DQ8 | ナノ


  40:女の子同士の内緒話


海竜に出会える可能性が一番高いのは、リブルアーチ下の峡谷の部分。
私たちはそこを目指して、現在船旅を再開している。
道中で出会えればラッキーということで、ひとまずは確実に出会える場所に行こうと決まったからだ。

ベルガラックからリブルアーチまでは北の部分をぐるりと回らないといけないので、なかなかに時間がかかる。
ドルマゲスはしばらく闇の遺跡で体を回復させているだろうし……ドルマゲスってなんで闇の遺跡で回復させてたんだっけ。
魔力の多さに体が耐えられなくなったんだっけ?
確か、元々はそんなに凄い人物でもなんでもなかったんだよね。魔法の修行をするためにマスター・ライラスに師事した、普通の青年。
特に魔法の才能があったわけではなかったはずだから……うん、やっぱり魔力過多に肉体が耐えきれなくなったのが理由だったな。
聖地ゴルドやサヴェッラ大聖堂にも寄り道せずにベルガラック到着したにも関わらず、ストーリー通りに物事が進んでしまったことを考えると、ドルマゲスの回復も完了せずに私たちは追いつけるだろう。
絶対ではないから、なるべく急いで事を進めていこうとは思っているけれど。

しかし、急いでも船の速度には限界というものがあって。
リブルアーチ下峡谷に到着するまでにはまだ時間が掛かりそうだが、既に夕日が沈みそうになっている。

見張りの順番は振り分けられた通りに回し、私は現在船の中の自室で休んでいるところだった。
海の魔物も全く出ないわけではないが、今のところ振り分けられた人数で事足りている。
海竜が出たら全員で対応する運びになっているので、誰かが大声で呼んでくれるだろう。

ちなみに、今回から舵取り専用の添乗員を一人雇っている。
船を動かすのは好きだが、人見知りなのでトロデ王以外とは接することのない謎の人だ。
こう言っちゃなんだけど、逆に何故トロデ王となら大丈夫なのだろうか。
ラパンさんからの紹介で、30代半ばの青年という事は知っているが、それ以外は名前も聞いてない。
その人が舵取りしてくれるおかげで私達が休むことが出来るのは有難いので、深くは詮索するまい。

寝るのもまだ早いしなあ、と考えていると、コンコン、とノックの音がした。

「はーい?」
「ゼシカよ。開けてもいいかしら?」
「ああ、ゼシカ?どうぞどうぞ」
「お邪魔するわね」

ゼシカだったら遠慮なく入って来て構わないのに、さすがお嬢様、しっかりと礼儀がなっていらっしゃる。
見習いたいものである。

「どうしたの?」
「どうしたってわけじゃないけど……大きな戦いになる前に、ニナと話がしたいなって思ったのよ」
「大きな戦いかあ……確かに、そうだね」

ドルマゲス戦は記憶に強く残っているんだよなあ。
暗黒神ももちろん記憶に残っているけど、ドルマゲスの方が色濃く残っているのは何でだろうな。
それだけキャラが濃いってことかな。
だから大きな戦いって言われると素直に納得できちゃうのかな。

「まあ、私たちが負けるなんてことは思ってないんだけどね?なんていうか……女の子同士の話って憧れていたのよね」
「女の子同士の話?今までも二人で話をしたりしたよね?」
「んもう!そうじゃなくて!コイバナよ、コ・イ・バ・ナ!!」
「えっ!?恋バナ!?まさかゼシカ、ヤンガスの事……痛!!」
「ニナ、その続きを言ったらブチかますわよ」

何を、とは聞くまでもない。
ゼシカさん、船の中で魔法をブチかますのは勘弁してくだせえ……っていうか何故に叩かれたの私!

「だって恋バナっていうから!ゼシカの話を聞いてほしいのかと思うじゃん!」
「私の話じゃないわよ、ニナの話よ!聞いてほしいんじゃなくて聞きたいの!」
「私の話ィ!?ないよそんなもん、話す事なんて」
「そんな事言っちゃって、ククールとエイトの事、気になってるんじゃないの?」
「気にっ……そりゃあ、二人共カッコイイし優しいとは思うけど。旅の仲間だし、そんな風に考えちゃ失礼でしょ」

気になると言えば、まあ、ちょこちょこ色んなところでドキドキする事件もあったりなかったりはしてるけれど。
それが恋かといえば、まだ何か違う気がする。

……まだってなんだ、まだって!

