DQ8 | ナノ


  6:悔いても今を進め


夕食後。
ククールの部屋を探して彷徨って。
今何時頃なんだろう、30分くらいは経っただろうか。
場所を知らされてはいなかったし、他の人に聞こうにもそれぞれ談笑している様子の方々ばかりだから、声を掛けづらくて。

私がこの世界に来た時の部屋はエイトの部屋だったから、そこは覚えているんだけど。
そしてエイトに聞きにいこうと思ったら浴場に行ってしまったのか、彼の部屋には誰も居なかった。
仕方ない、こうなったらオディロ院長のところに行くか。
オディロ院長とももっと話がしたかったし!

教会の隣の部屋がオディロ院長の部屋だって聞いていたので、早速そこを目指して歩く。




コンコン。
二回ほどドアをノックすると、中から「誰だ?」と声がした。
良かった、オディロ院長は部屋に居るようだ。

「ニナです。ちょっとお尋ねしたいことがありまして」
「おお、ニナか。入っておいで」
「はい、失礼します」

許可が出たので遠慮なく中に入らせてもらう。
オディロ院長は机に向かって読書をしていたようだ。

「どうした?何か困ったことでもあったのかな?」
「ククールに『呪文の勉強をするから部屋に来い』と言われてたんですが…ククールの部屋の場所がわからなくて」
「…なんだ、それだけかね」

オディロ院長はちょっと残念そうに眉を下げた。

「オディロ院長ともお話したかったのでそれだけっていうわけでも無いんですけどね」
「おじいちゃんと呼べ、と言ったはずなんだがな」
「おじいちゃん?」
「私はマイエラ修道院長はもう隠居した身だと言っただろうに。ニナにはおじいちゃんと呼んで欲しいのだよ」
「そうは言われましても…オディロ院長をおじいちゃんと呼ぶなんて…」
「おじいちゃんと呼んでくれないのならククールの部屋は教えてやらん」
「!?」

こ、子供か!
ご老体の子供がいるぞ!!
オディロ院長ってこんな人だったの?優しいイメージはあったけど、こんな駄々っ子みたいな人って感じはしなかったよ?
ゲームをプレイしてるだけじゃ、やっぱり細かいところなんてわかりっこないんだなあ…。

「未来のお主も、今ここにいるニナも。私にとっては可愛い孫娘なのだよ」
「嬉しい事を言ってくれますね、オ、…おじいちゃん」
「ほっほっほ」

孫娘とか。
嬉しいじゃないか。
私の祖父は生まれたときにはもう他界してたから、おじいちゃんっていうのはどんなものかわからなかった。
祖母も両方とも既に居ない。
友達の話におじいちゃんとかおばあちゃんとか出てくる度に羨ましいと思ってた。
だから、血の繋がりは無いにしろ、こんな形で私におじいちゃんが出来たと思うと幸せ以外の何物でもない。

「どれ、こっちへおいで」
「はい」

言われるがままに近寄ると、オディロ院長…おじいちゃんは本を机に置いた。
ゆっくり手を伸ばして、私の頭を撫でてくれる。
さらりと髪を通っていく手が、不思議と懐かしく感じる。

「優しい手ですね、おじいちゃんの手は。あったかいなあ…おじいちゃんに頭を撫でてもらうって、とても嬉しい事なんですね」
「ニナはいつも頑張ってくれてるからなあ。そのご褒美だ」
「でも私は、まだ何もしてませんよ。この世界に来たばかりだし、修行だって始まったところで、未熟で。そんな褒めてもらえるような人じゃないし…」
「私はニナにたくさん感謝してるよ。未来の分も、今受けたって罰なぞ当たらぬよ」
「未来…」
「私がこうしてここに居られるのも、ぜんぶニナのおかげなのだからな。ニナは私の自慢の孫娘だ」

褒められすぎやしないか。
そう思ったけど、おじいちゃんの言ってることは何故だか自然と胸に響く。
オディロという人間の人格そのものが慈悲に溢れているんだ、きっと。

「この先辛いこともたくさんあるだろうて。だが、こうして幸せな未来が待っている。それを信じて、自分の出来ることをすればいい。ニナはニナの思ったとおりにすればいいのだよ」
「…はい」
「…さて、おじいちゃんと呼んでくれたことだし、ククールの部屋を教えてやるかな」
「あっ、忘れてた」
「ほっほっほ!」

本気ですっかり忘れてた。
当初の目的はククールの部屋を教えてもらうことだった、危ない危ない。
おじいちゃんに和まされてこのまま部屋に帰って寝てしまうところだった!

