DQ8 | ナノ


  4:自分からの贈り物


「エイト殿!ククール殿!」

王様の間の警備兵が、エイトとククールを見つけてビシッと敬礼した。
それに応えるように二人も敬礼で返す。

「お話は伺っております。王様が中でお待ちです、ニナ殿どうぞこちらへ!」

警備兵の名前はジョシュアというらしい。
キリリと背筋を伸ばした綺麗な敬礼に対し、私はぺこりとお辞儀をし、開かれた扉に入っていくエイトとククールの後ろについて歩いた。

中ほどまで歩くとエイトとククールが跪いたので、私も慌ててそれに倣った。

「おお、その娘が過去のニナじゃな。皆そう畏まらずとも良いわ、もっと近くに来るがよい」
「「はっ」」
「は、はい」

トロデ王の言葉で二人は途端に態度を崩し、玉座へ近づいて行った。
態度の崩し具合にも驚いたが、戦闘員では無きにせよトロデ王も一緒に旅した仲間の一人だもんなあ、そんな堅い関係でもないのかな。

「おお、ニナ…!確かに現在のニナよりも幼い感じがするのう…よくぞ異世界から参った!」
「あ、は、初めまして!ニナと申します」
「いや、もう名前呼んでるんだから知ってるだろ」
「それでも挨拶は基本だからいいんじゃない?」

後ろでククールとエイトがそんな会話をしているけど、そういうのは本人に聞こえないようにやってくれよ…!
わざとか!わざと聞こえるように普通のボリュームで言ってんのか!

「まあ、ニナってばあの頃と変わりないのですね……本当に、過去のニナなのね」

ミーティア姫は玉座の隣に座っていたが、立ち上がって私に近づき、そして感動した様子で手を取った。
姫はやっぱり綺麗…!
トロデ王はまあ、ゲーム通り、なんていうか…うん。いい人そうだ。
人は外見ではない。中身だ、中身。

「あの頃が懐かしいのう…思い出が蘇るわい」
「もう一度魔物に戻りたいのか?トロデ王様よ」
「ムムッ…相変わらずの減らず口じゃのう、ククール!そうは言っておらんじゃろう!」

最初の態度は意味があったのだろうか。
一応形式ってやつ?それでもこんな風にくだけまくりだったら、威厳も何もなくない?
他の兵士達はちゃんとしてるっぽいからいいのかな。

「お父様もククールもお止めください。ニナが困っておりますわ」
「はは…話に置いてけぼりです」

話には置いてけぼりだけど、見るもの全てが新鮮だから全く退屈ではない。
姫の言う通り、ちょっと困るくらいだ。

「そうだよね、ニナにとっては全てが今から起こることだもんね」

言いながらエイトは私の頭を撫でた。
エイトの言うとおり、私にとっては全てが今から起こることなのだ。
思い出とか言われても何がなんだかさっぱりだ。
…さっぱり、ってこともないか。一応ゲームの流れは知っているから大体の想像はできる。

「まあ、もう仲良しなのですね」
「過去でも今でもニナはニナですからね。姫もそう思うでしょう?」
「そうですね、ミーティアもそう思います。ニナ、身分のことなど気にせず、ミーティアとも仲良くしてくださいね」

にっこり微笑んで仲良くしてくださいという姫。
そんなのこっちからお願いしたいくらいだ。
こんな綺麗なお姫様とお近づきになれるなんて、嬉しい限りである。


「本来ならばミーティアに近づくものはこのワシが許さんのじゃが、ニナなら大歓迎じゃ。この城に居て不便なことがあったらいつでも申せば良い。出来ることなら何でもしてやろうぞ」
「結局みんなニナには甘いのですね」

クスクス笑うミーティア姫に釣られて、みんなも笑い出した。
苦笑してるのは私只一人。

解ったのはトロデ王もミーティア姫も気さくでいい人、話しやすい人だということと、何かあったら助けてくれるということ。
そして城中の人々が私の事情を知っているということで、出会った人ひとりひとりに説明する必要はないみたいで、それはとても助かった。
自分の中でも理解が追いついてないのに、それを人に説明するなど言語道断である。

