DQ8 | ナノ


  2:魔力の引き出し


オディロ院長の後ろを付いていくと、辿り着いた先は教会だった。
奥にあるステンドグラス前まで歩き、そこでようやく振り返る。

「さて。ニナよ、お前は魔法が使えるのかな?」
「魔法…ま、魔法!?いやいや、使えません、使えるわけがありません!」

突然の質問の意味が理解できず、ちょっと固まってしまった。
魔法なんてそれこそ物語やゲームの中ではあれども、現実世界において実際に使えるなんて人は一人もいないし。
出来て手品だろう、でもあれには全てタネがあるという事を知っている。

私の答えにオディロ院長は方眉を上げ、小さい目で真っ直ぐ見つめる。
そんなに見られると緊張します、院長…!

「そうか。未来のニナの話はもう聞いたのだな?」
「あ、はい。先程エイトさんとククールさんに話を聞きましたが…それもまだ良く理解できてません」


今だって、これらの出来事は夢なんじゃないかと思っているくらいなんだから。
でも彼らの手はちゃんと暖かかったし、紅茶もあったかくて美味しかった。
現実で感じるそれと全く同じ感覚だったのだ。
ここまでリアルな夢は見たことがない。
本能でこれは夢じゃないと言っているのだが、うわべではまだ夢なんじゃないかって思っている。

「理解なんてものは直ぐに出来るものでもない…だから、心配することは何もないぞ」
「はあ…」
「昔、ニナは私に魔法の手引きをしてもらったと言っていた。ということは、今がその時なのだろうな」
「魔法の手引き…ですか?」
「魔法を使うことを知らない異世界から来た少女、ニナ」
「わ、私?」
「左様、お前のことだよ。残念ながら私にはもう魔力自体は残ってはおらん。しかし腐っても神の子エジェウスの末裔…魔力の引き出しを開ける事くらいは出来よう」

オディロ院長の言ってる事って、私が魔法を使えるようにしてくれるっていう事なのかな。
やっぱり理解が追いついていかないんだけど。
誰か、私にわかりやすく説明を…!

「どれ、後ろを向きなさい」
「あ、はい」
「お前の力を引き出してあげよう」

え!?
イキナリ?!
話の展開早くないですかオディロ院長!
これから私魔法使えるようになるの?
そりゃあドラクエやる度に魔法使えたらいいなー、とか憧れたりもしたけどさ。
いざ使えるようになると思うとちょっと恐怖が芽生えてくるよ。
それよりもホントにこんな簡単に魔法が使えるようになっちゃっていいの?!

「こらこら、精神を乱すんじゃない」
「は!はい、すみません!」

ごちゃごちゃ余計なことを考えるなってか。
無理だろ、こんな興奮するような出来事を目前にして無理だろ…!

だがしかし、いつまでもオディロ院長の手を煩わすわけには…!!!
精神統一、精神統一。


落ち着いてきたのを見計らって、オディロ院長の手が背中に触れる。
じんわりと暖かくなっていくのを感じた。


「我らが神鳥レティス…ラーミアよ。そして神の子エジェウスよ。我らの救いの手となる娘、ニナに…その源となる雫を与えたまえ」


オディロ院長が呟くように唱えると、背中が一瞬にして熱くなり、そしてその後に感じたのは水のようなものが入り込んできたという感覚。

「…よし、これでお前にも魔法が使えるようになっている筈だ」

ふ、と背中の手が離れた瞬間に物凄い脱力感に襲われた。

「こ、これは…ぬおお…!なんで…!?」
「本来ならばこの世界の住人は誰もが魔法を使える身体を持って生まれてきている。だが異世界で生まれたニナにはその耐性がついておらぬようだな…なに、一日も経てば元の状態に戻れるだろうよ」
「ていうことは、今日一日はこのダルさが纏わり付くっていうことですか…?」
「そういうことだな。ほっほっほ!」

ほっほっほ!じゃねえわ!軽いよオディロ院長!
こんなダルかったら動くのも相当辛いんだけど…!
魔法が使えるようになったかなんて自分ではまだ解らないのに、体だけこんなにシンドイなんて…!


「オディロ殿、こちらにおられましたか!見ていただきたい書類があるのですが」
「おお、今行くぞ。それではニナ、今日は一日ゆっくり休むのだぞ。…ああ、そうだ。私のことはおじいちゃんと呼んでくれて構わんからな。院長と呼ぶ者もいるが、私は今やこのトロデーン城にて隠居の身でな」


またもやほっほっほ、と笑いながら呼ばれた文官らしき人の所へ行ってしまった。

それに対し私はムリヤリの引きつった笑顔で対応するしか出来なかった。
お辞儀したい気持ちもやまやま、完全に力が入らなくなってきているのである。
ていうか置いていかないでくださいよ、こんな状態の私を…!!!

