DQ8 | ナノ


  28:古代船を求めて


ヤンガスの昔なじみから仕入れた情報によると、ドルマゲスは海を歩いて西の大陸へと渡った、とのこと。
その情報を既に私が知っているという事に関しては、もう誰もツッコミを入れなくなった。
自分達で情報を仕入れるのが当たり前になっているのはいい傾向だ。
今まではゲームの流れどおりであっても、この先それが順調にいくとは限らないのだから、やはり私の情報で動くよりも確実性がある。

西への定期船は出てないため、自分で船を持っていないとその大陸へとは渡れないそうで。
現在私達はポルトリンク西に捨てられた古代船を求めて、ポルトリンクまで戻ってきたというわけだ。

「そういえば、船を探す前にやっておきたいことがあるんだけど…いいかな?」
「やっておきたいこと?」

可愛らしく首をかしげるゼシカに思わずときめきつつ、頷く。

「その丘の上にさ、山小屋っぽいやつあるでしょ?」

指をさした先には荒野の山小屋…だったかな、そんな名前の建物。

「あそこに何かあるのか?」
「うん、あそこっていうより、その建物の近くにある井戸の中に用事があるの」

そう答えると、ククールは訝しげな表情で。
だって仕方ないじゃないか、井戸の中に詰まってしまったキングスライムを助けてあげたいんだから。
実際に詰まってるんだかいないんだか、行ってみないことにはわからないけれども。
もしゲームどおりに詰まったままなのだとしたら、助けてあげたい。
そしてスライムの冠を手に入れたい。
スライムの冠は錬金素材として欠かせない重要アイテムなので、簡単に手に入るに越したことはない。

「ニナが言うならちゃんと意味があるんだろ。いいよ、ニナ、行こう」
「さすがエイトは話がわかるなあ!あのね、あそこの井戸にはね…」



これからやることの説明をすると、ククールにそんなら早くそう言え、とデコピンされた。
地味に痛いんだよデコピンは!

というわけで、納得してくれた皆と一緒に山小屋の井戸へ。
案の定詰まっていたキングスライムの冠をヤンガスとエイトが引っ張り、無事に分裂させてあげることができた。
その際ヤンガスが盛大にお尻をぶつけていたので、こっそりホイミを飛ばしておいた。
スライムの冠は、装備可能なヤンガスの元へ。

そしていよいよ目的の船だ、探しに行くぞ!という時に、足元から出てきたマドハンドの気配に気づかずすっ転んだのはこの私である。
仲間を呼ばれる前に倒したけれど、地面から突然出てこられたら厄介だな、ということで今回はトヘロスにお世話になることにした。




船はすぐに見つかった…というか、こんなにも巨大なものが見つからないほうがおかしいだろう。

「しかしこれ…どうやって動かしたらいいんだ?」
「うーん…さすがにこれは…周り全体が岩山だものね」

ククールもゼシカも困った様子で船をぺたぺたと触っていた。
長い年月の間に付着した土や埃がパラパラと落ちるだけで、何も変わりはしない。

「ニナ、流石に手詰まりかも」

あはは、と弱々しく笑うエイト。
確かにこれは手詰まりかもね、なんのヒントもないんだもん。
ていうか本来だったらヒントを出すはずの人物が馬車の中で寝ているんだもん。

「おっさんいい気なもんでがすね、こっちは船を手に入れようと必死になってるっていうのに」
「全くだ。でもまあ…トロデ王も疲れが溜まってるのかもしれないよ。ホラ、こそこそとモンスター図鑑を作ったり、錬金釜の修理をしたりしてるから」

そう言うとミーティア姫がヒヒンと嘶いた。
どういう意味かはわからないが、心なしか賛同してくれたように思える。

「んー、まあ、それが巡りめぐってニナの役に立ってるんだから仕方ないわね」
「そういうこと。とりあえずトロデーン城に向かうよ」
「トロデーン?」

思わぬ発言だったのか、エイトは目をぱちくりさせている。

「そう、エイトと王と姫の故郷だよ。図書館があったでしょ?そこの資料を調べに行くんだ」
「図書館の資料に何か書いてあんのか?」
「ヒントくらいは、ってとこかな。トロデ王が起きたら説明してくれると思うけど」
「そっか。じゃあニナがそう言うならトロデーンへ向かおう」

エイトが言い終わると、みんなが馬車に触れてルーラの準備をし始めた。
ああ、そうか。
トロデーンはエイトの故郷だからルーラで行けるんだ。
ゲームだとわざわざ洞窟を抜けて結構な距離を進んで、ってやってたけど、そんな必要はないのね。
冒険が端折られちゃうのはちょっと寂しい気もするけど…これはこれでアリかな。

