DQ8 | ナノ


  3:わたしはわたし


「………」

ふわぁ、とあくびをひとつ零して周囲を見渡せば、どうやら私は誰かの部屋のベッドに寝かせてもらっているようだった。

「んー…?どこだ、ここは…」

そういえばエイトさんは『ニナの部屋の鍵』って言ってたな。
すると、ここは未来の私の部屋なのだろうか。

机の上には見慣れない道具や、本棚には洋書のようなものがたくさん並んでいる。
床には何も散らばってないことから、掃除はしっかりされている様子が伺える。
自分自身掃除は好きでも嫌いでもないから、とりあえず未来の自分もちゃんとやっているんだなと思うと少し笑えた。


それにしても。
やはり今までの出来事はとても信じがたい。
いい加減夢じゃないことは認めているが、ほんとに私はこれから過去に戻って…私にとっては戻るというより、行く、って感じだ。
過去に行って、色んな人の手助けが出来るのだろうか。
ましてや命を救うなど、そんな大それた事を。

そりゃあ、ゲームの中ではオディロ院長もサーベルトさんも、そのほかにも何人か暗黒神の所為で殺されてしまったし、その人達が生きていると思うと嬉しいけど。
本来の未来にはオディロ院長は居ないはずなのに、会話…出来ちゃったもんなあ。
実際に経験してみないと何も言えないや。


さて、今は何時頃なんだろう。

体はもうだるくもなんともない。
ベッドから抜け出し、ちょっとだけ扉を開けて廊下を覗いてみる。
着替えなんてあるはずもないので着の身着のまま、女子高生の制服のままだ。
至る所がしわくちゃになっている…けどそんな事言っても仕方ない。


さすがはお城、廊下の広いのなんの。
色々探索してみたい気持ちがあるが、迷子になる確率100パーセントの私が一人でうろつくなど。
…でも、未来の私はこのお城に住んでるみたいだし、いざとなったら誰かに聞けばどうにでもなるかな。
ちょっとだけ、ちょっとだけ探検してきてもいいですか!
よし、ちょっとだけだぞ!

誰に聞くわけでもなく、自問自答してから部屋の外に出る。
さて、右と左…どっちに行こうか。
そういや人間って無意識に左を選ぶってきいたことがあるな。
ではそれに反して右に行ってみよう!




お城の中には人もたくさんいる。
私に気づいた人は丁寧に「ニナさんおはようございます」と挨拶をしてくれた。
こちらも思わず「あ、おはようございます」なんて返していたが、まさか今が朝だとは。
ククールさんに部屋まで連れてきてもらって、それから朝までずっと寝ちゃってたってわけね。
申し訳ない気持ちでいっぱいになるが『仕方なかったもんね、ま、いっか!』と気楽に捉えることにした。
ひとつひとつのことをいちいち深く考えていたら私の頭は爆発すること間違いなしだ。

奥の方から香ばしい匂いがするな〜と思いながら歩いていると、食堂へと辿り着いた。
道理でいい匂いがするわけだ。
お城の料理かあ…さぞ美味しいんだろうなあ…
涎が垂れそうなのを抑えていると、頭にコツンという衝撃を受けた。

「よう、気分はどうだい?」
「あ!ククールさん!」
「その様子じゃあ大分良くなったみたいだな」

クックッと笑うククールさん。

「はい、おかげさまで全然元気になりました!あ、の、部屋まで運んでくださってありがとうございました。ご迷惑をお掛けしてしまってすみません」

お姫様抱っこを思い出しながら感謝と謝罪を述べた私の顔はきっと真っ赤だったことだろう。
だってククールさんは終始ニヤニヤしている。
更にはタイミングよく『ぐぅー…ぐるるる』と鳴った私のお腹。

「っは!ははは!!腹減ったか!そりゃそうだよな、昨日の昼過ぎから何も食べてないんだもんな。オレも今から朝飯なんだ。一緒に食うか?」
「…是非ともお願いしまっす…」

