

……いやいやいやそれは困るわ!
せめてお風呂道具と料理道具が欲しいよ!
必要最低限のものだけ用意して、どうにかして自転車で運ぶか。
最悪段ボールに紐付けて背負うよ。

ちなみに私の部屋は時間が掛かってでも一人で片付けるわ。
旅団の面々に下着とか見られたら恥ずかしすぎて凹むもの。



ピンポーン、とチャイムが鳴り、ドアを開けるとクロロとフェイタンとシャルナーク。

「おはよー、あれ? 残りの三人は?」

「おはよう、寝坊だよ」 

朝から爽やかなシャルは、あっけらかんと答えた。

「クロロ、約束が違う」

「俺達は約束を守っているだろ?」

「アイツらの夕飯抜きでいいね。また鍋でもやるといいよ」

「三人分だけ作ればいいのね。わかった」

お昼はどうするんだろ、なんて疑問は残りつつ了承する。
約束は守って貰わねばねえ、こっちだって慈善活動じゃないんだから。最初が肝心だ、とは良く言ったもんだ。

「翔ー! お手伝いさん来たよ!」

「「「お手伝いさん……」」」

ダイニングに向かって叫ぶと、後ろから不満そうな声が聞こえたけど気にしない。
お手伝いさんで間違いでもないし。

「えっ! うわ、もう8時か!」

焦っているような翔の声が聞こえた。
大方まだ食べ終わってないのだろう。
さっきまで爆睡していたから間に合わないだろうな、とは思っていたけど。

「あはは、翔も夕飯抜きだねー」

「いやいや、それ翔には適用しないからね?」

成長期の弟にご飯抜きとかやらないから、ってか約束守らないとご飯無いのは旅団だけだから。

早々にシャルナークにも慣れてきた。
何も考えずとも普通に返せるようになってきたし、昨日までの感動は収まっていると思う。
こうやって実在して、対等に話せているからだろうか。
でも推しは推しのままだよ! 旅団の中で誰かに貢げって言われたら迷わずシャルを選ぶよ!

「とりあえず、中に入って。指示は翔がするから」

三人を家に上がらせると、私が上がってこないのに気付いたフェイタンが不思議そうな顔で言う。

「ナオは何してるか」

「私はみんなが翔の部屋を手伝ってくれてるうちに、一度家に戻って必要最低限のものを取ってこようかと」

「どうやて?」

「段ボール背負って、自転車で」

「……ハ!」

鼻で笑われた。
段ボール背負って自転車漕いでる私の姿でも想像したのだろうか。

「ナオは馬鹿ね。それこそワタシ達に頼めばいいものを」

「え、だってお願いしたって場所わからないでしょ」

両手を広げ、アメリカンな態度でやれやれ、と首を横に振るフェイタン。

「俺達も一緒に付いて行くよ、ってことだよ。そうだろ、フェイタン」

「言わずともわからないナオが悪いよ」

「良い悪いの話だったっけ!?」

シャルに向かって頷くフェイタン。
普通は言われなきゃわからないよ……!

「では、俺が翔の部屋の手伝いをしておくから、シャルとフェイはナオに付いて行ってやれ」

「了解〜」

「わかたよ」

「じゃあ、お願いするね。ありがとう。二人とも自転車はある?」

私が自転車で移動するつもりだったから、シャルとフェイタンにも自転車で来てもらおうと思ったんだ。
無かったら最悪翔の自転車でどっちか一人。

でもそんな私の思いとは裏腹に、三人はキョトン顔。

「自転車なんて必要ないだろ?」

「え、結構距離あるよ」

「走ればいいじゃん」

「走た方が早いよ」

「…………」

自転車より走る方が早い?
それ、普通の人間じゃないよね?

本当にこの世界…………ごく普通の、平和な世界かな?

「に、荷物はどうやって運ぶの」

「背負って走る」

「持て走る」

「…………そっか、わかった。でも私は早く走れないから自転車使うね」

微妙な気持ちになった後、頭が情報処理する事を放棄したようだ。
私は自転車じゃなきゃ無理だもんな、うん。

うん…………


……おいコラ翔ー!!
お前、この10年間なにをボケッと生きてたんだ!
この世界、ちっとも普通じゃないぞ!

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