DQ8 | ナノ


  38:アルゴンハート


チャゴス王子の背中を眺めることしばらく。
こいつ、王子なだけあって結構いい匂いがするんだな……なんて思っているうちに、王家の山へと到着した。

入口にある山の管理小屋から誰かが出てきたかと思うと、チャゴス王子が近づいていって何やら話をしている様子。

「エイトもククールも、おつかれ」
「お前が一番お疲れだろ」
「ニナ、大丈夫だった?」
「後ろに乗ってたから特に問題無かったよ」

笑いながらそう答えれば、二人は安堵の溜息を吐いた。
心配してもらえて有り難い限りだよ。

話終えたチャゴス王子は、片手に液体の入った瓶を持ちながらこちらへと戻ってきた。

「おいお前たち。このトカゲエキスを振りかけるんだ。このままだとトカゲに近づくこともできないからな」

キュポン!と良い音を立て、瓶のふたを開けたかと思うと問答無用で私たちの周囲に振り撒いた。

「ううわ!!くっさ!臭い!!」
「おえぇぇ」
「ぐ、……」

一番騒いでいるのは私。
静かに嘔吐きそうになっているのはエイト。
こんな時でもスマートな反応なのはククール。
意外なのは、チャゴス王子が無言でこの匂いに耐えているという……王子の意地なのだろうか、よくわからないけど少し見直したよ。

「臭いのは最初だけだ、そのうち慣れるだろうから我慢しろ」

チャゴス王子の言葉に、鼻を押えながら無言で頷き、そのまま山へと足を踏み入れることとなった。



アルゴリザードは、確か後ろから近寄らないと逃げちゃうんだったよね。
それで何かの実が大好物だったはず。
えーと、チョロ……違う、ジョロの実だ。
アルゴリザード攻略部分を思い出しながら歩いていれば、突然横から出てきた一体がこちらに気づいて驚き、そのまま逃げて行ってしまった。

「あっ!おまえたち、何をしているんだよ!追うんだ!」
「チャゴス王子、アルゴリザードは後ろから近寄らないと倒すのも難しいと聞きました。なので、次は後ろ向きのものを探しませんか?」
「何ィ!……しかたないな、かわいこちゃんの言うことだから聞いてやろう」
「……次にアルゴリザード見つけたらこいつぶん投げていいか?」
「ダメだよククール、そんなことしたら魔法の鏡を貰えなくなっちゃうでしょ。貰ってからお仕置きすればいいと思うよ」
「チッ……」

小声でも私には聞こえてるんだよ、二人のやりとり。
チャゴスの馬鹿王子は鈍感だろうから聞こえてないし不穏な空気にも気づいてないっぽいけど、ちょっとヒヤヒヤするからやめてほしい。

そうしてまたしばらく歩くと、今度は後ろを向いているアルゴリザードと出会えた。
すかさずエイトとククールが音を出さないようにして走り出し、奇襲を仕掛ける。
攻撃されたアルゴリザードは怒り、逃げるよりもこちらに向き直った。
アルゴリザードが反撃してくる前に補助呪文をかけて、と。
問題なく討伐が終わると、チャゴスは二人を押しのけて、アルゴリザードが消えた後に落ちている、アルゴンハートを手にした。

「……これがアルゴンハートか」
「じゃ、無事手に入れたということで、帰ろうぜ」
「いや、まだだ」
「「は?」」
「ボクちゃんはもっとおおきなアルゴンハートを手に入れ、そして父上に褒めてもらうのだ!だからもっと大きなアルゴリザードを狙うぞ!ついてこい、下僕ども!」
「「…………」」

無言で私を振り返る二人。
これ、最初に言っておくべきだった?
チャゴスは大きいアルゴンハートじゃないと満足しないよ、って。
でも言っても言わなくてもむかつくのも、どうせ何回も戦わされるのも一緒だったよね。
私が無言で頷き返すと、二人は諦めたように溜息を吐いて、ずんずんと進むチャゴスの後をついていった。

ていうか、チャゴスも一撃入れなきゃダメじゃなかったっけ?
自分で戦って手に入れるっていうサザンビークの試練なんだから、チャゴスも一緒に戦わなきゃいけなかったはず。
それを二人に耳打ちすれば、至極嫌そうな表情になったけれど。
でもそれも当然だな、と、チャゴスに話をすることにした。

