DQ8 | ナノ


  37:サザンビークのバカ王子


サザンビークまでの道程は、思った以上に長かった。
マイエラ修道院からアスカンタ城へ行くまでも長かったけれど、それに匹敵するんじゃないかな?
キラーパンサーに乗っていたおかげで魔物との戦闘はほとんどなかったから、それでこっちの方が早く感じるのかもしれない。
まあ、馬車とキラーパンサーじゃ速度が全然違うから当たり前か。

途中にあった商人のテントで少し休憩をさせてもらい、次はエイトからククールにバトンタッチで。
テントからサザンビークまではククールの前に乗せてもらったのだが…何故二人とも私を後ろにしないんだろうか。
自分が前に乗った方が扱いやすいだろうし、速さを感じられて気持ちよさそうなものの。
それに、後ろ…それも至近距離から声が聞こえるのって、恥ずかしいったらありゃしない。
二人はそんなこと全く気にしてないんだろうけど、こっちは色んな意味で心臓バクバクしてたっつーの。

「ところで、このキラーパンサーは勝手に帰っていくのか?」
「そのはずなんだけど…帰る素振り、無いね」

ククールが親指でクイ、と指すも、二頭のキラーパンサーはその場にちょこんと留まっている。
ゲームだと降りた瞬間ヒョーイってどっか行っちゃうのに。

「ひょっとして…また乗せてくれるの?」

エイトがキラーパンサーに問いかけると、二頭とも元気にバウッと鳴いた。

「肯定の合図っぽいね。なんていうか…賢い子達だなあ」

言いながら撫でると、気持ちよさそうに顔を摺り寄せてくれる。
ラパン様とカラッチが、よっぽど丁寧に接してるに違いない。
帰ったら丁重に感謝の意を述べねば。

「じゃあ、さっさとやることやって、そのお宝とやらを手に入れようぜ。…ところで、なんていうお宝なんだ?」
「あ、まだ説明してなかったっけね。太陽の鏡っていうんだけど…ああ、まだ太陽の鏡じゃないか。魔法の鏡っていうやつ。その魔法の鏡っていうのに一工夫を施して、太陽の鏡になるんだけど、それは魔法の鏡を手に入れてからまた説明するってことで」
「やることたくさんあるんだね」
「うーん。あるっちゃあるけど、魔法の鏡さえ手にいれちゃえばあとはルーラで済ませられるから…戦闘しなきゃならないけど」
「戦闘?」
「海竜っていう魔物と戦闘して、その海竜のジゴフラッシュっていう技の光を鏡に当てなきゃならないの」
「へえ…最終的に魔物が魔物の結界をぶち壊してくれることになるわけだ」

ククールの言う通りだ。
ジゴフラッシュを使うのは魔物なわけで、そのジゴフラッシュの光は闇の遺跡の結界を解くのに必要なわけで。
ドルマゲスはそこまで着眼してなかったんだろうな、きっと。

「まー、ともあれお城に行ってちゃっちゃとクエストこなしますか」
「クエスト?」
「エイト、さっきと質問のパターンが同じだよ…ええっと、お城に行けばわかるので、これは割愛!」
「ニナ…説明面倒になったんでしょ」
「はいはい!面倒面倒!行きましょ行きましょ!」
「うわ、押さないでよ」
「なんだかなあ…ま、行けばわかるっつーんだからいいんじゃねえの、とりあえず行こうぜ」

行こうぜ、と言いつつ私とエイトの後ろをゆっくり歩くククール。
やれやれって顔してるけど、この後の事を考えると私の方がその顔したくなるよ。









「…で、なんでこんな格好しなきゃならないんですかね」
「しょうがないだろ、あのバカ王子が可愛い女の子の一人や二人、一緒じゃないと行かねぇって逃げるんだから」
「そうだよ、これは諦めて素直に言うことを聞くべきじゃないかな?」