私が馬車に触れたのを確認し、エイトはルーラを唱えた。



あっという間に辿り着いたトロデーン城…上空には暗雲が立ち込めてるようにも見える。
まだ城外の門前にいるのだが、ここからでもイバラに囲まれた城の様子が良くわかる。

一言で言うと、壮絶。
…ここが本当にあのトロデーン城なのか。
活気に満ちて、人々が笑顔で過ごしていた面影はひとつも残っていない。
空気がひんやりと冷たく感じる。

あまりに違いすぎるイメージに、私はショックを受けていた。
辛いのは私よりもエイトやトロデ王、ミーティア姫なはずなのに。


「なんじゃ、トロデーンまで戻ってきたのか」

ようやくお目覚めのトロデ王が馬車からひょっこり飛び出てきた。

「おっさんが寝てるうちにここまで来たでげすよ」
「ニナの話によると、このトロデーン城にあの古代船を動かすための情報があるとのことなんですが…王は何か知ってますか?」
「情報?ウーム…おお、そうじゃ!我が城の図書館の資料を調べれば、何かヒントがあるやもしれんのう!」
「それって結局さっきニナが教えてくれたことと一緒よね」
「ん?」

先ほど私が話をしていたときはトロデ王は寝ていた為、なんのことやら、と不思議そうな顔をしている。

「とりあえずは図書館目指すしかねえってことだろ」
「そうなるわね…王さま、図書館の場所はどこなの?」
「おお、図書館ならあそこじゃ。左端にある建物が図書館じゃ」

トロデ王に教えてもらって一番近くの扉に近づいてみたが、どうやらその扉は鍵が開いてない模様。

「エイト、城の鍵とか持ってないの?」
「あー…このイバラ騒動で城の鍵はどこかに行っちゃったんだよね。探してはみたんだけど、全部くまなく探すことも出来なかったから」
「そっか…じゃあ仕方ないね」

どうせ魔法の鍵が手に入るから、城の鍵がなくてもいいんだけど。
それでもあればあったで事が早く進むし、有難かった…が、エイトに少し辛そうな顔をさせてしまったのは心苦しい。

「この扉ブチ破ればいいんじゃねーか」
「おお、それはいい案でげす!」
「ぶぁっかもん!!我が城の扉をぶち破るとはとんでもない!!ククールもヤンガスもなんちゅう事を言うんじゃ!もっと大事にせい、大事に!!」

そりゃそうだ、愛する自分の城の扉をぶち破るだなんて。
例えイバラで壊された場所があったとしても、これ以上傷つけたくない気持ちは良くわかる。
私だって未来ではこの城の一員だったのだから。
王が止めてなきゃ私が止めてたと思う。

「じゃあ入れる場所を探しましょうよ…って、きゃ!」
「!イバラのドラゴン…!?みんな、下がって!王はこちらに!」

振り向いた瞬間、私達の真横に炎が吐かれた。
いち早く気づいたエイトが的確に指示を出す。

「こいつは補助呪文があまり効かないから、物理攻撃とヒャドで対応して!」

そう叫ぶと、それぞれがいばらドラゴンを囲んで攻撃の隙を伺う。
再び炎を吐いた瞬間、ゼシカのヒャダルコが飛ぶ。
氷の刃に怯んだドラゴンに向かっていくのはエイトとヤンガス。
スキルで習得したエイトのドラゴン斬りと、ヤンガスの打撃攻撃で体力を削らせた後、ククールの弓でトドメ。

パーティーの戦闘時の連携も随分スムーズになったものだ。
初めはみんなバラバラな攻撃をしていたけど、一緒に戦っていくうちにどういう動きをするかっていうのはわかってくるものなんだね。
今回は補助系呪文が効き辛い相手ということで、私の出番は殆ど無し。
強いて言うならヤンガスが打撃で棘が刺さったらしく、その部分にホイミしてあげたくらい。


「…よし、片付いたな。っつーことは、この城は今魔物の住処になってんのか?」
「そうは思いたくないけど…この様子だとまだ居そうだよね」
「ま、力を合わせて進んでいきゃどうにかなんだろ」
「ククールにしては珍しいこと言うね」
「大体こういう台詞はいつもお前が言うもんな」
「ええ、そうかな?僕はあんまり意識したことないけど」

エイトとククールの会話を盗み聞きしつつ、それはエイトが天然だからだよ、とは思っても誰も突っ込まなかった。
そういうのがエイトのいいところなんだよね。







城の正面入り口のイバラをゼシカが焼き払い、そこから城内へ侵入成功。
トロデーン城の地図もどっかにあったはずだったけど、ここの内部は知ってるから問題ないだろう。
ていうか地図の宝箱の場所、忘れた。
いくら大好きなものでもこれだけの膨大な知識を全部覚えていられるわけもなく、私にだって忘れることもある。
…単なる言い訳だけど。

