DQ8 | ナノ


  35:魔物使いに憧れて


仕方なしにベルガラックへと引き返してきた我々冒険者ご一行。
一応北西の孤島に足だけは踏み入れてきたから、次はルーラで行けるし完全な無駄足というわけでもない。
うん…無駄足、ではない……二度手間なだけだ。

「で、その結界をぶち壊すためにサザンビークのお宝が必要だと」
「うん」
「で、サザンビークに行くのにキラーパンサーの足が必要なわけね?」
「うん」
「で、サザンビークでも面倒ごとが起こると」
「うん」
「…で、ドルマゲスに辿り着くまでにはもう少し時間がかかるでげすね」
「うん」
「「「………」」」

同じ調子で相槌を打っていると、いい加減何か喋れよという視線が刺さった。
痛い、痛いよその凍てつく視線!

「まあ、そうなるねえ。でも闇の遺跡からは当分の間出てくることはないから、ギャリングさんを助けられた今そんなに急ぐ必要もないと思う」
「そんな保証はどこにあるんだ?」

保証といわれてもなあ。
ゲームではこれらのことをこなしてから闇の遺跡に行ったから、としか言えないんだけど。
ドルマゲスが闇の遺跡に行った理由もちゃんと覚えてはいるけれど、それを言ったところで結局は太陽の鏡を手に入れなければ動けないんだし。
説明すると長くなりそうだから、出来ることならば割愛したい。そうだなあ、強いて言うなら…

「私の勘、としか言えないね」
「私は信じてるわよ、ニナ!ククールはニナのことが信じられないというの?」
「おいおい馬鹿言うなよゼシカ。オレがいつそんなことを言った?」
「保証とか言ってるからそうなのかなって思っただけよ」
「心配するに越したことはないだろ」
「まあまあ、痴話喧嘩はよして」
「「痴話喧嘩じゃない!」」

…息ぴったりだと思うんだけど。それの何処が痴話喧嘩じゃないっていうんだい、お二人さん。
まあ二人とも美形同士だからさ、絵になるんだなこれが。

保証うんたらかんたらの件に戻ろう。
確かにね、イレギュラーがあるって言ったのは私なんだし。
ドルマゲスに動き出されちゃっても困る。
何て説明したらいいものか…と悩んでいると、エイトが助け舟を出してくれた。

「急ぐ必要はないと思うけど、ゆっくりしてるヒマもないってことだね」
「エイトの言うとおり!」

さすがエイトだよ、さすがリーダーだよ。
ビシイ!と指をさせば苦笑されてしまった。ごめんよ、人を指さすのは良くなかったね。
でも、上手く纏めてくれたおかげでようやく次へ進める。

ちなみにトロデ王とミーティア姫は相変わらずベルガラックで待機していただいている。
そもそもベルガラックに戻ってきたというよりはその土地に戻ってきたってだけで、ベルガラックそのものに戻ったわけではない。
ゆっくりしてもらってていいよね?と皆に確認すれば、誰かがぼそりと「居ても役に立つわけでもないでげすし」と言ったので他のみんなもそれに頷き、満場一致で置いてくる事が決定となった。
おっさん呼びとかの特技を覚えればトロデ王も戦闘に関して役に立つんだけど…って、トロデ王は転ぶだけだったっけ?
おっさん呼びは覚えても使ってなかったからわかんないや。
それにこの世界でその特技が使えるとは思えないし。
おっさん達どっから来るのよ!って話。

サザンビークから西の地方には不思議の泉があったはずだけど…それはもう少し余裕が出来たら行ってあげるということで、ごめん王様!ごめん姫様!









「で、ここがラパンハウスか…キラーパンサーの…家?」

ベルガラックからラパンハウスまでは然程遠くもなく、しばらく歩いていればあっという間に到着。
高台にあるので少し疲れたかな、という程度だ。
エイトが大きなキラーパンサーの外観を見上げている姿はなんだか可愛かった。
でも本当にデカイ。
自分の家がこんなんだったら可愛くて嬉しいから住むのが楽しくなりそうだけどね!

「よし、じゃあ早速交渉しに行くぞ」
「なんで私の背中を押すんですかね」
「これはもうキラーパンサーを貸してくれっていうだけだから別にニナがやったっていいんだろ」
「……ふむ」
「……その顔は、簡単には借りれないぞってやつか」
「入り口の守衛とひと悶着あります」
「ひと悶着?」
「出される質問に間違いなく答えれば、この屋敷のご主人様に会わせてもらえる手筈となっております」
「ならどっちにしろニナが行ったほうが早いじゃねえか」

仰るとおりなんだけどさ。
エイトみたいな正直者が答えるから信頼を得るのであって…ま、いいか。
たまには率先して攻略していこう。

背中を押されるままにラパンハウスの入り口まで行くと、お決まりの口癖「んなーっ!!」という台詞で出迎えてくれたカラッチ。

「よくきただー!!ここはキラーパンサーの父、ラパン様のお屋敷だなやーっ!!オラはラパン様の家来のカラッチだなや。おめさたちもらパン様に会いにきただか?」
「キラーパンサーをお借りしたくて」
「んなーっ!!だがしかーし!ラパン様は今日もいつものようにお忙しい!誰彼構わず会うことはできーん!よっておめさをラパン様に会わせてええかオラが面接して判断する!正直な気持ちをオラにぶつけるだ!」
「はい、お願いします」

