DQ8 | ナノ


  42:馴染んでいたつもり、だった


──闇の遺跡。

結界が張られたままだと、中は真っ暗、闇そのもので。
それでも歩みを進めてみれば、笑い声と共に外に戻されるという……ゲームではあの笑い声にビクッとなった記憶がある。
リアルで試してはいないけど、実際だったらトラウマになりそうだ。


エイトが太陽の鏡を持ち、遺跡正面の石柱にはめた。
すると鏡から一筋の強い光が放たれ、闇の遺跡の結界が霧散する。
これで入り口から堂々と中に入れるようになったわけだけど……正直、雰囲気が怖いよね。

周りの様子を伺えば、皆決意の篭った目をしていて、怖がっている人なんて誰もいない。
ここまでそれなりにレベルも上げたつもりだし、魂を取り込めなかったことでドルマゲスの力もそこまでは強くないはずだし、普通に戦えば勝てる。
ドルマゲスに勝てる自信はあるけど、それでも怖いものは怖いんだよなあ。

そういえば、ラプソーンは七賢者の血が途切れると封印が解かれるのだったはず。
全員が亡くなったわけじゃないから、血は途切れてないけど……魔力を空っぽにしたことで同じ意味になるのかな。
その場合、ラプソーンは結界に守られていなかったりする?
……そうだといいなあ。


そんな事を考えている間にも、皆は遺跡の中へと進んでいく。
ククールに軽く背中を押され、心の準備が終わらないままに私も中に入ることとなった。

「……うわ……」

雰囲気やばい。
そう思って呟いた声は、静かな空間によく響いたようで。
一瞬にして全員の視線を集めてしまった。

「どうしたの?」
「あぁ〜ごめんゼシカ、遺跡の中の雰囲気が……ちょっと、怖くて」
「えっ。ニナの嬢ちゃんにも怖いことあるんでがすね」
「何それヤンガス失礼じゃない?」
「あ、いや、こういう戦い関連に関しては大丈夫だと思ってたでげすよ。他意はないでがす」

他意は無いって。
他意以外の何があるっていうんだ。

「そっか……ニナも怖いと思うのね。良かったわ、実は私も少し怖いと思っていたのよ」
「ゼシカの嬢ちゃんはそれこそ「ヤンガス」
「……げす」

ゼシカのひと睨みに押し黙るヤンガス。
どこかで見覚えがあるようなないような。

「ニナもゼシカも大丈夫? とりあえず真ん中に入りなよ」
「オレとエイトが前に行くから、ヤンガスは後ろな」
「わかったでがすよ」

エイトとククールが陣形を整えてくれて、ゼシカと私は少し安心できるポジションに入れてもらった。
確かに戦闘に関しては怖がっている場合じゃないっていうのはわかっているけど、ここは今までの場所と雰囲気が違いすぎて。
それも割り切らなきゃいけないんだけどね、甘えてごめんね。


「そうだ、今更な情報だけどさ。この遺跡、最後の部屋手前で全回復できる場所あったはずだから、途中まではガンガンいっちゃって」
「おっ、それは有難い情報だね」
「回復場所があるなら楽勝だな。他に心配事とかあるのか?」
「うーん、他に…………迷路みたいな道があった記憶かあるから、そこがちょっと心配かな?」
「迷路か。なら分断しないように気を付けないといけないわね」

ゼシカの言葉に頷き、まずはどう動けばいいかを皆に伝える。

中央からの道がないので、二階に上がってレバーで階段を出す。
それから、次の部屋では思った通りの迷路みたいな道が。
道を塞いでいる壁は、とてもじゃないけど上れる高さではないので、階段で上にあがった時に道筋を確認し、エイトの持っていた紙にそれを記す。
そうすることで無駄な行ったり来たりが無く、次の部屋へと進むことができた。

もちろん道中では魔物がうようよ出て来るけど、ガンガンいっちゃっての言葉通りに基本は瞬殺だ。
 
ただ、ここからはトロルが出るから少し梃子摺るかもしれない。
動きは遅いけどHPが高いから削るのが大変だ。
私も回復・補助・弱体系の呪文を飛ばす。
隙があれば唯一使えるヒャダルコも使おうと思っているんだけど、それより皆を補助したほうが早く終わるのがわかっているので自重してます。


「しかし、トロルでっかいわあ……あの足で踏まれたら相当なダメージだよね」
「ニナは絶対近付くなよ」
「ニナが前に出てきても、止めるから大丈夫だけどね」
「言われなくても前にはいかないけど」

ククールやエイトに言われずともわかっている。
呪文がメインのゼシカと、弓使いのククールも後方からの攻撃だけど、エイトとヤンガスはよく近くにいけるなあ、と感心してしまう。
剣や斧がメインだから近付かないわけにもいかないだろうけど。
トロル、正直ちょっと臭そう。