ほんっとに恥ずかしい。
どうしてこう、私ってやつは…。
……いやいや、体に正直なのはいいことだよね。
もうなんでもいいや。


トロデーン城の食堂には何人かの人で賑わっていた。
それこそ衛兵から文官から召使風の人まで。
ここでは誰が食事してもいいらしく、たまにフラッと王様が現れたりもするそうだ。
その際はもちろん姫も一緒に。

ククールさんから食事の手順を教えてもらって、自分の分を用意する。
カウンターみたいなところから好きなものを適当に持っていって良いみたい。
但し、一種類につきひとつまでという決まりで。
調理場も何人かの料理人が交代で働いているようだった。
ゲームでは一人か二人っていう感じだったけど、こんな広いお城の料理を少人数で賄えるわけないもんね。
実際のこの世界って当たり前だけど凄く新鮮。


席についたところで一人の女性が近づいてきた。

「おはようククールさん。その子が例の?」
「ああ、おはようベティ。そうさ、噂の彼女だよ」
「へえ…ニナさんって今も昔もあんまり変わらないのね。なんだか安心しちゃった。よろしくね、私はベティ。ニナさんとは割と仲良しなのよ」
「あ、よ、よろしくお願いします」

ベティさんはククールさんの隣に座るかと思いきや、ちょっと離れた集団の方へと行ってしまった。
綺麗な人だなあ、と思いながらぼんやり彼女の行った方向を見ていると、その集団に思い切り手を振られた。
中には「ニナー!」なんて叫んでいる人もいる。
注目されるのなんて慣れてないのに。
やめて欲しい…。

「みんな最初だけだって。面白がってちょっかいかけてくるのは。お前は気にせず堂々としてればいいんだよ」
「そう言われても…」
「まあ、徐々にな」

ぽん、と頭に手が乗ったと思ったらそのままぐりぐりと撫でられる。
悪い気はしないけど子供扱いされてる気分だ。
ククールさんにとっては十分子供なんだろうけど。

じっとククールさんの顔を見てると、それに気づいたククールさんが目を細めてこちらを見返した。
同時に綺麗な銀髪がサラリと揺れる。

「あ」
「ん?」
「あ、いや…ククールさんって私の知ってる限りでは長髪だったから…短いんだな、と思いまして」
「ああ、これ…ニナが『短いのも似合うんじゃない?』って言ったから切ったんだぜ?」
「嘘!?」
「こんなことで嘘ついてどうするんだ…ホントだって」

ええー…私、そんなこと言ったのか。
や、確かに大人の色気って感じで凄くカッコイイし似合っているけれども。
あの綺麗な長髪も見てみたいなって思ったから、ちょっとだけ残念だ。
しかも、短髪でもとても綺麗なのに、長髪だったらなおさら綺麗だっただろうに…なんて馬鹿な事言ってしまったんだ…って、言ったの今の私じゃないけど!


「やあ、おはようニナ、ククール」

食事に視線を戻すと隣にエイトさんが座った。
プレートを持っていることから彼も今から朝食なんだろう。

「おう」
「おはようございます。エイトさんも、昨日はご迷惑をおかけしましてすみませんでした」
「いや、いいんだよ。元気になった姿を見て安心した」

ニコッと笑いかけてくれるエイトさんは優しさオーラが半端ない。
こちらも自然と釣られるような笑顔。
ククールさんとはまた違った大人な感じがとても素敵である。

「で、何の話してたの?僕も混ぜてよ」
「オレの髪型の話。ニナが今は短いんだなって言うからさ」
「ああ、ククールも昔は長かったもんね…そういえばさ、ニナも伸ばしてたんだね、髪」
「出会った頃は既に短かったからなあ。貴重なモンが見れてる気分だよ」
「未来の私は短いんですか?」
「ずっと短いままだったな」
「うん、短いのも似合ってて可愛かったけど、長いのも可愛いね。ニナはどんな髪型でも似合うんだなあ」
「え」