「修行の場も鍛錬所を自由に使うといい。ニナ自身の魔法の扉は開いてもらったんじゃろ?」
「あ、それは昨日オディロ院長にやって頂きました」
「ウム、そのように報告を受けておるわい。エイト、ククール。ニナを一人前に育ててやってくれよ」
「言われなくともそうするぜ」
「ご安心ください、王様」
「時間があったらまたミーティアともお話してくださいね、ニナ」
「もちろんです!是非お話しましょう!」
「ふふ、ありがとう」
「では王様、姫、これからヤンガスにニナを会わせてきますので」
「おお、そうかそうか。では行くがよい!」

エイトとククールに背中を押され、王の間を後にする。
最後に振り返って挨拶をすれば、トロデ王もミーティア姫も笑顔で手を振ってくれた。

これで王達への挨拶も済んだことだし、一安心。
お世話になるのに心苦しさを感じなくて済む。

…しかし、あれだ。暗黒神を倒してから5年経ってるんだよね?
姫、結婚してないの?
エイトといい関係なのかと思いきや、そんな雰囲気は微塵も感じられないし、普通に主従関係のままっぽい。
これは聞きたくても簡単に聞けることではないな。
どっかで聞けるタイミングがあれば、それとなく聞いてみよう。



「さて次はヤンガスだな」
「ヤンガスは…今日は何するって言ってたかな…宝物庫の掃除するって言ってたっけ?」
「ああ、確かそう言ってた気がするな」
「じゃあ宝物庫へ行ってみようか」

今度はまた長い廊下を歩き、地下へと降りていく。
トロデーン城に地下などあっただろうか、と思ったが、5年も経っているなら色々と変化があってもおかしくは無い。
私の記憶力もそんなに凄いわけでもないから、城の構図をそこまで詳しく覚えてもいない。
無かったとしても増設したとかそんなところだろう。

本来のヤンガスの仕事は兵士だが、元盗賊ということもあって宝物庫によくいる。
拾ってきては宝箱に何かを入れたり、昔の旅で手に入れた色んなものが置いてあるので厳重に警備している。
トロデ王曰く彼に宝物庫の警備を任せてから一切の盗みがなくなった、とのこと。


そんな話を二人から聞きながら、ようやく宝物庫の扉へと辿り着いた。

「おーい、ヤンガス。いるかい?」
「へーい!アニキ、アッシはここでがす」

ニナが叫ぶと、扉の向こう側から元気な声が聞こえてきた。
そして次の瞬間、勢い良く扉が開く。

「おっ、ククールも一緒だったんでげすね。アニキ、何か用で…ニナの嬢ちゃん!もしや過去の嬢ちゃんでげすか!?」
「そのとおりです!一応初めまして、ヤンガス?」

疑問で終わらせたのはヤンガスにも敬語と敬称抜きでも大丈夫だったかな、という意味を込めて。
よろしくでがす!なんて元気に返ってきたところを見ると、大丈夫なようだ。

「へえ、この嬢ちゃんはまだ何か大人しい感じでがすね」
「昨日こっちに来たばかりだったからね、まだ自然体じゃないんだと思うよ」

ね、なんて顔を向けられれば、うん、と頷くしかない。

「そのうち従来の性格が出るだろうさ」

従来の性格って…確かに私は大人しいほうではないけれども。
なんか失礼だな、と思いつつも反論はしない。
この先どうなるかなんてわからないからなあ…きっと否定できないだろう。

「あ、そうそう。そういえば旅立った方のニナの嬢ちゃんから過去の自分に渡してくれと頼まれたものがあるでげすよ」

言いながらヤンガスは宝物庫の奥にある宝箱の鍵を開けた。

中から取り出したのは杖とローブと指輪と………うさみみバンド?
ヤンガスは全部まとめて私に渡してくれた。

「これらの道具は過去に行くときに役に立つからって伝言でがす」
「杖やローブはまあわかるとして…なんでうさみみ?」
「さあ?ニナの嬢ちゃんにも何か考えがあったんじゃないでげすかね?」
「僕、ニナがうさみみバンドつけてたのは見たことないなあ…」
「オレも無いぜ。これに意味があるとは到底思えないね」
「私もそう思う…」
「でも、ニナってあんまり意味のない行動とかしないタイプだよね?」
「まあな。大事なメッセージかもしれないから、迂闊にスルーも良くないかもな」
「いや、でも…自分で言うのも何だけど、これはおふざけとしか…」

うさみみバンドなんて酒場のバニーちゃんが着けてるイメージしかない。
これを私に着けろと?

