DQ8 | ナノ


  29:呪文の活用方法


「…い、おい。ニナ、起きろ」
「……?」

心地よい眠りのなか、肩をゆさゆさと揺すられてうっすらと目を開けると。

「うわ!ククール!」
「うわ!じゃないだろ。古代船に関する情報がみつかったぞ」
「わー…私寝てたんですね、すいません」
「ヨダレの跡ついてる」
「うそ!?」
「ははは、冗談だバーカ」

みんなが必死で読書している中寝ちゃったからって、そんな意地悪しなくても…!
ていうかヤンガスも寝てるじゃん!トロデ王も寝てるじゃん!
ゼシカも頭かくんかくんいってますけど…ひょっとしてククールも寝てたんじゃ。
そうなると真面目に探してたのはエイトだけってことになるな。
…いや、ククールもちゃんと探してたと信じたい。

「で、なんだって?」

今すぐにでも寝そうなゼシカとヤンガス、トロデ王は放置して三人でエイトの持っている本を囲む。
するとそれに気づいたゼシカは目を擦りつつこちらに寄ってきた。

「ゼシカ大丈夫?少し寝ててもいいんだよ?」
「お前が言うか」
「うっさいククール、ちょっと黙って」
「大丈夫よ、ちょっと眠いけどまだ頑張れるわ」
「それなら無理はしないでね」
「ええ、ありがとう」
「それで、この本に書かれているにはあの辺りは昔、海だったということなんだ」
「海だったってことは…その所為であの船がそのまま置き去りになってるってことか?」
「そういうことだね、多分。でもわかっている情報ってそれだけなんだよね…あの船を動かすための情報は書かれてなくてさ」
「これだけ探しても中々見つからないものなのね…」
「また最初からやり直しか…」

うーん、と頭がパンクしてしまいそうな様子の三人。
頃合的にもそろそろ助け船を出しても良さそうかな。

「ねえ、あの窓枠に見覚えない?少しずつ影が伸びてきてるんだけど」
「窓枠…?あっ、あれって願いの丘と同じじゃないかしら?」
「そう言われてみれば…ということは、もしかしてまた月の世界に行けるってこと?」
「イシュマウリに船の過去の記憶を呼び起こしてもらうのか」
「上手くいけばそんな感じになるね」

窓枠を見ていたと思ったら、三人の目が一気に私に集中した。
そんな美形だらけをあんまり近づけないでください。

「じゃあ、あの影が伸びきるまで少し様子見ってとこか…よし、僕が見張ってるからみんな少し休むといいよ」
「いやいやいや、エイトはずっと本を探し続けてたでしょ。私はさっきちょっと寝ちゃったし、私が起きてるからエイトも少し寝なよ」
「でも僕まだ疲れてないしね、大丈夫「ラリホー」
「…だ、い…じょ………」

こうなるとエイトは頑固だ。
産まれ持っての責任感なのか、自分が一番苦労すればいいと思っている節がある。
仲間なんだから少しくらい頼ってもらわないとね、エイトばっかり疲れさせるわけにはいきませんから。

「ニナ…お前結構やるなあ」
「私もビックリしたわ…まさかエイトにラリホー使うなんて思ってなかった」
「だってこうでもしないとエイトは寝てくれそうもなかったから」
「まあ、正論だけどな」
「というわけでゼシカもククールも、少し寝てきていいよ。なんなら馬車から毛布取ってくる」

ついでに外で待機しているミーティア姫も心配だし、新しく結界張りなおしてきたほうがいいかな、とも思うし。

「一人じゃ人数分は持てないだろ。ゼシカ寝てていいぞ、オレが一緒に行ってくるよ」
「私も行くわ、と言いたいとこだけど…今回はお願いしちゃおうかしら。ちょっと眠気が限界だったりするのよね」
「おー、任せろ」

エイトを楽な体制にさせてから、ククールと二人で城の外に出た。
ミーティア姫も体を休ませていたようで、私達が近づくと顔だけを向けて何しに来たのかと様子を伺っている。

「みんな寝ちゃったからね、毛布を取りに来たんですよ。姫は一人で寂しくないですか?大丈夫ですか?」

問いかけると、姫はゆっくりと頭を横に振った。

「姫は強いですね…一緒に居て差し上げたいのですが、見張らなければいけないことがあるので、また行ってきます。新しく結界を張りなおしていくので心配しないでくださいね」

