DQ8 | ナノ


  5:修行、始まる


宝物庫を出てからは四人で一緒に昼食を摂り、それから着替えのために一旦それぞれの自室へと戻った。

朝食もそうだったけど、やっぱりお城の料理って凄く美味しい!
こんな美味しい料理でも毎日食べてたらやっぱり飽きがくるのかな。
そしたら厨房を拝借して自分で何か作るっていうのもアリだよね。
素朴な味が恋しくなったらそうさせてもらおう。
料理長のクロムさんは、気さくでとても雰囲気の良い、優しいおじさんだった。
クロムさんと一緒に料理してみたりするのも楽しそうだな、なんて思ったり。

さて、とりあえず着替えて鍛錬所へ行かなければ。
肌着として着れそうなものはさっきメイドさんにもらったのでいいとして…この上からドラゴンローブを羽織ればいいのかな?
当然の事ながらサイズ的にはピッタリで、割と動きやすい感じ。フードも可愛らしくてデザイン的にはまあまあ。
そしてソーサリーリングを嵌めて、と。
右手の中指に丁度いいサイズだ。
魔封じの杖を手に持ち、頭はうさみみバンドをつけるわけにもいかないので何も無し。
ちょっとつまらないな…タンスとかに何か入ってたりしないのかな。
ドラクエでは当たり前のタンスやツボ、タルを漁る行為は現実となってしまった今ではとても気が引ける事だけど、未来とはいえ自分の部屋なのだから問題ないだろう。
そう思ってがさごそ探ってみるとあったあった。

…スライムの顔の帽子。

こんなの8にあったっけ?と思いながらもとりあえず被る。
鏡を見るとすっぽりと頭がスライムに覆われた状態。これはこれで意外と可愛い…!
だが視界が狭くなるので却下かな…防御力はそこそこありそうな感じなんだけれども。
結局頭は何もナシでいくか、そのうち何かが手に入ればそれを装備すればいいや。

スライムの帽子をタンスに戻したところでコンコン、とドアをノックする音が聞こえた。

「ニナ?準備できた?」

エイトだ。

「あ、うん!準備できたよ。エイトはどうしたの?」

ドアノブを回してガチャリと開けると兵士の格好から一変し、見慣れた格好の
エイトが立っていた。

「ニナが鍛錬所の場所知らなかったら困るかと思って迎えに来たんだ」
「…おお!そうだね、場所はまだ把握してなかったから助かる!」

そう?それはよかった。と微笑むエイト。こういう気の利く部分はとても見習いたいと思う。

「エイト、それ旅してたときの格好だよね」
「うん、そう。鍛錬するときとかはこれじゃないとなんかしっくりこなくて。兵士の服って何気に動き辛かったりするんだよね」
「そのほうがエイト!って感じするよ」
「ははっ、なにそれ」
「でも普段は兵士の服を着てるわけでしょ?何かあった場合はそのまま対応するんだよね?」
「まあ、その時ばかりは仕方ないからね。基本的に城の中での問題はそんな大変なことも起こらないから大丈夫」
「そうなんだ」
「おっと、鍛錬所に着いたみたいだ。さ、ニナ」
「ありがとうエイト!」


鍛錬所に足を踏み入れると何人かの兵士が修行していた。
私を見つけるなり後片付けを始める。

「あのう…、鍛錬おしまいですか?」

片づけをしている兵士の一人に声を掛けてみると、想定外の答えが返ってきた。

「ニナさんが鍛錬所を使う時は空けてやれ、との王様からのご命令ですから」
「えー!?」

別に嫌味とかではなく、ニコニコしながら普通に答えてくれたのだけれども。
何その理不尽な命令は…トロデ王!!

「そんな申し訳ないです!鍛錬所はみんなの場所なのに…!」
「いいんです、ニナさんのお役に立てるならオレ達はどこででも鍛錬できますから!」

いや、そうは言ってもアナタ。
鍛錬所以外の場所で鍛錬するってあんまり集中できないんじゃないの?

でもこの兵士さんはニコニコしたまま意見を曲げない様子。
うーん…仕方ない、後でトロデ王に進言しておこう。

「…ありがとうございます。でも、私が皆さんのお相手になれるくらいの強さになったらその時はお手合わせ願えますか?」
「はい、喜んで!」

どこかの居酒屋のような返事をした後、兵士は颯爽と去っていった。
遠巻きに見ていた兵士達もいつのまにか一人もいない。

なんか本当に申し訳ないとしか言えない。

「さ、邪魔者はいなくなったことだし、とりあえず修行開始とするか」

奥で待機していたククールが近づいてくる。
ククールと一緒にいたヤンガスはアッシは只の見学でげす。と言いつつ端の椅子に向かって行ってしまった。

ヤンガスは元々兵士の格好ではなく、旅の格好のままだったので新鮮さも何もないが、ククールもエイト同様に赤い騎士団の服に着替えている。
やはりこの服装が一番動きやすいってわけか。

ククールの短髪に騎士団の服ってレアすぎる。

「まずは何からやればいいのかな?」
「そうだな…実践してみてニナがどこまで動けるか調べてみる?」
「おお、実力を試すわけだな」
「え、ちょっと待って実践とか私戦闘なんて一度もしたことないし」
「だからどれだけ動けるかを調べるだけだって言ってるだろ?」
「そうは言ってもククールさんや。ちょっと!エイトも頷かないでよ」
「じゃあ攻撃しかけるから構えて!」
「話聞く気なしか!」

準備運動も無しか!!!
ほんとに!?
ほんとに実践するの!?
そんなとこから始まる修行なんて聞いたこと無いよ!!!