出たよ天然。
そもそも私が可愛いわけなかろうが。
エイトさんは人の悪口とか言わないタイプだ。絶対そうだ。

「エイト…お前はいつもオレの言いたい台詞をサラッと奪っていくよな」
「え?だってククールもそう思うでしょ?」
「思うけど…そういう問題じゃねえんだ、って、そんな天然がお前のいいところだよな。別に今更なこった」
「素直に思ったことを言ったまでだよ、僕は」
「へいへい、わかったよ」
「ところでニナ、まだトロデ王様とミーティア姫には会ってないよね?」

どう口を挟むものかと悩んでいると、違う話題を振られた。

「ああ、まだですね」
「昨日あれから王様に報告しに行ったら会いたがっていたから、これ食べ終わったら謁見しに行こうか」
「そういやヤンガスも会いたがってたぜ」
「じゃあ謁見が済んだらヤンガスのところにいく?ニナ、それでいい?」
「ヤンガス…王様、姫…。はい、連れて行ってください!」

そうだよね、トロデーン城にこのままお世話になるのであればちゃんと挨拶はしておかないと。
機会があったらオディロ院長ともまた話がしたい。
オディロ院長には教会に行けば会えるだろうか。
まずはトロデ王様、ミーティア姫にご挨拶!
それからヤンガスにご挨拶!


「そうだ、ずっと気になってたんだが…ニナ」
「はい?」
「それ、その喋り方どうにかならないか?」
「喋り方?」
「僕も気になってた。今は僕達のほうが年上だからそれが自然なのかもしれないけど、できれば普通に喋って欲しいんだ」
「ニナに敬語使われるとなんか調子狂うんだよな」
「敬語をやめろ、と」
「「そう」」

うおっ…ダブル攻撃はカンベンしてください。
うっ、と仰け反ってみたが、そんな動作をしてもなんの効果もないのはわかっている。
正直なところ私も敬語は苦手だから有難い。
だけど二人があまりにも大人な感じがしてねえ。
5年前のこの世界に最初から来ていたのならば、普通に喋れていたと思うんだけど。

「ちなみにお二人は現在何歳です…なの?」
「僕は23」
「オレは25だな」

ホラね、18の女子高生に比べたら20代ってやっぱり大人だよ。
5年前だったら…5年前だったらエイトさんとは同い年だったのに!

「頑張ってみ…る、よ」
「慣れりゃすぐだろ、ニナのことだからきっと大丈夫さ」
「敬称もいらないからね」
「りょ、了解であります…!」
「ははっ、ニナ…それも敬語みたいなものだよ」
「っ…!」

いきなり喋れって言われて喋れるもんでもないだろうが!
笑ってる二人にいつか仕返ししてやりたーい…そんな日はこない気がするけど。


「それじゃあ、みんな食べ終わったみたいだし、王様と姫に会いに行こう」
「そうだな。ニナ、それ貸せよ。片付けてきてやる」
「あ、いやでも今後一人になったときに片付ける場所覚えておきたいから…お気持ちは嬉しいけど自分で片付けるますよ」
「ブッ…わ、わかった」

どうせ変な喋り方になっていると笑ったんだろう。
エイトさ…エイトも堪えている様子だが、私の視界にはバッチリ入ってるんだからな!

「一人にさせるつもりもないから、食事するときとかも気軽に声かけてね」
「エイトに同じく、だな」
「うん、ありがとう」

ほんとにこの人達は優しいなあ。
いくら未来の私がお世話になっているからといって、ここにいる私は知らない人同然なのに。
それでも未来の自分を知っている分、相手にとっては知らない人の枠からは自然と外されているのだろうか。
そうだったら嬉しいけれども。

2015.9.11(2012.6.21)
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