「王子、これって王家の試練でしたよね?だとしたら王子も一緒に戦わねばなりませんでしたね。僕たちだけで終わらせてしまってすみませんでした、次は一緒に戦いましょう」
「え゛ッ……そ、そそそそうだったな!忘れてたわけではないぞ!よし、次はボクちゃんの華麗な剣捌きを見せてやろう!ぶわっはっはっは!」
「アイツ……エイトに言われなかったら忘れてたよな、絶対」
「わかりやすすぎるもんね。忘れてたね、確実に」

ククールと頷き合って、尊大に笑っているチャゴスに唾を飛ばされたエイトに同情する。
トカゲのエキスより臭そう……ドンマイ、エイト。



それから何度かアルゴリザードに遭遇し、戦闘に入ったものの、アルゴンハートの大きさに満足しないチャゴスは次から次へと標的を変えていった。
戦闘に参加するはずのチャゴスは、本当に最初の一撃だけでその後は遠くへと逃げていく。
エイトとククールのこめかみには怒りマークが浮かんでいたが、諦めた様子で尻ぬぐいをしていた。
私は知っていたので言わずもがなですな。

「あー……これ、あと何回戦えば終わるんだろう」
「アルゴリザードもまあまあ強いもんな、いい加減疲れてきたぜ。ニナは大丈夫か?」
「私はまあ……余力はあるけど、そろそろ終わりたいよね。それにこのままいくと山頂で一泊コースになると思うんだよね」
「は?一泊?ここでか!?」
「それは勘弁してほしい……ニナ、どうにかできないの?」
「どうにかって言われても……うーん……あんまり使いたくない手だけど、ちょっと頑張ってみる……よ」

頑張ってみるとは言ったものの、ある意味色仕掛け?のようなものなので、エイトとククールの期待の籠った目を向けられ、微妙な気持ちになる。
まあ折角こうしておめかしさせられたんだしね、使えるものは使っておかないと勿体ないものね。

相変わらずすたすたと歩く、何気に体力のあるチャゴスに走り寄り、声を掛ける。

「チャゴス王子、今まで集まったアルゴンハートはどんな感じですか?」
「ん〜?まあ、そこそこなものはあるな。ホラ」

ニヤニヤと袋から取り出したアルゴンハートの中には、いくつか中くらいのものもある。
っていうか中くらいっていうけどこれだって普通に考えたら結構な大きさの宝石だよね。
何でこれで満足できないんだ。

「まあ、素敵!こんなに沢山集まったのですね」
「まあな!だが、まだこれでは満足できんのだ。もっと大きなアルゴンハートがあれば……しかし、そろそろ疲れてきたな。ちょいと開けたところで一泊……」
「これ!」
「ん?」
「これが一番素敵ですわ。形といい、輝きといい……こんな素敵なアルゴンハートを持ち帰れば、王様もさぞお喜びでしょうね。それに、これを加工した指輪とか……うふふ、こんな素敵な宝石、女の子の夢ですわ」

チャゴスの腕に手を添えて、満面の笑みを向けると、遠目に視界に入っているエイトとククールは少し引いている様子だ。

「ちょっ……あれ、誰だ」
「いや……ニナ、すごいよ……あんまり使いたくない手って、こういうことだったんだね」
「見ろよあのバカ王子の鼻の下。伸びに伸びまくってんぜ」
「その気持ちもわからなくないけど」
「いやおい、それは思っても言っちゃダメだろ。あのバカと同類になりたいのか」
「それとこれとは別だよ、別」

あの二人を気にしていてもしょうがない、私は私のミッションをこなすだけだ。

「そっ、そうかそうか!そんなにボクちゃんからの指輪が欲しいか!それならばこのアルゴンハートにしよう!そして父上に見せたらすぐに職人に預けることにしよう!おい!下僕ども!切り上げだ、サザンビークに帰るぞ!」

デレデレした表情から一変、キリリとした顔で二人に命令をするチャゴス。
私はチャゴスからの指輪が欲しいなんて一言も言ってないのだけれど、ここで気分を害するとどうなるかわかったもんじゃないので、笑みを絶やさずにニコニコとしているだけ。
二人もすごく腑に落ちないような顔をしていたけれど、この山での一泊を免れた喜びは大きかったのだろう。
すぐに切り替えて、下山の先導をし始めた。
キラーパンサーたちも待っててくれているんだもんね、明日まで待たせるとか可哀想な事にならなくて良かった。
無事回避できて一安心です。


