43:ドルマゲスとの戦い
羽根を焼かれた神鳥を見守っていると、ゴゴゴゴ、と地面が揺れて。
次の部屋に続く階段が現れたので、そのまま移動を開始する。
並び順では相変わらずゼシカと私は真ん中に入れて貰っている。
途中崩れたりもしたけれど、やっぱり新しい場所へ行くときにはこの並び順に戻るのだ。
「あ、」
一声と共に指を指すと、エイトもククールも理解してくれたようで、私の指した方向へと曲がってくれた。
「魔方陣があるね。ここに乗れば全回復できるのかな?」
「私が知っている限りだと魔方陣なんてなかったけど……そこの水に触れても回復はしない?」
ククールが水に触れるが、首を横に振る。
「じゃあやっぱりその魔方陣かな。エイト、念のため手を繋いでおこう」
「わかった」
エイトと手を繋ぎ、もう片方の手をククールと。
ククールはゼシカと、ゼシカはヤンガスと。
全員繋いだのを確認したエイトは魔方陣に乗った。
魔方陣から淡い光が浮き上がり、私達の体を包む。
「……おお。これやっぱり回復の魔方陣だったね」
「手を繋いでおいても無駄にはならなかったでがすね」
「全員が一気に回復されるのは便利だわ」
「と、なると、いよいよドルマゲスと御対面ってワケだな?」
「そうなるね。私もサポート頑張るので!」
前衛は任せた! の意味を込めてエイトとヤンガスを見ると、二人は力強く頷いてくれた。
ククールと繋いでいた手も、一度ぎゅっと力を入れてから離した。
ゼシカも視線をくれたが、その目は闘志が篭っている。
「行こう」
エイトが次の部屋への扉に手を掛けた。
部屋の中は異様な空気が漂っている。
邪悪な感じもするし、熱気が篭っている気もする。
部屋の中央、天井から取り付けられた紫の卵のようなものの中に、丸まって浮かんでいるドルマゲスの姿はまるで胎児のようで。
一言で言うと気味が悪い。
でも、不思議と怖くはなかった。
七賢者の魂を全て渡したわけじゃないから?
皆と一緒にここに立っているから?
幸せな未来を見てきたから?
理由は……何だろうな。
正直、わからない。
わからないけれど、さっきまで闇の遺跡に対して抱いていた筈の恐怖心が凪いでいる。
もっと緊張するかと思っていたのに、いい意味で拍子抜けだ。
床には卵のようなものと同色の魔方陣が光を帯びていて、そこまで進むとドルマゲスがゆっくりと目を開き。
そして、杖を構えて私達に向き直った。
「おやおや……こんな所まで追ってくる者がいようとは……確かあなた方はトロデ王の従者達……んん? 見かけない顔がありますねぇ」
ドルマゲスの視線が私を捉えた。
そして、一瞬にして顔付きと口調が変わる。
「貴様は……折角七賢者の魂を手に入れたと思ったのに、悉く邪魔してきた奴だな!?」
「……ラプソーンを蘇らせようったってそうはいかないよ」
「なっ、何故それを知っている!?」
「それをアンタに教える理由はない」
「オイニナ、あんまり挑発するなよ。狙われるぞ」
「あー……ごめん」
挑発するつもりは無かったんだけど、口が勝手に動いてしまった。
だって身勝手な理由で七賢者を殺そうとしたのはやっぱり許せないよ。
でもアレだ、私が狙われるのなら皆はやりやすくなるんじゃない?
自分の身は守れるから、ここぞとばかりに総攻撃しておくれ。
「ラプソーン様の事を知っているとなると……生かして返すわけにはいかないな……悲しい……悲しいなぁ……全員まとめて地獄に送ってやる!!」
「!?」
生かして返すつもりなんて微塵も無いくせに。
そう返したかった言葉は、一言も発することが出来なかった。
ドルマゲスが振りかざした杖からは盛大に魔力が溢れ出て、その魔力が茨になって私達へと勢い良く向かってくる。
その勢いが速すぎて、呪文も唱えられないしこれってヤバい……!?
全員が動けないままでいると、パァン!! と大きな音が響いて。
当たる! と思った瞬間に目をぎゅっと閉じたけど、いつまで経っても衝撃が訪れないことにゆっくりと目を開く。
私達の先頭に居たのはエイトで……、ああ、そうか。
この茨は呪いの茨だったんだ。
エイトがいるから弾かれたんだね。
茨は私達を避けるようにして、後ろへと流れていた。
まさか最初からこんな展開になるなんて思っていなかったから、かなり油断していた。
ゲームでは三人に分身して、それに勝つとこの茨の呪いを飛ばされたんだもの。
次第に動きを止めた茨は、ボロボロと崩れ落ちた。
「な、何だと……?」
ドルマゲスが動揺している姿を見せる。
皆も不思議そうにしているけど、これ以上遅れを取っても厄介だ。
「スクルト! ピオリム!」
「「「「!!」」」」
先手を取られる前に補助呪文を紡ぐ。
それから、ゼシカ以外にバイキルト。
皆もその流れを汲んで、各々得意な攻撃を仕掛けた。
「くそがァァァ!! 舐めるなよ!!」
ドルマゲスが羽根の雨を降らせ、全員の足が止まる。
避けられなかった部分にはすかさず回復を飛ばす。
だが、その隙にドルマゲスの体がどんどん形を変えていき……尻尾と羽根が生えて、半分鳥のような姿になった。
「何だァ、ありゃあ……」
「最早人間じゃないわね……」
「不気味度が増したでがす……」
「あの姿のドルマゲスを倒せば……、終わるはずだよ」
「これ以上の変化は無いってことだね?」
「ごちゃごちゃと目障りな……とっととあの世に逝くがいい!!」
「……ッカァァァァァ!!」
ドルマゲスがいてつく波動を放ち、こちらの効果を掻き消す。
いてつく波動って初めて受けたけど、ちょっとビリビリするんだね。
一つ勉強になったよ。
でも、動けないわけじゃない。
消されたのならまた同じ効果を付与すればいいだけの話。
スクルトとピオリムをそれぞれ重ね掛けして、バイキルトと念のためにフバーハも。
ドルマゲスが攻撃呪文を使うときには予備動作が入ったので、すかさずマホカンタを飛ばした。
思い通りに攻撃出来ない、呪文も跳ね返される。
相手は自分に傷を増やしていく。
そんな風にフラストレーションが溜まっているであろうドルマゲスは、再びいてつく波動を飛ばしながら自らの頭を掻きむしった。
「おのれェ、おのれおのれおのれおのれェェェ!! どこまでも邪魔を!! 貴様……貴様さえ、貴様さえいなければァァァ!!」
杖の先に魔力が集中して、何かとてつもない魔法が放たれようとしている。
そ、そんなのあったっけ!?
あの魔力大きすぎない? マホカンタで跳ね返せるかな……!?
ゲームと違う動きに妙な焦りが出てきて、それでも、私に出来ることは…………皆を信じてサポートするしかない。
ふぅ、と息を吐き出し、バイキルトとピオリムを唱える。
次の瞬間、ドシュ、というやけに大きな音が響いた。
ドルマゲスが杖を振るよりも先に、エイトの剣が奴の腹部を貫いた。
それに追い打ちを掛けるような、ククールの弓が胸に。
ヤンガスの斧が足に。
ゼシカの呪文が全身に。
全てをその身に受けたドルマゲスは、声にならない叫びを発した。
何かに救いを求めるかの様に、空に向かって手を伸ばす。
「……ラ……プ、ソー…………ン……さ……ま、…………」
そして足下から徐々に石化が始まり、砂となって消えた。
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