DQ8 | ナノ


  34:一歩ずつ、確実に


それからようやくベルガラックへと到着したのは数日後の事。
最初は大王イカの触手が気持ち悪くてあんまり前に出たくは無かったけれど、自分もしっかり戦闘に加わらなきゃ、という気持ちをゴリ押ししてちょっとは頑張った…はず。
でもねえ、私が使える攻撃魔法なんてヒャダルコだけだから結局は補助役を買って出る場面が多かった。

ククールに話を聞いてもらってからはそんなに深く考えることもなく、前向きな姿勢でいられるようになった。
全く考えないわけじゃないけれど、周りを変な空気にすることはなくなったかな、って感じ。
皆も通常通りに接してくれている。
月の世界で起きた話はまだククールにしかしていないけれど、そのうち機会があれば皆にもちゃんと話そうと思う。

とりあえず、今は目先のやるべき事をやらなきゃ。



ベルガラックの喧騒な町並みを歩く。
活発なところは未来のトロデーンとちょっと似ていると思った。
規模はベルガラックのほうが大きいって感じ。
そういえばここはサザンビークやパルミドをしのいで世界最大の人口を誇るって、どっかの本に書いてあったな。
私達のほかにも旅人がたくさんいるみたいで、余所者が町にいるのが当たり前になっているようだ。


いつもどおりにトロデ王とミーティア姫は町の外で待機。
どの町もパルミドみたいな場所だったら良かったんだけどね。
さすがに町民の安全を考えたら全てがそういうわけにもいかないもんなあ。

「これがカジノで有名な町、ベルガラックか…」
「ククール、知ってたの?」
「名前だけはな。一度は行ってみたいと思ってた場所のひとつだ」
「へえ…カジノ好きだもんね、ククールは」
「そういうエイトだって嫌いじゃないだろ」
「まあ、嫌いじゃないけど…」
「はいはい、カジノ話はどうでもいいから!それよりもニナ、この後どうしたらいいのかしら?」

それよりも、と言われた男二人は若干傷ついた顔をしている。
いや、ほんとにそれよりもだよ。人の命がかかってるって時に、くだらない話をしている暇なんて無いんだから!

「記憶によればこの町のカジノのオーナー、ギャリングさんって人が七賢者の末裔の一人なの。カジノが運営しているようならまだドルマゲスはこの町に来ていない。休業中であれば…」
「手遅れ、ってやつでげすか?」

ヤンガスの台詞と同時に見えたカジノの看板。
明らかにネオンが点いておらず、どこからどう見ても休業中の様子。

「何で…!?寄り道しなかったのに…!!」
「あっ!ニナ!!」

ククールが呼ぶのも聞かず、町の一番奥にあるギャリングさんの屋敷へと走った。
手遅れだとしても、ゲームで行った時みたいに遅すぎることはないはず…!!
そう思って屋敷へ飛び込み、問答無用で扉を開け放てば目を丸くした屋敷の使用人達。

「だ、誰ですかあなた達は!」
「急いでるんです!!ギャリングさんの部屋は!?」
「あ、あちらで…って!ダメですって!今は…」
「!!」

使用人を押し切ってギャリングさんの部屋へと入れば、そこでも目を丸くしてこっちを見ている人物がいた。
フォーグとユッケだ。

「みんな、お願い!」

突然部屋に入ってきてギャリングさんに近づこうとする私は、この屋敷の人間から見たら不審者だ。
止めようとするのは目に見えて解っているので、私を追ってきてくれたであろうみんなに二人を抑えててもらう。
皆も私が何をしようとしているのか解ってくれているので、みなまで伝える必要もない。
意思の疎通がスムーズなのは有り難いことだ。

「誰だお前は!近づくな、何をする!」
「この屋敷を誰のものだと思ってんのよ!さっさと離しなさいよ!!」
「はいはい、ちょっと黙ってような」
「あんた方の身内を助けようとしているだけでがすよ」
「はぁ!?何をわけのわからないことを!」
「わけわからなくないからククールの言うとおり黙って見てなさいよ。ニナ、こっちは任せてちょうだい」

ゼシカの言葉にコクリと頷き、部屋の中央にあるベッドに近づいた。
眠っているように横たわっているギャリングさん。
ゲームでは接することがなかったから初めてギャリングさんの顔を見た。
イメージだともっとガタイのいい感じだと思ってたんだけど…髭もじゃのコワモテって感じ?