そんな事をお喋りする余裕はあるので、魔物を倒しながらもどんどん奥へと進んでいく。

時々さまようたましいやメラゴーストがラプソーン様がうんたらかんたら言ってるけど、攻撃してこないのなら、とスルーしている。
ただ、話の内容は気になるみたいだ。

「ドルマゲスって、ラプソーンってやつを復活させようとしているの? そもそもラプソーンって誰よ?」
「ラプソーンっていうのは、暗黒神と呼ばれているものだよ。元々は闇の世界の神でね……」




ゼシカの質問を皮切りに、私が知っている限りのラプソーンの情報を伝える。
トロデ王やミーティア姫がここにいたら躊躇ったかもしれないけれど、ククールに聞いてもらった話の内容も、軽くは伝えた。

「それじゃあ、ドルマゲスはラプソーンに操られているって事でがすか?」
「そう。とはいえドルマゲスは自ら力を欲して、手を出しちゃいけないものに出してしまった。だから同情もしないし倒すことに躊躇いもしないけど」
「それはまあ、そうよね。兄さんを殺そうとした……一度は殺したのは、操られていたとは言えドルマゲスなんですもの」
「ドルマゲスを倒したとしても、呪いが解けるかはわからない、か……呪いが解ける条件って、わかる?」
「大きく言えば、ラプソーンを倒すことなんだけど……イレギュラーが起こっているわけだし、正直わかんない。ドルマゲスを倒せば解ける可能性もあると思うし……明確な答えを出せなくて、ごめん」

エイトは自分の国ごと呪われてしまってるんだもんね。
トロデ王やミーティア姫だけじゃなく、早く皆を助けてあげたいよね。

「未確定なことを考えていても仕方ないだろ。今はドルマゲスを倒す。それでもダメだったら次を考えようぜ。な?」
「……そうだね、ニナ、困らせてごめんね」
「ううん、全然だよ。エイトの気持ちもわからないでもないし。でも、ククールの言うとおり、手っ取り早くドルマゲスを倒しちゃおう」

エイトは困ったような笑みを貼り付けて、再びそうだね、と頷いた。
あのまま話を続けていても、やっぱり答えなんか出せなかっただろうから、ククールには助けられちゃったな。
チラリとククールを見やると、パチン、とウインクで返される。
偶然それを見たであろうヤンガスは半目になっていて、思わず笑いそうになった。



階段をどんどん下りていき、ミミックが入った宝箱はスルーし、もう一方の宝箱のみ回収して、次の部屋に到着した。

二つの像と、巨大な壁画がある部屋だ。

「次の部屋への入り口が見当たらないね? 何かのギミックかな」
「ああ、そうそう。あの像の足元にボタンがあるでしょ? どっちでもいいから踏んで、あの神鳥の羽に当てるの」
「神鳥の羽に当てるのか?」
「そう。私達から見たら幸福のシンボルとかそんな感じに思えるけど、暗黒神から見たら邪魔な敵だから」

踏み絵……とはまた意味が違うか、攻略法を知らなければ、神鳥の羽を焼くなんて考え付かないもんな。
ここは魔物達の神殿だし、魔物達にとっての敵と言ったらあの壁画に描かれているのは神鳥しかいない。
神鳥を傷付ける事が出来るのならば、この先に通してやるって感じなのかな。

「なるほどな……じゃあ二人ずつ乗るか。その方が修正も早いだろ。ニナ、行くぞ」
「ん? え、」

ボタンは二つあるから、行き過ぎたりすれば確かに二人で片方ずつ踏んだ方が早いかもしれないけど。
返事をする前に引っ張られるのはどうなの。

反対側にはゼシカとヤンガスが乗って、エイトが全体を見ながら指示を出してくれる。
今までだったら、その指示出しの役目って私だったんだよなぁ。
エイトがリーダーらしくなってきているのはいいことだけど、ちょっと寂しい。
お役御免って言われたわけでもないし、頼られている部分もある。
月の世界でのあの出来事から私も積極的に戦闘に加わり始めたし、皆が強くなったのなら、これが正しいポジションなんだけど……なんだろな、やっぱり皆を手助けするために来た、っていう気持ちが強かったのかな。
正しく流れているのなら、いい事なのにね。
もしかしたらククールも、そういうのを察知して私を引っ張ってきたのかもしれない。
少しずつでも《ここ》に、馴染ませてくれるために。

私、我が儘なんだな。
私も皆と同じように頑張らなきゃいけないのに、まだ踏ん切りがついていないんだ。
《この世界》を、どこか他人事のようにみていたのかもしれない。

私が元の世界に戻れないことを知っているのはククールだけで、皆にはまだ話せていない。
タイミングが無かったっていうのもあるけど、やっぱり話辛いのが一番の理由で。

ドルマゲスを倒したら、一度みんなにちゃんと話そう。
そして、一区切りつけなきゃ。
時が解決してくれる、なんて考えていたら、いつまでたっても進まなそうだから。
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