DQ8 | ナノ


  30:気づいたって今は


―――5年後。

ニナから未来の話を聞いていて思ったことがある。
どうやら5年後の未来にはまだ自分の世界には帰らず、オレ達と過ごしているニナが居るようだ。

こいつは自分の世界へ帰りたいんじゃないのか?
なら何でまだこの世界に留まってるんだ?

…帰れない理由でもあるのか?

指輪を見ながらそんな事を考えて。
彼女に問いかけてみようと思ったが、気が抜けた返事にこっちの気も抜けた。

そんな質問をしたって今のニナが答えられるわけもないのに、何故オレはそんな事を聞こうとしたんだろう。
自分でもわからない。
ただひとつ言えるのは、建前ではニナの護衛だと言いながらも本音はオレがニナから離れられなくなってきている、という事実。

危なっかしいニナを見ていると、オレが守ってやらなきゃという気持ちにさせる。
そんな事を繰り返していたら、オレの側に…オレの目の届く範囲にニナを置いておきたいって。
最近はそんなことばかりを考える。

もしかしたらこの至近距離でオレの気持ちを悟られてしまうかもしれない。
そう思ったら柄にもなく気恥ずかしくて、勢いでニナを眠らせてしまった。
もちろんからかうのは忘れなかったが。

顔を近づけた時のニナの真っ赤な顔は可愛かった。
卑怯だと思いながらも、眠ったニナの額にキスを落とす。

今はまだこれでいいんだ。
オレはただの護衛で。

今は、まだ。












しばらくして、ゴン、という物音と共にエイトが目を覚ました。
どうやらゼシカの寝相で鉄槌を食らったようだ。

「あれ…僕、いつの間に寝て…はっ、そうだ!ニナ!ニナにラリホー掛けられ…」
「シー、今オレ達以外全員寝てるぜ」

起きたと同時に先ほどの件を思い出したのか、エイトはニナに抗議をしようと思ったらしい。
オレが口の前に人差し指を立てると、エイトは慌てて自身の口を塞いだ。

「何、結局はククールが見張り番してるってわけ?」
「ああ、まあそんなとこ」

ちなみにオレにラリホーで眠らされたニナは、というと、オレの腕の中で熟睡中だ。

「なんでそんな体勢になってるのさ」
「羨ましいのか?」
「うっ…ククール、ちょっと卑怯じゃない?」
「あー、コイツに関しては卑怯かもな」
「もう…なんだよそれ」

鈍感なようでもエイトはオレの気持ちに感づいているようだった。
直接言葉にしないところからエイトの気遣いが見える。

実際エイトもニナに対して満更でもなさそうだから、おあいこっちゃおあいこなんだがな。
別に護衛してる分有利だとか、そんなことは考えてないけど。
でもニナが一番に頼ってくれるのがオレだったらいいな、とは思う。

普通にしてみればエイトは旅のリーダーだし、戦闘に関しても強いし知識もある。
一緒に行動していくうちに一番頼れる存在というのはエイトになってくるだろう。
けど、ニナも未来から来たというだけあって人の倍以上の知識を持っているし、修行もしてきたおかげで戦闘に関しても頼りになる。
現時点ではエイトとニナは同点くらいだろうか。
そんな頼りになるニナに頼ってもらいたい、なんて。
自分は何に対して頼りになれるんだろう。

…こんなこと考えるなんて、ほんとオレらしくない。
ニナと出会ってから調子を狂わされてばかりだ。

本来のオレだったら街で可愛い子をみつけてはひっかけて遊んで。
フラフラと自分のやりたいように過ごしてきたのに。
ニナみたいな子よりもゼシカみたいな子が気になる存在になってた筈なのに。

ニナのために何かをしたいという思いがどんどん強くなる一方、自分に対しての自信がなくなっていく。

こんなにも悩まされるなんて、ほんと罪なヤツだよなあ。
本人は気持ちよさそうに眠っている。
オレがこんな風に思ってるなんて…ほんの少しも気づいてないんだろうな、と願いたい。
気づかれてたら情けなさ過ぎる。
…こんな自分は初めてだ。

「ククール、僕には言いづらいかもしれないけど…悩んでるんだったら聞くからね」
「エイト、お前…」
「ん?」
「だからお人よしって言われるんだよ、お前は」
「そこが僕のいいところ、なんだろ?」
「わかってんじゃねえか」

チッ、やはりこの男は天然だ。
だがやりづらいと思う反面、エイトのこういう部分に救われる。
いつかきっと、もっと腹を割って話せる日が来るだろう。
でもそれは今じゃない。
今はそんな事に現を抜かしている場合でもないからな。

ふ、と、何かに気づいたようにエイトが顔を上げた。

「あ、ククール!そろそろじゃないか、あの影」
「おお、いつの間にかいい感じになってるな。皆を起こすか」
「そうだね、手分けして起こそう」
「よし」
















「…ろ、起きろ、ニナ」
「…ん…っうわっ!」

呼ばれてる声にうっすらと目を開ければ、なんかデジャヴ。
至近距離にククールの顔があったから思わず仰け反ってしまった。
が、すぐさまククールの手に頭を押さえられた。

「あっぶねーな。後ろ、壁なんだから気をつけろ」
「ご、ごめん。ありがと」

その原因はククールなんだから仕方ないじゃないか、とも言えず。
素直にお礼を言って、身体を起こした。
周囲を見渡せばエイトがヤンガス達を起こしている所で、目的の場所に目をやると、先日の願いの丘同様に影の扉が出来上がっていた。