「ククールの部屋はエイトの部屋の真向かいにある」
「え、そんな近く…!」
「あやつらは王にとっても特別扱いだからな。あのへんは大概一人部屋でな。あやつらもその一人部屋をもらってる者たちなんだよ」
「なるほど…ありがとうございます、だいぶ時間も経っちゃったし、そろそろ行きますね!」
「ほっほっほ。勉強頑張るのだぞ、ニナ」
「はい、おやすみなさい!おじいちゃん!」





おじいちゃんの部屋を出て、教えてもらったとおりエイトの真向かいの部屋に向かう。
まさかそんな近くにククールの部屋があるなんて思わなかった、ていうかどこだか見当もついていなかったわけだが。

目的の部屋まで近づくと、部屋の前に寄りかかっている人影が見えた。
ククールだ。

「随分遅かったな、何してたんだ?」

フゥ、と呆れたようにため息を吐かれる。

「ククールの部屋がわからなかったから、おじいちゃんに聞いてきたんだよ」

教えてくれなかったのはそっちのくせに、という意味をこめてムッとした顔で返すと、ククールは一瞬驚いたような顔をして、それから小さく笑った。

「おじいちゃん…オディロ院長か。そういや俺の部屋は知らないんだったな、悪かった」
「そうだよ。エイトを見習ってよねー、エイトは鍛錬所の場所がわからないであろう私を迎えにきてくれたんだから」
「おーおー、そりゃ悪うござんした」
「いだっ!いだだだっ!!」

エイトと比べる発言が気に入らなかったのか、ククールに頭をゴリゴリやられた。
男の人ってただでさえ力強いんだから手加減しろっつの!!
半泣きだよ…!

そんな私の半泣き状態を見て満足したのか、ククールは部屋に入るように促した。

ぶつぶつ文句を言いながら踏み入れた部屋はスッキリしていて、本棚には呪文の本がビッシリと並んでいた。
ククールはこれ全部勉強してきたのかな…だとしたら尊敬する。

「まあ、そこ座れよ」
「あ、うん」

指定された場所に座り、ククールが横に立つ。

「とりあえずこれが呪文の基礎の本。で、こっちが回復の基礎。まずはこの二つを読んでもらって、理解できないところがあればその都度聞いてもらう。OK?」
「うん、わかった」
「呪文には向き不向きもあるからな、もちろんニナに習得できない呪文もある。習得できたとしても威力の出せないものもある。そこは事前に理解しておいた方が自分にあった呪文選びがしやすくなると思うぜ」
「なるほど」
「隠しても仕方ないから言っておくが、ニナは回復中心に覚えてもらうからな。それがこの先において重要になってくる」
「ホイミとか、ベホイミとか?」
「それもあるが、更には蘇生も、だな」

蘇生。
ザオラルとかザオリクとか、人の命に関わる呪文だ。
話しながらククールは後ろのベッドに腰掛けた。

「蘇生呪文っていうのは呪文の基礎はもちろんのこと、回復の基礎がなってないヤツには絶対に扱えるものではないんだ。そして人の命に関わる大切な呪文…そう簡単に使えるモンではないっていうのはわかるだろ?」

その言葉に反論もなにもないので、素直に頷く。
私の反応に満足したククールは、話を続けた。

「……オレはあの時何も出来なかった。ちょっとした回復呪文は使えても、生命を導く呪文なんてそんな大それたものは何一つ出来やしない。修道院とは名ばかりで、そんな力のある人はオディロ院長ただ一人だった。だからオディロ院長が目の前でドルマゲスに……あの時、オレ達は成す術がなかったんだ」