山を下りて、待っていたキラーパンサーに再び跨り、サザンビークへと出発。
当然のように行きと同じ組み合わせで乗ったのは言うまでもないが、今度は無理やりに前に乗せられてしまい、チャゴスの肉厚の手が私のお腹や腰をさするものだから気持ち悪くて気持ち悪くて!!
おまえの肌はすべすべで気持ちいいな、とか、言わなくていいからそんなこと!!その手の動き、一体どうなってんの!?
勘弁してよ〜〜〜!エイト!ククール!助けてーーー!!

「チャゴス王子、ちょっと待ってくれ」
「なんだ!今いいところなのに!」
「いや、連れの顔色が真っ青で……酔ってしまったようだ、少し休ませてもらえないか」
「何ィ!?おい、このキラーパンサー!止まれ!」

「グルルルル」

ククールがチャゴスに打診し、聞き入れたチャゴスがキラーパンサーをぺしぺしと叩いて止めたので、キラーパンサーは不機嫌な声を出した。
叩かれたら痛いもんな、ごめんね。
首の横辺りを撫でてやると、クゥンと情けない声を出す。
思わず笑いそうになるが、ここで笑ったら折角ククールが止めてくれたのが無駄になる。

「大丈夫か!?どうしたのだ!」
「ちょっと失礼」
「ムッ!!」

チャゴスが私の顔を覗き込もうとしていたのを阻止するかのように、ククールにひょいっと持ち上げられる。
目を伏せる振りをし、ククールの腕に隠れるようにして顔を反らした。

「これは……かなり気分が悪そうなので、回復しながら俺が連れて行こう。というわけでエイト、王子を頼むぞ」
「え……えぇ!?」

ぽかんと見ていたエイトが、素っ頓狂な声をあげた。
ちょっとエイト、笑わせないでよ。
私がセクハラから解放されるなら喜んで犠牲になってください!オネガイシマス!

「し、しょうがないな……ニナのためだからね!ククール、ひとつ貸しだからね!?」
「お、おう、そんな怒るなよ」
「ククールはいつもズルイんだから……まあ、僕も苛ついてたから……ちょっとお仕置きがてら走らせてくる」

小声で会話をして、エイトはしぶしぶながらもチャゴスの元へ行ってくれた。
当然のごとくチャゴスは怒っていたけれど、じゃあ回復できるんですか!とエイトに凄まれて、押され気味になったところでキラーパンサーの前に乗せられ、あっという間にそのまま走り出してしまった。

「エイト……チャゴスを怒らせると魔法の鏡がもらえなくなるかもっていうの、忘れてないかな……いや、私はとても助かったけれども……」
「アイツはどうにかするだろ。つーか、ほんっとあのバカ王子最悪だな。酔ったのは嘘だけど気持ち悪いのは本当だろ?」
「それはもう。気持ち悪いも気持ち悪いだよ。誰だよこんな腹の出る服を選んだの。この服じゃなければまだダイレクトに撫でられることもなかったのに!」
「は!?ダイレクト!?羽織っていたその下から撫でられたのか!?」

ダイレクトって言った瞬間、ククールの顔が般若のように変わった。
こ、こわ……!私、被害者!

「あの肉厚に撫でられてると思うと、凄く嫌だったよ」
「…………あのクソ王子ぶち殺してやる」
「えっ、殺しはダメだよ」
「馬鹿、例えだ例え。………………オレだってまだ触れてないのに」
「ん?」
「いや、何でもない。悪かったな、もう近づけないようにするから。エイトとオレで壁になるからさ」
「壁って。まあ、近づかないなら有り難いけど」
「サザンビークに着いたら着替えも出来るだろ。もうちょっと、頑張れよ、っと」
「ひゃ!」

横抱きにされたまま、キラーパンサーに飛び乗ったククールは、既に見えなくなったエイト達を追いかけるかのように走らせ始めた。
普通に乗るように抗議したのだが、到着するまで気分悪いままで見せておいた方がいいだろう、ということで、それもそうかと思い直してそのまま身を任せることにした。

2019.11.9
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