「あら、そんな事ないわよ。そりゃあ、例えば仲間内で付き合って別れたりして雰囲気を悪くするのはどうかと思うけど。でも好きになるのは自由じゃないかしら。あ、二人が違うなら兄さんはどう?」
「ええ!?サーベルトさんこそ理想の男性像に当てはまりそうな感じだけども!そんな風には考えた事ありま……ありません!」

ちょっと間が開いてしまったのは、デコチュー事件を思い出してしまったからだ。
そういやサーベルトさんは私に好意を抱いてくれていたんだっけ。
間が怪しいとツッコミをされるかと思ったが、予想外にゼシカはジト目で見つめてくるだけだった。

「なぁんだ。キラーパンサーに二人で乗ったりすることで何か進展があったりしないかなあーって思ってたのに。つまらないわ」
「詰まる詰まらないの問題じゃないでしょ。それにキラーパンサー……うわぁ、思い出すだけで鳥肌が立ってきた!」
「え、何、何があったの?」
「いや、キラーパンサーは物凄くいい子達だったんだけど。サザンビークのチャゴスっていう王子がね、無理やり前に乗せて、私のお腹や腰を撫でてきて……」

ククールが止めてくれて助かったけれど、今思い出しても最高に気持ち悪い。

「お腹や腰……」
「ん?」
「ここね!?ここをやられたのね!?」
「うわっ!?何、ゼシカ、ちょ!?やめ……!うわはははは!!はははは!!」

ドラゴンローブの上からだけど、ゼシカが一心不乱に私の腰やらお腹やらを撫でてくる。
撫でるっていうよりわしゃわしゃやられてくすぐったいよ!

「消毒よ、消毒!そのわけのわからない男に私たちの可愛いニナが毒されてたまるもんですか!」
「気持ちは嬉しいけどくすぐったいんだってばああああ!!」
「……おい、何やってんだ」
「「ククール!?」」

ゼシカの手がピタリと止まり、二人でドアに寄りかかっているククールを見る。
呆れた様子でこちらを見るククールは、どうやらもうすぐ峡谷に到着することを教えに来てくれたみたいだ。

「レディ二人でじゃれ合うのを見ているのも悪かないが……ニナ、少々乱れているぞ」
「乱れてって……ああ、これ」

ローブの裾が捲り上がっていたらしく、指摘されて少々気恥ずかしさを感じながらもそれを出さないように、ささっと直す。
この世界だから気恥ずかしさを感じてしまうけど、これくらい元の世界だったら全然気にならない程度だ。

「あらごめんなさい、私ったら気づかなかったわ。っていうかククール、あんたちゃんとノックしなさいよ」
「何度もしたけどな、お嬢さん方が騒いでいたから気づかなかったんだろ?」
「え、全然聞こえなかった」
「私もよ」
「それみろ。ともかく、そろそろ甲板に来てくれ」
「わかった」
「今行くわ」

まさかこんなタイミングで恋バナになるなんて思ってもみなかった。
ゼシカもやっぱり年頃の女の子なんだねえ……私だって年頃のはずなんだけど……気になる人、かあ。
ゼシカには言わなかったけど、気になるっていうか、指輪を貰ったっていう意味ではやっぱりククールかなあ。
もちろんそういう意味で渡してきたんじゃないっていうのは最初からわかっていたし、今では理由もハッキリしてるし。

あー、やめやめ。
まだ平和にもなってないのにこんなこと考えてたら足元すくわれちゃう。
ゼシカは好きになるのは自由って言っていたけど、やっぱり私はまだ、未来に向けての事を考えていかなきゃ。

「ちょうどいいところに来たでがす!ニナ、あれが海竜でげすね!?」
「っ、そう!あれ!」

ククールとゼシカに続いて甲板に出ると、峡谷のど真ん中で顔を覗かせている長い首が見えた。
ヤンガスとエイトは既に戦闘体制に入っていて、ククールとゼシカが前に出るタイミングで私も補助呪文を発動させる。

「エイト、魔法の鏡を!」
「掲げていればいいんだね!?」
「そう!他の皆はジゴフラッシュが来るまでエイトを守って!」

指示を出せば、それぞれ了解との返事が返ってくる。
あれ、これ私が魔法の鏡を掲げてエイトに戦闘に加わって貰った方が早かったかしら。
なんて思ったところで今更だ。

「イオ系、混乱系なんかは効かないから!バギ系が一番有効です!あとは倒さない程度にヤンガス叩いて!」
「よしきたでがす!」

こっちは念のためスクルト重ね掛けをしておこう。
そんでルカニ、と。
あんまりやりすぎるとジゴフラッシュが来る前に倒しちゃうから程々に。

「口の奥が光ってる……来るぞ!」

ククールの声と同時にエイトが前に出て、放たれたジゴフラッシュを魔法の鏡に吸収させる。
光はまるでそれを狙っていたかのように、真っ直ぐに鏡の中へと入っていった。
そして、太陽の鏡へと変貌を遂げる。

戦いの途中だということを忘れていないエイトは即座に下がり、それに合わせて皆が海竜を畳み掛けると、何度かの攻撃を受けた後に海の中へと落ちていった。
海からまあるい光が上がり、甲板に乗るとそれはアイテムになった。

「これ、竜のうろこだね。太陽の鏡も入手できて竜のうろこも入手出来るとか。ラッキー」
「竜のうろこなんて何に使うんだ?」
「錬金すればドラゴンメイルとか作れるよ。竜のうろこ自体の売値はそんなに高くないけど」

竜のうろこを手に入れたこと自体は別にラッキーとは思ってないんだけど、なんていうかイベントこなしてアイテムも入手出来たことに対する感想っていうか……ゲームをやってる感覚で言ってしまっただけだったり。


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