しかし……そうか、オディロ院長は今はトロデーン城に住んでいるのか。
マイエラ修道院長ではないんだな。
ということは、ここはトロデーン城で間違いない。
結果、私はやはりドラクエ8の世界にトリップしてしまったわけだ。
つまりさっきの二人は紛れも無い主人公とククールで。

大好きな世界で大好きな人達と出会えたことに、本来ならば多大なる喜びを表現したいところなんだけど…如何せん体がこんなダルさでは喜びもどこかへ消え失せてしまう。
そもそも元の世界へ帰れるのか。
受験勉強はどうなるのか。

…お母さんとお父さん…家族は心配してないだろうか。

現実世界の居場所を思い浮かべ、意識が飛びそうになった時に私を呼ぶ声が聞こえた。


「「ニナ!!」」

「あ…」


あっぶね、今二人の声が聞こえなかったら私、白目剥いて倒れていたかもしれない。


「大丈夫か、どうした!」
「立てる?ホラ、手貸して」
「なんか…も…体、動きません…」
「オディロ院長はどこか行っちゃったみたいだし、しばらく待ってもニナが帰ってこないからどうしたかと思えば…」
「教会で行き倒れになってるなんてな。意識失ってんじゃないかと思ってヒヤッとしたぜ」

教会に現れたのは先程の二人だった。
オディロ院長に呼ばれたまま帰ってこない私を、心配して探しに来てくれたらしい。
そんなオディロ院長は二人の事も忘れて部屋の前を文官と一緒に通り過ぎていったとか。
ボケか、ボケが始まってんのか院長!
二人に『教会へ行ってやれ』とか、そんな感じの伝言をしといてくれるかも…なんて思った私の考えは甘かったようだ。


「オディロ院長になにかされたのか?」
「なんか語弊のある言い方が気になりますが…魔法を使えるようにしてもらっただけですよ」

よいしょ、と体を起こしてもらう。
支えてもらってないとすぐにでも倒れてしまう状態だ。

「魔法…そっか、ニナはまだこの時点では魔法が使えなかったんだね」

と、嬉しそうに言うエイトさん。

「お前なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
「え、だってニナが僕達よりも何も出来ないと思うとなんか可愛いなあって思って」
「何も出来ない……間違ってはないけど…そんなにハッキリ言わなくても…」
「あ、ごめん。そういう意味じゃ」
「そういう意味じゃなかったらどういう意味なんだ」

あからさまにショックを受けた私に対してフォローをするが、それもフォローになっていないのでククールさんがため息をついた。
天然キャラか、主人公は。

「でも確かに、この状況だったら守ってやるって感じだよな」
「でしょ。今じゃ魔物もいないから守ってあげられるにしてもそう危険なことはないけどね」
「魔物…いないんですか?」
「うん。暗黒神を倒してからは魔物はいなくなったよ。正確に言えば邪悪な心を持つ者がいなくなったんだ」
「邪悪な心を持つ者?」
「魔物といっても、結局は暗黒神の悪い気に触れていてそうなったものばっかりだったからな。それが今は人を襲ったりしないワケさ。まあ、暗黒神が産み出したものもいたが…そこはおいといて。寧ろ共存している村が増えたかな」
「へえ…一種のペットみたいな感じですか?」
「まあ、そんな感じのところもあるね。人間と扱いの変わらない魔物もいるし。」

今は平和な世の中って感じなんだね。
魔王やら暗黒神やらそんなのが蔓延ってない世界ならば、それが一番いいに決まってる。
だとしたら今は魔法なんて使えても仕方ないんじゃ…?

あ、そうか。
私はいずれ過去に飛ぶって言ってたな。
ということは今のこの平和な世界にするために、必死で修行しないといけないってこと?
……なんだか、先が思いやられる。

そう思ったら余計に体のだるさが増した。

「あのー…少し休めるような場所ってありませんか。もう体が辛くて辛くて…」
「あ、そうだよね、ゴメン。ニナの部屋の鍵をもらってくるから、ちょっと待ってて」
「そしたら鍵は任せるからオレとニナは先に部屋の前まで行ってるぜ」
「うん、わかった。じゃあ後で!」

言いながらエイトさんは走って教会の外へ。
そして残されたククールさんと私。

「ニナ、歩けるか?」
「なんとか…だいじょう…うわ!」
「おっと!」

気合を入れて立ち上がろうとしたのだが、それは叶わぬことに直ぐに尻餅をついてしまった。
くそう…お尻痛い…。

「こりゃ無理だな。あんまり頑張ろうとするなよ…オレ達の事頼ってくれていいんだぜ?…よ、っと」
「ぎゃ!!!」

ククールさんは軽々と私の事を抱き上げてしまった。
俗に言うお姫様抱っこである。
人生初のお姫様抱っこをこんな美形にしてもらうとは…!ていうか、生きてるうちにお姫様抱っこをしてもらう日が来るとは!!
鼻血!鼻血でそう!!!

「ニナは相変わらず色気がねえなあ。ぎゃ、って…もうちょっと女性らしい悲鳴はないものかねえ」

生憎だがそんな可愛らしい性格なんぞ持ち合わせてないのだ。
知らない場所で知らない人達の前だから猫を被って振舞っているが、本来の私はもっと騒がしい。
って、この人達は既に私の事を知っているんだからそんなことをしても無駄だって気づいたのは、今更な話だが。
しかし、ククールさんの腕の中ということで体のだるさに加えてのぼせてきてしまった。
羞恥心とだるいって最強コンビかもしれない。

「ニナ?おい、ニナ?……ああ、疲れちまったのか。ゆっくり寝てろよ」

ククールさんのそんな呟きが聞こえたような気がして、私は深い眠りに落ちた。

2015.9.11(2012.6.11)
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