DQ8 | ナノ


  41:心の支えはすぐ側に


船室で待機してもらっているトロデ王とミーティア姫に、無事に太陽の鏡を入手できたことを話すと、二人は自分達の呪いが解けるまでもう少しだ、と喜んでくれた。
ドルマゲスを倒した後は、魔力を蓄えた杖を破壊すれば暗黒神ラプソーンも蘇らないだろうし、トロデーンの呪いも無事に解けるだろう。
でも、未来の彼らは私が彼らの言う5年前……『ここ』に来たのは、ドルマゲスや暗黒神を倒す旅に加わるためだって言ってた。
その暗黒神を倒す、っていう言葉が引っかかってるんだよな。
やっぱり暗黒神の復活は免れなかったのだろうか。
だとすれば、トロデ王やミーティア姫の呪いはドルマゲスを倒しても解けず、ぬか喜びってことになる。
本来のストーリーと変わらなくなってしまう。

でも、嬉しそうな表情で話すトロデ王にはそんな可能性があるなんてこと、とてもじゃないけど言えなかった。
なるべく早く呪いが解けるように、頑張るから。
ひとりじゃ絶対無理だけど、みんなと力を合わせて頑張るから。
だから、もう少し待ってて。

ごめんね、トロデ王。
ごめんね、ミーティア姫。




「また何か悩んでる顔してんな」

王様たちの船室から自室へと散らばっていく途中で、後ろから声を掛けてきたのは案の定ククールで。
やっぱり彼にはお見通しらしい。

「わかっちゃう?」
「そりゃあな。理由話してスッキリしとくか?」
「んー、じゃあ、聞いてもらおっかな」
「……ほう」

素直に返事をしただけなのに、何故だかククールはビックリしたような顔をしている。

「何でそんな顔してるの」
「いや、やけに素直になったもんだなあ、と」
「だってオレだけに言えばいい、話なんていくらでも聞いてやるって言ってくれたじゃん」
「確かに言ったな。覚えててもらえるなんて光栄だね」
「忘れらんないよ、そんな有難いお言葉」
「そりゃあ良かった。で、ニナの部屋でいいのか?」
「うん、ククールが良ければ」
「……警戒心は微塵もねえのかよ」
「うん?」
「いや、なんでも。じゃあ行くぞ」
「わっ、いつもいつも押さないでよね!」















「……警戒心は微塵もねえのかよ」

思わずつぶやいてしまった言葉。
ニナに聞こえてなくて良かったと、ホッとしている反面、少々残念に思える自分に笑えてくる。

距離が近かったりすればいっちょ前に照れたりするくせに、こうやってすぐ懐に入らせてくれる。
だからチャゴスなんぞの馬鹿王子にも撫でられたりしてんじゃねえのか。
あの時、馬鹿王子からニナを奪った時。
どれだけあの馬鹿王子に撫でられた場所を上書きしてやりたかったことか。
ゼシカが戯れに消毒とか言いながらニナに触れていたが、正直羨ましかったとか言えるわけもなく。
今オレがそんなことをして、ニナに拒絶されたらどうなるか。
そんな事、考えるまでもない。
そう思うと、現状維持でしかいられないっていうのがもどかしい。

あの時聞こえてきた話に、扉をノックしようとしていたオレの手は自然と止まっていた。

……恋バナ、ねえ。
ニナがそんなことを考えてなさそうなのはわかるが、やっぱりゼシカの奴は何か企んでやがったな。
ゼシカの性格的には、恋愛なんざいつどこでしようが自由ってことなんだろう。
でもニナは、良くも悪くも真面目だ。
真面目だから、今は未来に向けての強い想いが一番、だろ。
平和な未来を迎えることが出来て、初めてそういう事に想いが向く……かどうかは本人じゃないからわからないが、少なくとも今はそんな風に考えていそうだ。

目の前を歩くニナの様子からして、ドルマゲスを倒してハイ終わりってんじゃなさそうだし、まだ時間はたっぷりある。
オレだって恋愛にかまけているつもりもないが……、どうにもこうにも目が離せない存在になってしまった。