微笑みかけて姫の鬣を撫でると、一瞬ゴワついた場所からトーポがひょこっと顔を出した。

「お前そんなところに居たのか。ちゃんと姫の護衛しろよ」

ククールがトーポに向かって言うと、わかってるわい!という勢いでトーポがキィキィ鳴いた。
ネズミは苦手だけど、トーポは可愛い。
ネズミであってネズミでもないしね。

「じゃあ馬車の中から毛布渡すからククール受け取ってくれる?」
「ああ」

馬車に飛び乗り、荷物の中から毛布を探って人数分持って行く。
ククールに半分渡して、それから降りてもう半分を手繰り寄せた。

「じゃあ何かあったら叫んでくださいね。おやすみなさい、ミーティア姫」
「よい夢を」

私の言葉にククールが付けたして。
それに対して姫が軽くヒン、と鳴いたのを確認し、城の中へと戻る。

ヤンガスとトロデ王は椅子に座ったまま寝ちゃっているので、肩に掛けてあげた。
エイトはさっき移動させた場所で、ゼシカは自分で良さそうな場所を見つけたらしく、二人共横になっているので普通に上から毛布を掛ける。
普段ゼシカはそんなに寝つきがいい方ではないのだが、戻ってきた時には既に熟睡モードに入っているようだった。
よほど疲れていたんだろうな…メラミやヒャダルコが大活躍だったし。

「あれ…?ニナ、本当に人数分持ってきたのか?」
「うん?おお?ククールの方なくなっちゃった?…数間違えたかな、もう一枚取ってくるよ」
「あー、いいよ、面倒だろ。二人で使おうぜ」

ククールにとっては何気なく言った言葉なんだろうけど。
二人で使うってなんか…ねえ?
ちょっと恥ずかしいと思ってるのは私だけなのか…そうなのか!

「ニナ?どうした」
「え!い、いや、別になんも」
「そんならこっち来いよ、窓枠の影が見えるところじゃないとダメだろ」
「はーい…」

心なしかククールがニヤニヤしているような気がする。
私が恥ずかしがってるの、見抜かれてんのかしら。

「恥ずかしがってないでさっさと来いよ」
「恥ずかしがってなんかないし」
「はいはい、わかったから」

フッ、と笑いを溢したククールは本当に楽しそうだった。
私がこういう反応するってわかっててからかうんだからタチ悪い。

「ほら、どうぞ。お姫様」
「わっ」

ククールの座った横にグイッと手を引かれ、その勢いでなだれ込む。
毛布に包まれた瞬間、ほんのりと香水の匂いがした。
この感覚、未来でも経験してきた覚えがある。

…ククールに後ろから抱き締められたあの時だ。

あの時も一人で緊張しちゃってたんだっけ。
一人でバカみたいだ、という気持ちも含めて顔に熱が集まる。
ククールとこんなに密着するのも久しぶりだ。
密着って…自分で言っておきながら何だかやらしい響きだわ。

「ちゃんとそっちまでかかってるか?」
「うん、大丈夫。ククールは?」
「オレも大丈夫だ」
「そっか、それなら問題ないね」
「……」
「……」

き、気まずい沈黙。
ククールがどんな表情しているのかチラ見してみたいところだけど、こんな至近距離じゃ見るに見れない。
見たところで『なに見てんだ』とそっぽ向かされるのがオチだ。
なにか会話はないか、何か…!
普段喋ってるぶんにはスラスラと言葉が出てくるのに、こんなシチュエーションじゃ出てくるものも引っ込むわ!


「…なあ、ニナの持っている指輪、もう一回見せてくれないか?」
「うん?これ?」
「そう。聖堂騎士団の指輪」
「はい、どうぞ」

言われるがままに指から外し、ククールに渡す。
ククールの手には同じ聖堂騎士団の指輪が二つ。

「ほんとにこれ偽造し「てないってば!そんなに信用ないのか私は」
「はは、冗談だって。言ってみたかっただけだよ」
「ククールの冗談は冗談に聞こえないときがあるよ」
「オレはイカサマ師でもあるからな」
「それ、威張って言えることじゃない」
「まあまあ、いいじゃねえか。それにしてもほんっと不思議なもんだよなー、5年後の未来か…」

ククールは指輪を見つめたまま、固まったように動かなくなった。
何を考えているんだろう?
月の光が横顔に届いて、ククールの目が綺麗に光って見える。
男性のくせしてどうしてこう綺麗なんだか…少しくらいわけてもらいたいものだ。




「ニナ」
「んー?」
「……やっぱやめた、なんでもねえ」
「え、何ソレ。途中でやめるのが一番気になるって知っててやってる?」
「おー、やってるやってる」
「ちょ、そんな誤魔化し方はどうかと思うよ!何、気になるじゃん」
「なんでもねーっつったらなんでもねえんだよ。お前も少し寝ろ」
「そんなん言われたら余計気になって寝れないし」
「ほう…なんなら強制的に寝かせてやってもいいんだぜ?」
「え」

いいんだぜ、と言いつつも近づくククールの顔。
え、何なに、何で近づいてくるの…!

私の顔とククールの顔があと5センチという距離になったとき、ククールの口元がゆっくりと動いた。

「ラリホー」
「う、そ…ククール…ラリホーなん…て…使……」

やられた。
まさかククールがラリホーを習得しているなんて思ってなかった。
使えるのはゼシカだけだと思ってたから、さっきの私と同じやり方をされるなんて…!

起きたら絶対抗議してやる。

2015.5.31(2012.4.2)
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