一歩後ろで見守る仲間たち。
きっと何で何回も「んなーっ!!」って言うんだろうと思っているに違いない。
このゲームの中で一番激しい口癖の持ち主なんじゃないかしら。

「最初の問ーい!雨の夜です。あなたが家路を急いでいると足元から子猫の鳴き声が。子猫は冷たい雨にぬれています。しかしあなたが一緒に暮らす家族はみんな猫が大の苦手。さてあなたはその子猫をどうしますか?」
「連れて帰って家族を説得します」
「んなーっ!!……二番目の問ーい!あなたはある王様の家来です。今日は王様と狩りに出掛けましたがなかなか獲物がみつかりません。そんなときあなたは森の中でワナにかかったトラを発見しました!王様はそのトラに気づいていません。さてあなたはどうしますか?」
「トラのワナをはずして逃がします」

これ、カーソルがツルッと滑ってトラを殺してから王様に見せるっていう選択肢を選んじゃったこともあったな。
どんな残虐者だよ、と思いつつやっぱり会わせてもらえなかったという記憶がある。

「んなーっ!!……最後の問ーい!あなたは旅人です。旅の途中一頭のキラーパンサーがあなたに襲い掛かってきました。あなたはそのキラーパンサーに勝ちました。しかしキラーパンサーは仲間になりたそうにあなたを見ています。さてあなたはどうしますか?」
「キラーパンサーを仲間にします!」

これはもう普通に仲間にしたい。
出来ることならずっと旅のお供として連れて行きたい。
だがしかし、それじゃゲームが違うわな。
5の主人公が羨ましい。

「んなっー!!……結果発表〜!よくも悪くもおめさは正直者だあよ。オラはおめさのそのメリハリの効いた性格が気に入っただ。んなーっ!!おめさをラパン様に会わせてやるだ。さあ通るだよ」
「ありがとうございます」

いい加減んなーっ!!は聞き飽きたよ、カラッチ。
後ろから溜息が聞こえてきたことから、皆も同じ気持ちに違いない。

カラッチに案内されるままに屋敷へ足を踏み入れると、大きな机で仕事をしているであろう人物が見えた。

「あれがラパン?って人?」
「うん」
「へえ…キラーパンサーを飼っているっていうからどんな人かと思えば…なんだか可愛らしいおじさんね」
「小さいから余計に可愛らしく見えるよね」
「ゼシカはああいうのが好きなのか?」
「バカじゃないのククール、そういう意味で言ったんじゃないことくらい解りなさいよ」
「ははっ、まあそう睨むなよ。綺麗な顔が台無しだぜ」
「もう…ククールなんて無視して行きましょ、ニナ」
「う、うん」

ラパン様に近づくと、気配を察したのかペンを止めた。

「む?カラッチではないのじゃな?あやつが中に人を通すとは珍しい」
「あなたがラパン様ですか?」
「ふむ、わしがラパンじゃ。どうやらお前さんは旅人のようじゃな…ほう?さすがカラッチが中に通しただけのことはある。澄み切った優しい目をしておるの。…もしかしたらお前さんならわしの代わりが務まるかもしれん。よし、お前さん達、わしの話を聞いてくれ」
「僕達で良ければ」

質問に答えたのは私ですけどー、とは思ってても言わなかった。
だってエイトの目が優しくて澄み切っているのは間違いではないもの。
ちょっと悔しかっただけだよ!

「実はじゃな、わしの古い友がある場所で道に迷っておるのじゃ。本来ならわしが行ってやつを導いてやるべきところなのだが、見てのとおりわしは多忙じゃ。ここを離れられん。そこでお前さんに我が友の道案内の役目を果たしてほしいのじゃ。お前さんならきっとできよう。…どうじゃな?わしの頼みをきいてくれるかな?」

ラパン様の頼みごとに、私達は顔を見合わせる。
この頼みごとも、バウムレンの鈴を手に入れるためには必要なことなんだけど…とりあえずはサザンビークまでの道のりのためにキラーパンサーが必要ってだけだし、今すぐやらなきゃいけないってわけでもない…寧ろ先にドルマゲスを追いたいって、みんなは思ってるんじゃないかな?

「ちょっと相談してもいいですか?」
「ウム、構わん」

ラパン様に断りを入れて、五人でこそこそと固まった。

「ニナはどう思う?」
「んー…やったほうが後々のためにはなる。でも…」
「それなら私とヤンガスでその役目を果たすわ!」
「え?」
「ニナとエイトとククールは、キラーパンサーを借りてサザンビークでの面倒ごとを片付ける。私とヤンガスはラパンさんの頼みごとを片付ける。で、早く終わったほうがもう一方に向かって合流すればいいんじゃない?」
「アッシとゼシカと…でげすか」
「なに、ヤンガス文句でもあるの?こーんな美女と一緒に二人っきりで旅が出来るっていうのに!」
「め、滅相もないでげす!でもククールとだっていいんじゃないで…ぐえっ」

言いかけたヤンガスの首を掴み、怖い表情でずるずると引きずっていったゼシカ。
部屋の隅っこでなにやらひそひそ話をしている。

「…なんだ、あれ」
「さあ?」
「何だろうね」

ククールがぽかんとした様子で問いかけてきたが、もちろん私とエイトにもゼシカの意図を読み取ることは出来なかった。

2016.7.30(2014.5.24)
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