エイトだって多少なりともその気はある。
あいつにズルイって言われて優越感に浸る……随分とガキだよな、オレも。

5年後、オレはどうなっているんだろう。
5年後、ニナは。

右手に嵌めた、聖堂騎士団の指輪に目線が移る。
未来の自分が、この指輪をニナに渡した意味が解ったかもしれない。

……言葉にするのはまだ、やめておくことにしよう。












「なるほど、そういう事か」
「うん、だから、ドルマゲスを倒してもトロデ王とミーティア姫の呪いは解ける保証はないんだよね」
「うーん、だがまあ、いずれは解けるんだろう?」
「原因さえなくなればね」
「ならいいんじゃねえか。ニナは嘘を吐いているわけでもないんだし、そうなったらそうなったでまたその時、二人に説明してやれば大丈夫だろう」
「でもさ……」
「でも、じゃない。お前は色々頑張ってるんだから、他の人の気持ちまで抱え込むなよ。大丈夫だって、ニナの気持ちはちゃんと皆に伝わってるんだから」
「そうかなあ」
「オレの言う事が信じられないって?」
「や、そうじゃなくて。……うん、そうだよね。ありがとうククール」

お礼を言うと、ククールはフッと笑みをこぼして私の頭をくしゃりと撫でた。
そうだよね、ドルマゲスを倒して呪いが解けるように努力はするし、確かに嘘を吐いているわけじゃないもんね。
やっぱり一人で考え込んでいるよりも、話を聞いてくれる人がいるって、凄く安心する。

心がじんわりと温かくなる。

……この人が居てくれて良かった。






「ニナ、島が見えたわよ」

ククールが部屋を出て、しばらくボーッとしていると、そのうちに眠りについてしまったようだ。

ノックの音と同時にゼシカの声が聞こえて。
船が闇の遺跡の島に近付いてきたことを教えてくれた。

「今いくー」

ささっと身嗜みを整え、ベッドから飛び降りる。
扉の前で待っていてくれたゼシカと共に甲板に行くと、他の皆は既に揃っていて。

「いよいよじゃな」
「いよいよですけど……王様は船でお留守番ですよ」
「なっ、なぬぅ!?何故じゃ!」

エイトが言うと、トロデ王はショックを受けた表情になる。
……当たり前ですがな。

「魔物もたくさんいますし、ましてやドルマゲスと戦うんですよ?流れ弾いっても庇えないかもしれないですよ?」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……確かにニナの言う通りじゃ……!」
「何で一緒に行けると思ってたでげすか」
「うるさいわいっ!置いていくからにはきちんと結界張っといてくれるんじゃろうな!?」
「そりゃモチロンだろ。今までも安全処置はしていただろうが」
「一緒に行きたい気持ちもわからなくもないわ。でも今まででも一番危ないところだから」
「くぅ〜!揃いも揃って言いたい放題言いおって!わかったわかった、大人しく船にいるわ!のう、ミーティアや」
「ヒヒン」

ミーティア姫の鳴き声の感じから、当たり前でしょって言ってるように感じたが、トロデ王はそうじゃろうそうじゃろう、と同意された気分になっているようだ。

「エイト、またトーポにも居て貰った方がいいんじゃない?チーズも一緒に」
「あ、そうだね。トーポ、いいかな?」

袋からチーズを出して、その側にトーポを降ろすと「任せろ!」と言うかのように胸を張ってキイキイ鳴いた。
結界は張るけど戦闘要員も一人はいなきゃね。
船長(舵取りしてくれる謎の人)もいるけど、戦えるとかは聞いてないしね。

トーポがトロデ王の肩に乗ったのを見届けて、全員が顔を見合わせた。

船は、いつの間にか上陸を果たしている。

「……闇の遺跡を攻略して、ドルマゲスを倒そう!」

エイトが気合いを入れると、皆はそれぞれの返事を返す。
そして、トロデ王とミーティア姫に向き直って。

「じゃあ、行ってきます!」

エイトを先頭に、闇の遺跡を目指して。

私達は、新たな一歩を踏み出した。









作品内ではほとんど空気のトーポですが、ちゃんとエイトがお世話してます。
たまにはニナも会話してます。
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