ちなみに王と馬車は中まで連れてはいけないので、周囲に聖水を撒き、更にニフラムを掛けて結界を張っておいた。
ニフラムも、ラナルータ同様に8にはないはずの呪文だったのだけど、何故か習得することが出来たのだ。
あったら便利なのにな、と思いつつ本を読んでいたらしっかり記載されていたので、当然のように勉強しておいて良かった。

図書室まで辿り着けたらその扉を開けて入ってもらうという流れになっている。
それでも心配だからトーポとチーズだけは置いてきたけれど。


魔物を警戒しながら進んで行くと、何人もの人が生きたままイバラにされている光景が目に入ってくる。
その中にはもちろん私の知ってる人もたくさんいて、警備兵のジョシュアさんの姿や料理長のクロムさんの姿なんかもあった。

クロムさんに近寄って、軽く触れてみたけど…暖かい。

「クロムさんの作ってくれる料理、いつも美味しかったな…」

耳を寄せると静かにトクン、トクンと波打つ音が聞こえて。
緑に覆われてしまった体はピクリとも動かなかった。
視線もどこを見据えているのかわからない。
…その姿はなんとも痛々しい。
代わってあげられるものなら代わってあげたい。
でも、そんな事を考えても出来るはずがない。

悔しくて口元をギリ、と噛み締めると、ほんのりと血の味がした。

「大丈夫だよニナ。必ずみんな元に戻してあげよう」

後ろからエイトに肩を優しく叩かれる。
ハッとして後ろを振り向くと、エイトは悲しそうに笑っていた。

そう、そうなんだってば!
辛いのは私よりもエイト達なんだってば。
それなのに私がこんなんじゃ余計に心配かけてしまう。

「そうだね、早くドルマゲスを倒して元のトロデーン城に戻さなきゃ!」

ムリヤリに笑顔を作ってエイトに返すと、それが不自然なものというのはバレてたみたいだ。
でもエイトは力強く頷いてくれた。
エイトの後ろからククールが手を覗かせ、私にタオルを差し出す。

「ニナ、ちゃんと拭いとけ」
「でもこれ…汚しちゃう」
「いいんだって、聖水で流してちゃんと拭いとけ」
「わかった、ありがと」

ククール、タオルなんて持ってたんだね…しかも赤。
赤いタオルだから血で汚れてもそんなに目立ちはしないけど、そういう問題でもない気がする。
けどまあ、好意は素直に受け取っておこう、私自身拭くものを持っていなかったしホイミを掛けるまでもないし。
後で洗って返すことにし…いや、むしろ新しいものを買って返した方が無難だよね。
人の血が付いたタオルなんて、使いたくないわな。






それからしばらく魔物を倒しながら進んで。
ようやく辿り着いた図書館は、ところどころイバラが刺さってはいたもののそこまで激しく荒らされている感じはしなかった。
ここははぐれメタルも生息していたはずだから、レベル上げのために期待していたんだけど。
『居た!』と思った次の瞬間には姿を消しているので、戦闘にかすりもしなかった。
いつかメタル系モンスターにバッチリと出会ってみたいものである。


「よし、ここであの古代船についての情報がないか探すのじゃ!」
「うわっ、おっさんいつの間に!」
「さっきニナが鍵を開けてくれたわい」

おお…これがかの有名な『おっさんいつの間に』か。
初めて見た気がする、このやり取り。
ゲームでは何度も見たのに、実際に見ると新鮮だわあ…別に面白くはなかったけど、うん。

「しかし…膨大な量の本があるな。この中からそれっぽいのを探していけば見つかる…か?」
「そうだね、それらしい背表紙のものから手当たり次第探していくしかないかも。僕の記憶だと、あの奥辺りにそういう系統の本が固まってた気がするよ」
「さすがはエイトじゃ!よし、奥の棚の本を全員で手分けして探すのじゃ!」

さっきから探すのじゃ!ばっかり言ってるトロデ王がなんか可笑しかった。
トロデ王のキャラって和ませてくれるよ。

そして古代船の情報を手に入れるため、それぞれ何冊か本を取り、椅子に座っての読書タイムが開始されたのである。

魔物?
もちろん入り口全てに聖水を振り撒いてニフラム掛けてきましたともさ!
自分より弱い魔物にしか効かない呪文かと思ってたけど、結構いい結界の役割を果たしてくれることに気づいたので、最近はここぞとばかりに使っている。
中々いい呪文だな、ニフラム!

2016.5.24(2012.2.23)
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