8話 鍋をつつきました現在、クロロの部屋で鍋をつついているメンバー。
クロロ、シャルナーク、フィンクス、フェイタン、ノブナガ、ウボォーギン、翔、私。
他に女性がいないというのが解せぬ。
お誘い頂いて嬉しいけど、場違い感が否めない。
翔も場違い感はあるけど、男だからまだいい。
一応それぞれ自己紹介をして貰ったが、この中の全員が同じマンション住まいって言うんだからもうビックリ通り越したよね。
しかもそれぞれが上京組の一人暮らし、家族構成については謎。
家族? 何それ状態ではない……っぽいから、まだ雰囲気も柔らかいと思う。
それでも威圧感は半端ないけど。
「俺たちの仲間内じゃ敬語とか礼儀とか取っ払っちまってるし、お前らも普通でいいぜ」
そう言ってくれたのは、3年薔薇組のノブナガ。
ちなみにクロロもノブナガと同じクラス。
シャルナークとフィンクス、ウボォーギンは言わずもがなで、フェイタンは翔と同じく1年月組。
「お前らもどっちも一ノ瀬だし、ナオと翔でいいよな?」
「う、うん、大丈夫」
「俺も大丈夫!」
翔のやつ、早速馴染み始めているのは何故だ……!
普段ヘタレのくせに!!
「ナオは俺らと同じクラスだよな?」
ウボォーギンに名前を呼ばれた……そしてやはりシャルナーク同様、生きていらっしゃる……!
「……なあ、翔よ。なんで俺ぁ拝まれてんだ?」
「名前呼ばれたのが嬉しかったんじゃないかな?」
「それだけで拝むかぁ? 変なヤツだな」
拝むよ!!
名前呼ばれるのはもちろん嬉しいけど、生きてるんだもの!!
シャルナークの時は拝むより先に涙が出てしまっただけだ。
「まあいいけどよ。俺の事はウボォーでいいぜ」
「あ、じゃあ俺も! シャルでいいよ」
「俺はフィン、だな」
「フェイでも許すね。けどフェイタンの方がしくりくるよ」
「クロロ……は略したところで、だな」
「ノブは嫌だからノブナガと呼べ」
最後吹き出しそうになったよ。
ノブナガは略されるのは嫌なのね。
そういえば、この世界でも普通は敬称をつけるものだよね。頭の中では呼び捨てだったから、シャルナークとフィンクスに対して最初から呼び捨てしてしまっていたわ。
シャルは敬称つけてくれていたのに!!
それでもツッコミが入らなかったのは、こうやって無礼講の中で過ごしているからに違いない。
次にこういう機会があったら、気をつけよう。
「ナオ達はどこの部屋なの?」
シャルに名前呼ばれたー!!
もう死んでも……いや、まだ死ねない! 老衰まで(略)
「うちらは二階の東側の部屋だよ」
「チ、隣か」
「フェイタン嫌なの!?」
フェイタンの舌打ちに翔が反応すると、フェイタンはニヤリと笑った。
「冗談よ。あーウレシイウレシイ」
「棒読み……」
「シャルがその上の部屋だな。で、隣が俺だ」
シャルの部屋が上だと……! その隣はフィンクスなのね。
「クロロはここ、最上階で……ノブナガとウボォーは?」
「俺は団長の下」
「俺ぁその下だ!」
二人に質問してみると、普通に教えてくれた。
クロロの下がノブナガで、その下がウボォーか。
少し離れているんだね。
話しているうちにも、鍋の中身はどんどん減っていく。
具材が追加されても、それ火が通ってないんじゃない? っていうくらいのスピードで無くなる。
誘われたはいいけど、そのスピードについていけない私達姉弟は、先程調達したコンビニのお弁当に手を着けることにした。
「ん、それは滅多にお目に掛かれない幻の豚丼じゃないか」
翔が買った豚丼は、レア物だったらしい。
クロロの言葉に反応した全員の視線が豚丼に注がれ、その次の瞬間には次々と消えていく豚肉たち。
「…………ただの丼になった」
「ぶふっ」
翔がか細い声でそう呟くものだから、堪えきれずに吹き出してしまった。
「わ、私のおかず、わけてあげるから」
「姉ちゃん……ありがと……」
幸い私は幕の内弁当だったので、わけてあげられるおかずはたくさんある。
だから泣くな、弟よ。
豚肉を頬張っている連中は、表情が緩んで幸せそうだ。
「ナオは料理しないの?」
そう問いかけるのはシャルナーク。
「料理もするよ、今日は引っ越し当日だったし、キッチンもすっからかんだったから」
「え、ホント?」
「本当……って、な、何かな?」
弁当から顔を上げれば、視線が集まっていて体がビクッとなった。
弁当を落とさなかったのは褒めて欲しい。
「ナオ」
「は、はい」
「お前を料理担当に任命しよう」
「……はい?」
クロロに名前を呼ばれ、返事をすれば。
料理担当だと? 一体どういうことなの?
「俺ら、料理出来るように見えないだろ?」
「ん?」
「出来ないんだよ、料理が」
「何言ってんのフィン、お鍋も立派な料理だよ?」
「いや、これは食材ぶっ込めばどうにかなんだろ。ってか、これしか出来ねえんだよ」
「ん?? もうちょっと分かるように説明して欲しい」
フィンクス以外に説明を求めると、答えてくれたのはやはりというか、シャルナークで。
「俺達がこうやって集まる時って、鍋なんだよね」
「鍋なんだよね、って、鍋しかやらないの?」
「そう、鍋しかやらないの」
「夏も?」
「夏も」
「……部員に女性はいないの?」
「いるけど、そいつらも壊滅的なんだ」
「壊滅的」
頭の中に、料理を焦がしているマチ、パクノダ、シズクの姿が浮かんだ。
「姉ちゃんの作る飯はウマイよ」
おい翔、何援護射撃してくれてんだ!
「俺は魚が好きだ」
「俺!俺、肉!!」
「ワタシは中華料理がいいね」
「俺はやっぱ寿司かな」
「カレーとか好きだぜ」
「ハンバーグも美味しいよね」
ハンバーグ、愛情込めて作らせて頂き……って、違う!!
「私に作れっての!? 嫌だよ!」
「毎日とは言ってないぞ。集まる時だけでいい」
「ちょっと待ってクロロさんや。集まるのって、頻度はどれくらい?」
「多くて週5だな」
「それほぼ毎日……!!」
何とかしろという視線を翔に送ると、サッと目を反らしやがった。
「わかった、条件付きで 弟 と 一 緒 に 作ってもいいよ」
翔の声にならない叫びが聞こえた気がした。
当然、シカトである。
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