エイトもククールも、楽しんでるだけなんじゃないかと思う。
可愛い女の子って言ったらゼシカが居れば事足りたはずなのに、ゼシカはヤンガスとバウムレンに会いに行ってしまった。
残された女の子と言ったら私しかおらず、チャゴス王子のやる気のために、と、二人におめかしさせられてしまったのである。
ゲルダさんから貰った化粧品が、こんなところで役に立つとは思わなかった。
しかも危うくドレスを着せられるとこだったのだが、ドレスで戦闘なんかできるか!ということで、踊り子の服を。
あんな露出の高い服着れるか!と必死で抵抗したけれど、上に一枚羽織っていいからという謎の説得により、妥協したのだ。
ぶっちゃけ一枚羽織ったところで、戦闘になったら邪魔でしかないのだが…無いよりあった方が断然マシなので、そういう意味でも妥協。
何が悲しくて私の貧相な体形で踊り子の服なんぞ…。
やめよう、自分で自分が可哀想になってきた。

「この格好であのバカ王子の前に行くの、嫌だなあ…」
「まあそう言うな。他の奴らにもニナのこのカッコ、見せてやりたかったな。盛大に驚くレベルの変貌っぷりだ」
「ククール、それって失礼なんじゃ…」
「エイトいいよ、別に。今更何を言われようが傷つかないもん…」
「言いながら落ち込むなよ」

そりゃ落ち込むだろう。
盛大に驚くレベルの変貌っぷりって…相当グサッとくる言葉だけど。
やっぱりゼシカにこっちに来てもらうんだった。
なんでこんな関係ないところで落ち込まなきゃならんのだ。

「じゃ、僕チャゴス王子呼んでくるからね」
「おう、城の外で待ってるな」
「エイト、よろしく〜」

エイトがチャゴス王子の部屋へ向かったのを確認し、私たちは一足先にお城の外へ。
少しでも人目につかないように、と、エイトなりの配慮で先に行かせてくれたのだろう。
エイトってばそういう気づかいをしてくれるから、とても有り難い。

「あのな」
「?」
「元々のニナも可愛いと思ってるからな、オレは」
「え、」
「裾踏むなよ、行くぞ」
「え、あの、ちょ、今な…ぐえっ」

思い切り手を引かれたので、一歩踏み出した途端にガチリと舌を噛んだ。
痛いんだけど、痛い以上にククールの言葉にビックリしちゃって…私の口からはなんの文句も出てこなかった。
気のせいじゃなければ、ククールの耳…ちょっと赤いんですけど。
バカにしたと思えば、そんな風にフォローするのズルくない?
しかも普段冷静沈着なクールキャラのくせに…サラッと言えそうなセリフなのに。
こんな乙女みたいに真っ赤になった顔、誰にも見られたくないんだけど。

幸いククールはお城から出るまでこっちを振り向くこともなかったし、踊り子仕様の頭の布のおかげで他の誰とも顔を合わせずに済んだ。
だがしかし、少しばかり気まずいこの空気…エイト、早く戻ってきて…!






…いや、永遠に戻ってこなくても良かったかもしんない。
と言ったらエイトは落ち込むだろうな。

「おぉー!!そこに居るのがかわいこちゃんか!?」
「そうですよ、ちゃんと可愛い子を連れてきましたから。今度こそアルゴンハートを取りに行きましょうね、王子」
「その前に顔を見せろ!」

横にいたエイトをドン、と突き飛ばし、ずんずんと勢いをつけて私の前に来たチャゴス王子。
そして顔を隠していた布を、バッと剥ぎ取られて。
やっぱり好きじゃない、このずんぐりむっくりバカ王子。
なんであの凛々しいクラビウス王からこんな馬鹿王子が生まれてきたんだろうか。

「かっ、かっ、かわいい…!!ボクちゃんのお嫁さんにピッタリじゃないかぁ!!」
「「嫁ぇ!?」」
「……チャゴス王子。王子には婚約者がいらっしゃると伺っております。その方を差し置いて、わたくしなどが嫁になど…」

エイトとククールの叫びをスルーしつつ、あくまでも冷静に切り返す。
こんな喋り方、ガラじゃないなと思いつつも一応失礼のないように振るまっておかないと。
アルゴンハート、更には魔法の鏡を手に入れるまでの辛抱だと思えば…!