椅子に座ったまま振り向けば、ククールは唇をかみ締めて悔しそうな表情をしていた。
手でこっちを見るな、と促されたので仕方なく机に向き直る。

「オディロ院長は修道院のやつら皆の父親代わりだったし、必死になって助けようとしたが…誰一人として何もできなかった。そんな時現れたのがニナ、お前だよ。お前はオレ達が何も出来なかったとき、懸命にオディロ院長の命を救ってくれた」

最初に話で聞いた時はそこまで重く捉えてなかったのに。
こうしてその場に居たであろうククールから改めて話を聞くと、その辛さがひしひしと伝わってくる。

「なあ、ニナ」
「ん?」
「お前、さっきオディロ院長と一緒に居たんだろ?」
「うん」
「その時、オディロ院長のことをどう思った?」
「どうって…優しいおじいちゃんっていう感じだったよ。私は生まれたときからおじいちゃんもおばあちゃんも居なかったから、どんなものかわからなかったけど。でもオディロ院長が私のおじいちゃんになってくれるって言って…頭を撫でてくれた手はとても優しくて、こんな風に撫でてもらえるのって、幸せなことだなあって思った」
「…ああ、もう一人のニナも同じだ。本当のおじいちゃんだと思ってるって言ってたよ。もしそんなおじいちゃんが、今この世に居ないとしたら?」
「……それは…嫌だし、悲しいよ」
「だろ。オレだって同じ気持ちだよ」

同じ気持ちとは言うが、ククールの方が私なんかよりももっと長い期間をおじいちゃんと過ごしてきたわけだし、おじいちゃんに対する気持ちは重いはずだ。

それこそ、私が簡単に言葉には出来ないくらいに。

「お前がここで呪文を一生懸命覚えてくれたおかげでオディロ院長を助けることが出来たんだ。お前には一生感謝してもしきれないよ。……5年経った今でも、その感謝の気持ちが薄れることは少しも無い」


ギシッ、と音がした。
ククールがベッドから立ち上がったんだろう、と思った次の瞬間。

ほのかな香水の匂いが鼻を掠めたと同時に、私の背中が温かいものに包み込まれた。

「っ…!」

だっ、だっ、抱き締められてる…!
首筋に当たるククールの髪の毛がくすぐったい。
ましてや密着…!
物凄く気恥ずかしい…きっと私、顔が真っ赤だ。

「…オレはこうしてニナに教えてやることくらいしか出来ない。お前がいなきゃ、今のこの幸せは無かったんだ。ニナが居なかったらどうなってただろう、ってさ……想像するだけで心が痛いんだよ。…何度も言うが、オレに力になれることがあれば何でもしてやるさ。だから……オディロ院長のこと……、……頼む……………アイツのことも…」

最後の方は段々と声が小さくなって。
オディロ院長の後の言葉は聞こえなかったが、言いたいことはなんとなくわかった。
心なしか、少し震えているような気がした。

…ククールはオディロ院長のことが本当に大切になんだね。
こんな状況で抱き締められて恥ずかしいとか、そんなこと思ってる自分が恥ずかしいよ。

「…ククール、私頑張るよ。私だっておじいちゃんには今みたいに生きてて欲しいもん」

ククールの腕の上にそっと手を当てる。
すると、ククールは少し安心したのか腕の力を緩めた。

「…よし、今の言葉忘れるなよニナ」
「ん?」

腕の力が緩んだかと思えば、今度は背中にドスッという衝撃。

「ぐえ!」
「しっかりみっちり勉強してもらうからそのつもりで!な!」

バッと後ろを振り向けば、ククールのしたり顔。
何、さっきのは演技なの!?私にヤル気を出させるための演技なの!?


…そんなわけないよね。
演技なわけ、ないよね。


きっと私の背中を叩いたのはククールなりの照れ隠しだ。
ククールの期待を裏切らないためにも、しっかり基礎を覚えて過去に行くまでに必要な呪文を習得しなければならない。

出来ることは出来るうちにやっておかなきゃ。
この先、後悔しないためにも。

2015.9.15(2012.6.23)
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