「これはもう入れるレベルの扉よね?」

ゼシカが確かめるようにまじまじと扉を見る。
その問いに関しては大丈夫なんじゃないかな、と答えておいた。
ゼシカの横に居たエイトが壁に向かって力を込めると、扉は光を放ちながらもゆっくりと私たちを迎え入れてくれた。

その向こうには、願いの丘の時と同様に月の世界が広がっている。
エイトが進んでいくと、みんなもそれに続く。

階段を上り、中心の部屋に入るとその奥に居たイシュマウリさんが少し驚いたような表情でこちらを振り返った。
そして、私達を見ながら口を開く。

「おや…?月の世界へようこそ、お客人」

イシュマウリさん曰く、月影の窓が人の子に叶えられる願いは生涯で一度きり、だとか。
まあ確かにこんな不思議なことが二度も三度も起こるなんて思えないよね。
私は来る事が当たり前だと思ってたし、窓の開く場所を知ってるから何度でも来れるんじゃないのかなとか思ったけど…窓を見つけられても二回も開けませんよ、ってことなのかな。
不思議原理はわからん。


エイトが代表して今までのいきさつをイシュマウリさんに説明した。
今回なんで記憶を読み取る方法を使わなかったのだろう。
それもよくわからん。
何でもかんでも不思議の力を利用すればいいってもんじゃないって事で纏めておこう。

「あの船なら知っている。かつては月の光の導くもと、大海原を自在に旅した。覚えているよ…ふたたび海の腕へとあの船を抱かせたいと言うのだね。それならたやすいことだ。君達も知ってのとおりあの地はかつて海だった。その太古の記憶を呼び覚ませばいい。君達にアスカンタで見せたのと同じように…大地に眠る海の記憶を形にするのだ」

言いながらハープを奏でるイシュマウリさん。
だが、次の瞬間パチンという音と共にハープの弦は切れてしまった。

…ああ、そうだった。うっかりしてた。
確か別のハープを取りに行かなきゃいけないんだったっけ。
場所はアスカンタの噴水から地下に行って…でもそこでは盗まれてるから、取り返しに行って…ドン・モグーラだっけ?
あのヘッタクソな歌を直接聴かなきゃいけないと思うのは、少しばかり気が重い。

「人の子よ。船を動かしたいと望むのなら月影のハープを見つけ出すといい。そうすればすぐにでも荒れ野の船を大海原へと私が運んであげよう。場所はきっと…そこのお嬢さんが知っている」
「…ん?」

一人考え事をしているうちにどうやら話は進んでいたようで。
気づけば全員の視線を浴びていた。
何これ、どういう状況?

「ニナ、月影のハープはどこに行ったら手に入るの?」
「ああ…」

エイトに聞かれ、ようやく状況を理解することが出来た。
私が情報を知ってるっていうことが解ったってことは、ここに来る前に済ませておいても良かったんじゃないか、とか誰も思ってないんだろうか。
思ってて何も言わないのであれば、やはり皆は優しすぎる。

「アスカンタに行けばわかるよ。でもちょっとした戦闘も入るから…簡単には手に入らないけど」

先程自分の頭の中で思い出していたことを皆に話した。
モグラと戦うということを伝えれば、ゼシカの顔がちょっと引きつったように見える。

「じゃあ早速アスカンタに行って、モグラの親分ぶっ倒してハープを手に入れてきましょうや!」
「そうだな。グズグズしてらんねえ」
「いち早くハープを手に入れて、いち早く船を動かすのじゃ!」
「おっさんは見てるだけだからいいでがすね」
「なにおう!これでも皆の事を考えとるわい!」
「では、イシュマウリさん。僕達アスカンタへ行ってきます」

ヤンガスとトロデ王の言い合いが続きそうなのを見事にぶった切るエイト。
そのスルースキルはとても素晴らしいと思います。

「…お待ちなさい、人の子よ。ニナ…と言ったね。貴女はここに残ってもらおう」
「な「何故だ?」

私が何で、と聞くよりも先にその言葉を遮るククール。
ちょ、私が聞かれてんのに!

「伝えねばならない事があるようだ」
「ニナだけに、か?」
「彼女にとってはとても重要な事。彼女次第では君たちが居る前で話しても構わないのだが…」

言い辛そうなイシュマウリさんの雰囲気からして、決して良い事ではないのだろう。
どんな内容なのか…多分私の元の世界に関しての事ではないかと…思うんだけど…だって、それ以外にイシュマウリさんが私を気にする要因って無いと思うんだよね。
こないだ言いたかったのも同じ内容なんだろうか。

「…私、一人で残ります。みんなは月影のハープをお願い」
「オレも残る」
「ううん、ククールの気持ちは有り難いけど…ここは一人で話が聞きたい」

ククールの端正な顔が、少し歪んだ。

「…おい、イシュマウリ。危険は無いんだろうな」
「危険など心配する必要はない」
「……チッ、わかった。ニナ、いい子で待ってろよ」
「こ、子供じゃないから!」
「やっぱりかいがいしく世話をする親みたいよね、ククールって」
「ゼシカ!聞こえるってば!」

普通に聞こえてるっつーの。
いいから!早く行ってきて!と、みんなの背中をぐいぐい押した。

扉が閉まる間際のククールの表情がなんとも言えない心配そうな顔になっていたけど、こればかりは聞いてみないと私だってどうにも判断できないと思うし。

扉が閉まり、やれやれ、と振り返ってみれば悲しそうな表情のイシュマウリさんと目が合った。

2016.6.9(2014.3.13)
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