「ニナ、いくよ!!」

叫んだエイトが剣を構える。
ククールなんて何かの呪文を詠唱し始めてる。

ちょ、ま!待ってくれ!


「それっ!!」
「う、わっ!!!」


凄いスピードでエイトが私に切りかかる。
もちろん本気ではないのだろうが、勢いがありすぎて怖い!

「おっ、僕の一撃目を受け止めるなんてやるなあ」
「ぐ、偶然でしょ!!」
「よし、次!」
「ぐっ…!」

今度はそのまま吹き飛ばされて。
ドガッという音は自分から聞こえたもの。
壁に背中を打ち付けて、物凄い衝撃を受けた。

「いっ、痛…!!!」

バカじゃないの、バカじゃないの!何の修行もしてない普通の人間が、こんなの耐え切れるわけないじゃん!!

「ニナッ!ご、ごめん!」

慌てて駆け寄ってくるエイト。
その後ろにいたククールから、水色の光が飛んでくる。

「ホイミ!」

今度は何!と思って構えていたら、その光は傷を癒してくれる呪文だった。
どうやらククールは回復呪文の準備をしてくれていたようだ。
おかげで痛みが消えた。

しかし、今ので解ったとおり私の体力はホイミで完全回復できるレベルであって。

「もう!基礎から教えてよ基礎から!私本当に何もできないんだから!!」
「まさかニナがここまで弱いとは思わなくて…」


な!ん!だ!とー!?


「今のニナとは比べちゃいけないって事が良く解ったな」
「ほんっと失礼だな!?」
「彼女は力は強くないけれど、僕達の攻撃を避けるくらいは普通に出来たから」
「そうだな、少なくとも今のは絶対当たらなかったな」

…未来の私、どんだけ強くなったか知らないけど…それってこうやってスパルタな修行受けてきたからじゃないのかなあ。
なんか。
怖いんだけど。

「悪しき心の魔物が蔓延ってる時代だったら城の外でうろついて修行したのに」
「それこそお前、お陀仏になってるかもしれないじゃないか」
「お陀仏って…」
「魔物と戦って死んじゃったら困るよ」
「…エイト、そこまでハッキリ言ってくれなくても解るから…」
「あ、ごめん」

正直なのもいいけどさ。
泣きたい気分だ。
落ち込んでる私の肩をエイトがポン、と叩いた。

「まず体力からつけようか。城の外にちょっとした仕掛けを作った場所があるんだ。そこに行こう」

あ、慰めてくれるのかと思った私の考えは甘かったようですね。
その笑顔、もう素直に優しい笑顔だなんて思えません先生。
だってククールをチラ見したらあそこに行くのか、っていう顔してるもの。
強くならなきゃダメなの?ねえー!誰か助けて!!!
そうだ、ヤンガス!ヤンガス助けて!…と思ってヤンガスに目を向けると、椅子の上でぐがー、ごがーと大イビキを掻いて爆睡してやがる。
道理で大人しいと思った。こりゃだめだ。





そして連れて行かれた場所は、エイトの言った通りに色んな仕掛けがしてある場所だった。
走ると丸太が振ってきたり、足元の罠が発動したり、岩が飛んできたり。
トラップに引っかかるたびにククールにホイミをかけてもらい、再挑戦する。
何度か休憩を挟んでもらったが、ホイミで体力も怪我も回復するので正直休憩らしい休憩はとっていない。
疲れても元気になれるのは嬉しいけれど、これってある意味一種の拷問だ。


これを何度か繰り返している内に日が暮れてきたので、本日の修行は終了となった。


「何度も繰り返していれば攻撃とか反応できるようになると思うよ。これ、昔僕が使ってた場所でね。旅に出る前にここで修行してたんだ」
「へえ…それでエイトは強くなれたの?」
「自分的にはそう思ってるけど…どうなのかな」
「最初に出会った時のエイトは強かったぜ。オレの目から見てもな」
「ふぅん…そっか」

ククールが認めるくらいの強さだったら、やはりエイトは一般的に強い部類に入るのだろう。
主人公が強くなくては困るが、ククールと出会うのって旅の序盤だし、強いって言ってもまだまだのレベルだとは思うけど…って、今の私に言われたくないか。
私もせめてそのレベルくらいにならないとダメなんだろうなあ。
どれだけの期間修行できるのかわからないけど、私の場合はもっとハイスピードで色々習得していかなければならないよね。

「まだ始まったばっかだし、そう気負うなよ。ニナなら大丈夫だっていうオレ達の言葉を信じろ」
「そうだよ、僕達が最初にニナに出会った時は凄く心強かったんだからね」

アメとムチの使い分けがなんとやら。
二人にそう言われたら頑張るしかないじゃないか。

「うん、少しでも早く強くなれるように頑張ってみる」
「よし、良く言った!夕食後は呪文の勉強だからな、オレの部屋に来いよ」
「え゛。今日の修行は終わり…じゃないのね…」

思わず顔が引き攣ったのは、仕方のないことだと思う。

2015.9.12(2012.6.21)
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