「そ、それもそうだな!だが、愛人にならしてやれるぞ!どうだ!?」

誰がオメーの愛人になんかなるかっつーの。
嫁になる予定のミーティア姫だって、結局お前の嫁なんぞにならないんだからな!

チラリと二人を振り返れば、ご立腹の様子。
こりゃだめだ、さっさと王家の山に向かわないと。

「その話はまた後でいいじゃありませんか。まずは王子のご勇姿をわたくしに見せてくださいませんか」
「よし、わかった!ボクちゃんのカッコいいところ、見せちゃおう!!とっとと行くぞ、家来たち!」

簡単なお世辞でやる気になったチャゴス王子は、ひとりで先に行こうとする。

「誰が家来だ、誰が。アイツ、歩いていくつもりか?」
「むしろ歩かせてやったほうがいいんじゃない?」
「うーん、エイトの言う通りなんだけれども、それじゃ日が暮れちゃうよ。せっかくキラーパンサーたちが待っててくれてるんだから…」

そこまで言って、気づいた。二人の絶望した表情に。

「オ、オレはニナと乗るからな!」
「えええ!!僕だってヤダよ、僕がニナと乗るからククールは王子を乗せなよ!」
「馬鹿!オレはニナの護衛だぞ!」
「今はそんなの関係ないでしょ!現にさっきも途中までは僕がニナを乗せてきたんだし!」
「さっきはお前がニナを攫ってったようなモンだろうが!」

ああ、どうしよ…これ…収集つくんだろうか。
っていうか。

「…むしろ私じゃないと一緒に乗らないとか言うんじゃ…」

なーんてことを口にしてみれば、更に絶望した表情の二人。
そりゃ私だって物凄く嫌だけど、可愛い子と一緒じゃないと行かねえとかほざいてるバカ王子が、男と二人で素直にキラーパンサーになんて乗るだろうか。

「…誰だよ、ニナに可愛い格好させろっつったヤツ」
「ほんとだよ、こうなるってわかってたら絶対可愛くしなかったのに…!」
「それ、過去の自分たちに言いましょうね」

溜息をついたところで、チャゴス王子がぷりぷりしながら戻ってきた。
早くしろってことですね、はいはいわかってますよ。



案の定チャゴス王子が私とじゃないと行かないと言い出したので、仕方なく従う方向で。
最初は私を前に乗せようとした王子だったが、後ろから鼻息とか聞こえてくるのは非常に気持ち悪いので、チャゴス王子の勇敢な背中を眺めたいと言ったらアッサリ前に乗ってくれた。
とりあえず一難は防いだぞ、この調子で頑張れ私!!

王子が乗ったキラーパンサーはとてつもなく嫌そうな顔をしていたけれど、ごめんね、と謝ると仕方ないといったように諦めてくれた。
ほんと賢くて助かっちゃうよ。
王子が無駄に引っ張ったりしないように注意して見てなきゃ。
私も観念して後ろに飛び乗り、掴まれそうなところにちょこんと掴まっておく。
もっとしっかり掴まれとお叱りを受けたが、恥ずかしいので、と言えばこれまたアッサリ了承してくれた。
ほんとバカだ。いや、こればかりはバカで助かるけど。

もちろんエイトとククールは今でも納得のいってない表情だったが、王家の山に行かないことには何も始まらないし、さっさと行って帰って来ようということで意見は一致したらしく。

ようやく目的に向かって一歩進んだのである。

2016.8.27
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