そんな風に考えているあたり、三度目の蘇生チャレンジをしようとしている自分は意外と冷静なようだ。
二度の成功をこなしてきたからかもしれないな。
一度目はサーベルトさん。
二度目はオディロ院長。おじいちゃん。
最初に比べておじいちゃんの時はまだマシだったけれど、今回も気を失ったりするんだろうか。
全ては自分の力次第、だよね。

ギャリングさんの布団を退かし、胸の辺りに手を当てる。

「光の神よ、大地の精霊よ。我が願いを聞き届け給え。この身体に再びぬくもりを。胸に心拍を。瞳に光を戻し給え。さまよえるギャリングの魂を、この肉体に戻し給え。…ザオリク!」

周りでは暴れるフォーグとユッケ、そしてそれを抑えてくれているみんなの騒ぐ声が聞こえていたはずなのに、呪文を唱え終わった瞬間に自分が別の空間に入り込んだように音が消えた。


少し、無音が続いて。

それからしばらく耳を済ませていると、ドクン、ドクンと心臓の鼓動が小さく聞こえ始めた。

「……成功、したみたい」

小さく息を吐くと、ようやく周りの音が戻ってくる。

「…!うそ…」
「まさか、生き返っ…た…?」

ユッケとフォーグの信じられない、というような声が聞こえた。
それと同時に私の額に当てられたのは、オレンジのハンカチ。

「凄い汗だよ、大丈夫?」

どうやらいつの間にか大量に汗を掻いてしまっていたらしく、それに気づいたエイトが優しく拭ってくれたのだ。

「うん、だいじょう…」
「ニナ!!」

言い終える前に身体の力が抜けて、足から崩れ落ちそうになったところをエイトが支えてくれる。

「ごめんエイト、ちょっとまだ修行不足みたい」
「倒れないようになっただけでも成長してると思うよ。このまま眠ってもいいよ」

そう言って易しい笑顔を向けてくれるエイトに安心した。
どうにもこうにも通常営業にできそうにもないので、お言葉に甘えてそのまま目を閉じた。
呪文が成功してすぐに倒れなかったのは、エイトの言うとおり少しでも成長してる証だよね。
次の機会…なんて欲しくないけど、万が一次があれば、今度こそ呪文の力に負けないように強くなりたい。

















次に目を覚ましたのは、船の上だった。

「……またかー」

突然ぶっ倒れたわけじゃないから“また”とはちょっと違うけれど。
自ら目を閉じたとはいえ、意識を失ったと等しいことには間違いない。
だからまたかー、と呟けば、ククールがひょいっと顔を覗かせた。
…ちょっと、ドキッとした。

「お、起きたか…気分はどうだ?」
「うーん。多分なんともない」

問われて身体を動かしてみたが、特に異常は感じられなかった。

「そうか、良かったな。その様子じゃ心配もなさそうだ。…ああ、ギャリング氏はちゃんと生き返ったぜ」
「フォーグとユッケが言ってたもんね、生き返ったって。それを確認して倒れたから、その件に関してはあんまり心配してなかった」
「そうか。また二日間くらい寝込むのかと思ったが…蘇生の呪文ってーのは一筋縄じゃいかないもんだからな…」
「ね、最初は十日間寝込んだしね」
「はぁ!?十日だって!?」
「あれ、話してなかったっけ」
「初耳だな…」
「サーベルトさん…ゼシカの兄さんの時にさ、私はまだ未来から飛ばされてきたばっかだったから蘇生呪文のちゃんと出来るかっていう確認が出来てなくて。正直成功するかどうかも不安だった…っていうか、実際成功したのは何度も唱えてみた後だったんだよね。それで身体に負担がかかりすぎたみたいでさ、十日間寝込んでたんだって」
「十日が半日になれば多大なる進歩だな」
「でしょ?って、あれから半日経過したの?…ここ、船の中?」

少しばかりお喋りをした後にようやく気づいた。
この部屋、揺れている、と。
完全に身体を起こすと、部屋の中へドカドカと入ってくる足音が。

「ニナ、気分はどうでげすか」
「ははっ、ククールと同じこと言ってる。大丈夫だよー」
「ヤンガスより気遣いはわかってるつもりだが?」
「はいはい、ククールは黙れでげす。もうすぐ到着するでげすよ」

ククールがヤンガスに軽くあしらわれてる。
面白い、と思ってニヤニヤしてたらククールに睨まれた。

「…到着?そういやこの船、どこ目指してんの」
「ベルガラックから北西にある孤島だよ」
「そこにドルマゲスが逃げ込んだっていう情報が入ったのよ」
「あ、エイト、ゼシカ。トロデ王と姫は?」
「危険だからってベルガラックに残ってもらったんだけど…まずかった?」

エイトが心配そうに言う。
まずかったも何も…何がまずいって闇の遺跡に到着したところで現時点では何もできないっていうオチが一番まずかったり?

「その顔、何か言いたいことがあるようだな」
「えーとね。非常に言いにくいんですが…方向転換してベルガラックに戻ってください」

私がそう言うと、全員が微妙…というか残念そうな顔になった。
仕方ないじゃん、ここまで進んでるとは思わなかったんだってば!
まさか私が寝てるときに行動に移ってるとは思わなかったんだってば!

…ほんと、大事なときに意識なくしてすみませんでした。

2016.7.19(2014.4.3)
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