「なんなら早速着けてみるか?」

ククールがローブの上にあったうさみみバンドを手に取る。
そして私の頭に着けた。

「着けるなんて言ってないのに」

女子高生の制服にうさみみバンド…なんのいかがわしいコスプレだ。
黒歴史も甚だしい。
頭の上で長いうさみみがユラユラ揺れる。

「ニナ、かわいいかわいい」
「嘘だ、エイト笑ってる!!」
「可愛らしくてほのぼのするから笑っちゃうんだよ」
「そんな理由があるか!ヤンガスもククールも笑ってるじゃん!なんかバカにされてるとしか思えない!やだもうこれ取る!」

両手が塞がっているのでブンブン頭を振れば、それは簡単にすっぽ抜けた。

「あっ…あーあ、せっかく似合ってたのに…」

落ちたうさみみを拾いながら残念そうに言うヤンガスをキッと睨んだ。
だが元々ヤンガスの顔が睨んでいるような顔なので、負けた気がする。

「ヤンガス、これはいらない。宝箱に戻しておいて!」
「何か意味があるかもしれないのに、いいんでげすか?」
「そうだよ、持っておくに越したことはないんじゃないの?」
「何か意味があったらどうするんだ?」
「くっ…!」


そんなの自分が一番わかってるよ!
私だって意味の無い行動なんて好きじゃないさ!
でもうさみみって…うさみみ……ああ、もう!本当に意味があったら困るから持っておくしか選択肢がないじゃないか!
ぶっちゃけどっかで買えるだろ!とも思うけど、それを言ったところできっとこの三人は納得してくれないだろう。

「わかったよ。とりあえず持ち歩くだけにしておく」

そう答えると他の三人はうんうん、と頷いた。

「それにしてもこの杖とローブ、それから指輪…随分高価そうに見えるけど」

道具の名称を知っていても、実際に画面見ただけでは小さくてわからない。
したがってこれが何の杖で何のローブなのかはさっぱりわからないのだ。

「その杖は魔封じの杖だな。それとドラゴンローブ。ドラゴンローブは呪文のダメージを軽減できる装備品だ」
「指輪はソーサリーリングかな?ちょっと見せて」

エイトに指輪を渡すと、あ、やっぱりという声を漏らした。

「これは賢さとMPを補助してくれる指輪だよ」
「MPはともかく賢さ…私はそんなに未来の私にとって信用ないのか」
「自分のことだからよく理解して、そういうものを置いて行ったんだろ」
「ククールの言う事はもっともでげすな」
「………決して利口ではないけれども」

賢さをあげて少しでも早く呪文を覚えろってことなのか。
もうちょっと解りやすいメッセージはないのか、私!

「まあまあ、いいじゃない。本来ならばこういうものは錬金したり遠くの町でしか手に入らなかったりするものだから。準備されてただけマシだと思おうよ」
「そうだな、明日からの修行もこれでやりやすくなると思うぜ?」
「修行…やっぱりするのか、修行」
「修行しないと強くなれないでげすよ」

ちきしょう、さっきからみんなして一理あることばかり言いやがって。
…いや、でも。
前向きに考えると呪文を覚えられるのは素直に嬉しいし、これらの装備品のおかげでこれから本格的に修行が始まるんだなっていう実感ができたから、良しとしよう!

「明日からといわず、今日の昼食後にはもう修行しましょう!私の気が変わらないうちに!」

私の発言にきょとんとした三人は、お互い目を合わせてから再び笑った。

2015.9.12(2012.6.21)
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